CoCシナリオ 作者:チョリ 耶話鳴えオリジナルシナリオ

テレンスホテル

投稿日:2017年3月13日 更新日:

はじめに

  • このシナリオはクトゥルフ神話TRPGに対応したシナリオです。
  • 1人用のシナリオで、時間は6時間程度を想定。
  • シナリオの舞台設定は現代日本。
  • 探索者は20歳の男性としてください。(シナリオ中、探索者に独特の設定が新たに付与されることにご注意ください)
  • 推奨技能:<聞き耳><目星><図書館><鍵あけ>
  • 推奨SAN値:50以上
  • このシナリオにおいて、<一時的狂気>や<不定の狂気>を発症した場合、「問題解決への異常な執着心」という形で発症し、プレイを続行することが可能とします。HPまたはSAN値が0になった場合はゲームオーバーです。<一時的狂気>の間、全ての技能値に-5、<不定の狂気>の間、全ての技能値に-10の修正を加えます。

シナリオの概要

 高校の同窓会に参加した探索者は、正体不明の怪人に襲われて命を落としてしまう。しかし、殺されたはずの探索者は、見知らぬホテルの廊下で目を覚ます。そのホテルの一室には小箱が置いてあり、中には4つの鍵とともに文章が残されている。

「同胞よ、『テレンスホテル』へようこそ。ここに2種類の鍵がある。銀の鍵を使うなら、あなたは過去を見ることができるだろう。金の鍵を使うなら、あなたは過去に触れることができるだろう。蘇りたいと願うなら、銀の鍵で然るべき過去を見て、金の鍵で然るべき過去に触れなさい」

 果たして探索者は、ホテルから無事に生還することができるのか。

 

第一章

導入

 夜、いつものように眠りについた探索者は夢を見る。それは、探索者が幼少期から繰り返し見続けてきた夢だった。

 その夢の中では、まだ幼い探索者はホテルの廊下のような場所にいて、見知らぬ男に手を引かれるままに歩いている。男の顔はぼやけていて、はっきりと見ることはできない。2人はやがて1つの扉の前に辿りつく。男がその扉を開けると、中からは眩い光が溢れ出し、2人はその光の中へと入っていく。

 夢は、いつもそこで途切れてしまっていた。

 目を覚ました探索者は、自宅のポストに一通の手紙が届いていることに気付きます。

 それは高校の同窓会の招待状です。

「20××年、ゴールデンウィーク、〇×ホテルにて17時より開催」

 同窓会に参加した探索者は、そこで高校時代の友人達と再会します。

 以下は特に仲の良かった友人グループです。

(ネタバレを含む為、KPはSAN値、技能を公開しません)

<遠藤文也>

STR 12 CON11 POW13 DEX11 APP13 SIZ12 INT14 EDU17 HP12 MP13 SAN0

ダメージボーナス:無し

技能:パンチ70ダメージ1D3 ナイフ50 ダメージ1D4+2

技能:隠れる40 オカルト95 忍び歩き50 追跡50 信用50 クトゥルフ神話95

仲間思いでクラスの中心人物。頼りがいのある兄貴分。バレーボール部に所属。学級委員長などを務めていました。現在東京大学在籍。非常に優秀。

※KPの任意の呪文を使える設定にして良いです。彼は50MPの込められた宝石を持っており、自由にそのMPを使用することができます。また、使いたい呪文を瞬間詠唱することができます。(詠唱にラウンドを必要としません)

<大井陽太>

STR 10 CON16 POW10 DEX10 APP11 SIZ14 INT8 EDU14 HP15 MP10 SAN50

のんびりやのふくよかな青年。いつもにこにこしています。酒豪。よくみんなに勉強を教えてもらっていました。現在は会社員。趣味はお酒。

<島田洋介>

STR 9 CON9 POW15 DEX13 APP13 SIZ12 INT11 EDU14 HP11 MP15 SAN75

オタク。パソコン部所属。みんなの情報源。現在大学生。下戸。趣味はネット。

<吉田奈美>

STR 9 CON12 POW12 DEX9 APP13 SIZ12 INT13 EDU14 HP12 MP12 SAN60

明るいムードメーカー。ひそかに「遠藤文也」に想いを寄せています。酒豪。現在はフリーター。趣味は写真撮影。

 同窓会場図面をPLに見せます。

 友達との話に花を咲かせる中、恩師の「大月恵吾」が現れる。「大月恵吾」は、顔に大きな傷跡がいくつもある先生で、一部生徒の間では元ヤクザなのではないかという噂がたっていた。しかし探索者は高校時代、この「大月恵吾」に特別目をかけられており、大変お世話になった恩師である。「大月恵吾」はすまなさそうにしながらも、探索者に大切な話があると言い、後で控室Bに来るように伝える。

<大月恵吾> 59歳

ステータスは探索者のステータスに下記の修正を加えたものを使用。HPやダメージボーナスは新たな能力値から算出してください。

STR-3 CON-1 POW±0 DEX-1 APP-1 SIZ±0 INT±0 EDU+7 SAN→0

技能:クトゥルフ神話+75

 控え室Bに入ると「大月恵吾」は1人タバコをふかしている。彼は探索者に礼を言うと懐から何かを取り出す。それは、柄に色とりどりの宝石で装飾が施された鍵だった。

 以下の台詞を参考に会話して下さい。

「これを君に託したい」

「大西洋の海の底で発見された古い鍵だそうだ」

「貰いものでね、詳しくは分からない」

「ここで鍵を渡したことは、誰にも秘密にしておきなさい。きっと高価な品だから」

「私のお守りだ。私はいつもこれに助けられてきた」

「これを肌身離さず身につけていなさい。必ず君を守ってくれるだろう」

「この先、君は何度も苦難を経験するだろうが、決してあきらめるな。君なら大丈夫だ。必ず乗り越えることができる」

「さあ、話は以上だ。彼らのところに戻ってあげなさい。来てくれてありがとう」

 <聞き耳>成功:探索者が部屋を出る際、「今度こそは・・・」と「大月恵吾」が呟く。

 大いに酒を飲まされた探索者は、その後の同窓会での出来事が記憶に無い。

 しかし、19時15分、探索者がトイレを済ませて廊下を歩いている時、不意に、先ほど「大月恵吾」と会話した控室Bから怒声が聞こえて来ることに気付いた。不審に思った探索者はふらふらと控室Bに向かう。部屋の前に着いた時、どうやら怒声は収まっているようだった。探索者はゆっくりと扉を開ける。

 扉を開けた瞬間、肉が焦げたような異臭が漂った。遅すぎる後悔の念が、探索者を打ちのめす。

 部屋の中は、蒸気が充満していて見通すことはできなかったが、突如蒸気の中から、ナイフを構えた血みどろの怪人が飛び出してきた。探索者が対応する暇もなく、探索者の胸に、その凶刃が深々と突き刺さる。

 胸の辺りから、どくどくと温かい液体が溢れ出し、服を濡らしていくのが分かる。

 怪人が探索者に向かって何かを呟いたが、今の探索者に、それを理解する程の余裕は無かった。

 抽象絵画のように視界が揺らぎ、大きく引き伸ばされたかと思うと、頭に強い衝撃を感じた。

 薄れる意識の中、視界の端で、怪人の全身が蒸気を吹き出して、どろどろに溶け出していくのが見える。

 全てが夢のように感じられて、探索者は眼を閉じた。

 <聞き耳>成功:意識が無くなる直前、「遠藤文也」の悲鳴が聞こえた気がする。

 <SANチェック 5/1D2+5>

 以上で、導入は終了です。

 怪人が何かを呟いていますが、探索者にはそれを理解する余裕はありません。ここで怪人が何を呟いていたのか、探索者が気になっているような状態にできるとベストです。

テレンスホテル

 探索者は目を覚ました。周囲を見ると、ホテルの廊下のような場所に居ることに気付く。

 服は血で汚れているが、胸の傷は無くなっている。

 同窓会で訪れていた〇×ホテルの内装とはずいぶん様子が異なることに気付く。

 同窓会で身につけていたものは、今も身につけています。

 携帯電話やパソコンは使用できますが、電波は繋がりません。

 廊下には下記の扉があります。

  • 「ゲストルーム」と書かれた扉
  • 何も書かれていない扉
  • 「4ケタのナンバー」が書かれた扉 ※扉は複数あり、ナンバーは次の通り「1645」「1702」「1811」「1915」
  • 「マスターゲート」と書かれた扉

 「探索者のプライベートホール図面」をPLに見せます。

 

「ゲストルーム」と書かれた扉に入った場合

 ホテルの一室を思わせる部屋である。備え付けられたベッドやテーブルはいずれも質の高さを感じさせるが、古い時代の物のように感じる。

 <歴史>か<博物学>成功:1800年代のイギリスで使われていたデザインだと分かる。

 ベッドには金髪の少女がおり、スケッチブックに絵を描いている。

 <人類学>成功:彼女がイギリス人だと分かる。

 彼女は探索者が部屋に入って来たことに気付くと、おびえたように身をすくめ、「『オーツキ』の知り合いか?」と探索者に尋ねます。

 肯定すれば、彼女は探索者に対する警戒を解いてくれるでしょう。探索者が何者なのか等、探索者の素性について興味深々で尋ねます。(この時、大学名や勤め先など探索者に直結する情報を彼女に教えるかどうかでエンディングが分かれます。できるだけ自然に聞き出したいところですので、頑張ってみて下さい。)

 彼女に名前を聞けば「カナコ」だと答えます。

 警戒を解いた彼女はスケッチブックを見せてくれます。

 資料「スケッチブックの絵」をPLに見せます。

 PLは色々と彼女に質問するでしょうが、彼女が持っている情報は以下のものです。

  • 気が付いたらこの建物の中にいた。それ以前のことは思い出せない。
  • 廊下の奥の何も書かれていない扉の向こうには、エレーベーターがあるが、とても危険なので行ってはならないと『オーツキ』から言われている。
  • 『オーツキ』は時々ここにきて遊んでくれるおじさんである。
  • 何十日もここにいるが、特にお腹はすかない。

 「ゲストルーム」のテーブルの上には木製の小箱が置かれている。

 中には「1702」「1811」「1915」のナンバーの入った銀の鍵がそれぞれ1つずつと、「MASTER」と書かれた金の鍵が入っており、小箱の内側には文章が書かれている。(「1645」の銀の鍵は無い。)

 特殊な言語で書かれており、読んだ者は見た瞬間にその意味を理解する。

 同胞よ、『テレンスホテル』へようこそ。ここに2種類の鍵がある。

 銀の鍵を使うなら、あなたは過去を見ることができるだろう。

 金の鍵を使うなら、あなたは過去に触れることができるだろう。

 蘇りたいのなら、銀の鍵で然るべき過去を見て、金の鍵で然るべき過去に触れなさい。

 ただし、ナンバーが書かれた扉の向こうに行くのなら、滞在する時間に気をつけなさい。長く居続ければあなたは人ではなくなってしまう。

 ホテルに戻りたい時は、扉の向こうで、「入った時と同じ鍵」を使えばいい。鍵穴のある扉ならどんな扉に使っても構わない。

 もし過去に触れたことで、あなたの死の原因を取り除くことができたならば、その後ホテルに戻り「マスターゲート」に金の鍵を使うことで、改変後の現実世界へ戻れるだろう。

 以下は箇条書きで書かれている。

  • 銀の鍵は、対応する「ナンバーの扉」に使うことができる。
  • 「ナンバーの扉」を往復した時、使用した銀の鍵は消滅する。
  • 金の鍵は、全ての「ナンバーの扉」と「マスターゲート」に使うことができる。
  • 金の鍵は、全ての「ナンバーの扉」に使えるが、一度いずれかの「ナンバーの扉」を往復した金の鍵は、もう二度と、どの「ナンバーの扉」にも使うことができなくなる。
  • 金の鍵を「マスターゲート」に使った場合、現実世界であなたが死亡した時刻に帰還することが出来る。
  • 「マスターゲート」に金の鍵を使用した場合、使用した金の鍵は消滅する。
  • 「テレンスホテル」内で死亡した場合、再度「テレンスホテル」で目覚めることは無い。「ナンバーの部屋」で死亡した場合も同様である。

 「何も書かれていない扉」に入ろうとした場合

 扉に近づくと、扉の向こうから話声が聞こえることに気付く。外国語であり何を話しているのかは分からない。その後突然、ドアノブががちゃがちゃと乱暴に回される。しかし扉が開くことは無い。しばらくがちゃがちゃと音を立てた後、扉がノックされる。ノックの音は次第に大きくなっていき、止まることはない。

 扉の向こうに居るのは外人の「銀の黄昏教団」の人間です。どこの国の人間にしても良いです。探索者が扉を開けるなら、訓練された魔術師数名との戦闘になり、探索者は即死します。

 音に気付いて「ゲストルーム」から出てきた「カナコ」が、「その扉の向こうは危険だから絶対に開けてはダメ」と伝えてくる。

 鍵を使わず「4ケタのナンバー」が書かれた扉に入ろうとした場合

 鍵がかかっており、開けることができない。

 鍵を使わず「マスターゲート」と書かれた扉に入ろうとした場合

 鍵がかかっており、開けることができない。(金の鍵を使おうとしても、死の原因を取り除くまでは開けることができない)

過去探索(銀の鍵を使って「4ケタのナンバー」が書かれた部屋に入る)

 銀の鍵を用いて、ナンバーの扉を開ける場合、この項を参照してください。

「同窓会場図面」「同窓会タイムテーブル」参照。

<KP情報>

  • 「1645」「1702」「1811」「1915」はそれぞれ、時刻(「1645」→「16時45分」)を表しています。探索者が銀の鍵を使用してナンバーの扉を開けると、その扉に書かれた時刻から、過去を観察することができます。
  • ナンバーの扉を開けると、探索者の体・意識はテレンスホテルから「生前の探索者が”扉のナンバーに対応する時刻”に存在していた場所」へと移動します。探索者が該当時刻に何処にいたのかは、上図のタイムテーブルをご確認下さい。
  • 過去に移動した探索者は半透明になり、生前の探索者を背後から見ているような状態になります。半透明になった探索者は、誰かに存在を気付かれることはありません。生前の探索者はタイムテーブル通り行動しますが、半透明な探索者は自由に探索し、過去の各時刻に起こった出来事を観察できます。KPはタイムテーブルに表記された各時刻ごとに、探索者の行動・居場所を確認し、探索者に見える範囲での出来事を描写して下さい。

<PL情報>

  • 扉の向こうに居る間、探索者はSAN値を1支払うことで1時間の探索が可能となります(SAN値は先払いを想定しています)。SAN値を支払いたくない場合は、鍵穴付きの扉を見つけて、銀の鍵を差し込んだ瞬間にホテルに帰ることができます。鍵穴が付いていればどんな扉でも構いません。ただし、ホテルに帰る際に使用した銀の鍵は消滅してしまいます。尚、これによるSAN値減少は<一時的狂気>や<不定の狂気>発症の原因にはなりません。
  • 銀の鍵を使用し、半透明となった探索者は、現地を歩いて移動することはできますが、物を動かすことはできません。扉を開けることも出来ないので、部屋を移動するためには誰かが扉を開けた時に便乗して出入りするしかありません。
  • 銀の鍵を使用した場合、探索者は過去を探索・観察するばかりで、”改変”することは出来ません。

 探索者の体は、扉に入った瞬間に半透明になる。そして、誰にも探索者の姿が見えていないことに気付く。

 まるで幽体離脱したかのように半透明になった探索者の体を置き去りにして、実体を持った”過去”の探索者の体は、タイムテーブルの通りの行動を行います。

 <SANチェック 2/1D3+1>

 「カナコ」を連れて入る場合、彼女の体も扉に入った瞬間半透明になります。半透明の者同士は、互いの姿を認識できます。

 同窓会場で使える技能は以下の通りです。

 「遠藤文也」に対して<目星>成功:彼は時折何かを気にするように周囲をちらちらと窺っている。クリティカルを出したなら、「大月恵吾」の動向を窺っていることに気づく。

イベントA

 控室Aには同窓会を祝う特大ケーキが置かれており、数人の女子がそれを盛り付けている。そこに「吉田奈美」も加わる。彼女はしばらく盛り付け作業をしている。

 作業終了後、彼女は同窓会場へと戻ります。

 尚、彼女と一緒に控室Aに入った場合、探索者は自分で扉を開けることができないので、「吉田奈美」が作業を終了して部屋を出るまで、その部屋から出ることができません。

イベントB

 ホテルの医務室に移動した「島田洋介」は、そこで飲み過ぎに効く薬をもらってベッドに横になる。どうやら楽になるまで休憩することにしたようだ。

 1時間程休憩した後、彼は同窓会場へと戻ります。

 尚、彼と一緒に医務室に入った場合、探索者は自分で扉を開けることができないので、「島田洋介」が休憩を終了して部屋を出るまで、その部屋から出ることができません。

イベントC

 廊下に出た「遠藤文也」は控室Bに入ると、部屋の四隅にちょうどタバコ程の大きさの金属製のシリンダーを取り付け始める。数分程作業を行い設置が完了すると、彼は部屋を眺め、

「亜弥、もう少しの辛抱だ」

 そう呟いて控室Bを後にする。

 彼はその後、同窓会場へと戻ります。

 このイベントを見た探索者は、「遠藤文也」には「亜弥」という、入院中の妹がいる事を思い出します。

イベントD

 「大月恵吾」とともに控室Bに入った「遠藤文也」が、何事か呟く。すると、部屋の四隅が大きく発光し、それぞれから光線が放たれ、部屋の中央にいた「大月恵吾」を捉えた。光線は「大月恵吾」の体をぐるぐるとロープのように締め上げたかと思うと、見えなくなった。

 「遠藤文也」がため息をついて声をかける。

「すみません先生。こうして正体を現すつもりは無かったんですが。他に手が無かったんです。この魔術はあなたの魔術を封じるものです。ここまでですよね。鍵を返して下さい」

 「大月恵吾」はタバコを取り出して火をつける。

「君、確か委員長を務めてくれていたなあ。仕事が丁寧だったから、覚えてるよ」

「先生、鍵を返して下さい」

「大学に進学していたな。東大だったかな。やりたいことは見つかったかい」

「先生」

「鍵は無いよ」

 突然、「バン」という大きな破裂音がした。「大月恵吾」がタバコを持っていた左腕は蒸気を吹き出して溶解し、彼の足元に赤黒い水たまりを作った。

「先生、時間が無いんです。あなたが鍵さえ渡してくれれば、命までは取りません。組織はあなたを殺すよう命じているが、そんなことはどうだっていい。それさえあれば、妹は助かるんだ」

 「大月恵吾」は一瞬、何かを言おうと口を開いたが、すぐに口をつぐんだ。

 そして苦痛に耐えながらも、真っ直ぐ「遠藤文也」の目を見て答える。

「すまん。鍵はもう無いんだ」

 一瞬の間があり、「遠藤文也」は絶叫に近い怒声を上げる。

 彼は必死に自身の胸をかきむしる。

 かきむしった際に彼のシャツが破れ、その体が露わになった。彼の服の下の体は、キュビズムで描かれた絵画のように多面による鋭角で構成されていた。

 「遠藤文也」がぶるぶると震えながら、また、何事か呟く。すると、先程よりも更に大きく「バン」という破裂音が響いた。

 「大月恵吾」の居た場所には蒸気が立ち込め、一瞬の内に彼の全身が溶解し始めた。

 「大月恵吾」は苦痛に顔をゆがめ声を漏らす。

「…もう…来る頃だろう。私は…この時の為だけに…生きてきたんだ」

 その時、部屋の扉がゆっくりと開かれ、(生前の)探索者が入ってきた。その瞬間、「大月恵吾」は懐から幅広のナイフを取り出し、探索者に向かって突進する。慌てて「遠藤文也」がそれを止めようとするが、彼のナイフはそれよりも早く探索者の胸に突き立てられた。

 「大月恵吾」は探索者に向かってささやく。

「すまない。困ったら、私の所に来なさい」

 「遠藤文也」が何かを叫ぶと、「大月恵吾」は弾けるように全身から蒸気を吹き出して、跡形もなくどろどろに溶解した。

 「遠藤文也」はふらふらと探索者に近寄り、嗚咽を漏らしながらもその体を検め、装飾の施された鍵を回収すると、その場に倒れ込んだ。すると、震える彼の体から、鋭利な突起物が無数に突き出し始め、その全身を多面形状が覆いつくし、人ではない形へと変えてゆく。悲鳴ともつかない声をあげながら、彼がその腕をがむしゃらに振り回すと、伸縮したその腕は、まるで厚紙でもへし折るかのように周囲の壁を薙ぎ払った。その被害は同窓会場にまで及び、薙ぎ払われた壁の向こう、同窓会場のあった場所には死屍累々の惨状が広がっている。

 「遠藤文也」は、しばらくそうして暴れまわると、次第に黒い霧のような姿となって部屋の角へと吸い込まれていった。

 <SANチェック 2/1D3+2>

 尚、この時「大月恵吾」を溶解させているのは「肉の溶解(MELT FLESH)」の呪文です。(参照:クトゥルフ神話TRPG ルールブック P275)

過去改変(金の鍵を使って「4ケタのナンバー」が書かれた部屋に入る)

 金の鍵を用いて、ナンバーの扉を開ける場合、この項を参照してください。

<KP情報>

  • 金の鍵を使ってナンバーの扉に入った場合、探索者は「扉のナンバーに対応する時刻の生前の探索者自身」となって行動することができます。実際に過去改変することができます。
  • 「カナコ」を連れて入る場合、「カナコ」もまた肉体を持って同窓会場に入ることができます。その場合、「カナコ」の出現場所は探索者のかたわらです。

<PL情報>

  • 扉の向こうに居る間、探索者はSAN値を1支払うことで1時間の探索が可能となります(SAN値は先払いを想定しています)。SAN値を支払いたくない場合は、鍵穴付きの扉を見つけて金の鍵を差し込んだ瞬間にホテルに帰ることができます。ただし、金の鍵による過去改変のチャンスは1回限りです。尚、これによるSAN値減少は<一時的狂気>や<不定の狂気>発症の原因にはなりません。

 これより探索者は自由に過去改変を行えますが、探索者の行動は大きく分けて以下の3種に分類できるかと思います。

  1. 「大月恵吾」に相談する。
  2. 「遠藤文也」に戦いを挑む。
  3. 逃げ出す。

 KPは探索者の行動に対してアドリブによる対応が必要ですが、探索者がどのような行動に出たとしても、処理的には問題ありません。処理を解説します。

 ①「大月恵吾」に相談する場合

 探索者が「大月恵吾」に話しかけ「テレンスホテル」のことを話すと、彼はすぐに廊下など人気のない場所へ探索者とともに移動します。探索者は色々と尋ねようとするでしょうが、「大月恵吾」はそれを制します。探索者が死んだときの状況を確認し、彼は場所を変えることを提案します。探索者が特に何も言わなければ、駐車場で「大月恵吾」の車に乗り込み、彼の自宅に向かうでしょうが、2人だけで話せる環境なら、探索者の自宅でも、「大月恵吾」の車で走行しながらでも構いません。ですが、今すぐに誰にも気づかれないよう移動しなければならないことを強調します。

 移動した先で「大月恵吾」が話す情報は以下の通りです。

  • 渡した鍵は「テレンスキー」と呼ばれるもので、死者蘇生の鍵である。
  • この鍵を身につけて死んだものは、「テレンスホテル」に送られ、過去改変によって蘇るチャンスを与えられる。
  • 「銀の黄昏教団」というカルト組織が「テレンスキー」を使って世界を崩壊させようとしている。
  • 「大月恵吾」は、「銀の黄昏教団」の野望に気づき、教団のアジトから「テレンスキー」を盗み出した。
  • 「遠藤文也」はおそらく「銀の黄昏教団」の人間である。

 上記の情報を得た所で、探索者は不意に悪臭を感じます。悪臭の方を振り向くと、鋭角(部屋なら壁の隅や机の角、車の中ならウィンドウの角など、あらゆる角の場所)から、黒い霧が吹き出していることに気づきます。その黒い霧は徐々に人型に収束してゆき、変化が終わると、そこに「遠藤文也」が現れます。

 「遠藤文也」は常に「大月恵吾」の動向を探っている為、探索者がいかに注意して「大月恵吾」に話掛けたとしても、必ず気づきます。「遠藤文也」は探索者の不可解な行動から、探索者が「テレンスホテル」の住人であることを察しているのです。

 この後、イベントシーンに移行しますが、先に別の行動をした場合について解説します。

 どのような行動をとっても、同じイベントが起きることになります。(場所などの状況は変化します。)

②「遠藤文也」に戦いを挑む場合

 「遠藤文也」は探索者の不可解な行動から、探索者が「テレンスホテル」の住人である事をすぐに察します。彼はあらゆる呪文を瞬間的に発動できます。特に「支配(DOMINATE)」の魔術は強力なのでおすすめします。対象人物の行動を意のままに操る魔術です。(参照:クトゥルフ神話TRPG ルールブック P259)

 その為、探索者のあらゆる行動は「遠藤文也」には通用しません。

 探索者があからさまな行動に出た瞬間、次のイベントシーンに移行します。

③逃げ出す

 「遠藤文也」は探索者の不可解な行動から、探索者が「テレンスホテル」の住人である事をすぐに察します。探索者が逃げようとした先で、彼が待ち構えているか、探索者の後ろから声がかけられることでしょう。

 その後、次のイベントシーンに移行します。

イベントシーン

 「遠藤文也」は呟く。

「そうか、今度はお前なのか」

(「大月恵吾」がそばにいる場合、その台詞の直後に一瞬にして溶解し、死亡します。尚、このイベントはたとえ同窓会場の真ん中にいようとお構いなしで発生します)

 「遠藤文也」は一瞬何事か呟いた後、探索者を指さして動くなと命令する。

 そう言われた瞬間、探索者は、急に体の自由がきかなくなる。

 「遠藤文也」はゆっくりと探索者に近づき、探索者が身につけているものを検める。

 彼は金の鍵と「テレンスキー」を探索者から回収する。

 彼は眼を閉じた。胸に手を当てて苦しそうに呼吸しながらも、何か考えているようだ。

 やがて眼を開けると、彼は探索者のポケットに金の鍵を戻した。

「金の鍵は返す。これなら、お前は助かるだろ。お前はもう首を突っ込むな」

 「遠藤文也」は懐から自身の金の鍵を取り出すと、鍵穴付きの扉へ向かっていく。しかし、ふと立ち止まったかと思うと探索者に向き直った。

 ポケットから金属製のシリンダー(径10mm長さ60mm)を取り出すと、それを探索者に向かって投げた。

「それやるよ。後で見てみるといい。じゃあな」

 彼は鍵穴付きの扉に金の鍵を差し込んだ。彼が扉を開けると扉の向こうが白く光り、彼はその中へと消えていった。

 「遠藤文也」が扉の向こうに姿を消すと、探索者は自由に動けるようになります。

 「遠藤文也」から受けとったシリンダーを確認すると、それには(DEFLECT HARM)と刻まれており、シリンダーの先端には万華鏡のようにレンズが付いています。レンズを覗きこむと、独特の光が見えます。この視覚情報の刺激は、見た者の脳へ作用し、見た者に一瞬にして特定の魔術を習得させます。この場合は「被害をそらす(DEFLECT HARM)」です。1MPと1正気度ポイントを消費して、自分を襲う対象に片手をかざすことで、物理的ダメージを無効化する呪文です。詳しくはルールブックを参照下さい。(参照:クトゥルフ神話TRPG ルールブック P279)今回のシナリオは1人で神話生物に挑むことになる為、救済措置として作ったアイテムです。

 探索者が鍵穴付きの扉に金の鍵を差し込み扉を開くと、扉の先は白く光っています。その光の中へ進んで行くと、いつのまにか「テレンスホテル」の廊下に辿り着きます。

 金の鍵で「4ケタのナンバーの部屋」から「テレンスホテル」に戻る際、身につけていたものは「テレンスホテル」に持ち帰ることができます。尚、やろうと思えば人間を持ちかえることも可能です。

--- 第一章終了 ---

第一章まとめ

  • 「大月恵吾」から渡された鍵はテレンスキーと呼ばれる過去改変を可能にする鍵だった。
  • 「遠藤文也」は、「銀の黄昏教団」と呼ばれる狂信者の仲間だった。
  • 「大月恵吾」は、「銀の黄昏教団」と敵対しており、「遠藤文也」の手によって殺されてしまった。
  • 探索者は「遠藤文也」にテレンスキーを奪われてしまったが、金の鍵は所持しており、死の原因は取り消した為、復活可能な状態になった。
  • 「遠藤文也」から奇妙な装置を貰い、「被害をそらす」の魔術を習得した。

 

第二章

奇妙な再会

 探索者がホテルに戻ると、「何も書かれていない扉」からノックの音がしなくなったことに気付く。

 これ以降、探索者はこの扉の向こうを探索できるようになります。

 扉の向こうには、円形のフロアがあった。中心にはエレベーターらしきものがあり、エレベーターの扉の横には「20××」と書かれている。

 資料「エレベーターホール図面」をPLに見せます。

 エレベーターホールに出て、振り返ると、出てきた扉に自分の名前と「1715」というナンバーが書かれていることに気付きます。(これは死亡時刻を表しています。周囲には他人の名前が書かれた扉がいくつかありますが、名前は適当で良いですし、ナンバーも適当で良いです。それらの扉に入るのは書かれた名前の本人以外には不可能です。扉の先には、探索者と同様に過去改変する為の部屋が用意されています)

 探索者がエレベーターを使おうとした時、突然エレベーターが動き出す。エレベーターには「大月恵吾」が乗っており、探索者に会うと、気さくに笑いかける。

「やあ、早かったね。それとも私が遅かったのかな」

 探索者は彼に色々と問いかけるでしょうが、彼は既に探索者の事情を察しています。彼はとりあえずゲストルームへ戻るよう促し、そこで探索者に全貌を話します。

 ※もし探索者がエレベーターホールに出ることを恐れていた場合は、「何も書かれていない扉」を開けて「大月恵吾」が登場し、上記の台詞を言います。

 大月恵吾との会話は以下を参考に行って下さい。

「全てを語るには、まず自己紹介を改めなくてはならない。私の本当の名前は「○○」、君と同じだ。私は君なんだよ」

「順を追って話そう。私は20××+4年にとある事件(原子力発電所がテロリストに占拠された事件、黒幕は銀の黄昏教団)に巻き込まれ、「銀の黄昏教団」の存在とその野望(神格の召喚)を知った」

「世界の危機を感じた私は20××+7年に教団の拠点に忍び込み、そこで彼らが持つテレンスキーの存在に気付いた。そして、私はそれを1本盗み出すことに成功したんだ」

「その後、私はテレンスキーを利用して、教団と戦うことになる。しかし、相手は強大でね、私1人では彼らを止めることができなかった」

「彼らは毎年、仲間にテレンスキーを持たせて殺すことで、このホテルに仲間を送りこんでいたんだ。過去改変が可能なこのホテルに、毎年仲間を送り込み、待機させる。これによって彼らは、あらゆる年代にさかのぼって過去改変することができるようになったんだ。この万能な力のせいで、誰も彼らの野望を阻止することができなくなってしまった。この力が、全ての引き金になっているんだ」

「20××+24年、彼らは神の召喚に成功し、世界は滅亡してしまった」

「テレンスキーを所持していた私は、滅亡した世界からホテルに来たが、多少の過去改変をした所で、彼らの召喚を止める手立ては無かった」

「そこで私は、ホテルの過去の階層を探索することにしたんだ」

「そうして20××-15年の階層に辿りついた私は、そこで、自分の名前の扉を発見することになる」

「私には20××-15年に死んだ覚えなど無かったが、その扉を調べてみるしか手は無かった」

「そこで、私は君に出会った。その扉を開けると、君が居たんだよ」

「そのフロアの銀の鍵を使って分かった。幼少期の君は、教団の人間に殺されていたんだ。教団の人間は、私に手を焼いていたからね、幼少期の君を殺すことで私を消そうとしたんだろう。しかしその時、教団の人間は君の首を絞めて殺していた。教団の人間はテレンスキーを所持していたようだから、おそらく、そばで死んだ君に、偶然そのテレンスキーが反応して、君はこのホテルに来たんだろう」

「私は、金の鍵を使い幼少期の君にタイムリープして、教団の人間を退けた。そして「マスターゲート」に君を帰そうとした。その時、あるアイデアがひらめいたんだ。この「マスターゲート」に、君とともに入ったら、どうなるのか。もしかしたら20××-15年に戻れるのではないかとね」

「完全に賭けだったが、結果的にそれは成功した。私は20××-15年で、君とともに目覚めたんだ」

「20××-15年に戻った私は偽名を名乗り、また教団と戦う生活を送っていたが、体の老いもあり、とても歯が立たない状態だった」

「そしてある時、ホテルの探索中に、20××年の階層、この階層で、この部屋の扉を発見したんだ。この部屋の銀の鍵を使って分かった、この部屋は、君がテレンスキーを受け取った後、私によって殺されることで作られたものだとね。これによって私は、テレンスキーを君に託すというアイデアを得たんだ」

「その後、現実世界に戻った私は教員免許を取得して、君を守りつつこの時を待った」

「そして、今に至るというわけだ」

「このままでは同じ未来を辿り、世界は滅びるだろう。君には神格の召喚を阻止してもらいたい。それができるのは、君だけなんだ」

 予想される探索者からの質問とその回答を以下に示します。(「大月恵吾」は「テレンスホテル」について全て知っているわけではありませんので、全ての質問に答える必要はありません。ですが念の為、探索者からの質問に備え、KP用のテレンスホテル詳細設定のページを用意しています。ここにも記載が無い場合は、耶話鳴えのメールアドレスにてご質問下さい)

Q:どうして生きている?

A:死んだ後にホテルに入るタイミングにはかなりのタイムラグがあるようだ。私は同窓会の約1年前に別の場所で死んで、今、ここにいる。金の鍵を使って死の原因は解消しているから、「マスターゲート」には入らずとも「現実世界の私」は生き続けているはずだ。金の鍵による現実世界の過去改変は、ホテルに戻った時点で既に完了しているものらしいからね。もっとも、君がここにいるということは「現実世界の私」も殺されてしまったようだね。遠藤君にやられたんだろう?

Q:こうなることを分かっていながら、何故わざわざ同窓会でテレンスキーを渡した?

A:君にあの惨状を見せる為だよ。普段の君に鍵を渡して、これから世界が滅んでしまうなんて話をしても、君は信じないだろう?何せ、私なら信じないからね。

Q:何故わざわざ教師になった?

A:君の信用を得る為だよ。何も知らない人間に、いきなり鍵を渡されてこんな話をされたら、君はどう思う?

Q:何故、探索者を殺した?

A:君を何としてもホテルに送る必要があったからだ。あの状況で、最も避けるべき事態は、君が死ぬ前に遠藤君に鍵を奪われてしまう事だったからね。

Q:どうして1人で教団と戦ってこれた?

A:コツがあるんだ。どんなピンチに陥ろうとも、鍵を奪われそうになった瞬間に自殺してしまえばいい。そうすれば後で過去に戻って、別の作戦を仕掛けられる。教訓を得た上でね。

Q:カナコはどうしてここに居る?

A:彼女は20××年のエレベーターホールでうずくまっていた。教団の人間ではないようだったし、エレベーターホールは危険だからここに匿ったんだ。それ以来こうしてちょくちょく様子を見に来ている。ちなみに「カナコ」は仮名だ。私が名付けた。彼女は自分の名前も思い出せない状態だった。

Q:テレンスキーを盗んだのに、何故教団の脅威が続いている?

A:教団はかなりの数のテレンスキーを所持している。私が盗んだのはその内の1本に過ぎない。私の知る限り、国内だけでも10本程、海外も含めれば数十本以上はあるだろう。全て回収するのは現実的では無い。

Q:子供の探索者が殺されたのに、どうして「大月恵吾」は存在していたのか?

A:実際、君を見つけた時、私の体は少しずつ消えかけていた。体が煙となって溶けていくようだった。しかし、消えかけてはいたものの、多少の猶予はあった。詳しくは分からないが、このホテルは時間の流れがおかしいようだから、何か影響があったんだろう。

Q:何故探索者が同窓会で死ぬ前に、それを知ることができた?

A:ここの「ナンバーの扉」は君が死ぬ前からあったんだ。詳しくは分からない。もしかしたらテレンスキーを持って死ぬ運命にある者の「ナンバーの扉」は、あらかじめ用意されているのかも知れない。

「ゲストルーム」に異臭が漂う。「ゲストルーム」の部屋の隅の鋭角から突然、黒い霧と共にキュビズムで描かれた狼を思わせる怪物が姿を現す。

<遠藤文也(ティンダロスの混血種)>

STR 40 CON35 POW30 DEX11 SIZ14 INT14 EDU17 HP25 MP30

ダメージボーナス:1D6 装甲2

技能:かぎ爪45ダメージ1D3 +2D6  噛みつき38ダメージ3D6 舌70 1ラウンドに1D2POWを吸収

技能:回避75 跳躍70 隠れる75 聞き耳70 忍び歩き80 目星75

その怪物は、「遠藤文也」の声で、支離滅裂な言葉を喚きながら探索者に襲い掛かった。しかし、「大月恵吾」が何かを唱えると、その怪物の頭は急に床に叩きつけられ、ビクビクと痙攣し始める。

「大月恵吾」は詠唱の合間、探索者に金の鍵を投げながら声をかける。(この金の鍵は20××+24年のものです。20××+24年の階層では神格の召喚を阻止できないと考えた「大月恵吾」は、金の鍵を使っていませんでした)

「行きなさい。”カナコ”を頼む。ここで君に死なれては全ての意味が無くなってしまう」

「20××+7年に行きなさい。その年の私は教団のアジトで死んでいる。何か分かるかもしれない」

「原因を取り除くんだ。神格が召喚されるに至った原因を!」

 「カナコ」は探索者の腕を引っ張って部屋を出ようとする。

探索者が「大月恵吾」に加勢した場合

 KPは任意の魔術を「大月恵吾」に使わせ、「ティンダロスの混血種」のHPを削りきって下さい。

 「ティンダロスの混血種」は黒い霧となって再び部屋の隅へと消えていく。その時、一瞬「ティンダロスの混血種」の腕が伸びたかと思うと、「大月恵吾」をそのかぎ爪で袈裟に斬り下ろした。

 異臭が消えてゆく。「大月恵吾」は壁に寄り掛かると、そのままずるずると床に腰を下ろした。

「早く…行きなさい。私はもう、戦えそうにない」

 「大月恵吾」は気を失う。

テレンスホテルの探索

 探索者がエレベーターの中に入ると、そこには1860から20××+24までのナンバーが振られた無数のボタンがあった。

 これ以降、テレンスホテル内を自由に探索できるようになりますが、ここからの行動によってエンディングが分岐します。良いエンディングを目指すなら、ここで「大月恵吾」が言っていた20××+7年のボタンを押し、その階層にある「探索者の名前の扉」に入る必要があります。しかし、20××+7年の他にも、20××-15年~20××+24年までの階層には「探索者の名前の扉」が沢山存在しています。これらは「大月恵吾」が何度も死んだことによって作られた扉です。(何年にあるかは特に設定しておりませんので自由に作って下さい)

 20××-15年~20××+24年の階層にある「探索者の名前の扉」の中には、20××年の探索者のプライベートホール同様に、「ゲストルーム」、「ナンバーの扉」、「マスターゲート」があります。20××+7年のプライベートホールについては詳しく後述しておりますが、それ以外のプライベートホールは全てバッドエンド用のものなので、「ナンバーの扉」の数やナンバーなども適当で良いです。バッドエンド用の為、「ゲストルーム」には金の鍵も銀の鍵も存在しません。探索者は「大月恵吾」から渡された金の鍵を持っていますので、それをバッドエンド用の「マスターゲート」に使用することができますが、その場合はバッドエンドとなります。年代によってバッドエンドが変わりますので、以下にリストします。尚、バッドエンド用のプライベートホールの「ナンバーの扉」には、金の鍵を使用できません。

バッドエンド①

 条件:20××+24年の「マスターゲート」に入る。

 「ナンバーの扉」を開くと、そこには真っ黒な地表と真っ赤な空しか無い世界が広がっていた。得体の知れない不快な臭いが充満する中、地面からはところどころから煙が立ち込め、真っ赤な空へと昇っている。探索者は、遥か彼方から響き渡る、邪悪な笑い声を聞いた。探索者は見た。地平線の向こうで、赤い空を背景に蠢く巨大な人型の姿を。

 <SANチェック 100/1D100+100>

バッドエンド②

 条件:20××+8年~20××+23年の「マスターゲート」に入る。

 ナンバーの扉を開くと、廃棄場のような場所に出た。そこには、薄暗くオレンジ色のランプが照らす中、無数の檻のようなものが並んでおり、それぞれの檻には骨と皮しかないような瘦せ細った人間達が収まっている。突然、ブザー音が鳴り、全ての檻がバチバチと明滅したかと思うと、中にいた人間達の体が乾いた粘土のように崩れ去った。

 ふと探索者は、それぞれの檻の隅に名前が書かれていることに気付く。そこには、あの同窓会に参加していたクラスメート達の名前が、いくつも見受けられた。

 <SANチェック 5/1D3+4>

 探索者は気絶する。その後、探索者は病院で目を覚まし、「銀の黄昏教団」と戦っていくことになるのだが、それはまた別のシナリオである。

20××+1年~20××+6年の階層

 上記の階層には、該当する年代で「大月恵吾」が死亡していないため、探索者の名前の扉はありません。見知らぬ名前の扉が並んでおり、その扉を探索者が開けることは出来ません。

バッドエンド③

 条件:20××年の「マスターゲート」に入る。

 探索者は△△ホテルの控室Bで目を覚ました。時刻は17:15。

 状況はプレイの進行によって変化しますので表記できません。

 「遠藤文也」はそれ以降行方不明となり、「大月恵吾」の怪死体が発見されます。

 探索者はその後、「銀の黄昏教団」と戦っていくことになるのだが、それはまた別のシナリオである。

バッドエンド④

 条件:20××-15年~20××-1年の間の「マスターゲート」に入る。

 これらは「大月恵吾」が20××-15年に戻った以降、「銀の黄昏教団」との戦いで命を落とした際に作られた扉です。

 200××-15、20××-1年に「探索者の名前の扉」があることは確定していますが、それ以外にも増やして良いです。年号、死亡時刻を自由に設定して下さい。

 探索者は眼を覚ました。周囲を見るとそこは暗い森の中であり、雨が降っている。起き上がった探索者がしばらく彷徨うと、道路へと辿り着いた。近くにコンビニが見える。コンビニ店内ではラジオが流されており、今日の日付を伝えていた。「20××年×月×日、本日未明××区の路上で~」

 探索者は訪れるべきではない時空に来たのだということを実感する。

 <SANチェック 1/1D3>

 探索者はその後、「銀の黄昏教団」と戦っていくことになるのだが、それはまた別のシナリオである。

教団アジトの探索

 20××+7年の階層にエレベーターで移動し、エレベーターホールを見回すといくつか扉があることに気付きます。その中に1つだけ、探索者の名前の扉があります。扉に書かれたナンバーは「2201」です。探索者はこの扉を開けることができます。周囲にある扉に書かれた名前やナンバーは適当で構いません。

 中に入ると、20××年の探索者のプライベートホール同様に、「ゲストルーム」、「ナンバーの扉」、「マスターゲート」があります。「ナンバーの扉」は4つあり、ナンバーは「2031」「2048」「2107」「2122」です。「ゲストルーム」にある小箱には、「2048」「2122」の銀の鍵があります。尚、「大月恵吾」は既に「2031」の「ナンバーの扉」に金の鍵を使い、拠点から脱出している為、「大月恵吾」と遭遇することはありません。

 第一章で前述した通り、探索者は銀の鍵を使用することで体が半透明になり、誰にも気づかれずに過去を探索することができます。「カナコ」を連れて入るなら、彼女もまた半透明になり共に探索することができます。半透明の者同士は、互いの姿を確認し合えます。また、探索者は金の鍵を使用することで、ナンバーの扉に書かれた時刻に、肉体を持って出現することができます。「カナコ」も同様です。出現する場所については、下記の表を確認して下さい。

 「アジト図面」「アジトタイムテーブル」を参照。

 「アジト図面」を探索者に見せます。

 各部屋の状態や手に入る情報は以下の通りです。

倉庫

 雑多な日用品等が置かれています。探索者が望むなら、<幸運>等で振らせて、望む道具を探させても良いです。

保管庫

  • 棚には小型の金属コンテナが収められており、貼られているラベルには「テレンスキー捜索中、大西洋海底にて発見」と書かれています。「カナコ」を連れて来ていた場合、彼女はそのコンテナを見た瞬間に顔を青くしますが、その理由は本人にも分かりません。中身は空です。
  • その他、奇妙な生物のホルマリン漬けなど今回のシナリオには関係ない物品が収められています。

事務所

 一般的な会社の事務所と特に変わりありません。10名程の人間が作業をしています。ここには特に今回のシナリオに関する情報はありません。

非常階段

 7階には教団のアジトがありますが、それ以外の階層にはごく普通の会社が入っています。

資料室

 本棚が立ち並び、様々な書類やファイル、本が並べられています。部屋の奥には長机が設置されています。

 この部屋で<図書館>などで手に入る情報は以下の通りです。ただし、これらの書類を読むためには、本に触れる必要があるので金の鍵を使用する必要があります。※赤色で表示した資料は、<図書館>に失敗しても手に入ります。

<「テレンスホテル調査記録」確認所要時間10分>

  • 「テレンスホテル」で目覚めると、「ゲストルーム」や「マスターゲート」、「4ケタのナンバーの扉」のある廊下に出るが、これらは死亡した人物に与えられたものである。目覚めた廊下は便宜上、その人物の「プライベートホール」と呼ぶ。
  • エレベーターホールには年号が表記されている。エレベーターホールには、その年号に死んだ各人物達の「プライベートホール」の扉があり。その扉は本人にしか開けることができない。ネームプレートには4ケタの数字が書かれているが、これはその人物の死亡時刻を表している。
  • 「テレンスホテル」は「テレンスキー」を持って死ぬ運命にある者の「プライベートホール」をあらかじめ用意している。
  • 「プライベートホールA」にて過去改変を行い、他の「プライベートホールB」が作られる原因となった死の運命を変えた場合、「プライベートホールB」及びそこに現れる死亡者Bは消滅する。これは過去改変による「テレンスホテルの改変」である。(死亡者Bが転んで死亡した運命を、「プライベートホールA」にて過去改変して助けた場合、「プライベートホールB」とテレンスホテル内に居る死亡者Bは消滅する)
  • 「テレンスホテルの改変」(「プライベートホール」の消滅や人物の消滅)には、タイムラグがある。すぐに消滅する場合もあれば、非常にゆっくりと消滅する場合もある。消滅にはもやのような煙を伴う。
  • 金の鍵を使い「ナンバーの扉」に入った場合、ホテルに戻る際に身につけていたものはホテルに持ち帰ることができる。
  • 「マスターゲート」を通った際に身につけていたものは、現実世界に持ち帰ることができる。
  • 人物Aが「テレンスホテル」内で死亡した場合、現実世界の人物Aも死亡する。
  • 「マスターゲート」には、複数人で入ることができる。その場合、全員が現実世界に帰ることができる。現実世界に戻った時の時刻は、その「マスターゲート」の持ち主の死亡時刻と同じである。

<「鍵の入手経路についての記録」確認所要時間15分>

 とある大型客船に乗り込んだ貿易商人によって、テレンスキーがイギリスからアメリカの我々の支部へと輸送されることになった。

 しかし、その大型客船は、氷山に接触したことで2つに折れて沈没してしまった為、1年後に海底の調査が行われた。

 調査には莫大な費用が必要となったが、テレンスキーを入手できれば必ずそれを超える見返りが期待できるはずである。

 9月、我々は海底に沈んだその大型客船を発見し、その船内及びその周囲の海域を隈なく捜索したがテレンスキーは発見できなかった。

 11月、大型客船の航路にあたる海域を捜索中、海底に沈む小型コンテナを発見。中から、白骨化した子供の遺体とテレンスキーを発見する。

 12月、テレンスキーの複製に成功する。

<「テレンスキーの複製について」15分>

 我々は、テレンスキーの複製方法を確立することに成功した。方法は以下の通りである。

  1. テレンスキーを同胞Aに持たせて殺し、「テレンスホテル」に送り込む。同胞Aはテレンスキーを持った状態で、「テレンスホテル」で目覚める。(死んだ時に身につけていたものは「テレンスホテル」に持ち込むことができる。テレンスキーも同様である)
  2. テレンスキーを同胞Bに持たせて殺し、「テレンスホテル」に送り込む。同胞Bはテレンスキーを持った状態で、「テレンスホテル」で目覚める。
  3. 「テレンスホテル」内で、同胞Bは同胞Aへ自身のテレンスキーを渡す。
  4. 同胞Aは過去改変によって自身の死の原因を消し、「マスターゲート」から2本のテレンスキーを持って現実世界に戻る。
  5. 「マスターゲート」を通った際に身につけていたものは現実世界に持ち帰ることができるので、同胞Aは2本のテレンスキーを持った状態で現実世界に帰る。

 これによって、「テレンスホテル」に送り込んだ人数に応じたテレンスキーを入手することができる。

<「無名祭祀書※写本」1D6カ月 付箋の場所だけなら15分>

 幾つかの付箋が貼られており、ニャルラトテップという神格を召喚する項目についての記述がある。英語。

 文章の途中からインクで塗りつぶされており、読むことができない。

イベント

 Aが部屋に入ってくる。

B「休憩ですか?」

A「タバコ吸いに来た」

B「ここ禁煙なんですけどね。そういえば例の回収の件、「遠藤文也」1人に任せて大丈夫なんですか?」

A「問題無いだろう。彼は優秀だ」

B「心配なのはそこではないです。彼の妹さんのことは知ってます?重病人で成功確率の低い手術をしなければ死んでしまう状態だそうですよ。彼、回収した鍵を妹に使うつもりなんじゃないですか?優秀なくせに、嫌に従順で気持ち悪いんですよ」

A「心配要らない。彼の妹は集中治療室に入っていて面会できない」

B「それだけでは…」

A「あの病院はウチの息がかかってるんだよ。集中治療室に入っているのは妹の死体だけだ。彼女は「遠藤文也」がホテルに入る少し前に死んだからな。あいつが病院に飛び込んでこようが助ける相手はもういない訳だ」

B「殺したんじゃないんですか」

A「死にかけが死んだんだ、何もおかしくないだろう」

B「死にかけと言っているのもウチの医者でしょう」

A「「遠藤文也」は○○(探索者の名前)と同級生で非常に優秀な人材だ。使えるものなら使いたい。そんな時に、彼の妹がウチの病院に来た。チャンスじゃないか。後は妹を適当に弱らせて余命宣告した所で、彼に「テレンスキー」の情報を与えてやれば簡単に落ちる」

B「まあ、よくやるやつですよね」

A「そんなことより~…」

 ここでの探索において、探索者は特に過去改変をする必要はありません。必要なのは情報収集だけです。探索者は、銀の鍵を使って教団の人間の行動パターンを把握し、見つからないように資料室を調べなければなりません。

 アジトにある全ての部屋には時計が設置されていますので、KPは何か動きがあるたび逐一PLに現在時刻を教えてあげるようにして下さい。

 探索者は、「テレンスキーの入手経路」の情報より、テレンスキーを運んでいた大型客船が、「タイタニック」であることを推測し、更に海底のコンテナの中で発見された子供の遺体が「カナコ」のものであることを推測する必要があります。

 難しい場合は<アイデア>を振らせて、下記のヒントを与えてあげて下さい。※可能な限りPL自身が自分で気づくように仕向けたいところです。分からない場合は<アイデア>を複数回に分けて振らせるなどして、段階的にヒントを与えてあげて下さい。

  • 「銀の黄昏教団」がテレンスキーを手に入れた原因さえ消せば、世界の危機を回避できる。つまり、テレンスキーを運んでいた大型客船に乗り込み、テレンスキーを見つけて適切に処分できれば、「銀の黄昏教団」の手には渡らず、世界の危機を回避できるのだと気付く。
  • 「銀の黄昏教団」にテレンスキーを運んでいた大型客船は、氷山に接触したことで2つに割れて沈没してしまったという情報が思い出される。
  • 氷山に接触したことで2つに割れて沈没してしまったという情報から「タイタニック」に思い当たる。
  • 「銀の黄昏教団」が海底のコンテナの中から見つけたのは、テレンスキーと白骨化した子供の死体だったらしい。テレンスキーと共に死んだであろう子供はどうなったのだろうか。
  • 「カナコ」こそが、海底のコンテナの中で死んでいた子供なのではないかと考える。

 「テレンスホテル」に戻った探索者は、タイタニック沈没の年、つまり1912年の階層に向かうことになります。もしタイタニック沈没の年が分からなくても、有名な事件なので特にロールもせず教えてしまって良いでしょう。

 また、誤って20××+7年の「マスターゲート」に金の鍵を使用してしまった場合は、バッドエンドになります。

バッドエンド⑤

 条件:20××+7年の探索者の「プライベートルーム」へ行き、「マスターゲート」に入る。

 教団のアジトの廊下で目を覚ます。時刻は22:01である。その後探索者は、「銀の黄昏教団」と戦っていくことになるのだが、それはまた別のシナリオである。

 

--- 第二章終了 ---

第二章まとめ

  • 「大月恵吾」は未来の探索者自身であった。
  • このままでは20××+24年に、世界が滅亡してしまう。
  • テレンスキーはタイタニックによって教団に輸送されていた。
  • タイタニック沈没後、教団は海底調査を行う中でテレンスキーを発見し、その後複製に成功した。
  • 教団がテレンスキーを手に入れる前に、それを処分する必要がある。
  • タイタニック沈没の年、1912年に行けば何か分かるかもしれない。
  • 教団はテレンスキーと共に子供の遺体を発見していた。
  • 子供の遺体は「カナコ」のもの?

 

最終章

1912年の階層

 1912年の階層に辿り着いた探索者は、「アレシア・メリック」と書かれた扉を見つける。ナンバーは2340。この階層に存在する扉はこれだけである。「カナコ」はその名前を見た瞬間に、それが自分の本当の名前であることを思い出した。

 その時、扉の鍵穴から黒い霧が吹き出す。その霧は瞬く間に黒い獣のような姿へと形を変えたかと思うと、探索者に襲い掛かってきた。

<遠藤文也(ティンダロスの混血種)>

STR 40 CON35 POW30 DEX11 SIZ14 INT14 EDU17 HP25 MP30

ダメージボーナス:1D6 装甲2

技能:かぎ爪45ダメージ1D3 +2D6  噛みつき38ダメージ3D6 舌70 1ラウンドに1D2POWを吸収

技能:回避75 跳躍70 隠れる75 聞き耳70 忍び歩き80 目星75

 ここで「ティンダロスの混血種」となった「遠藤文也」を登場させた目的は、探索者が持っている金の鍵を破壊させる為です。探索者は、想定通りにシナリオが進行していた場合、現時点で2本の金の鍵を持っているはずです。「遠藤文也」から返された金の鍵と「大月恵吾」から渡された金の鍵の2本です。この2本は既にナンバーの扉で使用しているはずなので、もう使用することができません。この後、「アレシア・メリック」のプライベートホールにて、更に新しい金の鍵を手に入れることになりますが、3本も持っていると混乱の元になりますので、使えなくなった金の鍵はここで破壊します。

 KPは「ティンダロスの混血種」に、適当に探索者を攻撃させて下さい。攻撃がヒットした場合、それは金の鍵に命中し、探索者はノーダメージで済みますが、金の鍵は全て破壊されます。探索者が「被害をそらす」を使用した場合は、逸らされた攻撃が金の鍵に命中し、金の鍵は全て破壊されます。

 金の鍵を破壊した後、「ティンダロスの混血種」は苦しそうに何度か身をよじったかと思うと、黒い霧となって鍵穴へと消えていきます。

タイタニックの探索

 「アレシア・メリック」の扉は、「カナコ(以後アレシア)」が開けることができます。

 中に入ると、20××年の探索者のプライベートホール同様に、「ゲストルーム」、「ナンバーの扉」、「マスターゲート」があります。ナンバーの扉は3つあり、ナンバーは「1812」「1847」「1958」です。「ゲストルーム」にある小箱には「1812」、「1847」、「1958」の銀の鍵が1つずつと金の鍵が1本あります。

 第一章で前述した通り、探索者は銀の鍵を使用することで体が半透明になり、誰にも気づかれずに過去を探索することができます。「アレシア」を連れて入るなら、彼女もまた半透明になり共に探索することができます。半透明の者同士は、互いの姿を確認し合えます。鍵を用いた探索者達が、タイタニック上で出現する場所は、タイタニック上のアレシアの部屋になります。

 また、探索者は金の鍵を使用することで、ナンバーの扉に書かれた時刻に、肉体を持って出現することができます。「アレシア」も同様です。

過去探索(銀の鍵を使って「4ケタのナンバー」が書かれた部屋に入る)

 銀の鍵をナンバーの扉に用いる場合には、この項をご参照ください。

 「タイタニック図面」「タイタニックタイムテーブル」参照。

 「探索者用タイタニック図面」を探索者に見せて下さい。

 テレンスホテルにいる「アレシア」を連れた状態でタイタニック上を観察するならば、彼女は過去に自身に起きた全てを思い出します。

 この空間においては全て外国語で話が進む為、基本的には会話内容は分かりませんが、「アレシア」に聞けば、ニュアンス程度の理解は可能です。

イベントA

 「(生前の)アレシア」はしばらくの間、ドアの隙間から部屋の中を覗いていたが、やがて部屋の中に入っていく。

 部屋の中には大小様々なケースやビンが置いてあり、それらには英語でメモ書きがされている。

 <英語>成功:それらのケースのメモ書きには、コカインやアヘンといった薬物の名前が書かれている。

 彼女はベッドの脇に置かれた、豪華な装飾が施された木箱を手に取ると、蓋を開けた。中にはテレンスキーが1本入っている。彼女はそれを手に取り、しげしげと眺めていたが、周囲をきょろきょろと窺うと、それを自分のポケットに入れた。彼女は空になった木箱をベッドの脇に戻して部屋を出ようとするが、丁度その時、部屋の主が帰ってきた。部屋の主は激昂して数名(3~5人)の手下を呼び集め、彼女を捕らえる。(貿易商人の部屋の隣と正面の2部屋は、全て貿易商人の手下の部屋です)

<貿易商人>

STR 12 CON10 POW11 DEX8 APP12 SIZ15 INT14 EDU16 HP13 MP11 SAN55

ダメージボーナス:1D4

技能:パンチ70ダメージ1D3 ナイフ50 ダメージ1D4+2

技能:隠れる40 オカルト40 値切り70 信用70 言いくるめ70 

<貿易商人の手下>

STR 12 CON12 POW10 DEX10 APP10 SIZ13 INT10 EDU10 HP13 MP10 SAN55

ダメージボーナス:1D4

技能:パンチ70ダメージ1D3 ナイフ50 ダメージ1D4+2

部屋の主は、声をあげようとする彼女に何かを注射して大人しくさせると、手下達に小型の金属コンテナを用意させ、その中に閉じ込めた。

イベントB

 探索者は、いつの間にかタイタニックの周囲が濃い霧に覆われていることに気が付く。視界が遮られておりよく見えないが、タイタニックの進行方向には巨大な氷山のようなものが見える。ふと、その氷山が蠢いたかと思うと、突然、タイタニックの真横の海面から巨大な氷柱が突き出してくる。鋭い多面形状で構成されたそれは、タイタニックの船底から船の側面にかけてを削り取り、薙ぎ払った。激しい衝撃に船内はパニックとなる。タイタニックを襲撃したその氷山は、まるで意思を持っているかのように動き、しばらくタイタニックの周囲を旋回すると、やがて海の中へと消えていった。

 <SANチェック 2/1D3+1>

 <アイデア>成功:今見えた氷山は、海上に現れたほんの一部に過ぎず、とてつもなく巨大な怪物が船の下にいるのではないかと感じる<SANチェック 2/1D3+1>

過去改変(金の鍵を使って「4ケタのナンバー」が書かれた部屋に入る)

 探索者が金の鍵をナンバーの扉に使用したならば、探索者は実体を持ってタイタニック上に現れることが出来ます。探索者が出現する場所は、タイタニック上のアレシアの部屋になります。探索者がテレンスホテルにいる「アレシア」を同伴せずに金の鍵を用いた場合、タイタニック上に出現した探索者の傍には、生前の「アレシア」がいることになります。生前のアレシアは探索者のことを知りませんので、突然現れた見知らぬ探索者に驚くことでしょう。

 探索者がテレンスホテルにいる「アレシア」を同伴して金の鍵を用いた場合、テレンスホテルにいる「アレシア」は探索者と共に、タイタニック上に出現します。アレシアは両親に会いたいという願望を強く持っているため、探索者が事前に注意をしていない限り、彼女は探索者の制止を振り切って両親の下へと向かってしまいます。

 探索者はここで、テレンスキーを手に入れ、適切に処分して「テレンスホテル」に帰らなければなりませんが、下記注意点があります。

  • 「銀の黄昏教団」は1913年に海底調査を行い船を隈なく探している為、手に入れたテレンスキーを船の何処かに隠しても無意味です。
  • 周辺海域及び航路についても調査している為、テレンスキーを海に投げ捨てる行為はグレーゾーンな行為となります。これを良しとするかどうかはKPに任せます。

 「銀の黄昏教団」が入手不可能になる手段を考える必要があります。探索者が考え付かない場合は<アイデア>を使わせてあげて下さい。

<処分の例>

  • 破壊する。(非常用で備え付けてある斧などを使用すれば可能でしょう。耐久20)
  • 「テレンスホテル」へと持ち帰ってしまう。

 KPは任意のタイミングで「ティンダロスの混血種」となった「遠藤文也」を出現させて下さい。(例えば探索者がすぐに解決法を思いついて、簡単にクリアされてしまいそうな場合には、金の鍵を鍵穴に差し込もうとした瞬間に、その鍵穴から黒い霧が吹き出す、といった具合です。また、「ティンダロスの混血種」は出現した瞬間に、その場にいる周囲の人間(貿易商人やその手下など)を瞬く間に皆殺しにしますので、シナリオを進行する上で貿易商人やその手下が邪魔になったりした場合には、探索者を助けてあげることもできます。PLの体力に不安がある場合は、出現させなくても良いです)

 KPは任意のタイミングで、下記イベントを起こして下さい。(探索者が「ティンダロスの混血種」や貿易商人に襲われてどうしようもなくなっている場合に起こすと効果的でしょう)

 突然、船に衝撃が走り、大きく傾いた。船が、地震のように揺さぶられる。(この時、もし「ティンダロスの混血種」と戦闘中なら、「ティンダロスの混血種」は黒い霧へと姿を変えて消えていきます。貿易商人と戦闘中なら、貿易商人は足を滑らせて海へと落ちていきます)

 べきばきと何かがへし折れる音があらゆる場所から聞こえ、ゆっくりと船が海に沈んでゆく。探索者は身を屈めて堪えるが、やがて立っていられない程に傾斜が増すと、周囲にいた人々や固定されていない船具等が、次々と船の中央部に向かって滑り落ちていった。

 ※タイタニックが氷山のような怪物に襲撃された時刻は23:40ですが、このイベントはいつ起こしても構いません。氷山のような怪物は、実は「ティンダロスの王」という神話生物です。探索者が「テレンスホテル」からタイタニックに来ている事を、「ティンダロスの王」は察知しており、それによって襲撃のタイミングが変化しています。

<ティンダロスの王>

STR 54 CON50 POW48 DEX25 SIZ60 INT22 HP55 MP48

ダメージボーナス:4D6

装甲8 1ラウンド毎に8ポイントの再生 あらゆる魔術を使える

技能:かぎ爪95ダメージ5D6  噛みつき90丸のみ 舌95 1ラウンドに1D10POW+1D10STRを吸収

<SANチェック 1D6/1D20+1D3>

※このシナリオにおいては、海上から体の一部を出しているに過ぎませんので、SAN減少の値に補正をかけてあります。

「アレシア」を連れて来ていた場合

 探索者が、揺れる船内に身を打たれながら「アレシア」を探すと、船の開口部で彼女の姿を見つけた。

 「アレシア」は、船の手すりに掴まって何とか堪えていたが、その時、再度船が強烈な衝撃と共に大きく傾いた。彼女の手は手すりを離れ、氷の海へと落ちて行く。

 「アレシア」の両親がそばに居た場合、母親は「アレシア」を助けようと海に飛び込もうとしますが、父親はそれを必死に止めます。

 その後の展開については、後述の「探索者が「アレシア」の為に飛び込まなかった場合」、「探索者が「アレシア」の為に飛び込んだ場合」の項目をご参照下さい。

「アレシア」を連れて来ていない場合

 探索者は、揺れる船内に身を打たれながら、船の開口部付近まで転がり落ちてしまった。その時、再度船が強烈な衝撃と共に大きく傾いた。探索者は、氷の海へと落ちて行く。

 以降、「探索者が「アレシア」の為に飛び込んだ場合」の項目から「アレシア」に関する部分を省いて描写して下さい。

探索者が「アレシア」の為に飛び込まなかった場合

 「アレシア」はしばらくもがき苦しんでいたが、すぐに動かなくなった。巨大な渦のように変化した海面は、彼女をのみこんでしまう。

 「アレシア」が死亡しても、クリアは可能です。今後のイベントで彼女に関する部分を省いて描写して下さい。

探索者が「アレシア」の為に飛び込んだ場合

 探索者が飛び込むと、想像を絶する冷たさに体がすくんだ。

 「アレシア」の元まで行くには水泳ロールかCONの5倍の値のロールに成功する必要があります。失敗する度、成功確率をKPの裁量で増やして振り直しさせてあげて下さい。ただし、失敗する度に1D3の体力を失います。

 ロール成功:探索者の手が、「アレシア」を捉えた。しかし、周囲の荒波は、気がつくと渦のようにその様相を変えていた。探索者と「アレシア」は、渦の中心、海中に沈み込むタイタニックの中心部へと引き摺りこまれていく。喧しい破裂音や悲鳴と共に、元々タイタニックの一部だった様々な破片が周囲を流れていく。

 <目星>成功:失敗した場合はKPの裁量で成功確率を増やして振り直せるが、振りなおす度に1D3の体力を失います。

 探索者は、周囲を流れる船の破片の中から1つのドアを見つけた。枠と扉だけ残ったその破片の鍵穴に、金の鍵を差し込み扉を押し開ける。扉の向こうには白い光が見えた。周囲の海水が、探索者と「アレシア」と共に扉の中へとなだれ込む。

最後の戦い

 探索者と「アレシア」は、いつの間にかホテルに辿り着いていた。ホテルの中が霧のようなもやに満たされていることに気づく。見ると、そのもやはあらゆる壁や床から湧き出している様だった。探索者と「アレシア」の体からも、もやが湧き出している。

 <アイデア>成功:このホテルや自分達が、やがて煙となって消えてしまうことを察する。

シナリオクリアへの道筋

 ここから探索者は、20××年の自分のプライベートホールに行き、「マスターゲート」に入る必要があります。

 テレンスキーが教団の手に渡る過去を改変しているので、このままホテルと共に消えてしまってもエンディングには辿り着けますが、探索者は「テレンスホテル」で経験した、あらゆる記憶を失ってしまいます。KPは探索者に<アイデア>の3倍の値で振らせ、そのことに気付かせるようにして下さい。それでもPLがこのまま消えることを望むなら、<エンディング>の項目から「アレシア」に関する部分を省いて描写を行って下さい。

 探索者は、何事も無かったかのように、日常へと帰ることができます。SAN値はシナリオプレイ前の状態に戻します。

 PLが記憶を持ったまま帰ることを望み、先ほどの<アイデア>に成功したならば、20××年の自分のプライベートホールに行き、「マスターゲート」に入ることで、滅亡の脅威が無くなった20××年に帰れることに気付きます。

今後の「アレシア」の扱いについて

 探索者に<アイデア>の3倍の値で振らせるか、あるいはロール無しで教えてしまっても良いかもしれません。今後の「アレシア」の扱いについて、探索者がとれる選択肢は以下の3つです。探索者は、それぞれの選択肢を選んだ場合、どのようなことになるのか気付くことができます。どこまで明かすのかはKPにお任せいたします。

  1. 「アレシア」をこのまま放置し、ホテルと共に消滅させる。
  2. 1912年の「マスターゲート」に金の鍵を使用し、「アレシア」を現実世界に帰す。
  3. 20××年の「マスターゲート」に金の鍵を使用し、「アレシア」と共に現実世界に帰る。

 ①「アレシア」をこのまま放置し、ホテルと共に消滅させる。

 探索者が「アレシア」をこのまま放置し、ホテルと共に消滅させることを選んだ場合、彼女は1912年のタイタニックの船上に生還しますが、「テレンスホテル」で経験したあらゆる記憶を失ってしまいます。しかし、シナリオクリアすることは可能です。探索者は、20××年の「マスターゲート」に金の鍵を使用することで、記憶を持った状態で20××年の現実世界へと生還できます。ただし、トゥルーエンドには到達できなくなります。探索者が20××年の「マスターゲート」に到達するまでの描写は、下記に記述がありますので、KPはそれらの記述から「アレシア」に関する部分を省いて描写を行って下さい。

 ②1912年の「マスターゲート」に金の鍵を使用し、「アレシア」を現実世界に帰す。

 探索者が1912年の「マスターゲート」に金の鍵を使用すると、金の鍵は消滅し「マスターゲート」が開かれます。そこに「アレシア」を帰すのならば、彼女は1912年の現実世界(タイタニックの船上)へと記憶を失わずに生還することができます。ただし、金の鍵は消滅してしまいますので、探索者は20××年の「マスターゲート」に金の鍵を使用できなくなってしまいます。その為探索者は、このままホテルと共に消えるか、「アレシア」と共に「マスターゲート」に入るかという2択を迫られます。ホテルと共に消えたのならば、記憶を失った状態で20××年の現実世界へと戻ることになります。KPは<エンディング>の項目から「アレシア」に関する部分を省いて描写を行って下さい。この場合はトゥルーエンドには到達できません。「アレシア」と共に「マスターゲート」に入るのならば、探索者は「アレシア」と共にタイタニックの船上で目覚めます。しかし、探索者の体は現実世界に戻った後も以前として消え続けており、やがて消滅します。消滅する直前、「アレシア」は探索者に心からのお礼を述べることでしょう。消滅した探索者はその後、記憶を持った状態で20××年の現実世界で目を覚まします。KPは<エンディング>の項目を参考にして描写を行って下さい。トゥルーエンドにも到達可能です。

 ③20××年の「マスターゲート」に金の鍵を使用し、「アレシア」と共に現実世界に帰る。

 探索者が20××年の「マスターゲート」に金の鍵を使用すると、金の鍵は消滅し「マスターゲート」が開かれます。そこに「アレシア」と共に入るのならば、探索者と「アレシア」は20××年の現実世界へと記憶を失わずに生還することができます。探索者が20××年の「マスターゲート」に到達するまでの描写は、下記に記述がありますのでご参考にして下さい。トゥルーエンドにも到達可能です。

 エレベーターは20××年の階層に到着し、扉が開いた。その時、エレベーターの隅から突然黒いもやが吹き出して、辺りを悪臭で包み込んだ。そのもやはみるみると形を成していき、狼を思わせる怪物がその場に現れた。怪物は「遠藤文也」の声で支離滅裂な言葉を吐きながら、探索者にむけて鋭い舌を突き出すと、探索者の金の鍵を掠め取り、そのまま飲み込んでしまった。

<遠藤文也(ティンダロスの混血種)>

STR 40 CON35 POW30 DEX11 SIZ14 INT14 EDU17 HP25 MP30

ダメージボーナス:1D6 装甲2

技能:かぎ爪45ダメージ1D3 +2D6 噛みつき38ダメージ3D6 舌70 1ラウンドに1D2POWを吸収

技能:回避75 跳躍70 隠れる75 聞き耳70 忍び歩き80 目星75

 逃げる際はDEX対抗ロールを行って下さい。

 KPは、探索者が逃げ切ってしまいそうな場合、あるいは探索者がピンチな場合に、任意のタイミングで下記イベントを起こして下さい。

 探索者は怪物の忌まわしい吠え声を聞いた。

 その瞬間、急に体の自由が効かなくなり、探索者と「アレシア」は、バランスを崩して床に叩きつけられた。

 探索者はこの感覚に覚えがあった。「遠藤文也」に使われた魔術と同じで、いくら動こうとしても、体が人形のように動かない。

 ゆっくりと怪物が近寄ってくる。不快な悪臭が鼻につく。

 怪物は、探索者まで数メートル程の所で立ち止まり、ぴちゃぴちゃと喉を鳴らすと、口の先から細長い赤い舌を覗かせた。

 その舌の先端には、まるで注射針のように穴が開いている。

 怪物は探索者を見据えると、勢いよくその舌を突き出した。

 探索者が目を細めたその瞬間、1人の人影が、叫び声をあげて探索者の目の前に飛び出してくる。見ると、それは「大月恵吾」であった。

 探索者に向けて突き出された舌は、「大月恵吾」の腹部から背中へと突き抜ける。

 「大月恵吾」は身を捩って突き抜けた舌を掴むと、自身の手に巻きつけ、叫んだ。

 「今だ!奴は詠唱できない!殺せ!」

 「大月恵吾」が片腕を上げると、捲れた上着の下にナイフのホルスターが見えた。探索者が咄嗟にそれを引き抜くと、幅広のナイフの刀身が露わになる。探索者は、いつの間にか動けるようになっていることに気づいた。

 舌を掴まれている為、「ティンダロスの混血種」は魔術を詠唱できず、回避を使用できません。かぎ爪で攻撃することは可能です。

 <ナイフ>か<幸運>成功:探索者が怪物の隙をついてその懐に飛び込み、ナイフを振り上げると、ナイフは青い燐光を放ち始める。同時に、急激に重さが増して、持っていられない程になった。探索者は、重さに任せてそれを振り下ろす。

 怪物が、その舌で、強引に「大月恵吾」の体を捻じ切り、彼の体が煙となって消えるのと、探索者が、両手で構えたその燐光のナイフを、怪物の脳天に刺し込んだのは、ほぼ同時だった。

 唸り声をあげて怪物が身を捩り、探索者を突き飛ばす。しかし、頭部に刺さったナイフは、目のくらむような光を放ち始め、その光を怪物の体内へと流し込んでいく。

 怪物が、のたうち回りながらも、探索者に向けてかぎ爪を振り下ろそうとしたその時、探索者には、「遠藤文也」の声が聞こえた気がした。振り下ろされたかぎ爪は、探索者の目の前でビタリと止まる。

 怪物の体に亀裂が入った。そこから光が漏れ出す。その光は、徐々に亀裂を押し広げ、やがて怪物の全身に行き渡らせると、怪物は、おぞましい断末魔をあげて弾け飛んだ。

 四散した四肢の破片が、煙となって溶けていく。

 怪物の居た場所には金の鍵が落ちている。

エンディング

 条件:テレンスキーが「銀の黄昏教団」の手に渡った原因を消し、20××年の階層の「マスターゲート」に入る。

 探索者は目覚めた。

 周囲を見ると、どうやらそこは「大月恵吾」からテレンスキーを渡された控え室Bのようだった。

 探索者の傍で、「アレシア」もまた目を覚ました。長い眠りから覚めたように、彼女は目をこすっている。

 しかし、彼女の体は依然消えかけていた。目をこすっていた指の先が、煙となって消えてしまうと、彼女もそれに気付いたようだ。彼女に触れようとしても、彼女の身体は触れる端から空間に溶けていき、決して触れることはできなかった。

「私、もう消えちゃうみたい」

 彼女はか細く呟いた。辛うじて聞こえたその声には、言葉とは裏腹に安堵の感情がこもっている。

「オーツキから聞いた。私は、もう死んでるんだって。ここは天国みたいな場所なんだって。だから、消えるのは怖くないんだ。私はただ、帰るだけ」

 彼女が呟く度、その吐息が彼女の身体を揺らした。

「いつか私を、あの場所から連れ出してくれる人が現れるって、オーツキが言ってた。やっぱり、あなたのことだったんだ」

「あなたのこと、忘れない。ありがとう」

 彼女は立ちあがると、探索者を強く抱きしめた。

 彼女の全身は煙となって探索者を包み込み、そのまま空間へと溶けていってしまった。彼女がそこにいた痕跡は、何も無くなっていた。

 しばらくして、部屋の扉が開くと「遠藤文也」が入ってくる。

「いつまでトイレ行ってるんだと思ったらこんな所にいたのか、みんな待ってるぞ」

「今から2次会だって。お前も来るだろ。話したいことがあるんだ」

 2次会の居酒屋で、探索者は「遠藤文也」の妹が先日手術を受け、成功したことを知る。

 ずっと手術を拒否してきた妹だったが、ある時母親が持ってきた、とある画家の画集に強く影響され、その生命感溢れるタッチの絵と言葉に、勇気を貰ったらしい。

 「遠藤文也」はうれしそうにそれを話した。

 彼は大学を中退して医者を志すらしい。妹のように病に苦しむ人を、助けたいのだそうだ。

トゥルーエンド

 条件:テレンスキーが「銀の黄昏教団」の手に渡った原因を消し、20××年の階層の「マスターゲート」に入る。また、「アレシア」と初めて出会った際に、彼女に探索者本人につながる情報を教えている。

 ※大学名あるいは務めている会社の名前などがあれば、特に問題ありません。もしかしたら、もっと些細な情報(名前と生年月日など)だけでも大丈夫かも知れませんが、それはKP判断に任せます。

 「アレシア」は、タイタニックの自室で目を覚ました。

 しばらくぼうっと窓の外を眺めていると、「アレシア」の母親が部屋に入ってくる。

「飲み物とお菓子を貰ってきたの。美味しいのよ。食べるでしょう?」

「ママ」

 「アレシア」は母親に抱きついた。急に抱きつかれた母親は持ってきたプレートを落してしまい、片付けようと手を伸ばすが、「アレシア」に強く抱きしめられると、彼女を両腕で抱きしめ返した。

「どうしたのよ?」

「分からない。でもね、ずっとこうしたかったの」

「ずっと?」

「ここに居て。何も要らないから」

 母親は呆れた顔で息を漏らすと、目を閉じて「アレシア」の背中をさすり始めた。

 同窓会から数カ月後、探索者の元に、1人の十代後半程に見える外人の女性が訪れる。

「あの、もしかして○○さんですか?」

彼女は期待に満ちた目で問いかけてくる。流暢な日本語である。彼女の容姿は、何処か「アレシア」を思わせた。

「私、「ソフィア・ウォルトン」と言います。あなたのことを、ずっと探していました」

「私のひいおばあちゃんが亡くなる直前、彼女は私にこれを渡して言いました」

 彼女は1枚の紙と封筒を取り出す。その紙には精巧に描かれた探索者の肖像画が描かれていた。生命感溢れるタッチで描かれたその肖像画は、見ただけで勇気が湧いてくるようだった。

「この人に、どうしてももう一度お礼が言いたいって。ひいおばあちゃんが言ってました。この絵と手紙は、あなたに渡すように言われていたものです。ひいおばあちゃん、画家だったから。そっくりですね」

 以下、手紙の内容。手紙は日本語で書かれています。

 ○○さん。本当にお久しぶりです。あの時、助けて頂いた「アレシア・メリック」です。お元気ですか?私はもう、95歳になってしまいました。時が経つのは早いものです。

 あの後、私はタイタニックで目を覚ましました。でも、沈んでゆくタイタニックの中から、私は生き残りました。随分長い間、私はずっと、あなたに今一度会ってお礼を言いたいと思っておりました。でも、あなたは生まれてもいなかったでしょうから、仕方ありません。もうおばあちゃんになってしまって、会いに行くことも叶いません。だから、せめて手紙で、お礼を言わせて下さい。○○さん。本当にありがとう。あなたのお陰で、私は幸せな人生を歩むことができました。これを読んでいる時、私はもうこの世には居ないでしょう。でも、私はずっと、あなたの幸せを願い続けております。
粗末ながら、私の絵を送らせて頂きます。これでも、意外と評判なんですよ?

 「ソフィア」はわくわくした表情で、探索者に声をかけてくる。

「それで、どういうことなんです?どうしてひいおばあちゃんがあなたにお礼を?私、ずっとそれが気になってあなたを探していたんです」

 探索者は彼女に、その武勇伝を語って聞かせることだろう。

 荒唐無稽なその話に、彼女はどんな顔をするだろうか。

 しかし、それは紛れもない事実である。探索者は、確かに世界を救ったのだから。

 秋晴れの高い空に、鱗雲が流れて行く。そのまばらな雲の様相が、大西洋の海を思わせた。

 

--- 最終章終了 ---

クリア報酬

  • 「テレンスホテル」を消滅させ、現代に帰ることができれば1D10+10の正気度回復。
  • 「アレシア」を助けることができれば10の正気度回復。
  • <トゥルーエンド>に到達することができれば10の正気度回復。

 

真相

 時系列に沿って、各人物達の背景を説明します。

テレンス・ラミッジ

 1852年、イギリスの魔術師「テレンス・ラミッジ」は、膨大な犠牲のもと「ティンダロスの王」と契約を結び、テレンスキーを創り出した。

 彼の死後、極々わずかな資本家の間で使われてきたテレンスキーだったが、1912年、タイタニックに乗り込んだとある貿易商人によって、イギリスの資本家から「銀の黄昏教団」のアメリカ支部へと輸送されることとなった。

アレシア・メリック

 タイタニックには、とある実業家の娘「アレシア・メリック」が乗船していた。

 彼女は船内散策のさなか、偶然貿易商人の客室のドアが開いているのに気づき、好奇心から部屋に入ってしまう。部屋の中で彼女は、テレンスキーを発見する。大変美しいその鍵に心奪われた彼女は、それを盗み出そうとしてしまった。しかし、そこに貿易商人が現れ、彼女は捕らえられる。

 その貿易商人は、違法な物品を売買する危険な人物だった。彼の部屋には、他人に見られると問題のある物品がたくさんあったのだ。焦った彼は、彼女がテレンスキーを持っているとも知らず、彼女にアヘンを注射して大人しくさせた後、金属コンテナに閉じ込めて、海に捨ててしまった。

 テレンスキーのそばで死亡した「アレシア」は、「テレンスホテル」で目を覚ます。しかし彼女は、殺されたショックで記憶を無くしており、自分の名前すら分からない状態だった。何をどうしたものか見当もつかず、彼女は「テレンスホテル」内を徘徊するようになる。

 タイタニックはその後、海に沈没した。

 様々な考察がなされ、現在では霧で視界が遮られ、氷山と接触してしまったということになっている。しかし、実際は違っていた。タイタニックは、「ティンダロスの王」と遭遇していたのである。

 「ティンダロスの王」は、その時空能力によって「銀の黄昏教団」がテレンスキーを悪用することを見通していたのだ。それは契約違反にあたる行動だった。

 腹を立てた「ティンダロスの王」は霧と共にタイタニックの前に姿を現す。キュビズムの絵画のようなその巨躯は、霧の中ではまるで巨大な氷山のようにも見えた。

 「ティンダロスの王」は腕を振り上げ、タイタニックの船底を削り取った。その際、船の中央付近が削られた為に、タイタニックは2つに折れるという奇妙な沈没を迎えることになったのである。

銀の黄昏教団

 タイタニックの沈没を知った「銀の黄昏教団」は、1913年、海底の調査に乗り出し、「アレシア」の遺体とテレンスキーが入った金属コンテナを発見する。彼らは入手したテレンスキーを複製し、毎年仲間を「テレンスホテル」に送り込むことで、好きな年代で過去改変することができるシステムを作り上げた。これによって、彼らの悲願である神格の召喚を達成する為の基盤が整ったのである。

大月恵吾

 20××+4年、日本の原子力発電所がテロリストに占拠される事件が起きた。「大月恵吾」はその事件に巻き込まれ、「銀の黄昏教団」の存在とその野望を知る。その後、教団のアジトに潜入し、テレンスキーを1本盗み出した彼は、本格的に教団と戦うことになったが、教団の力は強大で、止めることはできなかった。2040年、教団は神格の召喚に成功し、世界は滅亡する。

 滅亡した世界から「テレンスホテル」にやってきた彼は、過去の階層を探索する中で、探索者に出会った。幼少期の探索者は、教団の人間によって殺されてしまっていたのだ。金の鍵を使って教団の人間を退けた彼は、探索者を現実世界に返す際、自分も「マスターゲート」を通ることで、20××-15年の世界にやってくる。そして、探索者にテレンスキーを渡すというアイデアを得た彼は、教員免許を取得し、探索者の先生を務めながら、テレンスキーを渡す日を待ち続けた。

 また彼は、「テレンスホテル」を探索中に、エレベーターホールでうずくまっている「アレシア」を見つけ、20××年の探索者のプライベートホールに保護していた。

遠藤文也

 「遠藤文也」には重い病を持つ妹がいた。手術を受けなければ数年の命だと医者に告げられていたが、その手術の成功確率は非常に低いものだった。

 彼は妹の為に情報収集する中で、テレンスキーの情報を入手した。テレンスキーさえ使えれば、例え手術に失敗しても何度でもやり直すことができる。教団に接触した彼は、妹を助けたい一心で入信を決意した。彼は、密かにテレンスキーを手に入れるチャンスを窺っていたのだ。

 20××-1年、彼は教団より命令を受け、「テレンスホテル」に入った。そこで、教団から「大月恵吾」の殺害とテレンスキー奪還の命令を受け取る。

 彼はチャンスだと思った。「大月恵吾」からテレンスキーを回収できれば、教団に渡す前に妹に使うことができるかも知れない。

 彼は恩師である「大月恵吾」を悲しませないよう、姿を隠して「大月恵吾」を襲撃する。しかし、「大月恵吾」は様々な魔術を身につけており、テレンスキーを活用していた為、うまく回収することができなかった。彼は考える。「ナンバーの部屋」に長居することにはリスクがある、しかし、一旦現実世界に戻ってやり直しを希望しても、再び自分にチャンスが与えられるかは分からない。妹を助ける為、彼はそのまま「ナンバーの部屋」で「大月恵吾」殺害計画を続行することにする。「ナンバーの部屋」に長く居すぎた彼は次第に人間ではなくなっていった。

 

-CoCシナリオ, 作者:チョリ, 耶話鳴えオリジナルシナリオ

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