CoCシナリオ 作者:ホリ 耶話鳴えオリジナルシナリオ

オペラ座の怪人

投稿日:2016年2月28日 更新日:

はじめに

シナリオの概要

 神奈川県鎌倉市にある、荘厳な歌劇場「オペラ座」。明日、このオペラ座で、オペラ「アイーダ」が公演されます。王鳴歌劇団の劇団員達はこの公演に向けて、連日、熱心な稽古を積んできていました。

 いざ、公演の前日となった日、オペラ公演に出演する予定の歌手・来栖玲奈は、突然に探索者達の下に訪れます。見目麗しい来栖は、その美貌を曇らせながら、探索者達にある”依頼”をしました。

「明日の公演では何か、不吉な事が起きる…そんな気がしてならないのです」

シナリオの背景

 歌劇場「オペラ座」は、王鳴歌劇団に買い取られる以前は、日本における”銀の黄昏教団”の拠点の一つでした。銀の黄昏教団はこのオペラ座において、夜な夜な醜悪な宴を開き、自らの崇拝する邪神への賛美を行っていました。歌劇を主としたこの儀式は日ごとにその純度を増していましたが、ある時、ふとした切欠でその儀式が破綻します。儀式の綻びを押し広げるようにして現れた異形の怪物達は、悪意を持って、瞬く間にその場にいた教団員達を異界へと連れ去って行ってしまいました。

 こうして、誰もいなくなってしまったオペラ座は、長い間、人の手が入らないままに捨て置かれていました。しかし、年月を経てこの歌劇場は、悪魔的儀式とは無縁の団体・王鳴歌劇団に買い取られる事になりました。それ以来、王鳴歌劇団はこの歌劇場を利用して、自分達の芸術的な情熱をオペラという形をもって表現し、好評を博していました。

 オペラ座に訪れた平穏な日々。しかし、このオペラ座の地下深くには、銀の黄昏教団と結びついていた、一匹のクリーチャーが取り残されていたのです。長い年月を孤独に過ごしたこのクリーチャーは、いつの頃からか地上より響いて来たオペラの歌声を、愛してしまいました。

 

シナリオを始めるにあたって

探索者について

  • プレイヤーが職種・技能など自由に作成してください。
  • 探索者の内の一人は、オペラ歌手である来栖玲奈と友人関係にあるか、もしくは探偵のような”私的な依頼”を受ける職業である必要があります。

登場人物(NPC)について

※詳細は別途資料「 登場人物一覧(キーパー用) 」をご参照ください。
 
<登場人物の簡易的な説明>

来栖 玲奈(くるす れいな)

”探索者を訪ねた依頼人”

年齢:21歳 職業:オペラ歌手

不吉な事件の相次ぐ事に不安を覚え、探索者を頼った美しい女性。公演では代役として大役を張る。

大石 吉郎(おおいし よしろう)

”熟練の大道具係”

年齢:45歳 職業:大道具係

王鳴歌劇団のベテラン大道具係。来栖玲奈の良き相談相手として、彼女をサポートしている。

玉置 吾郎(たまき ごろう)

”来栖に恋をする男性歌手”

年齢:29歳 職業:オペラ歌手

男性オペラ歌手として、公演では来栖玲奈の相手役を勤める。来栖玲奈に強い好意を抱いている。

安藤 利宏(あんどう としひろ)

”王鳴歌劇団の支配人兼団長”

年齢:54歳 職業:歌劇団団長

王鳴歌劇団のニ代目団長。前団長である来栖玲奈の父親からその座を引き継いだ。

立野 流花(たての るか)

”怪我で降板したオペラ歌手”

年齢:28歳 職業:オペラ歌手

練習中の事故によって怪我をし、自身の演じる役を来栖玲奈に譲った女性オペラ歌手。

ヘビ人間

”オペラ座の怪人”

古代の地球で繁栄していたヘビ人間は、現代においてはその種のほとんどが退化し、虚弱な種族と成り果てていた。その中で、突然変異のように”先祖返り”を果たした一個のヘビ人間は、魔術師として、カルト集団である”銀の黄昏教団”と協力関係にあった。オペラ座を拠点としていた銀の黄昏教団の一派は、悪魔的儀式の失敗によってこの世から姿を消したが、その地下には、このヘビ人間が取り残されていた。世俗に興味のない彼は、オペラ座の地下で長い間、孤独な魔術的研究に明け暮れていた。しかし、いつの日からか地上から聞こえて来たオペラの歌声に、彼の心は奪われる事になる。

別途資料一覧

 シナリオを進行させるための別途資料を下記に一覧化します。シナリオを進行させる際に適宜使用してください。

<キーパー用資料>

<探索者用資料>

  • なし

 

シナリオ 導入パート

導入:来栖玲奈からの依頼

 このシナリオに季節の指定はありません。とある日の昼下がり、探索者の下に、オペラ歌手である来栖玲奈が、友人もしくは依頼人として現れます。来栖は見目麗しい女性ですが、その表情には少し疲れが見えます。来栖は、下記のような内容を探索者に依頼します。

<来栖玲奈の依頼>

 来栖は、神奈川県鎌倉市にある歌劇場「オペラ座」を拠点として公演を行っている団体「王鳴歌劇団」に所属するオペラ歌手です。王鳴歌劇団は、明日にオペラ公演を控えており、来栖はそれに大役で出演する事になっています。来栖や他の劇団員は、明日の公演に向けて最善の準備を重ねてきました。しかし、来栖にはとても気がかりな事がありました。ここ最近、オペラ座に不吉な事件が相次いでいるのです。

10日前

 王鳴歌劇団に脅迫状が届きました。王鳴歌劇団の花形オペラ歌手である立野流花を役から降ろし、来栖玲奈をその役に据えろという物です。この時、歌劇団の団長である安藤利宏は、この脅迫文を無視しました。

7日前

 オペラ公演のリハーサル中に、天井から吊り下げられた照明が落下し、練習中の立野を直撃しました。立野は奇跡的に軽傷で済みましたが、足を怪我してしまい、公演への出演が不可能になってしまいました。立野は怪我の治療の為に入院し、彼女の代役として来栖が抜擢される事になりました。

5日前

 大道具係の大石吉郎が、舞台のセリで気絶している所を発見されました。大石は病院に運ばれましたが、すぐに気を取り戻しました。彼は、自分が倒れた原因が分からず、倒れる前後の記憶もないとの事でした。

 来栖は、明日の公演でも何か、よからぬ事が起きてしまうのではと危惧しています。来栖は探索者達に、実際によからぬ事が起きてしまった時の為に、当日の公演を観に来て欲しいと探索者達にお願いをします。

「皆は、悪戯や、不幸な事故が偶然続いただけだと言うのですが…。嫌な予感がするんです。明日の公演では、何かとても不吉な事が起きる…そんな気がしてならないのです」

「どうか私の傍で、公演が終わるまで見守っていただけないでしょうか。」

<明日の公演>

 王鳴歌劇団によるオペラ「アイーダ」が、明日の18時より、オペラ座にて公演されます。来栖はこの公演において、主役の「アイーダ」として出演する事になっています。

 来栖は、この依頼の後、オペラ座で行われるリハーサルに参加する為、現場へと向かいます。可能であれば、探索者達に同行を求める事でしょう。

「私はこれから、明日に向けて、オペラ座まで舞台の稽古に参ります。オペラ座の中を案内いたしますので、急になってしまうのですが、出来れば現地まで同行していただけませんか」

 探索者達はこの依頼を受ける事でシナリオに導入されます。全ての探索者達が、この依頼に関係する形で、鎌倉市にあるオペラ座に向かうよう、演出を行ってください。

導入(基本合流地点):オペラ座・エントランス

 キーパーは、オペラ座に向かう探索者に対して、オペラ座周辺の地図(右図)を提供してください。オペラ座は、鎌倉駅から徒歩20分程の場所に立地しています。オペラ座の近くには、病院や図書館といった施設があります。

 キーパーは下記文章を参考にして、導入を行ってください。この章にて、探索者達が合流することが好ましいです。

 鎌倉市の、如何にも日本らしい閑静な住宅街の中、そこだけ区切られたように異国の建造物が1つ聳えていた。まるで宮廷のような外観のそれは、その威風を誇るように豪華な装飾が彼方此方に施されていた。建設されてから、大分年月が経っているのだろう。外観に、深い歴史を帯びた建物だ。

<オペラ座>

 鎌倉市にある大きな歌劇場です。そのネオ・バロック様式の外観は、歴史を帯びた味わいを醸し出しています。このオペラ座は、高さにして6階建ての建造物に相当します。(フランス・パリにある歌劇場、ガルニエ宮のような外観を想定しています)

 来栖は、オペラ座に到着すると、探索者達をエントランスに案内します。

 大きなアーチ状の入り口を潜り抜けると、荘厳な外観に似つかわしい、華麗な内装のエントランスに至る。温色光のシャンデリアを反射して光る、大理石が敷き詰められた床。[探索者]の目の前には幅の広い階段が、上方へと伸びている。奥に見える分厚い扉に遮られて尚、壁の向こうから力強く美しい音楽が響く。そこを訪れた者の”格”を問うような雰囲気に、[探索者]は思わず息を呑む。

 探索者達がエントランスに至ると、階段の脇の辺りから、大石が姿を現します。

「やあ、玲奈ちゃん。遅かったね」

 オペラ座に入ると、遠くから恰幅のいい男に声をかけられた。

「こんにちは、大石さん。ええ、例の方々をお連れしました」

 来栖は、その声に気さくに応える。大石と呼ばれた男はそれに大きく頷きながら近付いてくる。

「初めまして、私は大石と申します。来栖から話は伺っております。突然の事で大変申し訳ないのですが…。どうか、彼女の力になってやってください」

 大石は[探索者]に頭を下げた。

 来栖は、探索者達の下を訪れる前に、探索者達を呼ぶ事について大石に相談していました。

「大石さん。早速ですけど、[探索者]さんにオペラ座を案内していただけますか? 私、これからすぐにお稽古があるから…」

 来栖は申し訳なさそうに、大石と[探索者]の顔を見回す。

「はいよ、はいよ。お安い御用で」

 大石は笑顔でそれを承知した。

 上記以後、来栖はステージにて公演に向けた調整を行う為に一時的に姿を消し、大石は、来栖の代理として探索者達にオペラ座の中を案内します。キーパーは、大石を利用して、探索者達にオペラ座内部を紹介したり、探索を誘導する等してください。以上で導入部が完了となります。

<大石吉郎について>

 大石は、5日前にオペラ座内部(ステージ下階のセリ)で倒れている所を発見され、病院に搬送されましたが、間もなく目を覚ましました。検査の結果、特に異常も見当たらず、大石本人の強い希望もあった為、早くも現場に復帰しています。大石は来栖の良き相談役であり、突然の大役への抜擢に戸惑う来栖の、精神的な支えでもありました。大石は、明日の公演に不安を覚える来栖を、少しでも励ましてやりたいと考えています。

 王鳴歌劇団の全ての団員達は、「来栖を出演させろ」と言う脅迫文や、立野の降板に、少なからず不安を覚えています。しかし、実際の公演で何かが起きる事はないだろうという楽観と、どうしても公演を成功させたいという使命感から、その事から目を逸らしています。歌劇団の者は、連日の不吉な事件を、大事(警察沙汰)にしようとは夢にも思っていません。大石もその一人です。

 

シナリオ 探索パート

※大石の付き添いの下、探索者達はオペラ座内部を探索する事が出来ます。また、オペラ座の外に出て、図書館などの外部の施設を探索をする事も可能です。

※オペラ座での公演は、探索2日目の夕方に開かれます。探索は1日目の夜を挟んで、探索2日目の日中も可能です。探索1日目に、全ての情報を強引に開示する必要はありません。キーパーは情報を開示するペースについて留意してください。

※2日目の探索についても、大石が同行して行う事にすれば、各探索場所の描写がスムーズに行える事でしょう。

客席・ステージ

 通常、エントランスに入って目の前にある大階段の脇にある、大きな扉を潜れば1階の客席に行く事が出来ます。

 大階段を登れば、2階の客席に辿りつきます。大階段は2階で折れ曲がり、客席に沿うようにして更に上方へと続いています。その階段を登っていけば、3~6階の、オペラ座のボックス席に行く事が出来ます。

 客席からはステージが見られます。ステージ上では、明日の公演に向けて、演者達の入念なリハーサルが行われています。大石の付き添いがあれば中に入る事が出来ますが、公演間近で緊張感が漂う稽古が行われている為、大石はなるべくなら中に入らない方が良いと言うでしょう。それでも中に入るならば、下記のような練習風景を見る事が出来ます。

 扉を開けた瞬間に、力強い歌声が全身を包み込んだ。馬の蹄の形をした空間に並ぶ客席の向こう側、奥まで深く広がる大きなステージが目に入る。ステージの上では10人程の男女が、古代エジプトを思わせる異国情緒漂う装いで、歌劇を繰り広げていた。ステージと客席の間には、一段低く造られた空間があり、そこに並んだ演奏家達が、それぞれの楽器で美しい音色を奏でる。音は、混ざり合って荘厳な音楽となり、[探索者]を圧倒した。

 ステージと客席の間の、低くなった場所はオーケストラピットと呼ばれる空間です。公演中、オーケストラが演奏するための場所です。

<王鳴歌劇団の「アイーダ」>

 アイーダは古代エジプトとエチオピア、2つの国に引裂かれた男女の悲恋を描き、現代においても世界で最も人気の高いオペラの一つです。本来は非常に大規模なオペラであり、演者の数も多く、大掛かりな舞台演出も必要な物です。

 王鳴歌劇団では、この作品をアレンジして公演します。原作はイタリア語の作品ですが、これを日本語に訳して歌唱します。演者の数や、使用する楽器の数も、王鳴歌劇団の規模に合わせて縮小しています。

 歌劇団の団員達が練習中に、もし中で探索者達が騒ぐようであれば、団員によって直ちに外に出されてしまう事でしょう。

 探索者達が来栖と別れて、しばらくが経った後にここを訪れたなら、団員達と共に練習に励む来栖を見る事が出来るでしょう。その際は、下記のようなシーンを見る事が出来ます。

 フードを深く被った男が、一人でステージの手前に立つ。俯いた男は、腹に手を当て、この場にあるどんな楽器が奏でる音よりも更に大きな声で、悲しい歌を歌い始める。

「死を告げる石の扉は閉じられた。この場所が私の墓となる。私の目は、もう光を拝む事はない。二度と、アイーダと話す事も叶わない。ああ、アイーダ…今、貴女は何所にいる? 願わくば、私の恐ろしい結末を知ることなく、彼女に幸多き人生を…」

 舞台袖から、女が男に駆け寄る。異国の衣装に身を包んだその女は、来栖だった。来栖は、男と同様に美しい声で歌を歌う。

「ラダメス様! 私はずっとお傍におります」

 男は、来栖の声に少し顔を上げる。

「何と、これは幻か? アイーダ、貴女がこの墓の中に」

 来栖は、男の背後で足を止め、男に歌いかける。

「ラダメス様、私は貴方の死刑を思い、貴方を飲み込むこの地下に、密かに隠れていたのです。私は、誰の目を気にする事もないこの場所で。そして貴方の腕の中で。愛する貴方と、共に死にたいと願ったのです」

 男は、思い悩む素振りを見せながらも、来栖に振り向く。

「死ぬなどと…清らかで美しい貴女が、この私の為に死ぬと言うのか。神が愛の為に遣わした貴女が、このような場所で死ぬだなんて。そんなこと…。私はあまりにも貴女を愛してしまった。貴女は、何よりも美しく、何よりも愛しい」

<ラダメスとアイーダの悲恋>

 物語の詳細は、別途オペラ「アイーダ」資料をご参照ください。上記のシーンは、アイーダの第4幕、最後のシーンになります。ラダメスとアイーダは、このように地下牢で再会した後、抱き合いながら静かに死を待つ事になります。

オフィス・支配人室

 オペラ座の内部に作られたオフィスと、そこを区切って作られた支配人室です。舞台を公演する為には、様々な書類の提出が必要です。また、歌劇団を維持する為にも、様々な事務作業が必要になります。この部屋では、普段、それらの作業を専属の事務員達が行っています。

 探索者がここを訪れた時、オフィス内部では、事務員達が明日の公演に向けて、パンフレットなどの準備を行っています。

 事務用の飾り気のない机が並ぶ室内。その机の上に、恐らくは公演用のパンフレットが積まれている。事務員達は思い思いの場所で作業をしており、大石と[探索者]達が入室するのを見ても、軽く会釈をするだけだった。

 大石は、オフィスの中にある支配人室へ探索者達を案内します。

 オフィスの中に区切られて、”支配人室”と書かれた一室がある。大石は、その部屋に[探索者]を案内する。

「一応、挨拶だけしておこうかね」

 大石は扉を手の甲で軽くノックしながら、[探索者]に言った。

「どうぞ」

 室内から男性の声がした。大石はドアを押し開ける。

「安藤さん、見学の方がいらっしゃいました」

 支配人室の中、背もたれのゆったりとした椅子に腰掛けた白髪混じりの男性が、大きな机越しに[探索者]の事を見た。白髪混じりの男性は椅子から腰を上げ、[探索者]に笑顔を見せる。

「ああ、ようこそいらっしゃいました。私、王鳴歌劇団団長の、安藤と申します。どうぞよろしくお願いいたします」

 安藤は[探索者]に頭を下げた。

 安藤は、探索者達がここを訪れる事を、既に来栖から聞いていたと言います。

「ここ最近、このオペラ座では不吉な事が相次いでね。突然に大役を引き受ける事になった来栖君は、色々と気に病んでしまっているんだ。こんな物を送り付けられたのだから、仕方のない事なのだが…」

 安藤は、自身の机の上に置いてあった、紙切れを手に取った。

<安藤に届いた脅迫状>

 10日前、支配人室の机の上に、下記のような紙切れが置かれていました。下記の文章は、利き腕ではない手で書いたような、乱れた文字で構成されています。

 立野流花ではいけない 来栖玲奈を舞台に立たせる事だ

 さもなくば 貴方に我が惨劇をご覧に入れて見せましょう

 この紙切れを受け取った安藤は、当初この要求を無視しました。しかし、紙切れを受け取った数日後に、立野流花が練習中に事故に見舞われてしまい、背に腹は代えられずに来栖玲奈を代役に抜擢しました。

「貴方が傍にいてくれる事で、来栖君の気が少しでも紛れるのならば、それに越した事はない。どうか、彼女を助けてやってください」

 安藤は、上記のように探索者達にお願いをします。その顔には、疲れが見える事でしょう。

 安藤は、この支配人室を拠点としています。探索者は、またここを訪れる事で、再び安藤と交流を計る事が出来るでしょう。

楽屋

 楽屋とは演者の為の控え室の事です。オペラ座の楽屋は、大部屋が二つで構成されています。演者達は、男女で分かれてそれぞれの楽屋を使用しています。大石の案内があれば、男性探索者も女性探索者であっても、男性用の楽屋に入る事が出来るでしょう。逆に、大石が案内出来ない為、女性用の楽屋は女性探索者であっても入室が拒まれる事でしょう。

 もし、探索者が強く女性用の楽屋の探索を希望した場合は、休憩に訪れた女性の演者NPCを登場させ、中に入れてあげると良いでしょう。室内は、以下に記載される男性用の楽屋と同様の作りとなっています。特に、探索として何か特徴的な物はありません。

 男性用の楽屋は、下記のような構造になっています。本番当日になれば、男性の演者はここで化粧を行い、衣装を纏い、ステージに向かう事になります。

 室内には、壁沿いに伸びる長机。そこに、椅子と鏡が等間隔に並んでいた。一つ一つの鏡の周りには電球が取り囲むように据え付けられており、それがこの部屋の楽屋としての機能を想起させる。部屋の隅には巨大な姿見や、テレビモニターが置かれている。中央の円卓には、恐らく演者達の物であろう荷物が積まれていた。

 室内は無人です。しかし、探索者達が室内に入ると、背後から声が掛けられます。

「あれ、どちら様で?」

 背後から声が掛けられる。[探索者]が驚いて振り向くと、見知らぬ、端正な顔立ちの若い男が立っていた。男は、古代のエジプトを思わせるような豪華な衣装を身に着けており、一目で彼が役者であると分かる。

「やあ、玉置君。こちらは、玲奈ちゃんがお呼びした方々だよ。今、オペラ座を案内して回っているんだ」

 大石が受け応える。その応えに、玉置と呼ばれた男は、大げさに驚いたような表情を見せた。

「ああ、君達が、麗しい姫君のナイト達かい。頼りにしてるよ、彼女、心配症だから」

 玉置は、真剣味の薄い、何所か冗談めいた言葉と共に、[探索者]に会釈をした。

 玉置は、舞台の稽古から、休憩の為に楽屋に戻って来た所です。楽屋の中に入ると、椅子にぐったりと座って、疲れを癒そうとします。

「そう言えば、昨日、僕の下にも脅迫文が届いたんですよ」

 ふと、何でもない世間話を始めるかのように、玉置が大石に声を掛ける。

「本当か? そんな事、聞いていないぞ」

 大石は、玉置の言葉に驚いて、彼に詰め寄って行った。

「聞いていない筈ですよ、まだ誰にも言ってないのですから。お姫様をこれ以上、心配させたくないのでね」

 玉置は「やれやれ」といった表情で、鞄の一つに手を伸ばし、その中から紙切れを取り出した。

<玉置に届いた脅迫状>

 昨夜、玉置が稽古から楽屋に戻り、鞄の中を見ると、下記の文章が書かれた紙切れが入っていました。下記の文章は、利き腕ではない手で書いたような、乱れた文字で構成されています。また、玉置の鞄の中身から、プレゼント用の小箱に入った指輪が失われていました。

 自分の命が惜しいのならば 来栖玲奈に手を出すな

 玉置の鞄から失われた指輪は、玉置が来栖の為に購入しておいた物です。玉置は密かに、来栖に想いを寄せていました。今は片思いですが、明日の公演が終われば、来栖にこの指輪を贈るつもりでいました。しかし、その指輪が奪われて、その代わりにこの紙切れが置かれていたのです。玉置は、この事実を探索者や大石に対して開示します。

「彼女の魅力には困ったものですよ。誰だか知らないが、とんだ恋敵がいたものです」

 玉置は苦笑する。

「警察には言ったのか?」

 大石が玉置に尋ねる。

「言っていません。今は言わないですよ。公演の前に、これ以上、お姫様の心労を増やしたくないですからね。だから、この事は、お姫様にも秘密でお願いしますよ」

 玉置は両手を肩ほどにまで挙げて、困ったように肩を竦めた。

 玉置は、しばらくの間、ここで休憩を取ります。その間、探索者は玉置と会話をする事が出来るでしょう。しばらくの時間が経つと、玉置は再びステージへと戻っていきます。

ステージ下(セリ・音響室・調光室)

 ステージの地下には、音響室や調光室があります。本番当日、これらの部屋では、専門のスタッフが大掛かりな装置を使用し、舞台の演出を行うことになります。

 また、ステージにはセリと呼ばれる設備が付いています。セリとは、舞台の一部をくりぬいて、昇降装置を設置した物です。役者や大道具を地下から舞台上に押し上げたり、逆に地下に引き下ろしたりすることによって、意表をついた演出や迅速な舞台転換を可能とします。ステージ上で劇団員達が練習中であれば、セリは昇り切った状態で固定されている事でしょう。

 探索者達が地上階と、ステージ下との行き来をする際、”鏡”のある階段を通る場合は、下記のような描写を行ってください。

 階段の途中にある踊り場。その壁に、額縁に入れられたかのような意匠の、大きな鏡が貼り付けられている。[探索者]の全身が映ってもなお、余りある姿見だ。

 この鏡は、実は横にずらす事が出来ます。鏡を動かすと、そこには隠し通路が出没します。しかし、この時点で探索者がそれを発見する事は出来ません。例え、鏡を動かそうとしても、鏡は微動だにしません。

 音響室や調光室は、下記のようになっています。

 個室には、小さなスイッチが大量に並ぶ、机の形をした大きな装置が置かれていた。それに面するように、壁には大きなモニターが取り付けられている。

 本番当日には、上記のモニターでステージを映し出し、それを見ながら専門のスタッフが舞台の演出を行う事になります。

道具部屋

 公演で使用する、様々な道具を置いておく為の部屋です。「アイーダ」で使用する物の他に、今までの公演で使用してきた道具も多く置いてあります。

 傷だらけの板張りの床に、高い天井。部屋の中には大きなパネルや、煌びやかな衣装など、舞台で使われる道具が所狭しと置かれており、まるで玩具箱の中に迷いこんでしまったようだった。様々な材料が放つ臭いが混じりあい、作業場のような独特な香りが立ち込めている。

目星:部屋の片隅に、錆付いた金属が彼方此方に使用された、刺々しい無骨な道具の数々が置かれている事に気が付く。雑多なこの部屋の中でもその場所だけ、異質な物が集められているように感じる。

歴史・考古学:それらの道具が、中世ヨーロッパで使用されたような拷問器具である事が分かる。

 上記の拷問器具について大石に聞くと、「オペラ座の前の持ち主が置いていった道具だそうだ」と教えてくれます。

<拷問器具>

 上記の拷問器具は、オペラ座の前の持ち主、銀の黄昏教団が実際に使用していた物です。オペラ座から銀の黄昏教団が姿を消した後も、ずっとこの場所に取り残されていました。

 王鳴歌劇団の人達は、この拷問器具が実際に使われていた物とは知りません。オペラ座の前の持ち主の、風変わりな収集癖によって集められた物だろうと考えています。いつの日か、公演の小道具として使用する事もあるかもしれないと、この場所に残してあります。

歌劇団の噂話

 オペラ座の中を歩き回ると、様々な王鳴歌劇団の劇団員達とすれ違います。それは、演者であったり、音響・調光スタッフであったり、美術スタッフや事務員であったりします。彼らは各自の仕事をこなしたり、休憩中に雑談に興じていたりします。

 キーパーは、そのような劇団員の方たちを活用しながら、彼らと探索者達との会話の中で、下記の情報を伝えてください。ただし、必須の情報ではありませんので、無理に情報を開示する必要はありません。

<明日の公演は失敗出来ない>

 明日の公演に向けて、王鳴歌劇団はいつにも増して緊張感が漂っています。何故ならば、明日の公演は絶対に失敗出来ないからです。

 王鳴歌劇団は、オペラ公演によって利益を上げる営利団体です。オペラとは、音楽以外にも、その舞台を演出する為に様々な大道具を活用する総合芸術です。一回の公演に関わる人手も多く、最近の王鳴歌劇団は、常に資金難に苦しんでいました。

 その最中で行われる明日の公演は、今後も王鳴歌劇団が活動を続けていけるかどうかを決める、分岐点であると言われています。王鳴歌劇団の劇団員達が明日の公演にかける意気込みは、大変強いものです。

<オペラ座の亡霊>

 実は、オペラ座で不可解な事件が起きる事は、最近に始まった事ではありませんでした。王鳴歌劇団がオペラ座で活動を始めた頃から、舞台の台本や小道具が、いつの間にか喪失して見つからないと言う事が度々起きていたのです。劇団員は、それらは誰かの不注意によって紛失してしまったのだろうと考えていますが、「それはオペラ座に住まう亡霊の仕業である」と冗談を言う者達もいました。その者達は、最近に起きる不吉な事件についても、亡霊の仕業なのではないかと与太話にしています。

外:病院

 オペラ座の近くにある病院では、練習中に怪我をした立野流花が入院をしています。立野の入院先を知り、ここを日中に訪れるならば、探索者達は立野流花と面会する事が出来るでしょう。

 病院の一室。カーテンで仕切られた一角を覗くと、女性が本を読んでいた。女性は、[探索者]に気が付くと、怪訝な顔で本を閉じる。

 もし、大石が同行している場合は、立野と大石は簡単な挨拶を交わす事でしょう。2人は、仲が良さそうには見えませんが、仲が悪そうにも見えません。団員同士として、自然な会話をします。

<立野流花の怪我の具合について>

 立野流花は、練習中の事故によって、足に怪我を負っています。立野の怪我は然程、大きな物ではありませんが、もうしばらく入院は続くだろうと医師から言われています。

 探索者が、事故当時の事を聞くならば、立野は下記のように語ってくれます。

「練習中に舞台の上に立っていると、天井で何か金属音がして、それを見上げたら、照明が私に向かって一直線に落下して来ていたの。咄嗟に避けようとしたのだけど、間に合わずに、照明が足にぶつかってしまって…」

 探索者が、上記について更に詳しく聞くなら、下記のように語ってくれます。

「舞台に倒れこんだ時に、不思議な物を見たの。舞台の天井に、黄色く瞬く、2つの光。それはなんだか、”目”のようで、私は何かに見つめられていたかのような…。あれは一体何だったのかしら。私、何だか、とても恐ろしい物を見てしまった気がして…」

<舞台の天井で光った物>

 立野が語った、舞台の天井で光った物について、探索者がオペラ座までその存在を確認しに行っても、実際にそれを見つける事はありません。

外:図書館

 シナリオ中の鎌倉市にある図書館では、オペラ座やその周辺についての資料を見つける事が出来ます。図書館のロールに成功した場合は、下記の情報を開示してください。

<オペラ座の旧所有者>

 オペラ座は、明治時代の初期に、現在と同様の姿形に建てられました。当初、このオペラ座を建築した団体は、異国から来訪した外国人の集団であったと言います。黒いローブを着込んで、夜な夜なオペラ座で集会を開くこの団体を、地元の人々は何所か恐ろしく感じていました。

 しかし、ある時期を境に、この外国人の集団は、突然に姿を消します。それ以降、無人となったオペラ座は長い間、人の手が入らないまま放置されていました。そのオペラ座を、20年程前に、王鳴歌劇団が買い取ったのです。その時の王鳴歌劇団団長は、来栖と言う名前でした。

 上記の外国人の集団は、銀の黄昏教団です。また、王鳴歌劇団がオペラ座を買い取った時に団長だった来栖と言う者は、来栖玲奈の父親です。

<鎌倉の夜に鳴く、奇怪な生物>

 戦後間もない頃、鎌倉の夜に、得たいの知れない生物の鳴き声が響きました。それは、ガラガラと声を枯らした猛獣の吠え声のような音だったと言います。

 付近の住民は、何所からともなく聞こえてくるその声の元を探しましたが、結局、それは見つかりませんでした。鳴き声がした場所の近くには、いつの間にかに無人と化したオペラ座が立っていました。不気味な鳴き声は、オペラ座から響いてくるのではないか。付近の住民は、そんな噂を口にしていました。

 上記は、オペラ座に取り残された哀れなヘビ人間の鳴き声です。

 

シナリオ 定期イベント

探索初日・夜:姿を消す来栖と、隠し部屋

 探索初日の夜、程よい頃合になると、王鳴歌劇団の人達は明日の公演に備え、この日の練習を終えて帰る準備を始めます。その為、楽屋に人が集まり、騒がしくなる事でしょう。

 もし、その現場に探索者がいて、来栖の姿を探す場合、どこにも来栖の姿は見当たりません。劇団員の人に行方を聞いても、「すぐに戻ってくるよ」とはぐらかすばかりで、何所にいるのかを教えてはくれません。

 10分~20分も経てば、来栖は探索者達の下へ訪れます。来栖は何もなかったように探索者達と会話をするでしょう。もし、探索者達に何所に行っていたのかを尋ねられたなら、来栖は恥ずかしそうに、下記のように答えるでしょう。

「実は…このオペラ座には、私だけの秘密の隠し部屋があるのです。死んだ父が残してくれた物なんですけどね。そこに行くと、何だか父に見守られているような気がして。いつもはそこで、こっそり歌の練習をしているのです。今日は、”明日の公演が成功しますように”と、父に祈りを捧げていました」

 もし、探索者が上記の隠し部屋に行ってみたいと願い出た場合は、来栖は困った顔をします。秘密の部屋だから、探索者にも教えられないと答える事でしょう。それでもなお、探索者が強引に隠し部屋へ行きたがる場合は、来栖への信用、もしくは説得のロールが必要になる事でしょう。

 もし、来栖への上記のロールが成功した場合は、来栖は探索者達を隠し部屋へと案内します。

 ステージ下へと続く階段の踊り場、その壁に貼り付けられた大きな鏡。鏡についた額に、来栖が手をかける。かちりと、何かが外れる音がした。来栖は、その鏡を大きく横へ動かす。鏡は、その重さを感じさせない程に滑らかに横にスライドし、鏡があった場所には大きな穴が出現した。

 壁に開いた穴の中には、更に地下へと続く階段が伸びていた。来栖は、その階段を下っていく。[探索者]もその後に続いて階段を下る。一般的な建物にして二階分程の階段を下ると、階段が途切れ、そこには円柱状の小さな部屋があった。部屋の壁面は石造りで、天井の中央に小さな照明が吊り下げられている。その照明の直下には、切り出した石で作られた、人が一人乗れる程の、小さな台座が置かれていた。小さな台座の上には、古めかしいヴァイオリンが飾られている。

 部屋にある物は台座と、ヴァイオリンだけです。ヴァイオリンは来栖の父親が生前に使用していた物で、非常に高価な物ではありますが、特に不可解な点はありません。台座について調べても、特に何も見つかりません。

 この台座は、実は更に地下へと続く道を塞いでいる物です。ですが、探索者は現時点でそれに気が付きませんし、どんなに力を込めようとも、台座を動かす事は出来ません。

<来栖の隠し部屋について>

 この隠し部屋は、オペラ座が銀の黄昏教団の所有であった頃に作られた物です。何に使用されていたかは定かではありませんが、それが良からぬ事の為だったことは想像に難くありません。

 来栖玲奈の父親は、自身が王鳴歌劇団団長としてオペラ座を買い取った時に、偶然この部屋を見つけました。名ヴァイオリニストでもあった来栖の父親は、この部屋を甚く気に入り、自身の演奏の練習部屋として利用していました。来栖の父親が死んでしまった後、この部屋は、王鳴歌劇団の隆盛の礎を築いた彼を礼賛する為に、そのままの形で残されました。来栖は、父親が音楽家として過ごしたこの部屋を、父親と同様に気に入っています。

 

シナリオ エンディング

※探索の終盤、エンディングのシナリオ進行についてA・Bの2パターンを下に記載します。

エンディングA-1:アイーダ公演

 探索2日目の夕方、開演の時刻が近付くと、オペラ座にはオペラの観覧客が集まり始め、場内がとても賑やかになります。エントランスでは客が列を作り、係員が順次、客の券の確認を行っています。探索者達は来栖や大石の口利きによって、チケットを持たずとも中に入場する事が可能です。

 来栖が探索者達の為に取っておいた座席は、1階の客席の最前列です。オーケストラピットを挟んで、ステージに最も近い客席となります。

 18時になると、オペラ「アイーダ」が開演します。探索者達があえてオペラを観覧せず、外で待機するという選択をしない限りは、開演までに自身の座席に座っている事が求められます。

 18時、ざわめく場内を照らしていた照明が、一斉に消灯した。暗くなった場内に、間もなくブザーの音が鳴り響く。開演を知らせるアナウンスが流れ、王鳴歌劇団のオペラ、「アイーダ」の幕が開いた。

 アイーダのあらすじについては、別途オペラ「アイーダ」資料をご参照ください。来栖は、第1幕からアイーダ役で登場します。練習の時とは異なり、最高の環境を整えた上で熱演される本番のオペラは、探索者達を圧倒する事でしょう。古代エジプトをイメージした衣装を着た来栖は、普段とは異なる印象の美しさを持ちます。

 第1幕が終わり、第2幕が終わり、第3幕まで、何事もなく舞台は進行します。観客達の反応は上々で、オペラに精通していない探索者であっても、公演が素晴らしい出来で進行している事を感じ取る事が出来ます。

 そして、最終幕である、第4幕の幕が開きます。アイーダは悲恋の物語です。来栖が演じるアイーダに恋をした、玉置が演じる将軍ラダメスは、アイーダへの愛によって自国に叛き、死罪を言い渡されます。舞台は、ラダメスが地下牢に生き埋めにされるシーンへと移行します。

 仄暗い、地下を演出する舞台。汚らしいローブを着て、フードを深く被った男が、一人でステージの手前に立つ。俯いた男は、腹に手を当て、この場にあるどんな楽器が奏でる音よりも更に大きな声で、悲しい歌を歌い始める。

「死を告げる石の扉は閉じられた。この場所が私の墓となる。私の目は、もう光を拝む事はない。二度と、アイーダと話す事も叶わない。ああ、アイーダ…今、貴女は何所にいる? 願わくば、私の恐ろしい結末を知ることなく、彼女に幸多き人生を…」

 舞台袖から、女が男に駆け寄る。異国の衣装に身を包んだその女は、来栖だった。来栖は、男と同様に美しい声で歌を歌う。

「ラダメス様! 私はずっとお傍におります」

 男は、来栖の声に少し顔を上げる。

「何と、これは幻か? アイーダ、貴女がこの墓の中に」

 来栖は、男の背後で足を止め、男に歌いかける。

「ラダメス様、私は貴方の死刑を思い、貴方を飲み込むこの地下に、密かに隠れていたのです。私は、誰の目を気にする事もないこの場所で。そして貴方の腕の中で。愛する貴方と、共に死にたいと願ったのです」

 男は、思い悩む素振りを見せながらも、来栖に振り向く。

「死ぬなどと…清らかで美しい貴女が、この私の為に死ぬと言うのか。神が愛の為に遣わした貴女が、このような場所で死ぬだなんて。そんなこと…。私はあまりにも貴女を愛してしまった。貴女は、何よりも美しく、何よりも愛しい」

 男は、ローブを翻し、来栖玲奈を優しく抱きしめる。

「…そうだ、私は、貴女を愛してしまったのだ、来栖玲奈」

アイディア:最後の男の台詞が、それを演じている筈の玉置とは別人の声に聞こえる。

 来栖の事を、役名のアイーダではなく、本名で呼ぶ男。もし、探索者がこの事に異変を感じて、何か行動を起こそうとしても、オーケストラピットに行く手を阻まれ、また、異変を感じても未だ鳴り止まない奏楽にその声はかき消される事になります。

 唖然とした表情で押し黙る来栖。男の愛の告白に、彼女の歌声は続かない。オーケストラは演奏を続けている。壮大な奏楽を背景に、抱き合い、お互いに見つめ合う男と来栖。ふと、来栖は男の顔に手を伸ばした。来栖は、ゆっくりと、男のフードを払い退けた。

 将軍ラダメスは、玉置が演じている筈であった。しかし、フードの下から現れた男は、玉置ではなかった。見知らぬ男の容姿に、思わず息を呑む来栖。男は、明らかに普通ではなかった。脂ぎった長髪、窪んだ双眼、そして、大部分が酷い火傷の跡のように変色している肌。彼は何者か。オーケストラも明らかな異常を感じ取り、演奏を休止する。何が起きているかも分からず、ざわつき始める場内。

 バチンと、何か電源の落ちるような音がした。突如、場内の全ての照明が光を失った。暗闇に包まれて、何も見えなくなる。人々の戸惑いとざわめきは更に大きくなっていく。

 数秒の後、再び、場内に明かりが灯った。気が付けば、ステージ上に、人の姿が無かった。火傷の男と来栖は、何所に行ってしまったのか、その場から姿を消していた。

 オペラ座の内部に、戸惑う声が広がっていきます。人々に伝播して行く混乱の渦は、次第に大きくなっていく事でしょう。なお、上記で現れた火傷の男の正体はヘビ人間なのですが、人の姿を取っている為に正気度の喪失はありません。

 もしも、この時に、探索者の内の誰かがオペラを観覧しておらず、ステージ下に待機していた場合は、「エンディングA-1x:ステージ下で起きた事」の項を参考にして描写を行ってください。探索者の内に、ステージ下で待機している者がいない場合は、続けてこの項を参考に演出を続けてください。

 突然、男の叫び声がステージに木霊した。それは大石の声であった。叫び声は、ステージの方向から聞こえる。その音は壁一枚を隔てたように遠く響き、恐らくはステージ下から聞こえて来たのではと推測された。

 上記の大石の叫び声は、すぐに止んでしまいます。探索者達がオーケストラピットを越え、ステージに上れば、舞台上に長方形の穴(奈落/セリが下がり切っている状態)が開いている事に気が付きます。その穴を下りれば、ステージ下へと直行する事が出来ますが、高さが3m程ある為、下り方次第では落下のダメージがあるかもしれません。

 大石は、ステージ下へと向かう階段の途中にある、大きな鏡の前に倒れています。頭から血を流しており、気絶している状態です。

 踊り場に仰向けに倒れている者がいた。顔を見れば、それは大石だった。大石は頭から血を流し、その場で気を失っていた。倒れた大石の横、[探索者]の視界に大きな鏡が映る。鏡は、元々あったであろう場所から横にずれるように移動していた。鏡があった場所には、壁に開いた大きな穴があった。

 以上の描写を行った後、シナリオは「エンディングA-2:隠し部屋と洞窟への入り口」に移行します。キーパーは「エンディングA-2」の項を参考に演出を続けてください。

 なお、この時、ステージ下では彼方此方に、大石と同様に怪我をして倒れている人達がいる事でしょう。倒れた人々について、駆けつけた人々は次々と救護を始めます。探索者達は、こうした混乱の最中で活動する事になります。歌劇団の団員達は、怪我人の救護に奔走せざるを得ず、探索者達の活動に協力する余裕はない事でしょう。

エンディングA-1x:ステージ下で起きた事

 基本的には、探索者全員がオペラを観覧する事でしょう。しかし、もしかすると、オペラの公演中に何か事件が起こる事を想定して、予めにステージ下で待機している探索者が出てくる事があるかもしれません。探索者が、オペラ座内部の明らかに異質な空間として、来栖の隠し部屋に目を付ける事も考えられるからです。

 ごく稀だとは思いますが、もし、探索者がオペラ公演中に来栖の隠し部屋において待機をしていた場合は、この項や「エンディングA-2:隠し部屋と洞窟への入り口」の項に則ってエンディングを演出する事が困難となってしまいます。そのような場合は、今後の演出で登場する「玉置が倒れていた場所」「地下に続く洞窟への入口」等の位置を、キーパーが適切な場所に再設定してしまう事で、エンディングの大筋を保ったままにその演出を行う事が出来ます。探索者の自由な行動によって起きる、不測の事態については、キーパーが臨機応変に対応する必要があります。

 エンディングA-1において、場内の照明が消えてしまった時、同時にステージ下においても全ての照明が消灯してしまいます。探索者がこの現場にいた場合、歌劇団の人々が混乱する様子を感じ取る事が出来ます。

 突如として暗くなったステージ下。王鳴歌劇団の団員達が、戸惑う声が伝わってくる。暗闇によって視界が奪われた中で、突如として、低い衝撃音が木霊した。ドシン、ドシン、ドシン。壁を、何か巨大な物が力強く衝突するような音。その音に紛れて、人々の呻き声が彼方此方から聞こえて来た。

 ステージに現れた火傷の男は、来栖を抱えたまま、暗闇に紛れてステージ下を移動します。この時、来栖は気を失わされており、声を上げる事はありません。火傷の男は、とても人間とは思えない凶悪な力で、行く手の障害となる人々を弾き飛ばしながら、来栖の隠し部屋に繋がる大きな鏡に向かって猛進します。

 この時、探索者が火傷の男の進行方向にいた場合は、火傷の男の攻撃を受けて、弾き飛ばされます。別途資料「登場人物一覧(キーパー用)」をご参照の上、適切な攻撃を選択してください。弾き飛ばされた探索者は、下記のような光景を目にします。

 バチンと、固いスイッチを点けるような音がして、場内に明かりが灯った。再び点灯した照明は、徐々に明るくなっていき、当たりを照らす。そんな途上の薄暗がりで、階段の踊り場に、何者かが立っていた。大きな鏡と向かい合うその男は、汚いローブを身に纏い、片手で誰かを抱きかかえている。男は、鏡の淵に手をかけた。鏡は滑らかに横にスライドし、背後に隠していた大きな穴を曝け出す。男は、音も立てずにその穴の中に姿を消した。

 もし、探索者が上記の男を追いかけるようであれば、「エンディングA-2:隠し部屋と洞窟への入り口」に移行し、エンディングの演出を続けてください。

エンディングA-2:隠し部屋と洞窟への入り口

 ステージ下へと続く階段の踊り場、鏡があった壁に開いた大きな穴は、来栖の隠し部屋へと繋がる物です。その穴を覗き込んで見るならば、そこには地下へ続く階段があります。その階段をしばらく下っていくと、隠し部屋の中に、誰かが倒れている所を発見します。

 階段を下ると、石造りの円柱状の小さな部屋がある。小さな照明に照らされたそこに歩み入ると、片隅で男がうつ伏せに倒れていた。男は半裸に引ん剥かれており、床に夥しい血を流している。

 部屋の中央には石で出来た台座があった。その台座の上には、ヴァイオリンが無造作に倒れていた。また、近くの床には、鮮やかな柄の入った布着れが落ちている。

アイディア:床に落ちている布が、先ほどまで舞台上で来栖が身に着けていた衣装の一部である事に気が付く。

 上記で倒れている男は、玉置です。玉置は気を失っており、腹部にある切りつけられたような傷から、出血をしています。傷自体は然程大きい物ではありませんが、時間の経過に伴う出血の量が酷く、医学や応急手当のロールによる処置が望まれます。

 探索者が玉置に近付くと、玉置は弱々しくも意識を取り戻します。

「ああ…君か」

 玉置は、ゆっくりと目を開いた。彼は、その美貌を青くして、消え入るような声で喋った。

「頼む。来栖さんが、連れて行かれた。後を追ってくれ、このままでは…」

 玉置は、震える手で部屋の中央の台座を指差す。

<倒れている玉置>

 公演の第3幕が終わった後、第4幕に向けて準備を終えた玉置は、火傷の男に強引に引き込まれる形で、この場に足を踏み入れました。玉置は火傷の男に衣装を奪われた後、腹部を切られて意識を失います。公演に突如現れた火傷の男は、玉置から奪った衣装を着込んで、舞台に忍び込んでいたのでした。

 玉置は探索者達に、来栖の後を追うように懇願します。「来栖は、見知らぬ男に抱きかかえられて、台座の下へと連れて行かれた。今すぐに後を追わなければ、彼女の身が危ない」と、彼は再び薄れ行く意識の中で、うわ言のように言い続ける事でしょう。キーパーは、玉置と探索者達との会話を利用する等して、可及的速やかに地下へ続く洞窟へと歩み入るよう、探索者達を誘導してください。

 もしこの時、探索者が洞窟内部に探索者達以外のNPCを多数呼び込もうとしたり、警察に通報した上で到着を待つ等の行為に出た場合は、少し厄介な事になります。オペラ座内部では混乱が続いており、そうした探索者の目論見は、中々上手く行かない事でしょう。そのような行為に時間を取られていると、探索者の知らない所で、事態は致命的に悪化していく恐れがあります。探索者がそのような行為を強行する場合、キーパーは進行を速やかにする為にも、「無駄に時間を過ごすと、致命的な事態も考えられる」と言う旨を探索者に伝えてしまっても良いでしょう。

 探索者が部屋の中央の台座に触れると、台座が横にずれるように動く事に気が付きます。台座を動かすと、台座の下に人が一人通れる程の穴が現れます。

 台座の下には、人が一人通れる程の穴があった。それは巨大な生物が掘った巣穴のような洞窟。およそ人が通る事など想定されていないような、無骨な道であった。

追跡:何かが地面を引き摺ったような跡が、洞窟の奥に続いている。

 探索者達は、この洞窟の奥へと歩を進める事になるかと思います。探索者達がこの道を進むのならば、彼らの事を様々な”罠”が襲う事になります。続いて、「エンディングA-3:罠と危険だらけの洞窟」の項を参考にして、演出を続けてください。

エンディングA-3:罠と危険だらけの洞窟

 隠し部屋の台座の下に現れた穴は、延々と奥まで続く、深く長い洞窟です。洞窟の道幅は、場所によって狭くなったり、広くなったり、一定ではありません。洞窟内部には点々と電灯が灯っており、暗くはありますが、灯りを持ち込まなくても中を進む事が出来ます。

地質学:洞窟は無骨で、自然に形成されたようにも見えるが、明らかに人為的に掘られている箇所も見受ける事が出来る。

<地下深くへと続く洞窟>

 この洞窟は明治の初期に、銀の黄昏教団によって掘られた物です。人目に触れては具合の悪い物を隠したり、遺棄したりする為に活用されていました。銀の黄昏教団は、この洞窟の中に様々な罠を仕掛けていました。罠は、銀の黄昏教団が姿を消した今でも、侵入した者を抹殺する凶器として探索者達を待ち受けています。

 以下に、洞窟内部に待ち受ける罠と危険の例を列挙します。キーパーは下記を参考にしながら、罠と危険の演出を行ってください。探索者の数やその能力に合わせて、洞窟内部の罠と危険を新たに作成したり、逆に減らす等、調整すると良いでしょう。

<罠と危険①:取り残された死体>

 探索者達が洞窟内を行く道すがら、大きな岩陰から覗く、色あせた布切れを発見します。この布切れについて、間近に見に行こうとすれば、そこに白骨化した遺体を発見します。

SANチェック 0/1d3

 この死体を調べるか、もしくは目星のロールに成功すると、下記のように記載された紙切れを発見します。下記の文章は、実際には時代掛かった書体・文体で書かれており、詳しく読み込むには日本語でのロールが必要となるかもしれません。

 金に目が眩み、このような場所に足を踏み入れた事を、後悔している。突如として現れた、翼の生えた黒い鬼達が、皆を連れ去ってしまった。命からがら地下まで逃げて来たものの、最早ここから外に出る事は叶わないだろう。

 上記は、銀の黄昏教団に協力していた日本人男性の遺体でした。彼は生前、オペラ座にて、銀の黄昏教団に所属する人々が異形の怪物達に連れ攫われる現場を目撃してしまいました。その時、彼自身も命の危険を感じ、この地下に身を隠したのですが、そのまま外に出る事も叶わないまま、この場所で命を落としてしまったのです。

<罠と危険②:落石>

 探索者達が洞窟を進む途上、その頭上の岩盤に細かく広がったひび割れが顕れます。探索者は、目星のロールに成功する事によって、このひび割れを事前に発見する事が出来ますが、目星のロールに失敗すれば、このひび割れに気が付かずにその直下を通ってしまう事になります。探索者がこのひび割れの直下を通過してしまう場合、その探索者を落石が襲います。

回避:落石を回避する事が出来る。失敗した場合、1d3の耐久を失う。

<罠と危険③:落とし穴>

 探索者達が洞窟を進む途上、その道中に”落とし穴”が仕掛けられています。この落とし穴は、SIZが12以下の者には反応しませんが、SIZが13以上の者に対してはその機能を果たします。落とし穴の罠に掛かった探索者は、自身が立っている地面ごと、突然に下へと落下していきます。その高さは3m程で、1d3の耐久を失う事になります。このダメージは、跳躍のロールによって軽減する事が可能です。落とし穴に落ちた探索者は、脱出する為に道具を活用したり、登攀のロールを行う等、工夫が必要になる事でしょう。

 また、探索者の状況によっては、この洞窟を進行中に下記のような探索場所を提示する事によって、最終局面の戦闘をサポートしても良いでしょう。

<探索ポイント:洞窟内の倉庫>

 探索者達が洞窟を進む途上、その道中に鉄で出来た扉が現れます。この扉は洞窟の側面に据え付けられており、探索者は無視して洞窟を先に進む事も可能です。扉には小窓の類は付いておらず、開かなければ室内を確認する事は出来ません。

 この扉を開けると、そこは横穴を利用して作られた小さな個室です。今にも朽ちて果てそうな机や棚が、窮屈に詰め込まれています。この部屋を見回しても、瓶詰めの爬虫類の死体や、巨大な骨抜きのような道具、見た事もない言語で書かれた手記等、探索者にとって何の役にも立たないガラクタばかりが見つかります。しかし、時には戦闘に使えそうな「儀礼用のナイフ(ファイティングナイフ)」等の武器が見つかる事もあるでしょう。

 また、この部屋の中で目星のロールに成功すれば、透明な液体の入ったビンを発見します。ビンにはラベルが貼られており、アルファベットで簡素な文章が書かれています。英語のロールに成功をすれば、そこに”解毒剤”と書かれている事が分かるでしょう。この解毒剤は、ヘビ人間の攻撃によって受ける毒を、24時間以上の時間をかけて緩和する事が出来ます。

 探索者達が洞窟を突き進むと、いつかその最深部に辿りつきます。続いて、「エンディングA-4:地底湖と地下神殿」の項を参考にして、演出を続けてください。

エンディングA-4:地底湖と地下神殿

 探索者が洞窟を突き進むと、下記のように地下神殿へと辿り着きます。

 洞窟を突き進む[探索者]。その目の前に、突如として広大な空間が広がる。洞窟の恐らくは最深部。何があたりをを照らしているのか、ぼんやりと明るいその場所に、[探索者]は異様な物を目の当たりにする。

 そこは、巨大な地底湖だった。[探索者]の視野、果てしない地下空洞を満たした、見渡す限り静かな水面。そして、その大自然の中で、自らの威風を誇るように立つ、一つの建造物があった。

 短い間隔で立ち並ぶ白い石柱。彫刻のように装飾された天井。その彼方此方にコケがむし、空洞世界と同化して見える遺跡。その様はまるで、古代の神殿のようであった。

 神殿までは、地続きで行く事が出来ます。

 一段高くなった段差を上ると、神殿の内部へと侵入する。幾重もの柱の合間から、その先が覗き見える。天井は高く、神殿の中は開けていた。そこはまるでオペラ座の舞台のように、奥行きのある空間だった。

 神殿の中央には、石で出来た玉座のような大きな椅子があった。見れば、そこに来栖玲奈が、舞台の衣装のままで寝かされていた。そして、その傍にはローブを着た長髪の男が、[探索者]に背を向けて佇んでいた。

 上記で椅子に寝かされた来栖は、気を失った状態です。現状では、彼女が目を覚ます事はありません。

 ローブを着た男は、おもむろに、[探索者]を振り返った。

「よもや、この場所まで立ち入る者があろうとは…。立ち去れ。ここはお前達の来る場所ではない」

 酷い火傷のように肌が変色した男。彼は、威厳に満ちた澄み渡る声で[探索者]達に警告した。

 恐らくは、探索者は上記の男の警告を聞かずに、来栖を返すよう男に要求する事でしょう。そのような探索者に対して、男は「愚かな」と吐き捨てます。そして、探索者の話に取り合わずに、容赦のない攻撃や、殺意を込めた魔術を行使しようとします。

<怪人の正体>

 探索者と相対する、火傷のように肌が変色した男。この男は人間の姿をしていますが、その実は人間ではありません。その正体は、古代の地球で王国を築いた神話的な怪物である、”ヘビ人間”が人に化けた姿です。太古の昔に栄えたヘビ人間は、現代においてはその種の大多数が退化し、虚弱な種族と成り果てています。しかし、探索者の目の前に立ちはだかった一個のヘビ人間は、”先祖返り”を果たし、積年の魔術研究の賜物によって、稀代の魔術師と化した強力なクリーチャーです。キーパーは、ヘビ人間の能力や設定について登場人物一覧(キーパー用)を参照の上、探索者達との戦闘ロールを開始してください。

 もし、この戦闘において探索者が戦意を喪失し、この場から逃走した場合は、「エンディングB:探索者が来栖の追跡を諦める/失敗する」の項を参考にして物語を締め括ってください。

 ヘビ人間は戦闘において、来栖を(地上へ連れ戻されないように)守る事を最優先します。ヘビ人間は来栖の近くを離れずに戦闘を行い、探索者達が彼と距離を取るようであれば魔法での攻撃を行う事でしょう。それでも、探索者が隙を突いて来栖を連れ去ろうとした場合、探索者が逃走を試みた先、神殿の周囲にはいつの間にか大量の蛇が出現している事に気が付きます。この蛇は神殿を取り囲むように存在し、来栖を抱えて逃げようとする探索者達の行く手を、威嚇するように塞ぎます。そこを無事に通り抜ける事は、不可能でしょう。

 上記の戦闘は、探索者達の攻撃によってヘビ人間の耐久が0、もしくは0に近くなるまで行われます。キーパーは戦闘が終わりを迎えそうな頃合を見計らって、下記のイベントを発生させてください。

 戦闘は終焉に近付いていた。火傷の男の口からは血が滴っていた。彼はよろめいて、何とかその場に踏み留まる。苦悶に満ち、失意に沈むその表情。[探索者]はその男の顔の上に、幾枚かの鱗のような物が、不意に現れる所を見た。

「今生に、たった一度の愛さえも、許されぬのか」

 か細く、男の喉から発せられた言葉。その声は、美しさを失い、しわがれた老人のようであった。火傷の男の顔面に現れた鱗は、見る見る間にその枚数を増やし、皮膚を覆い尽くしていく。男の目は黄色く染まり、その瞳は細く形を変えていた。

「グァァ…!」

 声を枯らした猛獣のような吠え声が、この地底に鳴り響いた。男は最早、人間ではなかった。小さな鱗が斑色を構成する身体に、爬虫類のように突き出した頭部。その姿は瞬く間に、蛇の異形を持つ怪人と化していた。彼の叫びは、悲痛を伴って[探索者]の胸を突き刺し、幾重にも空に木霊する。怪人の、爬虫類のような眼が、憎悪と殺意を剥き出しにして、[探索者]達を捉えた。

SANチェック 0/1d6

「それさえも、ままならぬなら――」

 異形の男は、何かを描くように指先を空に走らせた。次の瞬間、その虚空に、歪な”印”が出現した。それは、不規則に蛇行する、絡み合った触手のような紋章。印は空に浮かんだまま、不吉な赤色に光った。

<不吉な赤い印>

 上記のように、ヘビ人間は最終局面で魔術を行使します。これは、”シュドメルの赤い印”と呼ばれる、凶悪な呪文です。上記で出現した赤い印の周囲にいる者は、心臓や肺を押しつぶされるような激痛に襲われ、短時間の内に血を噴出しながら死に至ります。

 この呪文は、印の周囲にいる全ての者を対象とします。それは、来栖玲奈も、呪文を発動させたヘビ人間自身も例外ではありません。狂気の沙汰としか思えないこの行為は、自らの愛情が行き場を失くした事に絶望したヘビ人間の、悲壮な自殺行為です。

 ドクンと、空気が揺れた。[探索者]には、そのように感じられた。[探索者]がその得体の知れない危険を察知し、身を守ろうとした刹那。拷問のような激しい痛みが[探索者]の思考を粉砕した。

 それは頭から足の先まで、無数の針を突き立てられたようで。次から次へと、[探索者]の身体を穿って行く針地獄。血色に滲む視界、声にならない叫び声。空に刻まれた印は、[探索者]を死に至らしめる悪魔的魔術。

「死ね」

 異形の男の声。何が起きているのかも分からぬまま、[探索者]の生命活動の全てが急速に圧縮する。パキ、パキ、パキと言う異音が周囲に連鎖する。空間が、捻じ切れる程に歪んでいく。眩暈と言うには生ぬるい混濁。[探索者]は地に伏す事しか出来ない。

 この時点で、探索者は耐久を減らす事はありませんが、行動は出来ない状態になります。

 凄惨な痛みに、[探索者]は死さえ望んだ。その瞬間。一際大きく、ぴしりと、何かが割れる甲高い音が響いた。それは、上空から聞こえた。その音は、再び大きく辺りに響いたかと思うと、神殿の天井に、不意に大きな亀裂を作った。

 異形の男は、虚空を見上げて嘆息した。そして、暴走する魔術の負荷が限界を超え、ついには神殿の天井が、崩落を開始した。

 上記は、”シュドメルの赤い印”の影響に、神殿が耐え切れずに起こした崩壊です。

 天井が割れ、落ちる。地を震わす衝撃音。それは[探索者]の間近。床に衝突しお互いに砕け合う。巨大な土煙が舞い、視界が淀む。彼方此方で、同様の崩壊が連鎖的に巻き起こる。

「あぁ…っ!」

 異形の男の悲痛な声が響いた。[探索者]が見向いた時、男の真上には、大岩があった。男は失意の顔でその岩を見つめていた。彼はそれを避けようともせず、次の瞬間、大岩に潰されて[探索者]の視界から消えた。轟音に、水風船を破裂させたような音が混じって聞こえた。

 ヘビ人間は、崩落した天井によって押し潰されてしまいました。術者を失った事により、探索者を痛めつけていたシュドメルの赤い印は、その効力を失います。

 [探索者]の身体の痛みが引いていった。空に刻まれた印は、立ち消えていた。神殿の崩壊は止まらない。次々と落ちてくる天井の破片。未だに鳴り止まぬ瓦解する音。このままこの場所にいては、潰されて死ぬ。

「きゃああ」

 その最中で、来栖の悲鳴が聞こえた。いつの間にか目を覚ました来栖は、玉座で身を守るようにうずくまっていた。このままでは彼女も、崩壊する神殿に潰されてしまうだろう。

 この時点から、探索者達は崩壊する神殿から、早急に退避する事が求められます。探索者達が速やかに退避する場合は、特にロールは必要なく、無事に外に出る事が出来るでしょう。

 目を覚ました来栖は、自分の置かれた現状に取り乱しています。彼女を無事に連れ出す為には、その手を引いて、共に退避する事が求められるでしょう。そのように退避を開始するまでに時間を食ってしまった探索者達は、「来栖を含む同行者の内、最もDEXの低い者のDEX×5の判定」もしくは「来栖を含む同行者の内、最も幸運の高い者の幸運のロール」で判定してください。判定に成功した場合は、来栖を含む同行者の全てが、無事に脱出に成功します。失敗した場合は、来栖を含む同行者全てで回避のロールを行い、その回避のロールに失敗した者が落石によって1d3の耐久を失います。そして、脱出に成功するまで、上記の判定を繰り返して行ってください。

 全員が脱出に成功した場合、下記のような描写を行ってください。

 [探索者]達が神殿を飛び出した瞬間、一際大きな崩落の音が轟いた。同時に、背後から巻き起こった土煙が[探索者]の視界を奪う。

 それから、密閉された空間で反響する何もかもが一段落するまで、少しの時間が必要だった。しばらくして[探索者]が背後を振り返れば、そこには神殿が建造物としての形を失い、巨岩の山と化していた。水面に起きた波紋が、波となって寄せては返す静かな音だけが聞こえる。

 来栖は、ここが何所なのか分かりません。彼女は自身が攫われた事は覚えていますが、直ぐに気を失ってしまい、気が付いたらこの場所にいたと言います。しかし、この場所が、大変な困難を乗り越えた先にある秘境で、探索者達が自分を追ってここまで辿り着いた事は容易に想像が出来ます。彼女は探索者達を危険に晒してしまった事に心を痛めますが、同時に、自分を救い出してくれた事に対して、強く感謝します。

 来栖は、自分を攫った男が何者なのか、見当もつきません。彼女は舞台上で、その顔を初めて見ました。その男の目は、瞳孔が開き切った狂人のようで、彼女は言い知れぬ恐怖を感じたと言います。しかし、また同時に、その瞳は哀れを誘うような、憂いに満ちていたようにも見えたと言います。

 探索者達が地上に帰還すれば、エンディングは完了となります。

 洞窟を引き返す[探索者]達。彼らはやがて、地上の世界へと戻っていく。一匹の怪人が踏み出した、地下空間での奇怪な愛憎劇。それは歓声一つなく、静寂の中で閉幕した。

エンディングB:探索者が来栖の追跡を諦める/失敗する

 「アイーダ」の公演中、来栖が火傷の男と共に姿を消した時、探索者は直ぐにその捜索を開始する事が求められます。もしも2人が姿を消してから、その追跡を後日になって行う等と、明らかに探索者の行動が遅くなってしまった場合には、来栖の救出は失敗に終わります。

 そのような場合、後からオペラ座内をいくら探索したとしても、探索者達が火傷の男や来栖を発見する事はありません。入念にオペラ座内を探索し、隠し部屋から地下に続く洞窟や、地下神殿を発見する所まで至ったとしても、そこには火傷の男も、来栖の姿も見当たりません。

 以後、来栖は日常の世界から姿を消します。彼女達が何所に言ってしまったのか、探索者がそれを知る事は叶いません。

 

シナリオのその後/正気度報酬

※探索を終了したその後の世界についてと、クリア後の探索者への報酬について記載します。

シナリオのその後

 探索者達が洞窟を抜けてオペラ座の隠し部屋に戻ると、そこには、いざこれから洞窟に潜入せんとする武装した警察官達や、それを見守る幾名かの歌劇団団員がいます。彼等は地下空間から帰還した探索者達を見て驚き、喜んでそれを保護します。警察官達は、帰還した探索者もしくは来栖に地下の様子を聞く事でしょう。もし、その回答が現実離れした奇怪な内容であれば、警察官達はお互いに顔を見合わせて困惑します。そして、彼等は地下の様子をその目で確認するべく、洞窟へと突入します。怪我をした探索者達は、病院に運ばれて、検査される事でしょう。健康な探索者も、病院で検査を受ける事になります。

 事件当時にステージ下にいて、怪我をして倒れていた王鳴歌劇団の団員達も、その頃は病院に運ばれています。大石は早々に意識を取り戻し、警察官の事情聴取を受けている事でしょう。腹部を切られた玉置は、傷自体は大きな物ではありませんが、出血が多く、歌劇団の団員の中で最も危険な状態にあります。彼が命を取り留めるかどうかは、シナリオ中のプレイヤーの行動と、キーパーの裁量に委ねられています。玉置以外の歌劇団団員は、怪我の大小はあれど、命に別状のある者はいません。

 探索者達が救助された際、警察官達に地下の湖や神殿、その他のトラップ等の話をしていた場合、探索者達が落ち着いた頃に、警察官から聴取があります。警察官達は「本当に、そんな物があったのか」と、困惑した様子で探索者達に尋ねる事でしょう。地下に突入した警察官達は、その洞窟を下へ下へと潜って行きましたが、何も見つからないまま、最奥の”行き止まり”に辿り着いてしまったと言います。最奥は、分厚くて切れ目のない一個の岩盤で覆われており、洞窟はそこで終わってしまっています。何所を探しても、探索者達が話すような奇怪な物は存在せず、ひたすらに長い洞窟があるだけです。この後、警察官や探索者が入念に洞窟を調べても、探索者達が出会った奇怪な事物に、再び出会う事はありません。

 それから、幾日が経ちます。世間では、オペラ公演中に起きた主役誘拐事件を、「オペラ座に怪人現る」等と大々的に報道します。しかしそれは、神話的な怪奇現象としてではなく、動機が不明瞭な犯罪者による物としての報道です。王鳴歌劇団は予期せぬ形でその名を全国に轟かせてしまい、その対応に追われる事になります。オペラ座は休館され、警察による念入りな調査が行われており、王鳴歌劇団は事実上の活動停止に陥ってしまいます。

 その後、王鳴歌劇団がどうなるのか、それは現時点では不明瞭な未来の話となります。しかし、恐らくは、王鳴歌劇団はこの逆風を逆手に取って、怪事件の起きた歌劇団としてではなく、最高のクオリティと情熱を誇る芸術的な歌劇団として、この世に名を馳せて行く事になるのではないでしょうか。そして恐らく、その躍動の原動力には、王鳴歌劇団の花形にまで成長した、来栖玲奈の姿がある事でしょう。

成功報酬

  • 探索者本人が生存している場合:1d6の正気度報酬
  • 探索者全員が生存している場合:1d2の正気度報酬
  • 玉置吾郎が生存している場合:1d2の正気度報酬

 

あとがき

 私のテキスト化3作目の作品です。もっと長編になる予定でしたが、世間一般ではどうも短いシナリオが求められているようなので、短くまとめてみました。如何でしょうか。アッサリしすぎ…?

 基本的に、有名な歌劇である「オペラ座の怪人」をオマージュして、この作品を書き上げています。オマージュと言っても、「オペラ座の怪人」の要素を豊富に取り入れただけで、色んな所が大分変わってしまっていますが。

 複雑な要素は極力排除して、キーパーが簡単なストーリーになるように心がけています。しかし、プレイヤーがロストせず、ギリギリでクリア出来る程度に難易度を調整する等は、ちょっと難しいかもしれません。ヘビ人間強すぎます。プレイヤーには、ロスト覚悟で挑んでいただく位がちょうどいいかもしれませんね。

 何かシナリオに不足してる所や、問題点などありましたら、コッソリ教えていただければ幸いです。終わりまで読んでくださり、ありがとうございました。(2016/2/28)

-CoCシナリオ, 作者:ホリ, 耶話鳴えオリジナルシナリオ

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