CoCシナリオ 作者:ホリ 耶話鳴えオリジナルシナリオ

最果てのレイル

投稿日:2016年6月23日 更新日:

はじめに

シナリオの概要

 探索者が気が付くと、ゴトゴトゴトゴト、夜空の星屑を掻き分けて宙を走る、不思議な列車の中にいました。探索者はその列車に、見覚えも、乗った覚えもなく、どうして自分がその場所にいるのか、全く分かりませんでした。どうやら、列車は探索者を乗せて、怪物達の棲む湖へと運んでいるようです。探索者は、列車が湖に着く前に、この列車から脱出しなくてはなりません。

シナリオの背景

 探索者は、現実の世界において、一個の不気味な彫像に出会いました。そして一目見た瞬間に、何故か強烈に心を惹きつけられて、取り憑かれたようにその彫像を入手してしまいました。

 この彫像は「黄色の印の兄弟団」というカルトによって作られた、邪神ハスターに生贄を捧げる為の呪われたアーティファクトでした。探索者は、この彫像に込められた邪悪な意思によって、生贄に適した人間として選定されてしまったのです。邪悪な意思は、不気味な彫像を通して探索者の精神へと侵入し、探索者の魂を肉体から浮遊させて、遠い異星に幽閉されたハスターの元へと送り届けようとしました。

 本来であれば、川の流れに成すがままの一葉のように、悪魔的な奔流に乗せられた探索者の魂は、抗う事の叶わない運命にありました。しかし探索者の魂は、広大な宇宙を漂う最中、幸いにも「幻想第4次の銀河鉄道」に飲み込まれ、そこで一縷の生還の望みが生じました。

 銀河鉄道は、地球や宇宙に散らばる星々、またそれらが持つ固有の幻夢境を繋ぐ、神秘の列車です。恐らくは外なる神の一柱によって作られたそれは、原理も使命も知られぬまま、夢うつつと大宇宙をひた走っています。

 探索者は、エーテル体(霊的身体)として銀河鉄道の中で目覚めました。そして幸いにも、銀河鉄道の貨車の中には、元の世界(肉体)へと戻る為の手段が存在していました。果たして、探索者は邪悪な意思に打ち勝ち、元の世界に生還する事が出来るでしょうか。

 

シナリオを始めるにあたって

探索者について

  • プレイヤーが職種・技能など自由に作成してください。探索者同士が知り合い同士である必要はありません。

登場人物(NPC)について

※詳細は別途資料「 登場人物一覧(キーパー用) 」をご参照ください。
 
<登場人物の簡易的な説明>

天野 航(あまの わたる)

”列車に乗った少年”

年齢:不明 職業:-

もう何年も、夜を行く列車に乗り続けている先客。現実世界での記憶を、ほとんど失っている。

<神話生物の簡易的な説明>

ハスター

”名状しがたいもの”

ヒアデス星団に存在する、古代都市カルコサの近くにある「黒きハリ湖」に幽閉されている邪神。生贄を求めている。

ハスターの落とし子

”奉仕種族”

「黒きハリ湖」にて、親であり主人であるハスターに仕える異形の怪物。骸骨のような頭で、タコのような8本の足を持つ。

デシュ

”不可視の次元を漂うもの”

人間の周囲にある不可視の次元を漂うクリーチャー。異世界において、姿を見せる事があるかもしれない。

アイハイ族

”火星の固有種族”

平和的かつ文化的な、火星固有のクリーチャー。探索者と同じように、夜空を行く列車に迷い込んでいる。

別途資料一覧

 シナリオを進行させるための別途資料を下記に一覧化します。シナリオを進行させる際に適宜使用してください。

<キーパー用資料>

<探索者用資料>

  • なし

 

シナリオ 導入パート

導入:夜空を行く列車

 このシナリオは、探索者達がどのような人物・境遇であろうと一様に、普段と変わらない夜間の睡眠を取った後、見知らぬ列車の中で目を覚ます場面から開始されます。キーパーは下記文章を参考にして、導入を行ってください。

 [探索者]は、いつものように夜の眠りに就いて、身体が溶け出してしまったような夢うつつの最中にいました。真っ暗な海で夜空を向いて浮かぶように、[探索者]の意識はのたりのたりと夢中を漂っていました。

 不意に遠くから、何か汽笛のような音が聞こえた気がしました。そして直後に、辺りの暗闇を一掃して、瞬く間に世界に光が満ちて行きました。それは、まるで億万のホタルイカの火を一遍に化石にして、そこら中に沈めたという具合、もしくは、ダイアモンド会社が隠していた沢山の金剛石を、誰かがいきなり引っくり返してばら撒いたという風に、眼の前がさあっと明るくなって、[探索者]は、思わず何遍も眼を擦すってしまいました。

 気が付いてみると、いつの間にか、ゴトゴトゴトゴト、[探索者]を乗せた小さな列車が走り続けていました。そんなはずはないのに、[探索者]は軽便鉄道の、小さな黄色の電燈の並んだ車室に、窓から外を見ながら座っていたのです。[探索者]はその列車に、見覚えも、乗った覚えもなく、どうして自分がその場所にいるのか、全く分かりませんでした。

 探索者達は、全員がこの列車に乗っており、お互いに同じ車室の、直ぐ傍の席で目を覚まします。探索者達は、どうして自分がこのような場所にいるのか、分かりません。直近の記憶を掘り起こしても、夜、普段のように眠りについた事しか思い出せません。

アイディア:昨夜は、妙に気を引いた人形を入手し、それを傍に置いて寝た事を思い出す。

<探索者の入手した人形>

 昨夜、探索者はそれぞれ、何らかの事情によって同種の彫像を入手しました。その彫像は羊の頭をして、ゆったりとしたローブを羽織った人型の、不思議な造形をしていました。その彫像を入手した場所は探索者によって異なりますが、それは「仕事帰りに偶然見つけた謎の露店で購入した物」であったり、「行きつけの骨董品店で見つけた掘り出し物」であったり、「古物収集が趣味の知人から譲り受けた物」であったりするでしょう。探索者はその彫像を一目見て、その佇まいに何か強烈に惹かれてしまい、入手した後、眠りに就く際にも傍に置いていました。

 探索者の服装や、身に付けている装飾品等は、キーパーの裁量、もしくはキーパーとプレイヤーの話し合いによって自由に決定して良いですが、日常的によく着ている私服等が好ましいでしょう。

 なお、この世界では、各自がどのような言語で話していたとしても、お互いの言語で話をしているように意思が疎通できます。

 車室の中は、青いビロードを張った腰掛が、まるでがら空きでした。車窓の外には、どんな場所でも見た事がないほど、幾千幾万もの星が輝く、明るい夜空が広がっているばかりでした。それは視線の先、何所まで行っても地平線がなく、[探索者]を乗せたこの列車は、いくつもの星屑を掻き分けるようにして、ずっと空の上を飛んでいました。

SANチェック 0/1D2

天文学:窓の外に広がる星空が、地球上で見る事が出来る夜空と星の位置が異なり、ここが地球から遥か離れた場所ではないかと推測出来る。

 ふと見れば、直ぐ傍の席には、真っ黒な上着を着た、背の高い子供が、窓から頭を出して外を見ていました。俄かにその子供が頭を引っ込めて、[探索者]を見ました。それは、飾り気のない眼鏡を掛けた、肌の白い少年でした。

「こんばんは。君は、どちらまで行くんだい?」

 少年は、はにかんで[探索者]に尋ねました。

 列車の中で出会った少年は、探索者に上記のように問いかけます。現状に困惑している探索者達は、目的地を聞かれてもそれに答える事は出来ないでしょう。逆に、少年に対して、自分の置かれた現状や、乗っている列車について尋ねると思います。キーパーは、探索者と少年との会話を通して、必要に応じて下記の情報を開示してください。

<列車の中で出会った少年について>

 探索者に声をかけて来た少年は、「天野航」と名乗ります。肌の色が白く、何所か線の細い印象のある少年です。天野は、好意的に探索者との会話を試みます。

 天野は自分自身に付いて、探索者と同様に、気が付いたらこの列車に乗っていたのだと語ります。探索者と異なるのは、もうずっと、何年も前からこの列車に乗っているという点です。天野が乗車している間、この列車は明けない夜を直走り、いくつもの停車場を繋いで来ました。そこには「星屑の川に立つ、彗星よりも大きな十字架」であったり、「途方もなく長いシルクのような、純白のオーロラ」であったり、全て幻想的な風景が広がっていて、とてもこの世の物とは思えない物ばかりでした。

 天野にとって、探索者達は何十、何百人目かにあたる、旅の道連れです。天野は今まで、様々な乗客と話をしながら、この長旅を楽しんでいました。乗客には、明確な目的地があって乗り込んでくる者や、天野や探索者達のように気が付いたらこの列車に乗っていた者がいたと言います。乗客達は、それぞれの目的地である停車場で降りて行ったり、いつの間にかいなくなっていたりしました。

 天野は、現実の世界で自分がどのような生活を送っていたか、覚えていません。夜中に見た夢の記憶が時間と共に欠け落ちていくように、この世界では現実世界での記憶が薄れていってしまうようだと言います。記憶を失った天野は、現実世界へ帰りたいというような、郷愁を持っていません。

<夜空を行く列車について>

 天野は、この列車について詳しい事は知りません。他の誰も、この列車について起原や存在の理由を知る者はいないようだと語ります。人伝に聞いた話では、この列車をしっかりとした名称で呼ぶのであれば、「ゲンソウダイヨジノギンガテツドウ」と呼ぶのだそうです。

 天野は、今までに見てきた景色から、この列車が行く世界を、自分がかつて暮らしていた現実世界とは異質の、全くの異世界だと思っています。まるで夢の中で生活しているかのようで、この世界では食事や睡眠を取る事は出来ますが、例えそれらを取らなかったとしても不自由を感じる事はありません。この列車は異世界を気ままに走り続けており、同じ場所を通ったり、逆に走ったりしながら、乗客をあちらこちらに運んで行きます。

導入:検札

 探索者が列車で目を覚まし、しばらく経った頃(恐らくは天野と会話が程よく進んだ頃)に、車室に車掌が訪れ、検札を行います。

「切符を拝見いたします」

 [探索者]の横には、赤い帽子を被った車掌が、いつの間にか真っ直ぐ立っていました。若く、目鼻立ちが整っていて、性別も定かではないその人物は、切符を求めて手を差し出して来ました。天野は、自分のポケットに手を入れ、灰色の切符を取り出して見せました。車掌はそれを見ると直ぐに眼を逸らして、あなた方もと言うように、指を動かしながら[探索者]の方に手を差し出しました。

 突然に切符を求められた探索者は、そんな物、見た覚えもないと思う事でしょう。切符など知らないと言う探索者には、天野は「よく探してごらん」と言います。探索者が自分の衣服や、身の回りを調べると、そこに自分の切符があった事に気が付きます。探索者が複数人いる場合にも、全員が同様に下記のような切符を見つけます。

<探索者の切符>

 探索者が自分の衣類や、身の回りを改めると、そこに緑色の切符がある事に気が付きます。切符は、四つに折った葉書ほどの大きさで、探索者の名前と、「ハリ湖ゆき」と言う文字が印字されています。

 なお、天野が車掌に差し出した灰色の切符には、天野の名前以外、何も印字がされていません。これは、かつて天野がこの列車で目を覚ました際に、いつの間にかその手に持っていた物です。灰色の切符には行き先が書かれていない為、天野は何所の停車場にも降りる事が出来ません。

「ほほう、これはこれは…」

 車掌は[探索者]の差し出した切符を見るや否や、真っ直ぐに立ち直って丁寧にそれを見ました。そして切符を読みながら、上着のボタンをしきりに直したりしていました。

「よろしゅうございます。”ハリ湖”は次の駅となります。そこへ着きますのは、次の三時頃になります」

 車掌は切符を[探索者]に渡すと、次の乗客へと歩いて行きました。

 これ以降、車掌を追いかけて話を聞こうとしても、「あの停車場で降りられるお客様は珍しいですから」といった内容しか答えてくれず、どのような停車場なのかは教えてくれません。また、車掌が次の車両以降に姿を消してしまったならば、その後に車掌を探したとしても、何所に行ってしまったのか姿が見えなくなってしまいます。

「なんだ、君には行く場所があるんじゃないか」

 [探索者]の切符を覗き込んで、少し驚いたように天野は言いました。そして、直ぐにその顔をしかめました。

「でも何だってあんな停車場に…。あそこは、僕が知る限りでも飛び抜けて邪悪で、恐ろしい場所だよ」

 天野は、何か恐ろしい物を思い出したように顔を青くして、探索者に言いました。

 キーパーは、天野と探索者との会話を通して、ハリ湖について下記の情報を開示してください。

<ハリ湖について>

 この夜を行く列車は、天野が乗っている間に一度だけ、ハリ湖に訪れた事がありました。天野はその時の光景を今でも鮮明に覚えています。ハリ湖は、墨のように真っ黒な水が溜まった、見渡す限り広大な湖です。暗い雲に覆われた空には、鮮やかな血のように赤い星が2つ、燃えるように輝いています。辺りはひたすらに不毛で、湖面を風が波立たす事もありません。そんな空虚な世界で、8本の蛇のようにくねる手足を持ち、骸骨のような頭をした生物が、彼方此方で静かに浮かんだり漂ったりしながら、停車場に停まった列車を見ていました。その様はまるで獲物を品定めしているかのようで、天野はとても怖くなって、身震いが止まりませんでした。

「本当に、何も知らないのかい?」

 天野は少しの間、黙って考えました。

「それなら、ハリ湖に行くのは止した方がいい。きっと、君は何かの間違いでここに来てしまったんだ。君のそんな様子じゃあ、降りた途端に気を狂わせてしまうか、化け物に食べられて死んでしまうか、とにかく普通ではいられないよ」

 天野は困った顔で、深いため息を吐きました。

「でも、このままだと、とてもマズいね。この列車は、いずれハリ湖に着いてしまう。切符を持ってないとこの列車には乗っていられないから、君の意思と関係なく、君はどうしてもハリ湖で降ろされてしまう。君が無事に現実の世界に帰る為には、ハリ湖に列車が着いてしまう前に、何か特別な手段を見つけなくてはならないんだけど…」

 天野は不意に座席から立ち上がりました。

「そうだ、ちょっと来てくれないか」

 そして、そう言うと、後ろの車両へと歩き出しました。

 天野は、探索者達が最初に目を覚ました車両から、列車の進行方向に対して一つ後ろの車両へと向かいます。そこは貨物車両となっており、客車とは大きく異なった様子です。

 天野は、後ろの車両へと続く木製の扉を開き、その向こうにあった貨車の厳つい鉄扉も、重たそうに開けました。灯りがなく、小さい窓しか付いていない貨車の中は、薄暗がりでした。貨車の左右には金属製の大きな箱や、古めかしい本が積まれていましたが、車両の奥まで歩いて行けるように、真ん中は道のように開かれていました。天野はそこを歩いて貨車の奥へと向かいました。

 貨車の奥は部屋のように、一角が開けていました。そこに、見慣れぬ物がありました。それは、分厚くて大きな、石造りの門扉でした。その扉は固く閉ざされていて、表面には見た事もない歪な記号が、ぎっしりと刻み込まれていました。門の背後には直ぐに壁があって、扉を開けて通ったとしても、それにぶつかってしまう事は明らかでした。[探索者]には、その門が何の為に立っている物なのか、からっきし分かりませんでした。

「この門なんだけど、どうやら元の世界に戻る為の物のようなんだ」

 天野は、門の傍の壁に貼られた古めかしい紙を指で示しながら言いました。

オカルト:自分に見える範囲で、門の表面に刻まれた記号が、人と人との意思疎通の為の文字ではなく、魔術的な”回路”の一種である事が分かる。(オカルトに対して特に見識や才能のある探索者であれば、この記号が何かの現象や使用者の行動に呼応して活性化する、高度な魔方陣である事が分かる)

 天野が指差した紙には、下記のような文章が記載されています。

 遥か遠く、外より来たりし異邦人よ

 地を過ぎ、霊を過ぎ、在るべき座標に帰るため

 君が為に門は開かれん

 王たる星に火を灯し

 光る刻印に魔女の血を注げ

 さすれば帰還の願いは叶えられん

天文学:「王たる星」の言葉から、紀元前3000年頃のペルシアにて、四季の空を支配する王者の星として、アルデバラン、レグルス、アンタレス、フォーマルハウトの4つが、ロイヤルスターと呼ばれていた事を想起する。

考古学・地質学:門扉が、遥か昔、恐らくは2000年以上前に作られた物である事が、外観から推測出来る。

「僕がこの列車の中で目を覚ましたばかりの頃、訳知り顏のご老人が乗ってきてね。この門の事を教えてくれたんだ。これは”帰還の門”と言って、僕のようにこの世界に迷い込んでしまった者を、元の世界に帰してくれる物らしい。僕は帰りたいとは思わなかったから、使おうとは思わなかったんだけど。”王たる星”や”魔女の血”が何の事を指しているのか、さっぱり分からないしね」

 天野は胸元から懐中時計を取り出しました。

「君が元の世界に戻る為には、この門を使うしかないと思う。車掌さんが、ハリ湖に着くのは3時頃と言っていたね。今はもう1時になってしまった。後、残された時間は2時間しかない。手がかりは壁に貼られた紙切れ一枚しかないのだけど、どうにかしてこの門を開こう。僕も手伝うよ」

 これ以降、探索者による探索パートが開始となります。上記でシナリオクリアまでの制限時間を示しましたが、探索者の人数や難易度によって、時間はキーパーが調整してください。

 天野は探索者の探索を積極的に手伝う事でしょう。キーパーは天野を介して、探索者の探索をサポートしてください。

 

シナリオ 探索パート

クリアへの過程

 このシナリオは、探索者が自分の入手したアイテムを活用しつつ、”わらしべ長者”のように物々交換をしたり、取引やアイテムを加工したりしながら、最終的に目的の物を手に入れてこの列車を脱出するという筋書きです。下図に、探索者が目的のアイテムを手に入れるまでのフローを示します。キーパーは各自の趣向に合わせて、下図のフローのアイテムを変えたり加えたりしながら、シナリオを改変しても良いでしょう。

 上記のアイテムをカード状の画像にまとめた物を、アイテム画像一覧に用意しました。キーパーを行う際に、ご自由にご使用ください。

 なお、このシナリオ中では、探索中の目星や聞き耳のロールに失敗した場合でも、適当な時間を置き、改めて振り直す事が出来るものとします。成功するまで振り直す事が可能ですが、ロールを行う度に時間を消費し、その分、列車はハリ湖に近付いて行ってしまう事でしょう。

夜空を行く列車

 夜空を行く列車は、下図のような編成となっています。今後の探索を円滑に進める為、探索パート開始と同時に、下図を探索者に開示してしまって良いでしょう。この列車の中が、探索者が探索可能な範囲となります。

帰還の門

 導入部に記載しましたように、帰還の門は貨車の奥に設置されています。石造りの門で、扉は固く閉ざされており、表面には様々な記号がぎっしりと刻印されています。このシナリオは、探索者がこの門を通して元の世界に戻る事でクリアとなります。

 探索者が門の扉を力づくで開けようとしても、扉はぴくりとも動きません。探索者が表面の刻印をよく見る場合、下記のロールを行ってください。

目星:門扉に刻まれた刻印の一部に、「目を閉じて進むべし」と書かれていると気付く。

貨車

 貨車の中には、所狭しと金属製の大きな箱や、古書が積まれています。もし、キーパーが必要と判断したならば、縄や虫取り網など、今後の列車内の探索を補助する道具がある事にしても良いでしょう。

 金属製の箱は、外観に継ぎ目や溝などが無く、ただの直方体のように見えます。しかし、持ち上げてみると、その中が空洞になっていて、何か物が入っている事に気が付くでしょう。箱は開ける事が出来ず、どのような衝撃を与えたとしても壊れる事もありません。

 積まれている古書は、適当な数冊を取り上げて読んでみても、探索者の知らない言語で書かれている物ばかりで内容を知る事は出来ません。探索者の読める本を探す為には、この項で後述するロールが必要になります。

 もし探索者が、積まれた金属製の箱を調べる場合は、下記の目星のロールを行ってください。

目星:探索者の名前が刻印された金属製の箱を見つける。

目星:天野航の名前が刻印された金属製の箱を見つける。

<探索者の名前が刻印された金属製の箱>

 黄金色の金属で出来た、探索者の名前が刻印された箱です。探索者が複数人いる場合は、全員が連名で記載されています。他の箱と同様に、外観に継ぎ目や溝などはありませんが、探索者が開けようと試みると、不思議と裂け目が入って開ける事が出来ます。

 箱を開けるとその中には、羊の頭をしてゆったりとしたローブを羽織った人型の彫像が入っている事が分かります。その彫像を見ると、それは探索者が現実の世界において眠りに就く前に、何らかの手段で入手した不気味な人形である事が分かります。

 探索者が彫像を見ていると、彫像は意思を持つ生物のように、その頭をもたげ、探索者の事を見つめます。そして、口を開き、邪悪さを帯びた老人のような声で「贄の用意は整った。いざ行かん神の御許へ。いあ!いあ!」と騒ぎだします。

SANチェック 0/1D2

 探索者が箱の蓋を閉める場合は、この彫像の声は止みます。探索者が彫像を壊そうとしたり、持ち出そうとしたりする場合は、彫像は不気味な笑い声を上げながら、空間に溶け込むように姿が薄れ出し、瞬く間にその身を隠してしまいます。

SANチェック 0/1D2

 このイベントは、探索者に羊の頭をした彫像が邪悪な物であると、はっきりと理解してもらう為の物です。

<天野航の名前が刻印された金属製の箱>

 黄金色の金属で出来た、天野の名前が刻印された箱です。他の箱と同様に、外観に継ぎ目や溝などはありませんが、探索者に請われた天野が開けようとするならば、不思議と箱に裂け目が入って開ける事が出来ます。天野はこの箱を以前、開けた事があり、中身については既に知っています。

 箱を開けるとその中には「優しそうな男性と女性」の写真が入っています。写真に写った男女の面影は、何所か天野と似ています。天野は、列車に長く乗り過ぎた為に元の世界の記憶が欠落してしまい、今ではその写真に写る男女の事を何も覚えていません。ですが、写真を見ると不思議と懐かしさを感じ、写っている男女は、恐らくは自分の両親だろうと話してくれるでしょう。

 実際にこの写真は、天野の両親の写真です。天野は、両親と離れて、この異世界に迷い込んでいます。

 もし探索者が、積まれた古書を調べる場合は、下記の目星のロールを行ってください。

目星・図書館:探索者が読む事の出来る言語で記述された、「地球人の占星術」に関する古書を見つける。(この本は、”王者の星”についての情報を探索者に開示する為の物です。導入部分で探索者が天文学のロールに成功し、”王者の星”に関する情報を持っている場合には、この本は不要です)

目星・図書館:帰還の門に刻まれた刻印と同様の記号が、表紙にぎっしりと印字された「手帳」を見つける。

<地球人の占星術に関する古書>

 地球で人類が行う、占星術に関する本です。この本に対して図書館の技能でロールを行い、成功すると、次のような記述を見つける事が出来ます。

 紀元前3000年頃のペルシアでは、各四季の空をそれぞれ支配する特に明るい星として、アルデバラン、レグルス、アンタレス、フォーマルハウトの4つの星を、”王者の星”と呼んだ。”王者の星”は、西洋では王家の運命を占うための星として、しばしば占星術に用いられた。

<貨車で見つけた手帳>

 帰還の門に刻まれた刻印と同様の記号が印字されたこの手帳は、その中身も同様に奇妙な記号で記述されています。この本に対して図書館の技能でロールを行い、成功すると、探索者が読む事の出来る言語で記述された次のような文章を見つける事が出来ます。

 先へ進む者、決して戻るべからず。君が為に、門は二度開かず。

三号車

 三号車は、探索者がこの列車の中で目を覚ました場所です。2対2で対面するように座る事の出来る、青いビロードを張った腰掛が、車両の中に並んでいます。

 三号車の中には「星売りの男」と「少女」がそれぞれ乗客として座っています。また、この車両の中には猫が潜んでいます。

聞き耳:この車両の中の何所からか、猫の鳴き声が聞こえる。

 上記の聞き耳ロールに成功した後、猫の鳴き声がした方を探すと、そこに何かをくわえた黒猫がいる事に気が付きます。黒猫は探索者の姿を認めると、何かをくわえたまま逃げるように走って行ってしまいます。

目星:猫がくわえている物が、眼鏡であると気が付く。

 逃げた猫を捕まえる為には、猫とのDEXの抵抗ロール(猫のDEX:13)が必要となります。DEXの抵抗ロールに成功した場合は、猫を捕獲する事に成功し、それがくわえていた「黒縁の眼鏡」を入手する事が出来ます。この眼鏡は非常に度が強いものの、地球上の人間のかける一般的な眼鏡のようです。この眼鏡の本来の所有者は、二号車に乗車している「初老の男性」です。初老の男性の詳細は、「二号車」の項をご確認ください。

 もし、猫とのDEXの抵抗ロールに失敗した場合は、猫はこの車両から逃げ出してしまいます。一号車から貨車までの間の、何所かの車両に逃げ込んでしまった事でしょう。キーパーは、探索者が他の車両を探索する際に、改めて上記の猫に関する聞き耳や目星のロールを行い、探索者に猫とのDEXの抵抗ロールに再度挑戦してもらいましょう。これは探索者が猫を捕獲するまで続きます。もし探索者の技能値が低く、成功が難しいようでしたら、貨車の中に「捕獲用の網」や「猫が好むマタタビ」等のアイテムを配置して、探索者をサポートすると良いでしょう。

星売りの男

 三号車の乗客「星売りの男」は、星屑を売り歩く旅商人です。夜空を行く列車の走るこの世界で生まれ育った者で、探索者や天野とは性質が異なります。外観は、地球に住む人間と変わりません。茶色の外套を着て、くるんと巻いた髭を持つ中年の男性です。白い布の袋で包んだ荷物を、直ぐ横に置いて座席に座っています。星売りは、探索者に対しても星屑を売ろうと声を掛けて来ます。

「やあやあ、旅のお方。星屑は要らんかね」

<星売りの商売>

 星売りは、買い手の記憶を代価として、星屑を売り歩いている旅商人です。探索者に対しても、商売品である星屑を売ってくれます。この星売りが持っている星屑は、以下の4種類になります。星屑は海辺の砂のような外観をしていて、拳ほどの大きさの瓶に詰められています。

[↓カノープスの星屑/ベガの星屑/リゲルの星屑/アンタレスの星屑]

 この星屑を手に入れる為には、それぞれ代価として記憶を支払わなくてはなりません。具体的には、基本能力である知識と、医学や化学といった知識技能の値を支払う事になります。一つの星を買う為には、前述の技能値を全て、現在の値から半減させる必要がある事にすると良いでしょう。探索者が簡単に全ての星を購入出来てしまうと、探索のゲーム性が失われてしまいますので、全ての星を買うと探索者にとって大きな痛手となってしまうように、その価格(支払わせる値)を調整すると良いでしょう。例えば、探索者の人数が複数の場合は、それに合わせて星屑の価格を上昇させると良いかと思います。なお、星屑の価格は、値切りのロールによって半額にまで減らす事が出来る物とします。

 上記の、支払いとしての能力値の低下は、このシナリオ中のみの低下となります。探索者の魂が、夜空を行く列車から脱出し、元の世界に生還を果たすならば、その肉体・脳に貯蓄された知識として、再び失った分の能力値を取り戻す事が出来るでしょう。しかし、この夜空の列車の中にいる限りは、失った技能値を取り戻す事が出来ません。

 探索者が、探索によって「王者の星」の情報を得ている場合、その星の名前と照らし合わせて、アンタレスが「王たる星」であり、門を開く為に必要な物である事が分かるでしょう。なお、探索者が王たる星が何を指しているのかを尋ねたとしても、星売りには何の事だか分かりません。

 星屑は、ライター等によって灯される、通常の炎では燃やす事が出来ません。星屑を燃やす為には、「萌黄色の炎」が必要になる事でしょう。「萌黄色の炎」は二号車にいる「異形の巨人」が所持しており、特定の条件を満たすと探索者に譲ってくれます。

少女

 三号車の乗客「少女」は、一人で静かに座席に座っています。何だか目も空ろなようで、眠そうにしているように見えます。

アイディア:少女の髪が少し乱れていて、癖が付いている事に気が付く。

 この少女も、探索者と同様に、気が付いたらこの列車に乗車していました。探索者と異なるのは、少女の切符は灰色で、行き先が指定されていない事です。少女は、列車に乗車する前に、母親に連れられて、自宅の近所にある川辺で遊んでいた事を覚えています。

 この少女の髪が乱れているのは、「髪留め」で留めていた髪を解き、癖が付いてしまっている為です。少女はこの列車に乗車する際、髪留めを落としてしまっていましたが、未だ自分ではその事に気が付いていません。その髪留めは、少女にとって母親から譲り受けた大切な物で、失くした事に気が付くと、彼女はとても落ち込む事でしょう。

 少女が落とした髪留めは、二号車に落ちています。探索者が二号車で髪留めを見つけて、それを少女に見せるならば、少女は自分が髪留めを落としていた事に気が付き、慌てます。探索者が髪留めを少女に渡すと、少女はとても喜ぶ事でしょう。髪留めを返してもらった少女は、探索者にお礼として「虹色の花」を渡してくれます。

 虹色の花は、少女が列車の中で目を覚ました際に、その手に持っていた物です。花びらの一枚一枚が異なる色味をしていて、色彩豊かな一輪の切花です。

生物学:「虹色の花」が、地球上に存在するどんな植物とも構造が異なり、未知の植物である事がはっきりと分かる。

 この虹色の花を持ったまま探索者が二号車に行くと、二号車に乗車している「異形の巨人」が様子を変えます。探索者が虹色の花を二号車に持ち込む場合は、「二号車」の項を参考にして、探索パートを進行させてください。

二号車

 二号車は、三号車と同様の作りとなっています。この車両の中には「異形の巨人」と「初老の男性」がそれぞれ乗客として座っています。また、この車両の中には「髪留め」が落し物として落ちています。

目星:座席の影に、髪留めが落ちている事に気が付く。

 上記の髪留めは、大きめのリボンが付いた、バレッタです。これは、三号車に乗っている「少女」が落とした物です。この髪留めを少女に渡すと、そのお礼として「虹色の花」を渡してくれます。詳細は「三号車」の項をご確認ください。

異形の巨人

 二号車の乗客「異形の巨人」は、アイハイ族という人型のクリーチャーの一個です。この生物の傍を通過する場合、下記のSANチェックを行ってください。

 遠目では、座席に座った大きな人影のように見えたそれは、良く見れば人間の物ではなく、まるで怪物でした。その怪物は、関節の多い手足を器用に曲げて、2mを優に超える巨体を椅子に押し込めていました。高く張り出した耳に、細長くひしゃげた鼻の穴をしていて、目の部分は深く深く奥に落ち込んでいました。その洞窟のような窪みには、点のように小さく、切っ先のように鋭い眼光が、赤く輝いていました。その怪物は、鼻息を荒くして、[探索者]の事を見つめ返しました。意識を吸い込まれるようなその瞳に、[探索者]はとても恐ろしくなりました。

SANチェック 0/1D8

 異形の巨人は、探索者の事を静かに見つめます。探索者から行動を起こさない限り、異形の巨人から探索者に対して、攻撃や交流等の行動を起こす事は通常ありません。

 探索者から異形の巨人に対して交流を図ろうとする場合、異形の巨人は探索者の言葉を理解する事が出来ません。探索者が何を話しかけようとも、獣の唸り声のような声を上げるだけで、会話が成立しない事でしょう。

 また、探索者が無闇に異形の巨人に攻撃を仕掛ける場合、異形の巨人は自衛の為にそれを受けて立ちます。アイハイ族との戦闘ロールを開始してください。(アイハイ族の能力は別途資料登場人物一覧(キーパー用)をご参照ください)

 アイハイ族は文化的なクリーチャーです。この生物は、花を愛で、その香りを味わう心を持っています。

 もし、探索者が三号車の少女から「虹色の花」を受け取っている場合、異形の巨人はその様子を変えます。座席を立ち上がり、列車の中を窮屈そうに移動しながら、虹色の花を持つ探索者の下まで近付いて来ます。そして、探索者に顔を寄せて、その匂いを頻りに嗅ぎます。

 探索者が、異形の巨人が花の匂いに反応しているのだと勘付き、その花を異形の巨人に差し出す場合、異形の巨人は静かにそれを受け取ります。そして探索者に、何所からか取り出した「萌黄色の炎」を手渡します。これは、花を受け取った事に対する、異形の巨人からのお礼の品です。

 「萌黄色の炎」は、地球上で一般的に見られる炎と異なった性質をしています。小ぶりな瓶に詰められたそれは、陽炎のように揺らめきながら、燃え尽きる事なく萌黄色の光を放っています。探索者がその瓶を手に取ると、仄かに暖かさを感じます。

 この不思議な炎は、星屋の商品である星屑に、火を付けることが可能です。特に、アンタレスの星屑に火を付ける場合は、星屑を燃やす炎はその色を変えて、赤く輝き始めます。アンタレスの星屑に火を付けて、「帰還の門」を照らすと、帰還の門はその様子を変えます。その際はエンディングAの項を参考にして、描写を行ってください。

 もし、探索者が攻撃によって異形の巨人を打ち倒してしまった場合、その倒れこんだ巨体の傍に、瓶に詰められた「萌黄色の炎」が落ちている事でしょう。野蛮ではありますが、そのような方法でも萌黄色の炎は入手が可能です。

初老の男性

 二号車の乗客「初老の男性」は、座席から離れ、床に這いつくばるようにして座席の下を覗き込み、何かを探している様子です。赤髭を蓄えたこの男性は、眉間に皺を寄せて、少し険しい顔をしています。なお、この男性は風貌こそ地球に住む人間と変わりませんが、実体はこの不可思議な異世界で生まれ育った者で、探索者や天野とは性質が異なります。

 この男性は、自身が紛失した「眼鏡」を探しています。探索者が初老の男性に何をしているのか聞くのであれば、「この列車の中でうたた寝をしている内に眼鏡を紛失してしまい、辺りに落ちていないか探している」と説明をします。視力が悪く、眼鏡がないとほとんど視界がないという男性は、探索者にも眼鏡を探してくれないかと頼みます。探索者が男性と共に、付近を探したとしても、この時点で眼鏡が見つかる事はありません。

 この男性の眼鏡は、男性が寝ている間に、列車内に紛れ込んでいた「悪戯好きの猫」に盗られてしまっていました。猫の詳細は「三号車」の項をご確認ください。

 猫を見つけて、それを捕獲する事に成功すれば、「黒縁の眼鏡」を入手する事が出来ます。その眼鏡を「初老の男性」に見せれば、それが探していた自分の眼鏡であると大いに喜ぶでしょう。探索者が眼鏡を初老の男性に返すならば、男性はそのお礼として、自身が持っていた「銀色のチョコレート」を探索者に分けてくれます。

 初老の男性から手渡される銀色のチョコレートは、鳥の形をした可愛らしい物です。夜空を行く列車の走るこの世界では有名な甘菓子の一つで、特に女性に人気があります。見かけによらず、甘い物に目が無いというこの男性は、このチョコレートを沢山所持していました。

 この銀色のチョコレートは、一号車に乗車している「美しい女性」の大好物です。探索者が一号車に行き、チョコレートを美しい女性に渡すならば、女性は探索者に何かお礼をしてくれる事でしょう。美しい女性の詳細は、「一号車」の項をご確認ください。なお、探索者が初老の男性から貰ったチョコレートを食べ尽くしてしまったとしても、再び初老の男性にチョコレートを分けて欲しいと言えば、男性は快くそれを分けてくれるでしょう。

一号車(上等車)

 一号車は、二号車・三号車に比べて等級が上がるようで、高級感のある作りとなっています。車両の左側が通路となっていて、個室が3個並んでいます。個室の内、奥の二つは扉から明かりが漏れていませんが、手前の部屋は内側から明かりが漏れています。

 手前の明るい部屋の中には、「美しい女性」がいます。部屋の扉をノックしたり、声を掛ければ、中から女性が顔を出します。この女性は、異界を旅して魔術や神秘を探求する、魔女と呼ばれる存在です。

「何か御用?」

 女性の声がして、部屋の扉が開かれました。中から顔を出したのは、ゆったりとした黒いローブに身を包んだ、若い女性でした。目を疑う程に美しい顔立ちで、[探索者]は思わず息を呑んでしまいました。

「あら、迷子さん?ごめんなさいね、今はお相手をしていられないの」

 扉から除く部屋の中は、列車の客室とは思えない程、様々な物で溢れていました。机の上には理科の実験器具のような物がズラリと並んでいて、床には分厚い本の山が積まれていました。

アイディア:机の上に置かれた実験器具の中に、湯気の立ったティーカップを見つける。恐らくは、紅茶を飲んでいるのだと推測が出来る。

化学・物理学:女性の部屋の中に見える実験器具のような物が、地球上で見られる一般的な実験器具とはまるで異なる物である事が分かる。

オカルト:女性の部屋の中に見える実験器具のような物が、魔術的な研究を行う為に用いられる物であると分かる。

 女性は、「今は手が離せないの」と探索者の話を取り合ってくれず、直ぐに部屋に戻ろうとします。女性は、探索者を一目見て、探索者が脆弱なエーテル体であると見抜き、自分に利する人物ではないと見限りました。女性は、自身の魔術的な研究に戻りたいと思っていますが、探索者が女性との会話を熱心に試みる場合、少しばかりの話は聞いてくれるでしょう。その際、会話が長引く場合には、交渉技能が必要になる事もあるでしょう。

 もし、探索者が女性に、女性が飲んでいるだろう紅茶について聞く場合は、下記のような情報を開示してください。

「ええ、紅茶を飲んでいるの。頭を使うと、喉が渇いてしまってね。でも、もう紅茶も飽きてしまって。今は何だか甘い物を食べたい気分だわ」

 探索者が女性に、この銀河鉄道について聞く場合は、下記のような情報を開示してください。

「この列車は不思議よね。誰が作ったとか、何の為にとか、全く分からないの。私達が産まれる遥か前から存在していて、ずっとこの世界を走り続けているのよ。便利だし、有難い話じゃないの」

 探索者が女性に、帰還の門について聞く場合は、下記のような情報を開示してください。

「ああ、貨車にある門の事ね。私が作った物ではないから、詳しい事は分からないけど、大分古い物のようね。あまり賢くない人が作ったんだと思うわ。作りに無駄が多いもの。でも、あなた達のような魂が、肉体に戻る分には問題なく使用出来ると思うわ」

 探索者が女性に、「王たる星」や「魔女の血」について聞く場合は、下記のような情報を開示してください。

「さあ?あの門の作りから見れば、きっとあれは地球人が作った物でしょう。地球から見た星の序列なんて、私には興味が無いわ。私より、あなた達の方が詳しいんじゃないかしら」

「魔女の血だったら、私の血で問題ないと思うわ。私、魔女だから」

 上記の他、「星屑を燃やす為には、特別な炎(萌黄色の炎)が必要である」等、シナリオをクリアする為のヒントをこの女性を通して探索者に与えても良いでしょう。キーパーは適宜、この魔女という存在を活用してください。

 もし、探索者が女性の佇まいや会話の内容で、この女性が魔女であると勘付き、その血を求める場合、女性はそれを拒絶します。

「嫌よ。あなたも、突然に”血をください”と言われて、”はい、どうぞ”とあげられる物ではないでしょう?私の身体はね、あなたよりもずっと、生き辛い物なの。物を食べるだけで活動できるあなたとは違うのよ」

「私の血は、簡単にあげられる物じゃないわ。私が”血をあげても良い”と思えるような物を、見つけてきて頂戴。そうじゃなきゃ、私の血はあげられません」

 この女性は探索者に対してぞんざいな対応を取りますが、もし、探索者が二号車の初老の男性から受け取った「銀色のチョコレート」を女性に対して見せる場合は、女性は態度を変えます。

「まあ、その銀色のチョコレート!私、大好物なの。もう食べ尽くしちゃったんだけど、アルタイルまで大分距離があるし、しばらくは食べられないなって諦めていたのよ。そのチョコレートを私に頂戴!もし頂けるなら、あなた達が元の世界に戻る為に必要な、魔女の血をあげるわ」

 探索者がチョコレートを差し出すと、女性はそれを大切な宝物のように受け取り、顔を綻ばせながら、机の上にそっと置きに行きます。

 女性は、机の上にチョコレートを置くと、その代わりに金色の試験管のような物を持って[探索者]の下に戻ってきました。

「ちょっと待っててね」

 女性はそう言うと、試験管の先を親指と人差し指で摘み、左右に軽く振り始めました。最初は何も音がしませんでしたが、しばらくすると、試験管の中から、液体が混ざり合うような音が聞こえてきました。女性は、その音に満足そうに頷きました。

「はいどうぞ。”出来立てほやほや”の、私の血よ」

 女性は、金色の試験管を探索者に渡します。中を覗けば、そこに真っ赤な液体が入っている事が分かります。

 この液体は、紛うことなき「魔女の血」です。燃える王たる星に照らされた「帰還の門」にこの液体を垂らすと、帰還の門は扉を開きます。その際はエンディングAの項を参考にして、描写を行ってください。

その他の個室

 一号車の、明かりの点いていない個室は、空室となっています。中には、机と椅子、横になれるようなベッドが配置されています。探索する場所としては、特に手がかりはありません。特に設定をしませんので、キーパーで自由に演出を行ってください。

動力車・炭水車

 通常、シナリオをクリアする上で、炭水車も動力車も行く必要のない場所です。

 一号車と炭水車は、扉や道で繋がっておらず、移動する為には「窓から車両の外に出て跳び移る」など、突飛な行動とその為のロールが必要になります。炭水車と動力車の間の移動は容易で、特にロールは必要ないでしょう。これらは戻る時も同様です。

 探索者が炭水車に移動した場合、下記を参考にして描写を行ってください。

 箱のような形をした炭水車には、黒い小石が山のように積まれていました。動力車の煙突から薄っすらとした白煙が吐き出される所が見えました。煙は[探索者]の直ぐ横を過ぎていきましたが、まるで臭くありませんでした。

地質学:炭水車に積まれている黒い石が、炭ではなく黒曜石であると分かる。

 探索者が動力車に辿り着いた場合、下記を参考にして描写を行ってください。

 動力車の運転室には、誰もいませんでした。運転手がいないというのに、列車は勢いを落とさず走り続けていました。運転室の壁面には、大きかったり小さかったり、丸かったり角張っていたり、様々な計器やバルブが並んでいました。

操縦(機関車):一般的な蒸気機関車の構造と照らし合わせて、不明瞭ではあるものの、列車の運行に重要な役割を果たすバルブの存在を理解し、それを開けば速度を落とすことが出来るだろうと推測出来る。

※機械修理等の技能を活用しても良いでしょう。

 上記のロールによって気が付くことの出来るバルブを開けば、列車は速度を落とします。その場合は、列車がハリ湖に到着するまでの時間に、キーパーの裁量でボーナスを加えてください。

 もし探索者が当てずっぽうに装置を弄る場合には、幸運のロールで判定すると良いでしょう。成功すれば列車は速度を落とします。ただし、失敗した場合には列車は速度を上げてしまい、ハリ湖に着くまでの時間を短くする事もあるでしょう。

 

シナリオ 定期イベント

列車の進行

 列車の進行に合わせて、列車の外の世界は様相を変えて行きます。各段階において、下記のような描写を行う事で、列車が目的地に向けて、着々と進行している事を示すと良いでしょう。

①くじら島

 探索者が探索を開始して、ハリ湖に着くまでの時間の4分の1程が経過した頃、夜を行く列車は”くじら島”の近くを通過します。

 大きな警笛が鳴りました。ふと車窓を見れば、列車の外には星光を鈍く反射する、ゴムのような大地が広がっていました。大地には所々にフジツボのような隆起があって、よく見ればそれは波打って動いているように見えました。

「くじら島だね。ちょっとした惑星ほどの大きさはある、巨大な生きた”くじら”なんだ。背中には5つや6つも街があって、沢山の人が暮らしているんだよ。この島からエリダヌスの川を越えてプレアデスの観測所を過ぎてしまえば、もうハリ湖についてしまう。急がないと…」

 天野は[探索者]と同じように外を見て、教えてくれました。

②エリダヌスの川

 探索者が探索を開始して、ハリ湖に着くまでの時間の半分程が経過した頃、夜を行く列車は”エリダヌスの川”を通過します。

 再び、大きな警笛が鳴りました。車窓の外には、滔々と流れる大河が見えました。それは列車の下の空を、大きく弧を描くように流れていました。星光にキラキラと輝く水流は、川の中に散在する透き通ったオレンジ色の石くれを、ころころと下流へと転がしていました。

「エリダヌスの川だ。ああ、もうこんな所まで来てしまった。急がないとマズいね」

 天野は外を見ながら嘆息しました。

③プレアデスの観測所

 探索者が探索を開始して、ハリ湖に着くまでの時間の4分の3程が経過した頃、夜を行く列車は”プレアデスの観測所”の近くを通過します。

 警笛が鳴りました。車窓の外には、相も変わらず美しい満天の星空を背景にして、黒くて背の高い建物が4つ立っていました。その平屋根の上にはそれぞれ、いくつかの小さい星が輝いていて、星同士が身を寄せ合って、青白くてぼんやりとした光を放っていました。

「プレアデスの観測所だ。ここまで来てしまえば、ハリ湖はもう直ぐそこなんだ。どうにかしないと…」

 天野は強張った表情で言いました。

④ハリ湖の湖畔

 探索者が探索を開始して、間もなく制限時間が尽きてしまう頃、夜を行く列車はついに”ハリ湖”の湖畔へと至ります。

 気がつくと、車窓から見える先に、真っ黒な湖が広がっていました。墨汁を溜めたように黒いそれは、水面に波が一つもなく、まるでそこだけ空が抜け落ちたかのように見えました。

「ああ、ついに着いてしまう。あの化け物が、もう直ぐそこまで!」

 天野は顔を真っ青にして、その肩は震えていました。

 もし、この時点で探索者が帰還の門を起動させる見込みがない場合、列車はハリ湖に着いてしまいます。その場合はエンディングBを参考にしてエンディングを演出してください。

 

シナリオ エンディング

※探索の終盤、エンディングのシナリオ進行についてA・Bの2パターンを下に記載します。

エンディングA:帰還の門

 探索者が貨車の壁の貼紙に書かれた条件を達成すると、帰還の門は扉を開けて、その先に進む事が出来るようになります。

 探索者が、王たる星に火を灯し(アンタレスの星屑を、萌黄色の炎で燃やし)て、帰還の門の前に立つと、火に照らされた門が異変を起こします。下記の描写を参考にして、エンディングを演出してください。

 真っ赤にゆらめく星の火に照らされて、貨車の中は明るくなりました。門を見ると、扉に描かれた刻印がさっきよりも鮮明に見えるようになったと感じて、しばらくしてそれが本当にそうなのだと気が付きました。門の刻印は、周囲の光を寄せ集めて自分の物にするように、今では赤く光を放っていました。

 上記の状態で、発光する刻印に魔術師の血を垂らす(注ぐ)と、帰還の門がその扉を開きます。

 光る刻印に触れた血が、門の表面を覆いつくすように広がっていくのが分かりました。透明な水に赤い絵の具を垂らしたように薄く広がったそれは、瞬く間に門扉に定着して、門の刻印は更にその輝きを増しました。

 誰も触れていないのに、石造りの門扉が軋む音を立てながら緩やかに開きました。本来なら門扉の先には貨車の壁が見えるはずなのですが、不思議な事にその先には、絶え間なく色味を変え続ける玉虫色の空間が広がっていました。その空間は遥か遠くまで広がっているようにも、直ぐそこで終わってしまっているようにも見えて、脳みそが誤作動を起こしたように、少し眩暈がしました。

SANチェック 0/1

「この先に進めば、きっと元の世界に戻れると思う。僕も、この先に進んだ事がないから、不確かなんだけどね」

 天野はちらりと[探索者]の顔を見ました。目の前に現れた奇妙な空間に、[探索者]を誘導して良いのか、少し不安を覚えているようでした。

 天野は、この門について「元の世界に戻る為の門だ」と聞いた事があるだけで、詳しい事を知りません。この先に進むか否かは、探索者に委ねてください。

「君の幸運を祈るよ。ほんの短い間だったけど、君に会えて楽しかったよ」

 天野は少し寂しそうに、はにかんだような笑顔を浮かべました。

 探索者が門の先へと進む場合、通常であれば、ここで探索者と天野は別れる事になります。しかし、探索者によっては、天野に対して門の先への同行(元の世界への帰還)を提案する者があるかもしれません。探索者以外の者の帰還は、シナリオ進行の上では蛇足になりますが、演出を行う場合は、下記を参考にしてください。

 天野に元の世界への帰還を促す場合、基本的に、天野はそれを拒絶します。

「僕は、元いた世界の事は覚えていない。だけど、この列車に乗り込む前に、元の世界で何かとても恐ろしい事があったのは覚えているんだ。僕は今いるこの世界が好きだし、元の世界に戻りたいだなんて、ちっとも思っていないよ。僕の事は、気にしないでくれ」

 天野は、記憶を失ってしまった元の世界に対して、大きな恐怖心を抱いています。通常の説得では、元の世界へ戻る決断を下せない事でしょう。しかし探索者が、貨車で「天野の名前が刻まれた箱」に入っていた「写真」を発見しており、その写真(恐らくは天野の両親であろう男女)の話をした上で説得を行う場合には、天野の心は揺らぎます。下記の技能のロールを行い、天野が探索者と同行する決断を出来るか、判定してください。

説得・信用:天野が、元の世界へ戻る決断をする。

 また、探索者によっては、天野以外の乗客に、この帰還の門を使用して元の世界に戻る事を提案する事もあるでしょう。ほとんどの乗客は異世界の住人の為、帰還する必要もなく、その申し出を断ります。しかし、三号車の乗客である「少女」については、探索者と同じ世界から迷い込んだ者の為、探索者の申し出を受け入れるかもしれません。

 少女は帰還の門の先に広がる世界を見て、大きな恐怖心を感じて、先に進む事を拒否しますが、探索者が信用や説得のロールに成功すれば、門の先へ同行する決断をする事でしょう。

 探索者が門の先に進む場合、シナリオ進行は「目を瞑って進む」か「目を開いて進む」かの2パターンに分岐します。探索者が目を瞑って進むと宣言した場合はエンディングAa、それ以外の場合はエンディングAbを参考にしてエンディングを演出してください。

エンディングAa:目を瞑って進む

 探索者が、帰還の門の向こうの世界を目を瞑って進む場合は、下記の描写を参考にしてエンディングを演出してください。

 目を瞑って進むのは、とても勇気のいる事でした。視覚を無くすと、他の色んな感覚が鋭敏になった気がしました。一歩進む度に、足元の地面はゴムのような弾力を持ったり、泥沼のように沈み込んだり、まるで違う感触がしました。生暖かくて、甘ったるい臭いがしました。[探索者]は時が経つほどに方向感覚に自信を失い、真っ直ぐに歩けているのか、不安になりました。

 不意に、何かの視線と気配を感じました。少し間を置いて、他の視線と気配を感じました。近くで何かが蠢くような音がして、その気配が実体を持っている事が分かりました。遠くから近くから、沢山の何かが自分の様子を伺っているように感じました。[探索者]は少し、身に危険を感じました。

 上記は、探索者がデシュというクリーチャーの群れに囲まれている描写です。ここで探索者に、目を開くか確認すると良いでしょう。目を開く場合、エンディングAbのデシュの描写を参考にしながら、エンディングを演出してください。

 しばらく進み続けると、辺りに感じていた気配が消えました。瞼を閉じていても、それを透かして光が届き、徐々に周囲が明るくなっている事を感じました。不意に、瞼の裏に、羊のような角の生えた人型の影が見えました。そして耳元で、何かが囁くような声が聞こえました。

「迷える魂よ、来た道を戻りなさい。恐れる事などありません。神に選ばれたあなたは、光栄にも神の御許へと行く事が許されているのです」

心理学:囁くような声に、隠しきれない邪悪な意思を感じる。

 上記は、探索者をハスターの元へと誘おうとした彫像の声です。彫像は、元の世界に戻ろうとする探索者を、再びハスターの元へと引き返らせようと、探索者の下へと現れました。

 もし、上記の声の言う通りにして、元来た道を引き返した場合、逆進する内に意識を失い、気が付くとハリ湖に着く直前の列車の中に戻ってしまっています。その場合は、エンディングBを参考にしてエンディングを演出してください。

 上記の声に不審を感じ、無視して先に進む場合は、下記を参考にして描写を行ってください。

 突然、足元が深く沈み込みました。そして、底なしの沼に落ちていくように、[探索者]の身体は柔らかな地面に埋まっていきました。身体に力が入らなくて、もがく事も出来ませんでした。地面は人肌のように暖かくて、その熱が[探索者]の身体を包み込んでいきました。足が埋まって、胴が埋まって、肩が埋まって、ついに顔まで沈み込みました。[探索者]は急に意識が遠くなって、何も考えられなくなりました。

 上記は、帰還の門の終着地点です。帰還の門を通り抜ける事の出来た探索者は、元の世界への帰還を果たします。下記を参考にエンディングを完了させてください。

 身体が溶けたような夢うつつから、[探索者]は緩やかに目を覚ましました。ぼんやりとした視界に、見慣れた天井が映り込みました。そこは、前日に[探索者]が眠りに就いた、代わり映えのしない”いつもの場所”でした。

 どうやら、長い夢を見ていたようでした。良く眠っていたはずなのに、身体は疲れて、汗をかいていました。夢の内容は、良く覚えていました。夜空を行く列車に乗った、不思議な不思議な夢でした。こんな事、誰に話しても信じてはもらえないでしょうが、きっとあの夢は、この世界とは別の世界で起きた、本当の出来事なのだと、そんな風に感じられました。[探索者]の胸の内に、穏やかな安堵の情が満ち溢れました。

エンディングAb:目を開いて進む

 探索者が、帰還の門の向こうの世界を目を開いて進む場合は、下記の描写を参考にしてエンディングを演出してください。

 玉虫色の空間は、ずっとずっと遠くまで続いているようでした。空間が歪んでいるようで、先がどうなっているのか、まるで分かりませんでした。[探索者]は時が経つほどに方向感覚に自信を失い、真っ直ぐ歩けているのか、不安になりました。

 不意に、絶え間なく色味を変え続ける風景の中に、ポツリと影が見えたような気がしました。最初は気のせいかと思いましたが、ポツリ、ポツリとその影は徐々に数を増やしていきました。その影は徐々に色濃く、姿をあらわにしていきました。

 玉虫色の風景に溶け込んで、虚空を泳ぐように存在するそれは、1m程の大きさのある、巨大なオタマジャクシのような生物でした。銀色の外皮をしたそれは、締まりのない大きな口を持ち、頭には無数の小さな目が付いていて、その目の1つ1つが[探索者]の事を見つめていました。その生物は、いつの間にか[探索者]を覗き込むように、数え切れない程の個体が上空に存在していまいた。明らかに異界の住人であるその生物達に圧倒されて、[探索者]の魂は熱を失っていきました。

SANチェック 1/1D4+1

 上記で現れたオタマジャクシのような生物は、人類とは別の次元に生息する、デシュという異界のクリーチャーの群れです。帰還の門はデシュの生息する次元を通過して、探索者を元の世界へと連れて行きます。帰還の門を通っている限り、デシュは探索者を見つめるだけで、襲いかかって来る事はありませんが、ここで探索者がデシュに対して攻撃をしかけた場合には、デシュの群れは探索者に対して容赦のない攻撃を行います。その攻撃に対して、多勢に無勢の探索者は、無事でいられる事はないでしょう。もし、襲い来るデシュから逃げる場合は、DEX抵抗ロールにて判定を行ってください。(デシュの能力は別途資料登場人物一覧(キーパー用)をご参照ください)

 しばらく進み続けると、オタマジャクシのような生物の群れは、現れた時のように静かに、風景に溶け込むようにしながらその姿を消していきました。玉虫色の風景は徐々に色味を失っていき、[探索者]の周辺は白い光を乱反射するように、明るい霧の中にいるような情景となりました。ふと、その霧の中に、羊のような角の生えた人型の影が見えました。そして耳元で、何かが囁くような声が聞こえました。

「迷える魂よ、来た道を戻りなさい。恐れる事などありません。神に選ばれたあなたは、光栄にも神の御許へと行く事が許されているのです」

心理学:囁くような声に、隠しきれない邪悪な意思を感じる。

 上記は、探索者をハスターの元へと誘おうとした彫像の声です。彫像は、元の世界に戻ろうとする探索者を、再びハスターの元へと引き返らせようと、探索者の下へと現れました。

 もし、上記の声の言う通りにして、元来た道を引き返した場合、逆進する内に意識を失い、気が付くとハリ湖に着く直前の列車の中に戻ってしまっています。その場合は、エンディングBを参考にしてエンディングを演出してください。

 上記の声に不審を感じ、無視して先に進む場合は、下記を参考にして描写を行ってください。

 突然、足元が深く沈み込みました。そして、底なしの沼に落ちていくように、[探索者]の身体は柔らかな地面に埋まっていきました。身体に力が入らなくて、もがく事も出来ませんでした。地面は人肌のように暖かくて、その熱が[探索者]の身体を包み込んでいきました。足が埋まって、胴が埋まって、肩が埋まって、ついに顔まで沈み込みました。[探索者]は急に意識が遠くなって、何も考えられなくなりました。

 上記は、帰還の門の終着地点です。帰還の門を通り抜ける事の出来た探索者は、元の世界への帰還を果たします。下記を参考にエンディングを完了させてください。

 身体が溶けたような夢うつつから、[探索者]は緩やかに目を覚ましました。ぼんやりとした視界に、見慣れた天井が映り込みました。そこは、前日に[探索者]が眠りに就いた、代わり映えのしない”いつもの場所”でした。

 どうやら、長い夢を見ていたようでした。良く眠っていたはずなのに、身体は疲れて、汗をかいていました。夢の内容は、良く覚えていました。夜空を行く列車に乗った、不思議な不思議な夢でした。こんな事、誰に話しても信じてはもらえないでしょうが、きっとあの夢は、この世界とは別の世界で起きた、本当の出来事なのだと、そんな風に感じられました。[探索者]の胸の内に、穏やかな安堵の情が満ち溢れました。

エンディングB:ハリ湖

 もし、探索者が制限時間内に帰還の門を起動させる事が出来なかった場合、列車はハリ湖に着いてしまいます。そうなってしまったら、もう探索者には助かる術はないでしょう。キーパーは下記を参考にしてエンディングを演出してください。探索者は生きて元の世界に帰る事は叶わず、バッドエンドとなります。

 ガクンと車体が音を立て、[探索者]の身体は前のめりになりました。ゴトゴトと列車が走る音が、段々とその合間を長くしていきました。どうやら、列車が目的地に着いて、もう直ぐ停車してしまうのだと、はっきりと分かりました。窓を過ぎていく景色がゆっくりと速度を落としていき、その最中に[探索者]は、おぞましい物を見ました。

 窓の外に広がる真っ黒な湖の彼方此方には、骸骨のような頭をした不気味な生物が、沢山いました。その生物は、舌なめずりをするかのように、骨のない8本の手足をくねらせながら、全てが[探索者]の事を見つめていました。それは、空に浮かんだり、湖を漂ったりしながら、列車が止まるのを待っているようでした。[探索者]は、強烈な死の臭いを感じ、宇宙的な恐怖に魂が潰されそうになりました。

SANチェック 1D6/1D20

 硫黄の炎のような、暗いぼんやりした転テツ機の前の明かりが、窓の下を通りました。徐々に緩やかになった列車は、終いには人が歩く程の早さになり、大きく息を吐き出すような音を立てて、ついには走る事を止めました。

「ハリ湖でございます、ハリ湖でございます」

 アナウンスが聞こえました。ガタガタと機械的な音がして、外に出る列車の扉が開きました。列車の外には、大理石のような石材で出来た、簡素な停車場が見えました。そこには天井も壁も無く、湖のおぞましい光景が一望できるばかりでした。

 重い、水しぶきの音がしました。外の湖には、瞬きをする間に忽然と、太くて高い柱が立っていました。それは、真っ直ぐ天に向かって伸びていたかと思うと、蛇のように姿をくねらせて、よく見れば、まるで軟体動物の、あまりに巨大なタコの触手のようでした。それを見た途端、[探索者]の血は急速に温度を失い、圧力さえ感じる恐怖に、手足は震えるばかりで動かなくなってしまいました。再び、いくつかの水しぶきの音がして、その触手が次々と湖に生えていったかと思うと、不意に[探索者]の胴が何かに掴まれました。気が付くと、[探索者]の身体は醜悪な触手にひしひしと拘束されていて、身体の中身を全て吐き出してしまいそうになりました。不意に突風を感じたかと思うと、[探索者]は触手に乱暴に掴まれたまま、列車の外に引っ張り出されていました。湖に生えた触手が、次々と自分に向かって伸びてくるのが見えました。1本の触手は[探索者]の左腕を掴んだと思うと、ブチリと、それを身体から引き千切ってモぎました。嘘みたいに血が噴き出しました。常軌を逸した激痛に[探索者]の悲鳴が湖上に響き渡る刹那、ブチリと右足も引き千切られていました。意識が真っ赤に染まりました。ブチリ、ブチリ。ああ、もう何もかも手遅れでした。花を摘むように[探索者]は四肢がモぎ取られ、理性は爆ぜて、これから悲痛な死を迎えます。哀れな[探索者]は、湖の底に潜む、無情な神への捧げ物となるのです。

いあ! いあ! はすたあ! はすたあ!

 

シナリオのその後/正気度報酬

※探索を終了したその後の世界についてと、クリア後の探索者への報酬について記載します。

シナリオのその後:生還

※キーパーは、現実の世界に生還した探索者が星売りに支払った技能値を、忘れずに元の値に戻すよう注意してください。

※もし夜空を行く列車の中で、身体の何所かに負傷を負っていた場合、その部位は現実世界においても痺れたように動きません。この痺れは、軽度の負傷であれば1日程度で改善しますが、重傷の場合、回復するまでに数ヶ月から数年程度の月日を要する事でしょう。

 生還した探索者が現実の世界で目を覚ますと、眠りに就く前よりも身体は疲れていますが、その後は何の変哲もない日常に戻り、生活する事が可能です。探索者が枕元を見ると、そこには焦げたように黒くなった、人型の何かが置かれています。よく見れば、それが前日に入手した不気味な人形である事に気が付くでしょう。黄色の印の兄弟団によって作られた呪われたアーティファクトは、その使命を達成する事が叶わず、暴走した自らの魔力によってその身を焦がし、ついにはその機能を失いました。今ではただのガラクタと化しています。

シナリオのその後:天野・少女

 天野が探索者と共に夜空を行く列車から帰還していた場合、生還した探索者は手がかりもない為、天野が無事に帰還を果たしたか確認が出来ないことでしょう。しかし、生還から数日後には、報道される映像や写真の中に、天野と似た風貌の、痩せた少年の姿を見る事になります。その報道を良く見れば、「7年前の航空機事故によって意識不明に陥り、現在まで植物状態にあった少年が、奇跡的に意識を回復した」という内容である事が分かります。映像の中の少年は、今にも泣きそうな笑顔の両親に囲まれて、恥ずかしそうに笑っています。

 もし、三号車の乗客「少女」と共に夜空を行く列車から帰還していた場合、探索者は報道などで彼女の状況を知る事はありません。しかし、いつの日か、何所かの場所で彼女とすれ違う事もあるかもしれません。

成功報酬

  • プレイヤー個人の探索者が生還している場合:1d6の正気度報酬
  • 全てのプレイヤーの探索者が生還している場合:1d3の正気度報酬
  • 天野か少女が現実世界に帰還している場合:1ポイントの正気度報酬

 

あとがき

 私のテキスト化4作目の作品です。短編のシナリオを作るつもりでしたが、少し長くなってしまったような気がします。でもキーパーはしやすい部類だと思います。自分のシナリオの中では…。

 私は野良雲 一砂さんが作成されたフリーゲーム「ミミクリーマン」が大好きで。わらしべ長者的なミニゲームなのですが、こんな感じのシナリオを作りたいなァと思い、最終的にこのような形となりました。

 世界観は宮沢賢治さんの童話作品「銀河鉄道の夜」から発想しております。宮沢さんの作品も大好きなんです。基本的な設定の他、比喩表現など大いに参考にさせていただきました。拙筆なので、宮沢さんの超名作をまるで生かしきれていないと思いますが、色々勉強させていただきました。

 本当は”異世界クローズド”のシナリオってあんまり作る気はしてなかったんですけど、作ってみたら意外と面白くてビックリしました。シナリオ作成の自由度が高すぎて。今後はまた現実世界が舞台の神話的なお話を作ってみたいと思っていますけど、気が向いたら異世界が舞台の話も改めて作ってみたいです。

 当シナリオにつきましても、何か不足してる所や、問題点などありましたら、コッソリ教えていただければ幸いです。終わりまで読んでくださり、ありがとうございました。(2016/6/21)

-CoCシナリオ, 作者:ホリ, 耶話鳴えオリジナルシナリオ

関連記事

オペラ座の怪人

目次1 はじめに1.1 シナリオの概要1.2 シナリオの背景2 シナリオを始めるにあたって2.1 探索者について2.2 登場人物(NPC)について2.3 別途資料一覧3 シナリオ 導入パート3.1 導 …

みにくいワタシの子

目次1 はじめに1.1 シナリオの概要1.2 シナリオの背景2 シナリオを始めるにあたって2.1 探索者について2.2 登場人物(NPC)について3 シナリオ 導入パート3.1 導入:吉高歩美からの依 …

翁影島

目次1 はじめに1.1 シナリオの概要1.2 シナリオの背景2 シナリオを始めるにあたって2.1 探索者について2.2 登場人物(NPC)について3 シナリオ 導入パート3.1 導入:陸奥真行からの依 …

運命の悪戯

目次1 はじめに1.1 シナリオの概要1.2 シナリオの背景2 シナリオを始めるにあたって2.1 探索者について2.2 登場人物(NPC)について3 シナリオ 導入パート3.1 導入:いつもと変わらな …

眠り姫の事件簿

目次1 はじめに1.1 シナリオの概要1.2 シナリオの背景2 シナリオを始めるにあたって2.1 探索者について2.2 登場人物(NPC)について2.3 別途資料一覧3 シナリオ 導入パート3.1 メ …

耶話鳴え

 耶話鳴え(やわなえ)、それは良さ気な響きにそれっぽい漢字を当て嵌めただけの意味のない言葉――
 大人になりきれない社会人二人が、無駄に製作してきたシナリオたちを無意味に大公開。皆様も一緒に混沌としたクトゥルフ神話TRPGを楽しみましょう!

アイトネ スタジオ
>twitter