CoCシナリオ 作者:ホリ 耶話鳴えオリジナルシナリオ

G船上のアリア

投稿日:2019年10月12日 更新日:

はじめに

シナリオの概要

 探索者が目を覚ますと、大きく傾いた旅客船の一室でした。ギリギリと鋼鉄が軋む音、ゴポゴポと海が泡立つ音が聞こえます。探索者を乗せた船は、途方もない怪物に絡まれて、ゆっくりと沈んで行きながら、海底に眠る古き神の御許へと向かっていました。探索者はこの船から脱出するために、あらゆる手段を講じなければなりません。

シナリオの背景

 夢見小夜は全身全霊を傾けた夢を失い、絶望の淵に立たされていました。膨大な時間を捧げ、ようやく花開き、いざこれから実を結ばんとしていた彼女の才能は、無慈悲な交通事故によって、地に落ちてしまいました。モノクロームの鍵盤の上を、艶やかに飛び跳ねていた彼女の指は、まるでピアノを始めたばかりの頃のように、無彩色で干からびた音を鳴らすばかりでした。
 暗闇の底へと沈んで行く夢見に、周囲はとても温かでした。彼女のことを心から哀れに思い、彼女の幸せを願う優しい人々の声は、しかし彼女には響きませんでした。彼女にとって、演奏に懸けた情熱はこの上なく尊く、水泡に帰してしまった未来はかけがえのない物で、それらを突然に奪われてしまった彼女は、自分は死んだ方がマシとさえ思っていました。

 そんな彼女を見透かすように、彼女の欲する言葉を掛けたのは、とあるカルト教団でした。「耶話鳴く夜の教団」と称するそのカルトは、彼女の前で様々な奇跡を起こして見せました。不治の病を癒し、自然災害を予言する。彼女がカルトの虜になるまでに、時間はかかりませんでした。彼女は、自身の「指」を取り戻すために、カルトがこれから実行するという悪魔的儀式に、参加することとなります。
 カルトが計画していた儀式は、旅客船を一隻まるごと、大いなる古き神への生贄に捧げるという、とても大規模で醜悪なものでした。ただただ自分のためだけに、その儀式に参加した夢見は、その儀式の決行の直前に、これから生贄に捧げられる船の上で、何も知らずに乗り込んで来てしまった、知人である探索者達と出会います。
 夢見の心は乱れました。そして、周囲が見えなくなった自分が、取り返しのつかない悪事に手を染めようとしていることを、改めて、強烈に自覚しました。探索者を巻き込んではいけない、そう思った彼女は、探索者を救出すべく、探索者達を自分の部屋に誘い出しました。そして、探索者達に睡眠薬を飲ませ、この凶行から逃がそうとしますが…。

探索者について

  • プレイヤーが職種・技能など自由に作成してください。
  • 「導入パート」の項に記載されているように、探索者達は連れ立って旅客船グロリアに乗船することになります。探索者同士は知り合いであることとしてください。
  • プレイヤー間で相談し、脱出方法を考えるシナリオですので、複数人でのセッションが好ましいです。

 

シナリオ 導入パート

船上大音楽祭

  • 船上大音楽祭が旅客船グロリアで開催されます。探索者はこの音楽祭のチケットを入手し、参加することになります。探索者同士はお互いが知り合い同士で、全員が連れ立ってこの船に乗ることとしてください。
  • この音楽祭は、航海する船上で行われます。港を発った船は、日本の港を周遊しながら、同じ港へと戻ってきます。4日間程度の船旅となる予定です。
  • 国内だけでなく、海外の著名な音楽家も参加する、豪華絢爛な音楽祭です。

旅客船グロリア

  • 探索者が港に行き、係員にチケットを見せると、所定の手続きの後、船へと案内されます。
  • 旅客船グロリアは、日本の旅客船です。総トン数21,800トン、全長165.5m、全幅23.5m、航海速力最高21ノット、乗客定員最大520名、客室数200室、就航2017年。
  • タラップを上り、船内に入ると、煌びやかなロビーとなっています。黄金色の装飾がそこかしこに施されています。
  • 探索者が船内を歩き出すと、すぐに探索者達の名前を呼ぶ声がします。探索者達がそちらを見向くと、驚き、青ざめた顔をした夢見小夜が立っています。

<夢見 小夜(ゆめみ さや)>

 夢見小夜と探索者は旧知の仲です。探索者との関係は、探索者の特性に合わせてキーパーが決定してください。探索者は、「夢見は新進気鋭のピアニストであったが、交通事故によって指に障害を負い、技巧的な演奏が出来なくなった」ことを知っています。探索者は、過去、夢見がピアノの練習に明け暮れていた姿を見ていましたし、その才能が開花したことを嬉しく思い、事故で障害を負った際には彼女のことを想って悲嘆したことがあります。夢見の指は、今現在も素早く力強く動かすことが出来ません。

  • 夢見は探索者達の姿を見つけて動揺していたようだが、「話したいことがあるので、後で、私の部屋に来て欲しい」と言い、探索者達に部屋番号を教えます。部屋番号は「5005」で、この船のデッキ5(船内マップは後項)にあります。部屋番号を伝えた夢見は、「用事があるから、また後で」と言い残し、その場を足早に去っていきます。
  • 今、探索者が思い出せる情景は、これが最後です。この後、場面は大きく変わります。
  • キーパーの裁量により、夢見が探索者達と別れを告げた後に、探索者が船上を楽しむパートを入れても良いでしょう。この船には多数のレストランやカジノ、スポーツセンターや各種ショップが立ち並んでいます。

 

シナリオ 探索パート

目が覚める/夢見の客室5005号室

  • 知らぬ間に気を失っていた探索者は、大きく傾いた船上、客室の中で目を覚まします。導入時の描写から、この場所で目が覚めるまでの間の記憶は失われています。暗い部屋の中、窓の外から月明りが射し込んでいます。船が傾いていることで、客室の中は荒れています。部屋中にギリギリという鋼鉄が軋む音が響き渡り、また、この部屋のすぐ近くで、ゴポゴポと波が泡立つような音が聞こえてきます。誰か人の声や、足音は聞こえません。暗い海の中、揺り籠のように大きく揺れる船内は、強烈な不安を探索者に与えます。

    SANチェック1/1D3

  • この部屋には、「洗面台、テレビ、二段ベッド、クローゼット」の設備がありますが、テレビは床に振り落とされ、クローゼットの扉は開いています。床には「ハンガーや未開封の歯ブラシ」などの備品の他、「救命胴衣2着、船内新聞、開いた状態のキャリーケース」が散乱しています。

    目星:ベッドの陰に「空の瓶」が転がっていることに気が付く。

  • 窓を覗き込むと、晴れた夜空の下、手が届きそうなほど近くに見える海面は、大きくゆっくりと波打っています。船から少し離れた位置に、ちらちらと無数の赤い光が見え、それらは船を取り囲むように一面に広がっています。

    アイディアや博物学、船の運転や海に関する知識:波しぶきが上がり、船がゆっくりと前進していることに気が付く。

    生物学:赤い光が、未知の生物の眼のように感じられ、不吉な感覚を受ける。SANチェック0/1

    天文学:方角が分かる。この船の船首は南東を向いている。

  • 探索者の持つ携帯電話やスマートフォンは圏外で、通信が出来ません。これらの精密機器は、今後の探索者の行動次第で、水没したならば動かなくなることでしょう。探索者がスマートフォンや腕時計を確認するならば、探索者が目を覚ました時刻や日付が分かるかもしれません。探索者が目を覚ましたのは、探索者が旅客船グロリアに乗船した日の、夜10時です。
  • テレビを点けると、どのチャンネルに変えても、スノーノイズが流れるばかりです。クローゼットの中身は外に散乱していて、中は空の状態です。二段ベッドに誰かがいた形跡はなく、畳まれた状態の布団が壁際にずり落ちています。
  • 救命胴衣はこの客室に備え付けの物で、探索者達が装備することが可能です。
  • 船内新聞は船が出港する日の物です。「ようこそグロリアへ」と大きく記されたこの新聞には、クルーや船内設備、船内で開かれるイベントの紹介が掲載されています。この日の夜8時、デッキ7の海上シアターにて、大音楽祭のメインイベント「G船上のアリア」が開かれることが分かります。各国な著名な歌手が、オーケストラの伴奏でオペラアリアを歌うようです。
  • 床に転がる空の瓶は、中に白い粉のような物が付着しています。表面には英文が印刷されたラベルが貼られています。

    薬学、英語:この瓶が睡眠薬の錠剤が入っていた瓶だと分かる。中身の錠剤は見当たらない。

  • 開いた状態のキャリーケースには、その大きさに見合わず、中身は空の状態です。宿泊用の衣類などはありません。

夢見の客室5005号室の外/脈打つ巨大な触腕

  • 探索者が夢見の客室を出ると、暗い廊下に出ます。廊下には誰もいません。探索者のいた部屋から少し離れた場所、船の傾きを下った先で、この旅客船が大きく歪んでいることが分かります。瓦礫だらけで、ひしゃげた鋼鉄がむき出しになったその場所には、大きく崩れ落ちた天井から射し込む月明りにぬらりと照らされた、どくどくと脈打つ巨大な壁があります。その巨大な壁は、クレーターのような窪みが、しきりに開いたり閉じたりを繰り返しています。探索者が近寄ってよく見るならば、それは巨大な生物の一部であることが分かるでしょう。

    SANチェック1D3/1D6

    生物学:それが巨大なタコやイカなどの海生軟体動物の触腕だということが分かる。

  • 巨大な触腕の向こう側は、水没しています。
  • 探索者が目覚めた客室の扉を外側から見ると、見たことのない奇妙な模様が書かれています。歪な記号が組み合わさリ、三日月のような輪郭を作るその模様は、黒いペンで手書きされた物のようです。周囲の客室を見渡すと、他の扉にもチラホラと見受けられます。探索者がいた部屋の番号は「5005」で、乗船直後、夢見に誘われた夢見の客室であることが分かります。
  • 船に関する知識がある探索者であれば、今いる階層が、海面よりだいぶ高い位置にある階層であり、船の大部分が水没していることに気が付くかもしれません。
  • 探索者が巨大な触腕に攻撃、衝撃を与えるならば、この触腕はそれに反応して鳴動し、この客船を大きく揺らします。探索者がDEX×5のロールに失敗したならば、1D6のダメージを負うことになります。場所によっては、船から落ちてしまうこともあるかもしれません。

船内マップ

  • 脈打つ巨大な触腕によって破壊された船内マップは上図になります。上図を参考にシナリオを進行してください。探索者が目覚めた場所はデッキ5です。デッキ5は甲板のある階層で、本来なら海面が近い階ではありません。
  • このシナリオは、船内を探索しながら様々な道具や呪文を入手し、探索者の発想でこの船から脱出することをコンセプトとしています。想定している脱出方法は3つあり、それらはエンディングの項でチャートを説明しています。

水没した階段

  • 探索者がデッキ5から下の階に向かおうと階段に向かうなら、その階段は水没しています。船の動力部は全て海面より下にあり、機能していません。
  • この水没した階段の手前には、大きな血だまりが複数あり、そこから引きずるような血の跡が階段の下へと続いています。海面より下の血は、海水が洗い流してしまっているようです。探索者は知る由もありませんが、この血の跡は、後述する「幻影の門」を作成するために犠牲にされた者の跡です。
  • 水没した階段の水面は少し波立っているものの、水面が上がってくる速度は非常にゆっくりとしています。この船が全て沈没するまで、まだ時間はありそうです。探索者には知る由もありませんが、この船は、この船に巻き付いた巨大な触腕を持つ生物によって運ばれており、特定の座標まで至ったら、その場で海底まで引き込まれていく運命にあります。
  • 探索者がこの水没した階段の先へ行きたいと思い、水泳の技能ロールに成功したならば、成功した探索者は、階段の向こう側へ行くことが可能です。このロールを行う際、ロールに失敗すると水流に流されて船外に放出されてしまうかもしれないことを探索者は予期します。船外への放出は、命綱を付けることなどで回避が可能です。水泳の技能ロールに成功した探索者が、浸水した階段の向こうへと辿り着くと、そこには「閉ざされたラウンジ」があります。「閉ざされたラウンジ」の項を参考にシナリオを進行してください。探索者が水泳の技能に失敗したならば、探索者は突然の水流に巻き込まれて1D6のダメージを負います。命綱を付けていたならば、元の位置まで戻されてしまいます。命綱を付けておらず、幸運に失敗したならば、船外に放出されてしまいます。船外に放出された場合は、「海上」の項を参考にシナリオを進行してください。

救命ボート

  • 本来、救命ボートがあるべきはずの箇所には何もありません。救命ボートは既に耶話鳴く夜の教団によって全て落とされてしまっています。

客室(デッキ5/デッキ6)

  • デッキ5とデッキ6の一部には、客室の扉が並んでいます。夢見の客室の扉と同様の模様が描かれている扉も、時折見受けられます。
  • 船が歪んだことによって、扉が開かなくなった客室が多くあります。探索者が客室を見て回ろうとするならば、幸運の技能ロールに成功すると、鍵の空いている客室を発見出来ます。また、鍵開けの技能ロールに成功したならば、鍵のかかっている部屋にも侵入が可能になります。
  • 探索者が、扉に印のない客室に侵入すると、そこには船旅用の荷物が詰まったキャリーケースがあります。部屋の造りは夢見の客室と同様か、稀に豪華な造りの客室もあります。一室につき備え付けの救命胴衣を2~4人分入手することが可能です。キャリーケースの中身を漁るならば、娯楽用のビニールボートや、縄として使えそうな帯、その他、探索者が希望する物などを見つけることが可能です。見つけられるアイテムはキーパーの裁量とダイスのロールで判断してください。
  • 扉に印のある客室は、全て鍵がしまっており、侵入のためには鍵開けが必要となります。部屋の造りは夢見の客室と同様です。印のある部屋に侵入すると、どの部屋も、ほとんど荷物の入っていないキャリーケースがあります。

    目星:手記を発見する。

  • 探索者が印のある客室で見つけることが出来る手記は右記の3つです。探索者が目星の技能ロールに成功するごとに、数字の若い順から1つずつ見つけることが出来ます。手記①「我らが同胞であることを確認し合うための合言葉は、イア・イア・クトゥルフ」手記②「ついにこの日が来た。儀式の決行の日だ。武者震いがする。こんなにも沢山の人間を生贄にするだなんて! 海底におわす我らが神も、我らのことを目に留めてくださることだろう」手記③「海上を運ばれる船は、神域の座標に至ると、海底へと導かれる。それまでに団員は、各個に割り当てられた魔術にて、船を出て帰還せよ」
  • 探索者には知る由もありませんが、扉に描かれている印は、耶話鳴く夜の教団の間で認識される、耶話鳴く夜の教団の一員である証であり、呪術的な魔力から身を守る結界でもあります。扉に印の書かれている客室にいた乗客は全て、教団の構成員であり、この船の沈没を引き起こした者達です。他の一般的な乗客が、数日の宿泊を見越した荷物であるのに対し、沈没を計画した教団の構成員達の荷物はほとんどありません。

甲板

  • 甲板は傾き、坂になっています。不安定に揺れる甲板は、大きな波が起これば、探索者達が船から振り落とされてしまうことを予感させます。探索者達が命綱を用意するならば、船からの落下を防ぐことが可能です。探索者が落下した場合は、海上の項を参考にしてシナリオを進行してください。
  • 甲板に立って見渡せる夜空は晴れていて、とても綺麗です。

    天文学:暗い海上の上と言えども、空の星々はあまりにも強く燦然と輝いていることに気が付く。方角や時刻を知ることも可能。

  • 探索者が甲板から客室のある方を見ると、綺麗な夜空とは対照的に、おぞましい光景が広がっています。海面から、幾本もの巨大な触腕が天に向かって突き出しており、何本かは船に巻き付いて、船を押しつぶしています。それは、イカやタコの触腕とよく似ています。触腕の本体は、海面の下にあって、見ることが出来ません。探索者は船内、5005号室を出た場所でその触腕の一部を見ていたはずですが、うねうねと動き回り、どくどくと脈打つその触腕の全貌を見て、改めて、凍り付くような恐怖を感じます。

    SANチェック1D3/1D6(※船内で触腕の一部を目撃していた探索者は不要)

  • 甲板に立って見える船の周囲には、船から少し距離を開けて、あらゆる方角に無数の赤い光が点滅しています。探索者はその光に、得も言われぬ悪寒を感じ、その光がとても危険な物だと感じます。
  • 甲板を少し進むと、舳先の近くの床面に、青く光る刻印を発見することが出来ます。刻印は、見たことのない歪な記号が無数に、同心円状に並べられた物です。どのような原理で光っているかは探索者には理解出来ません。

    オカルト:この刻印が魔法陣であり、特定の条件を満たすと発動する物であることが分かる。

  • 甲板には様々な旅客船の備品があります。目星の技能ロールの成功によって、縄や梯子といった備品も入手が可能です。

海上レストラン

  • デッキ6にある海上レストランは、船と同様に傾いており、壁際に、机や椅子、割れた食器が押し寄せて、瓦礫の山と化しています。床には零れ落ちた料理やその染みが見受けられます。乗客の手荷物と思われる物も散乱していますが、不思議なことに、乗客の人々の姿は見受けられません。レストラン内には戸の開いた扉があり、奥に厨房があることが見て取れます。
  • 散乱した乗客の手荷物を調べるなら、デジタルカメラを発見し、入手することが可能です。また、目星の技能ロールの成功によって、「漂流記」という題名の本を発見出来ます。そのほか、この場所ではライターなどの乗客の手荷物として相応なアイテムを発見し、入手することが可能です。
  • 乗客の手荷物の中にあったデジタルカメラは、起動が可能です。そこには、探索者がこの船に乗船した日付に撮影されたデータが複数入っています。夫婦と思われる老いた男女のツーショット写真や、この船を港から撮影した写真などが、時系列順に並んでおり、その最後には動画が保存されています。探索者が動画の内容を確認すると、この海上レストランで楽しそうに食事をしている老女が写っています。夫に撮影されて恥ずかしそうに顔を手で隠すなどしていた老女は、しばらくすると、ふと、糸が切れたように気を失い、椅子から転げ落ちてしまいます。カメラには、撮影をしていた夫が、慌てて妻の元に駆け寄り、声を掛けている様子も写っていましたが、ほどなくして、夫も妻に多い被さるようにして気絶してしまいました。周囲の机でも、同様にして、多数の乗客が倒れていく様子が鮮明に映し出されています。船員は異変を察知し、狼狽した様子で倒れた人々の間を動き回っていましたが、すぐにこのレストランに、全身を黒いローブで覆った者達が次々と侵入して来ました。黒いローブの集団は、銃を突きつけて、驚きと恐怖で悲鳴を上げる船員達を脅し、彼らをレストランの外に連れ出して行きました。そして、静かになったレストランを映し、動画は終了しています。
  • 探索者が発見することが可能な「漂流記」という題名の本は、実際に漂流を経験した人物によって書かれた、海難事故に関する本です。「①水温による低体温症で、例え泳ぎに自信がある者であっても、水中では長く生きられないこと。②何か光を反射する物を活用し、海で通りすがる遠くの船に自身の存在を伝える方法。③その他、海上での飲み水の作り方、日光による低温やけどの恐れ、海に投げ出された時の浮かび方など様々な知識。④とても広大な海をあてもなく漂流した末に、通りすがりの船に救助される可能性は大変小さいこと」などが記載されています。これを読んだ探索者は、イカダの製作や運転に関する技能に+30%、漂流時の水泳技能に+30%のボーナスを得ることが出来ます。
  • 探索者が厨房に行くと、レストラン動揺に内部は荒れ放題です。割れた食器や調理道具が散乱しており、やや危険な印象を受けます。厨房の中を調べるならば、包丁、生肉、塩、ジップロックなどを発見し、入手することが可能です。

    目星:床に、瓶の破片が多数散乱していることに気が付く。瓶の破片にはラベルが付いている物があり、それは夢見の部屋で見つけた瓶に張り付けられていたラベルと同じ物であることが分かる。

  • 乗客のデジタルカメラに保存されていた動画は、黒いローブの集団が、料理に睡眠薬を仕込んで乗客を昏睡させた様子と、船員を脅しつけて後述する海上シアターに連れ出す様子が写っています。動画の撮影が終了した後、黒いローブの集団は、昏睡した乗客も海上シアターに運び出し、船員と乗客は海上シアターで殺害されています。

海上シアター

  • デッキ7にある海上シアターは、コンサートのホールのように、客席が多数、整然と並んでいます。前方には半円状の舞台があり、本来ならばそこで、演奏が繰り広げられていたことでしょう。しかし、薄暗い舞台の上、崩壊した天井から注がれる月明りに照らされたそこには、何かの塊が、山を作っていました。探索者が目を凝らすと、それが、無数の人の死体が積み上げられた物であると分かります。それらは明らかに自然に出来上がった物ではなく、誰かの意図によって組み上げられた物です。山のあちこちから、手や足が突き出しており、まるで醜悪でおぞましい、アートの作品のように思えます。探索者はその光景に、心臓を撫でられたような恐怖を感じました。

    SANチェック1/1D6

  • 探索者が客席を探索するならば、そこは血に塗れており、乾ききっていない血だまりで足を滑らせそうになります。シアター中央にある通路には、目立つ場所にスマートフォンを発見することが出来ます。また、壁際にはポツンと、他の乗客と比べて異質な黒いフードを被った男が倒れていることに気が付きます。男の身体には多数の穴が開いており、その傷跡は銃撃されたれた跡であることが容易に想像が出来るでしょう。探索者がこの男のフードを漁るならば、目星の技能ロールの成功によって、メモ「魚人の鎮静呪文」を発見することが出来ます。また、男のフードの裏地に白いインクで「歪な記号が組み合わさリ、三日月のような輪郭を作る模様」が描かれていることに気が付きます。これは、夢見の客室の扉に描かれていた模様と同じ物です。
  • 探索者が舞台上を探索するならば、目星の技能ロールの成功によって、死体の山のすぐ傍に、客室の鍵が落ちていることに気が付きます。鍵には血が付着しています。その鍵に付いたタグから、デッキ6にある、6006号室の鍵であることが分かります。
  • 舞台上の死体の山は、耶話鳴く夜の教団によって積み上げられた贄です。もし、探索者がよく調べるならば、大きな杭のような物で舞台に打ち付けられており、傾いた船内でも組み上げられた状態を保っていられることが分かります。死体は、原形を保った物の他、引きち千切られたような手足や、肉の塊のような物もあります。

    医学:損壊した死体が、内側から爆発したように傷んでいることが分かる。原形を保った死体は、刃物や銃器によって殺害されている。

  • 乗客の手荷物の中にあったスマートフォンは、起動が可能です。パスワードは設定されておらず、容易に内容を見ることが出来ます。若い女性の物と思われるそのスマートフォンには、写真が多数保存されており、その最新のデータは探索者がこの船に乗り込んだ日の夜8時に撮影された物で、動画になっています。探索者が動画の内容を確認すると、暗い画面の中、沢山の人の拍手の音が聞こえてきます。しばらくすると、画面の中央に、まだ血で汚れていない頃の海上シアターの舞台が照らし出されます。舞台の上には、黒いフードを目深に被った人影が、1つ立っていました。拍手が鳴りやむと、厳かに、あたかも海の底から発せられたような、重く鈍く分厚い低音が、会場内に響き渡りました。ざわつく客席に向けて、黒いフードの何者かは、やや顔を上げます。フードから覗いたのは、見知らぬ、とても美しい女性でした。彼女は、ゆっくりと口を開き、アリアを歌います。「フングルィ・ムグルゥナフ・クトゥルゥ・ルルィエ・ウガフナグル・フタグン」鈴の音のような澄み渡った高音の旋律でした。突如として、スマートフォンの画面が赤く光ったり、青く光ったりしました。画面全体が揺れて、幾筋ものノイズが走ります。その音を聞いて、探索者の頭はハンマーで殴られたような衝撃を受け、津波のように吐き気が押し寄せます。揺らぐ画面の中で、あちらこちらで乗客の身体から血が噴き出すところが見えました。何人かの肩が爆ぜて、腕が飛んでいます。そして、唐突に、その動画はプツンと終わりました。凄惨な映像でした。動画が終了した後も、探索者の頭はグワングワンと痛みを感じています。

    SANチェック1/1D4

  • 魚人の鎮静呪文と書かれたメモには、右記のような文章が続いています。「赤く光る目を持つ怪物は、魚のような頭と、人のような身体を持つ。怪物は大群を成して海に潜み、海を漂う”生ける者”を執拗に攻撃し、死に至らしめる。水上、水中では人間である私たちに為す術はないが、怪物の近くで、次の呪文を唱えれば、しばらくの間、彼らの怒りを鎮めることが出来るだろう。ウィア・オル・アロン・オル・アロン」この呪文は、深きものを一時的に無力化するものです。船の上には深きものがいないので、効果はないでしょう。この呪文を使用した船の脱出方法については、エンディングの項に詳細を記載しています。なお、探索者がこの呪文の詠唱をし、その呪文に効果があった場合、唱えた探索者は3ポイントのMPと、1D3のSAN値が消費されてしまいます。通常は唱えるだけで発動するこの呪文ですが、もし、探索者に音楽に関する技能を持った者が多い場合は、キーパーの裁量で、この呪文に旋律があることとしても良いでしょう。その場合は、メモには楽譜が記されており、詠唱には音楽に関する技能が必要であることとすると良いでしょう。
  • 探索者がこのシアターで見つけることが出来る、スマートフォンに保存された動画は、探索者達が気を失っている間にこのシアターで起きた惨劇を、乗客が生前に撮影していた物です。動画中のアリアはクトゥルフを讃え、生贄を捧げるための呪文の詠唱で、それを聞いた者は溢れるような魔力の奔流で身体の内側から爆ぜてしまいます。スマートフォンごしにこの詠唱を聞いた探索者は、死に至らずに済みました。また、船内にいた黒いフードを着用した者達は、フードの裏地に描かれた白い模様によって、身体の破裂を防いでいます。
  • 探索者がこのシアターで見つけることが出来る、黒いフードを着用した死体は、耶話鳴く夜の教団による凄惨な虐殺の現場を直視したことにより精神的なショックを受け、教団を裏切ろうとした信者が、教団の他のメンバー達によって銃撃された者です。

閉ざされたラウンジ

  • 探索者がデッキ5にある「水没した階段」から水中に潜り込み、水泳の技能ロールに成功したならば、探索者は水没した船内を泳いで、その向こうにある船上へと辿り着きます。探索者は、大きく崩壊し、閉鎖された船のラウンジに顔を出します。そこには、得体のしれないおぞましい光景が広がっていました。海水で湿った絨毯の上、7つの人影がうずくまっており、それらは頭から巨大な杭が打ち込まれて、床に固定されています。絨毯には墨のように黒い液体で見たことのない歪な記号が無数に書き込まれており、全体で大きな四角形を形作っていました。

    オカルト:歪な記号の集合体は魔法陣であり、特定の条件を満たすと発動する物であることが分かる。

  • このラウンジは、周囲を瓦礫に囲まれており、外へ出ることは出来ません。
  • 探索者が床に固定された死体をよく調べるならば、それが老若男女様々な人間の死体であることが分かります。

    医学:死体は銃で胸を打ち抜かれており、死後に杭で打ち付けられたことが分かる。

操舵室

  • デッキ7から、デッキ8にある操舵室への階段は巨大な触腕によってひしゃげおり、階段を使って上階へと行くことは出来ません。探索者は、触腕が崩壊させた船の裂け目から、探索者の発想によって縄や梯子などの何らか道具を使えば、操舵室のある階へ行くことが出来るだろうということは直感出来ます。その方法によっては、何らかの技能のロールが必要になるかもしれません。触腕を伝って上の階へ行くことも可能ですが、そのように上の階へ行くためには、登攀の技能ロールの他、触腕を刺激しないための忍び歩きの技能ロールも必要になるだろうことは容易に想像が出来ます。忍び歩きのロールに失敗したならば、「脈打つ巨大な触腕」の項に記載されたような探索者が触腕に衝撃を与えた場合のダメージ判定が行われます。
  • 探索者がデッキ8に辿り着くと、操舵室への扉は開かれています。操舵室には大きな計器類が並んでいます。床には日本近海の海図や三角定規、筆記用具などが散乱しており、血まみれで微動だにしない人影が4つ、伏せています。壁一面の窓には、傾いた船から見える夜空が広がっており、甲板の舳先に近い床面にある青く光る刻印も、この位置からよく見えます。
  • 計器類の画面には何も表示がされていません。探索者が触っても、反応はありません。船に関する知識を持った探索者は、操舵室が完全に機能を失っていることが分かるでしょう。

    電気修理:ほんの僅かな時間だけ、無線機の機能を復活させることが出来る。この技能のロールに成功した場合、近くの船に自分達の存在を知らせることに繋がる。後項の海上の項に記載されているような、漂流した探索者が救助される確率が、ぐんと上がり、ボーナスを与えることとするとよい。具体的には、【特殊ルール:漂流】の幸運1/5(POWの値)のロールを、幸運3/5(POWの3倍の値)してロールすることが可能としてよい。

  • 床に伏せた4つの人影の内、3人は、その着用している制服から、航海士であることが分かります。白い制服は血で赤く染まっており、服や身体を貫通して、1個の穴が開いています。それが銃によって撃たれた跡であることは容易に想像が出来るでしょう。探索者が航海士の胸ポケットを調べるならば、方位磁石を発見、入手することが出来ます。探索者は方位磁石によって方角を知ることが出来ます。スマートフォンは電波が届いていない状態でも方角を示すことが可能ですので、それによって方位磁石の代用も可能でしょう。この船の船首は南東を向いています。
  • 床に伏せた4つの人影の内、1人は、黒いローブを着用しています。辺りは鮮血で汚れており、探索者がよく見ると、ローブや身体を貫通して、無数の穴が開いていることに気が付きます。それが銃によって撃たれた跡であり、この人物が執拗に銃撃されたことは容易に想像が出来るでしょう。人影はフードを目深に被っており、探索者がそのフードを払うと、目を閉じた夢見小夜の顔が現れ、その人物が夢見小夜であることが分かります。フードの裏地には、白いインクで、歪な記号が組み合わさリ、三日月のような輪郭を作る模様が描かれていることに気が付きます。

    医学:夢見が死後30分程度の状態で、即死であることが分かる。

    目星:夢見がフードの下に着た私服のポケットに、メモ2枚銀色の鍵が入っていることに気が付く。

  • 夢見のポケットから見つかるメモの内1枚には、「幻影の門からの帰還」と書かれており、右記のような文章が続いています。「下位の団員はラウンジに設置される幻影の門から帰還せよ。黒き魔法陣に火を垂らし、浮かぶ幻影の門に銀の鍵を挿し込め。そして、イツマイ・ライフ・イツナウ・オーネバと唱えるのだ。さすれば我らが霊山へと帰還せん」この呪文は、この船から外界へ転移するための門を起動するものです。指定の条件を整えないと効果はありません。この呪文を使用した船の脱出方法については、エンディングの項に詳細を記載しています。なお、探索者がこの呪文の詠唱をし、その呪文に効果があった場合、唱えた探索者は1ポイントのMPが消費されてしまいます。通常は唱えるだけで発動するこの呪文ですが、もし、探索者に音楽に関する技能を持った者が多い場合は、キーパーの裁量で、この呪文に旋律があることとしても良いでしょう。その場合は、メモには楽譜が記されており、詠唱には音楽に関する技能が必要であることとすると良いでしょう。
  • 夢見のポケットから見つかるメモのもう一枚には、右記のようなことが記されています。「ごめんね、こんなことになって。まさか[探索者]達が乗って来るだなんて、思ってもいなかったんだ。馬鹿なこと、しちゃったな。どうか、[探索者]達だけは助けてください。偉大なる我らが神、――」最後の方は字が崩れていて、容易には読めません。

    日本語1/2:メモの最後、崩れて読み辛い部分に「クトゥルフさま」と書かれていることが分かる。

  • 夢見のポケットから見つかる銀色の鍵は、大変に古めかしい物で、とても現代の物とは思えません。掌に収まるほどの大きさですが、分厚くてずっしりと重く感じられます。

    地質学:その鍵が銀製であることが分かる。

  • 夢見は、探索者達を客室で眠らせた後、探索者達を無事に陸へと返そうと、船内を動き回っていました。その様子を耶話鳴く夜の教団の団員に怪しまれ、夢見が教団を裏切っていることが発覚してしまいました。夢見は、この操舵室に押し込まれ、団員達からの銃撃によって殺害されてしまいました。

6006号室

  • この部屋は、海上シアターで拾うことが出来る、6006号室の鍵によって、開くことが出来ます。鍵開けの技能ロールに成功すれば、6006号室の鍵がなくとも中に侵入することが出来ます。
  • 部屋の中の造りは他の客室と変わりません。開いた状態のキャリーケースがあり、そこにメモが入っていることに気が付きます。
  • この部屋で発見できるメモには「怪鳥の召喚呪文」と書かれており、右記のような文章が続いています。「4mを超える巨大な身体を持つ怪鳥は、馬のような頭と、硝石にまみれた翼を持つ。怪鳥は、儀式と呪文によって召喚することが可能であり、しばらくの間、召喚した者が使役することさえ出来る。その儀式とは、次のようなものだ。魔導士が刻印した青く光る魔法陣の上で、北西の空へ塩を振った肉を掲げ、贄とせよ。そして、オネスティズ・ハードリ・エバ・ハードゥと唱えるのだ。もし、詠唱者が贄を掲げていなかったならば、その者自身が贄となる」この呪文は、怪鳥を召喚し、一時的に使役するためのものです。甲板にある青く光る刻印にて、指定の条件を満たさないと発動しません。この呪文を使用した船の脱出方法については、エンディングの項に詳細を記載しています。なお、探索者がこの呪文の詠唱をし、その呪文に効果があった場合、唱えた探索者は3ポイントのMPと、1D3のSAN値が消費されてしまいます。通常は唱えるだけで発動するこの呪文ですが、もし、探索者に音楽に関する技能を持った者が多い場合は、キーパーの裁量で、この呪文に旋律があることとしても良いでしょう。その場合は、メモには楽譜が記されており、詠唱には音楽に関する技能が必要であることとすると良いでしょう。

時間制限

  • セッションが冗長になることを避けたり、セッションにタイムリミットがある場合には、制限時間を設けてもよいでしょう。最終局面で、探索者が決断をしあぐねていた場合には、制限時間をちらつかせて探索者を焦らせてもよいかもしれません。
  • 制限時間が近くなると、客船は大きく揺れ始めます。特定の座標に到達した旅客船は、巨大な触腕を持つ生物によって海底に引きずり込まれそうになっています。時間をおいて、数度の大きな揺れがあった後、船は急激に沈没を始めます。その場合、「海上」の項を参考にシナリオを進行してください。

海上

  • 探索者が船から投げ出されたり、水没した船内から船外に放出されたり、探索者の脱出が進まないまま船が沈没してしまった場合には、この項を参考にしてシナリオを進行してください。
  • 探索者が大海原に投げ出され、その波に呑まれると、暗い海の中、客船の真下に、朧げに赤く光る巨大な球体を2つ、見てしまいます。赤く光る球体は、ぬらりとした大きな塊の中でギョロギョロと動き回っていたかと思うと、はたと動きを止め、あなたのことを見つめます。それは、タコや、イカのような、巨大な軟体生物でした。触腕を船に絡みつかせたそれは、海中に落ちた藻屑のような探索者を、静かに、じっくりと見つめていました。

    SANチェック1D8/3D10

    生物学:このような生物は生物学上確認されていない未知の物であると分かる。

  • 上記の巨大な軟体生物はムナガラーと呼ばれる、古き神クトゥルフの眷属です。耶話鳴く夜の教団によって招来されたこのグレート・オールド・ワンは、主であるクトゥルフに生贄を運んでいます。ムナガラーは小さな探索者を見つめるものの、気に留めて攻撃を仕掛けてくることはありません。
  • 海に投げ出された探索者を、船上の探索者が直ちに救い出そうとし、縄などを海上に垂らすならば、対象のSIZとSTRの抵抗ロールなどによって、海中の探索者を助け出すことが出来るかもしれません。しかし、直ちに救い出すことが出来なかった場合には、船は海中の探索者を取り残して先に進んでしまい、探索者を救い出すことが出来なくなってしまいます。その場合、海に投げ出された探索者は、先へ進んで行ってしまう船の柵などを掴むためにDEX×5のロールに成功しなければ、船に戻ることが出来なくなってしまいます。
  • 船に置いて行かれ、海上に取り残されてしまった探索者は、直ぐに、船を遠巻きに取り囲んでいた、無数の赤い光の真っただ中に突入してしまいます。探索者が赤い光に近づくと、それが無数の生物の眼であることがわかります。くすんだ緑色で、ぬめりを感じさせる皮膚に、部分的に見えるギラギラとした鱗。人間のような姿形をし、魚のような頭部をしたそれは、真ん丸い目で探索者を見つめています。

    SANチェック0/1D6

  • 上記の奇怪な生物は、「深きもの」と呼ばれる下級の奉仕種族です。ムナガラーと同様にクトゥルフの眷属であり、ムナガラーの周囲に帯同しています。深きものは、探索者に対して攻撃的です。深きもの達が、船から流されて来た探索者がまだ生きていることに気が付いたならば、水中で自由に動くことが出来ない探索者に寄って集って攻撃を加え、その命を奪うことでしょう。その場合、探索者が助かる術はありません。もし、探索者が変装の技能ロールで死体に擬態したり、隠れるの技能ロールで漂流物の振りをするならば、深きものの目を欺いてこの場をやり過ごすことが出来るかもしれません。魚人の鎮静呪文を唱えるならば、深きもの達の動きを封じて、安全にやり過ごすことが出来ます。

<特殊ルール:漂流>

 探索者が何らかの対策を講じ、深きものの囲いを抜けて見渡す限り広がる大海原に至った場合、探索者は漂流することになります。
 ①探索者は規定の回数のダイスロールを行い、その内1回、幸運1/5(POWの値)に成功すれば通りすがりの船に救出され、生還することが出来ます。全て失敗した場合、溺死や水温による低体温症などで探索者は死亡してしまいます。このロールは、船上の探索者の行動に合わせて、1回1回、間をあけて行うとよいでしょう。
 ②ファンブルが出た場合、探索者はサメに襲われて死亡してしまいます。
 ③ロール可能な回数は下記を参考に、キーパーが自由に決定してください。水泳25以下1回。水泳50以下2回。水泳70以下3回。水泳100以下4回。救命胴衣着用+3回。何らかのイカダに乗っている+10回。その他、探索者の工夫次第で回数にボーナス。

 

シナリオ エンディング

船からの脱出について

  • このシナリオでは、沈み行く旅客船から、探索者が無事に脱出することが出来たならば、生還、シナリオクリアとなります。探索者の自由な発想や、キーパーによる裁量とシナリオ改変によって、この船からの脱出を演出してください。このシナリオの初期設定としては、後項の「幻影の門からの脱出」「怪鳥の召喚呪文」「魚人の鎮静呪文」の3ルートによる脱出を想定しています。

幻影の門からの脱出

  • 想定しているチャートは、右記の通りです。「操舵室で幻影の門の起動方法のメモと銀色の鍵を入手する→レストランでジップロックとライターを入手→水泳技能で水没した階段の向こうにある閉ざされたラウンジに行く→ジップロックに入れて水に浸からないように持ち運んだライターを利用し、魔法陣に炎を焚き、幻影の門を出現させる→銀色の鍵を門に挿し込み、夢見が所持していたメモに記された呪文を唱える→夜の山の中に転移する→山を下り、耶話鳴く夜の教団の関所を突破する」
  • 探索者が、閉ざされたラウンジの黒い模様に炎を点けると、炎は瞬く間に歪な記号の上を渡っていきます。すぐに、黒い模様はぼんやりと黄色い光を発し始めます。暗い室内で、光に照らされた埃っぽい空気は、もやもやと煙を漂わせたかと思うと、朧げな物体を映し出します。それは、モノリスのようでした。モノリスの表面は床面で光る歪な記号と似た刻印が全面に施されており、その中央部分には、縦に細長い穴が開いています。探索者達の乗る船が揺れる度に、映像は掻き消えたり現れたりして、まるで幻影のように感じられました。
  • 探索者の眼前に現れるモノリスは、幻影の門と呼ばれる魔法術式です。探索者がこの門に触れようとしても、手はモノリスを透き通って空を切ってしまい、触ることが出来ません。探索者が銀色の鍵をモノリスに開いた細長い穴に差し込むなら、鍵はカチリと音を立ててモノリスに刺さり、手を放しても浮かんだままとなります。
  • 探索者が幻影の門に銀色の鍵を挿し込んだ状態で、夢見の所持していたメモに記された呪文を唱えると、門全体が激しい光を発し始めます。眼球を抜けて脳みそまで焼き尽くさんとするばかりの閃光に、探索者はその場に立っていられなくなります。床に向けて倒れていく探索者は、床と衝突する痛みを感じず、そのままずっと、底へ底へと落ちていく感覚に襲われます。それに合わせて、探索者の意識も遠く、遠くなっていきます。
  • 門を起動し、気絶した探索者が目を覚ますと、そこは夜の暗い山の中でした。山肌が窪み、小さな洞窟のようになった場所に、探索者達は伏せていました。そこには、土や落ち葉に埋もれるようにして、船上で探索者が朧げに見たモノリスが、はっきりとした実体を持って設置されていました。眼下に見られる山の麓には、人の営みが作る点々とした光が、街を構成しています。辺りは葉音が聞こえるばかりで、とても静かです。
  • 探索者が山の麓に向かって歩いていくと、大きな柵にぶつかります。この柵は山をぐるりと一周囲っているもので、探索者が山の麓に行くまでに必ず障害となります。頑丈な造りで、有刺鉄線も巻き付けてあります。柵の一部は門のようになっており、そこに二人の人間が立っています。二人は、一般的な服装をした、中年の男性です。他愛ない雑談をしつつ、時折周囲を警戒するように見渡しています。

    目星:二人の上着の一部に、歪な記号が組み合わさリ、三日月のような輪郭を作る模様が刺繍されていることに気が付く。

    目星:一人が、猟銃を持っていることに気が付く。

  • 探索者が山中で出会う二人の中年男性は、耶話鳴く夜の教団の構成員です。教団の拠点であるこの山を警備し、関所の番人をしています。この二人が、探索者達が山中から現れたことに気が付くと、探索者達のことを訝しみます。探索者達を呼び止めて、「こんな夜更けに、何所から来たのか」などと聞くでしょう。探索者達はこの二人を交渉技能で言いくるめたり、力づくで突破したり、回避して柵を乗り越える方法を考える必要があります。探索者の自由な発想と、キーパーの裁量で、この関所の突破を演出してください。この番人が「探索者達が旅客船から逃げ出してきた部外者であり、教団のした凶行を知っている」ことに気が付くなら、探索者達に対して容赦なく攻撃を加えます。探索者が旅客船の客室で発見することが可能な、教団が同胞同士を識別するための合言葉を口にするならば、二人の男は探索者達を同胞だと思い込み、労った上でこの関所を通過させてくれます。
  • 探索者がこの関所を突破すると、シナリオクリアとなります。

怪鳥の召喚呪文

  • 想定しているチャートは、右記の通りです。「海上シアターで6006号室の鍵を拾う→6006号室で怪鳥の召喚呪文を入手する→各所で方位磁石、塩、生肉を入手→甲板の舳先、青く光る刻印の上で、北西の空へ塩を振った生肉を掲げ、怪鳥の召喚呪文を詠唱する→現れた怪鳥に乗って脱出」
  • 探索者が正しく状況を整えて、怪鳥の召喚呪文を詠唱すると、遠くの空から、けたたましい羽音と共に、怪鳥が現れます。4mを超える巨大な身体を持つ怪鳥は、馬のような頭をしており、歯をむき出しにしています。怪鳥は甲板に降り立つと、探索者の方に向けて大きく口を開けて動きを止めます。怪鳥は探索者が生肉を投げ込んでくれるのを待っています。探索者が肉を投げ込んだならば、怪鳥は探索者の言うことを聞きます。怪鳥は言葉を話しませんが、探索者の意図を汲んで行動します。

    SANチェック:0/1D6

  • 探索者が塩を振った生肉を掲げていない状態で、北西に向けて怪鳥の召喚呪文を詠唱するならば、怪鳥は現れるものの、探索者達に向けて攻撃を仕掛けてきます。探索者達が改めて塩を振った肉を用意しない限り、怪鳥の攻撃は続きます。

<怪鳥(シャンタク鳥)>

 STR:30 CON:12 POW:10 DEX:10 SIZ:44 INT:4 HP:2
ダメージボーナス:4d6 装甲:9ポイントの皮膚
【武器】噛みつき55% 2d6+2
【技能】聞き耳30% 目星30%
【呪文】なし
【この生物を見た時に失う正気度】0/1d6

  • 怪鳥は探索者達を背に乗せると、船を飛び立ちます。そして、空高くへと昇って行きます。高くへと行くごとに、船や、船に巻き付いた巨大な触腕は遠く小さく見えます。怪鳥が凄まじい速さで飛んでいることが分かりますが、不思議なことに、探索者達は怪鳥から振り落とされるような風圧を感じません。月明りの下、しばらく怪鳥にしがみついていると、海の景色が変わっていきます。小さな島々が眼下に見えたかと思うと、前方に、大きな島の陰と、明るい街の光を見つけることが出来ます。怪鳥は、そこに向けて降り立っていきます。
  • 怪鳥は、島に探索者達を下すと、再び空へと飛び立っていき、シナリオクリアとなります。

魚人の鎮静呪文

  • 想定しているチャートは、右記の通りです。「海上シアターで魚人の鎮静呪文を入手する→海上レストランで漂流記を入手する→探索者の自由な発想で簡易的なイカダ作成したり、客室でビニールボートを入手して補強したりする→船を降り、海に出る→船を取り囲む深きものの近くで魚人の鎮静呪文を詠唱し、深きものをやり過ごす→「海上」の項にある「特殊ルール:漂流」に基づいて通りすがりの船に救助されることを期待する」
  • 探索者が深き者の近くに進むと、太くて低い、獣の唸り声のような物が、海中から幾千と聞こえてきます。凶悪な生物に標的とされてしまったことに気が付いてしまった探索者は、身の毛がよだつ思いをします。
  • 探索者が魚人の鎮静呪文を唱えると、唸り声は止みます。海中に無数に見えていた赤い光は暗く沈み、海が穏やかになります。探索者達を置いて先へと進んで行った旅客船の後ろ姿が見えます。巨大な触腕に巻き付かれ、二つに折れてしまっているその船の向こうの夜闇に、一瞬、何か巨大な影が現れた気がしました。空高くに輝く月にも届きそうだったその陰の正体を、探索者は知る由もありません。

エンディング描写例

 探索者達は、絶望の淵にあった、沈み行く旅客船グロリアを脱出し、揺れることのない大地の上、平和で日常的な暮らしが営まれる街並みに辿り着きました。船上であった、様々な出来事が思い出されます。~。
 地上に立ち、日常への帰還を果たした探索者は、ギリギリと心を張り詰めさせていた緊張から解放されて、足下から溶け出すようなまどろみの中で、その場に立っていられない程の安堵を感じました。地獄から生還した探索者達の沈没物語は、これにて幕を閉じることとなります。

 

シナリオのその後/正気度報酬

シナリオのその後

  • 航海中に突如とした姿を消した旅客船グロリア。500名を超える行方不明者を出したこの失踪事件に、海上保安庁や有志のボランティアは、海から空から、この船の消息を探していますが、未だに何の手掛かりも掴めていません。
  • この船から脱出した探索者は、船がどのような状況に陥っていたかを知っています。もし、探索者がこの船に乗っていたことを周囲に伝え、自分達が巻き込まれた状況についてどれだけ話したとしても、周囲の人はそれを信じようとはしません。G船上のアリアによって捧げられた生贄、旅客船グロリア。その失踪事件は、海上のミステリーとして後世に語り継がれていくことになります。

成功報酬

  • プレイヤー個人の探索者が生還している場合:1D6の正気度報酬
  • 全てのプレイヤーの探索者が生還している場合:1D3の正気度報酬

 

 

-CoCシナリオ, 作者:ホリ, 耶話鳴えオリジナルシナリオ

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