目次
はじめに
シナリオの概要と背景
それは突然に、理不尽に。例えば、人間が種々雑多の草花からふと気になった一つを手に取るように、小さな探索者は大いなる邪神に選ばれてしまった。今宵の貴方は、その生殺与奪を悪魔に握られた、哀れな傀儡の一つとなる。
探索者が目を覚ませば、そこは見覚えのない異空間。この空恐ろしい世界から、探索者は無事に脱出する事が出来るのか。
探索者について
- プレイヤーが職種・技能など自由に作成してください。
シナリオ 導入パート
導入:目を覚ますと
このシナリオは、探索者達がどのような人物・境遇であろうと一様に、普段と変わらない夜間の睡眠を取った後、見知らぬ空間で目を覚ます場面から開始されます。キーパーは下記文章を参考にして、導入を行ってください。
例えば自分が一体のロボットだったとして、突然に誰かがそのスイッチを押したかのように、[探索者]はすっと我に返った。普段の寝床とは違う、頬に触れる冷たい石の感触。気が付けばいつの間にか、[探索者]は見知らぬ場所の床に、投げ捨てられたような姿勢で寝かされていた。
[探索者]が身を起こすと、周辺の異様さに気が付く。辺りは吸い込まれるような真っ暗闇に囲まれており、その暗闇が何所まで続いているのか、この空間にどれだけの広さがあるのか、全く想像が出来なかった。そんな中で、[探索者]のいる場所だけが、まるでスポットライトに照射されたかのように、ポツンと明るく照らされていた。
SANチェック 0/1
[探索者]の前には、一本脚の小さな円卓と、ベロアの張られた椅子があった。円卓の上には骨董品のような古めかしいタイプライターが置かれており、椅子の上には顔のない木製の人形が座らされていた。
目星:机の脚の下に、手紙が落ちていることに気が付く。
聞き耳:周辺の暗闇の中から、獣の唸り声のような音が聞こえる。
<床に落ちた手紙>
床に落ちた手紙には、下記のようなメッセージが書かれています。
選ばれし貴方へ
それは魔法のタイプライターと、脱出の解を知る人形。
それらを活用してこの世界から脱出せよ。
タイプライターは、打ち込んだ物をこの世界に現す。
人形はYESかNOしか答えない。また、不適切な問いには答えない。
目を覚ました段階で、探索者は小汚いローブを着ているばかりで、所持品の類は持っていません。
シナリオ 探索パート
タイプライターについて
円卓に置かれたタイプライターはとても古めかしい物です。もし、歴史学などのロールでそのタイプライターを調べようとするならば、現在より100年程前に作られた物であると分かるでしょう。
このタイプライターは手紙に記載されているように、魔法のタイプライターです。タイプライターで「物」の名前を打ち込むと、探索者の前にその物が忽然と現れます。瞬く間に表れた物を目撃した探索者は、下記のSANチェックを行います。
SANチェック 0/1
タイプライターのキーボードは英語で、単語名も英語で打ち込む必要がありますが、例え英語を知らない探索者であっても、不思議と打ち込みたい単語のスペルが頭に浮かびます。
タイプライターは様々な「物」をこの場に呼び出すことが出来ますが、「犬」や「猫」といった生物は呼び出すことが出来ません。また、「走る」といった動詞や、「美しい物」といった曖昧な言葉、「六本木ヒルズ」といった固有名詞には反応しません。(その他、タイプライターによって呼び出せる物の制限はキーパーが判断してください)
タイプライターで「機関車」といった巨大な物を呼び出した場合、それは探索者の周辺には現れず、この暗闇の空間の遠くに呼び出されます。そのような言葉を打ち込んだ場合、直後に大きな落下音が遠くの方で聞こえることでしょう。
探索者はシナリオクリアのために、このタイプライターで適切な物を呼び出す必要があります。
人形について
椅子に座らされた顔のない木製の人形は、探索者がこの部屋から脱出するための方法を知っています。探索者がこの部屋から脱出するために、人形は探索者の問いかけに答えてくれます。口のない人形が発声する様子を見た探索者は、下記のSANチェックを行います。
SANチェック 0/1
この人形は探索者の問いかけに対してYESかNOでしか答えることが出来ません。キーパーは、この人形を通して探索者を脱出へ導いてください。
この時、探索者の問いかけが不適切であった場合、解答を控えるようにしてください。例えば、「それは珍しい物ですか?」といった質問の場合、珍しいという主観的な表現は人によって捉え方が異なる場合があります。そのような問いには無回答を貫きましょう。
この部屋から脱出するためには、「ベル(ハンドベル)」が必要となります。探索者に「この空間から脱出するために必要な物」に関する質問をされた場合には、「ベル」についての回答を行ってください。例えば「それは楽器ですか?」の質問にはYES、「それは液体ですか?」の質問にはNOで答えてください。
暗闇に踏み出す/鎖で繋がれたクリーチャーについて
探索者が置かれたこの暗闇の空間は、無限の広さを持ちます。探索者がどの方向に向かって歩き出したとしても、何所まで行っても果てに辿り着くことは出来ず、ひたすらに暗闇が続くばかりです。
また、暗闇に潜んでいるために探索者が視認することは出来ませんが、探索者の目の前の暗闇には、一体のクリーチャーが鎖に繋がれて伏せています。クリーチャーは敵意をもって探索者のことを見つめてます。
<鎖に繋がれたクリーチャー>
緑の神の子(変異したウサギ種族)
P.110-P.111
極端に長い耳、大きな目、げっ歯類のような鋭い歯を持っている。飛び跳ねるような足取りで移動し、光を避けるクリーチャー。その姿はどこか人間のようにも見える。(実際に、かつては人間だった種族である)
STR 11 CON17 POW9 DEX21 SIZ13 INT15 HP15
ダメージボーナス:0 装甲:0
技能:鍵爪30% ダメージ1d4+db 、噛みつき30% ダメージ1d3
技能:隠れる25% 聞き耳50% 忍び歩き25% 目星50%
正気度喪失:0/1d4(探索者が照明器具を用いて、クリーチャーの身体を照らさない限り、その姿を視認することは出来ない)
※鎖の長さは5m程で、クリーチャーの首と地面を繋いでいる。クリーチャーは鎖の長さの範囲内で、自由に行動が出来る。
もし、探索者が周辺の暗闇に向かって明かりを持たずに踏み出した場合、幸運のロールを行ってください。幸運のロールに失敗した場合、聞き耳のロールを行ってください。
聞き耳:すぐ目の前の暗闇から、はっきりと獣の唸り声が聞こえる。
この聞き耳のロールを行った直後、探索者が回避の行動を取らない場合、探索者に対して上記のクリーチャーが攻撃を仕掛けます。戦闘に突入しても、クリーチャーから探索者を視認することは出来ますが、探索者からクリーチャーを視認することは出来ません。暗闇の中での探索者からクリーチャーへの攻撃は、成功率が1/2になります。探索者がクリーチャーから距離を取るか、明るい場所まで戻ってくれば、クリーチャーは攻撃を中止し、改めて暗闇に身を潜めます。探索者が暗闇に潜んだクリーチャーの姿を見ることは叶わないでしょう。
もし、探索者が戦闘によってクリーチャーを戦闘不能にした場合、クリーチャーはその場に臥せって、その体を砂に変えていきます。その砂に埋もれるようにして、下記のような手紙が新たに現れますが、照明器具などによって暗闇を照らさない限り、探索者はそれを発見することが出来ないでしょう。
<砂に埋もれた手紙>
砂に埋もれた手紙には、下記のようなメッセージが書かれています。
勇敢な貴方へ
ささやかな手がかりを授けよう。
脱出のためには”音を出す物”が必要となる。
明かりを灯す/石造りのアーチについて
もし、探索者がタイプライターで「懐中電灯」や「松明」などを呼び出した場合、その明かりで周囲を照らし出すことが出来ます。 探索者が暗闇を照らし出すと、上述した「鎖に繋がれたクリーチャー」の他に、「石造りのアーチ」を新たに発見することが出来ます。
<石造りのアーチ>
光沢のある石で作られた、大きなアーチです。幅は約2m、高さは約3mほどある巨大な物で、その下を人が通ることが出来ます。探索者がアーチの下を通り、その向こう側へ行っても、そこは今までと同様の空間が地続きで存在するだけです。
地質学:そのアーチが地球上に存在するどのような石材とも異なる物質であることが分かる。
オカルト:不必要に大きく、異様な材質で造られているそのアーチが、魔術的な道具であると直感する。
この石造りのアーチに対して、探索者がタイプライターで呼び出した「ベル」を鳴らした場合、エンディングとなります。その場合はエンディングAを参考にしてエンディングを演出してください。
時間制限について
このシナリオは、YESかNOの回答を元に、脱出への解を探るゲームとなっていますが、このようなゲームは探索者が上手く進行出来ない場合、いつまで経っても終わらない可能性があります。そのような場合は、強制的にシナリオを終了させてしまいましょう。探索者の探索が長引いてきた時、下記の描写を行ってください。
[探索者]はふと、周囲が暗くなっているように感じ、直ぐにそれが気のせいではないと分かった。吸い込まれるような暗闇は、気が付けば徐々に[探索者]に迫って来ているようだった。[探索者]は、このままだといずれ、この暗闇に囚われてしまうと直感した。
探索者が明かりを点ける道具を呼び出していたとしても、その道具の放つ明かりもいつの間にか細くなっており、今にも消え入りそうです。
上記の描写から、探索者はしばらくの間は行動が可能です。タイプライターで物を呼び出したり、人形に質問をしたりすることが出来ます。しかし、そのような行為をキーパーが指定した回数繰り返すと、辺りは完全に闇に包まれてしまいます。(キーパーは残りの行動回数を探索者に伝え、その回数を超えるとゲームオーバーになる旨を伝えると良いでしょう。その際、探索者がまだ諦めていないのであれば、もう少し猶予を与えても良いでしょう)
この空間が完全に暗闇に包まれた場合、エンディングとなります。その場合はエンディングBを参考にしてエンディングを演出してください。
シナリオ エンディング
※探索の終盤、エンディングのシナリオ進行についてA・Bの2パターンを下に記載します。
エンディングA:ベルを鳴らす
探索者がタイプライターでベルを呼び出し、それをこの空間で鳴らした場合、下記の描写を参考にしてエンディングを演出してください。
[探索者]がベルを鳴らすと、突然、眩い光に視界を奪われた。いつの間にか、暗闇の中に立っていた石造りのアーチが、その内側の空間を光らせていた。そのアーチの向こうに、眩い光の世界が広がっているようだった。[探索者]はその光を見て、得も言われぬ温もりを感じた。
探索者がアーチを見つけていなかったといても、上記のようにアーチの内側が光るために、探索者はそのアーチに気が付くことが出来ます。
探索者がこの光るアーチをくぐり抜ければ、シナリオクリアです。
[探索者]がアーチをくぐり抜けると、地面から吹き上げる風を感じ、と同時に、[探索者]の身体は花びらのように宙に舞い上がった。ふわりと浮いた身体は、そのまま天空へと昇っていく。[探索者]は揺り籠で揺られているような気持ちよさを感じ、自然と眠りにつくように意識を失っていった。
[探索者]が目を覚ますと、そこはいつもの寝床だった。外は明るく、窓辺にとまった小鳥のさえずりが聞こえてくる。不思議な夢を見ていたようだ。それがどのような夢だったか、思い出すことは出来なかったが、悪くない夢だったと思う。[探索者]は寝床から起きだし、日常への帰還を果たす。
エンディングB:暗闇に包まれる
探索者の探索が上手くいかず、時間切れになってしまった場合、バッドエンドとなります。キーパーは下記を参考にして、エンディングを演出してください。
いつの間にか、[探索者]を照らしていた明かりは小さな蝋燭のようにか細くなり、ついにはスッと消えていった。辺りは完全な暗闇に包まれて、まるで眼球を黒い絵の具で塗りつぶされたようだった。静かな空間に、[探索者]は自分の呼吸と心拍の音が響き渡っているように感じた。
もしも、ずっとこのままだったら。死んで意識を失うその瞬間までこのままだったらどうしよう。そんな不安が[探索者]の心をミシミシと押し潰していく。どれだけ時間がたっても、光の存在しないこの世界で暗闇に目が慣れることはない。[探索者]が恐怖に狂い、泣こうが叫ぼうが、この孤独で絶望的な世界がそれに応えることはない。
SANチェック 1/1D6
[探索者]が目を覚ますと、そこはいつもの寝床だった。[探索者]は恐ろしい悪夢を見ていた。驚くほどの寝汗で、布団はひどく濡れていた。[探索者]の精神は弱り、すり減っていた。また、あの悪夢の続きを見るのではないか。恐怖に身体が震えた。今夜はもう、眠ることは出来ないだろう。
シナリオのその後/正気度報酬
※探索を終了したその後の世界についてと、クリア後の探索者への報酬について記載します。
シナリオのその後
夢から覚めた探索者は日常への帰還を果たします。邪神の気まぐれで、その暇つぶしに召喚されてしまった探索者は、課せられた試練を乗り越える事が出来たでしょうか。
成功報酬
- エンディングAの場合:1d4の正気度報酬
- エンディングBの場合:正気度報酬なし
あとがき
テキスト化5作目。1時間もかからずに行えるショートシナリオとして作成しました。いかがでしたでしょうか。
探索者を呼び出した邪神について、特に指定しません。指定しないことに現時点で深い意味はありません。
脱出のために呼び出すべき物を変えてみたり、脱出方法を変えてみたりしても面白いかもしれません。
ちょっとした時間の暇つぶし、セッションの合間の空いてしまった時間に使用していただければと思います。終わりまで読んでいただき、ありがとうございました。(2016/11/20)