CoCシナリオ ゲストシナリオ

みにくいワタシの子

投稿日:2016年12月20日 更新日:

はじめに

 ※はんぺんさんのシナリオ「みにくいワタシの子」の細部を調整し、テキストしてまとめた物です。

シナリオの概要

 一ヶ月前から、家畜やペットの惨殺事件が起きている街、白滝町。探索者達はこの街にある児童養護施設「虹色学園」の看護師に依頼され、この事件の調査を始める。

シナリオの背景

 とあるカルト教団の不浄な儀式により、この世に産み落とされた赤子。仲保者(ちゅうほしゃ)と呼ばれるこの子供は、人間と、超次元の恐怖・ヨグ=ソトースとの間で作られた混血児であった。カルト教団が不可解な集団自殺を起こした後、この地に一人で取り残されてしまった仲保者は、生きるために、近隣の動物を食い荒らしている。

 仲保者はその醜い姿から、人間である母親に拒絶され、愛に飢えて育った。孤独になった彼は、父親であるヨグ=ソトースを招来し、その渇きを満たそうとしている。

 

シナリオを始めるにあたって

探索者について

  • シナリオの導入部において、依頼人から依頼を受ける必要がある為、探索者は「吉高歩美」の知人、もしくは「探偵」などの”捜査を生業とする職業”としてください。
  • 推奨技能:目星、聞き耳、図書館、交渉技能、戦闘技能

登場人物(NPC)について

<登場人物の簡易的な説明>

柏木 青空(かしわぎ あおぞら)

”虹色学園の子供”

年齢:6 職業:-

虹色学園に入所している子供。架空の友人を作って、一緒に遊んでいるという。

吉高 歩美(よしたか あゆみ)

”虹色学園の看護師”

年齢:29 職業:看護師

虹色学園の看護師。飼育している鶏が殺され、不安に思った彼女は探索者達に調査を依頼する。

郡司 英雄(ぐんじ ひでお)

”カルトを調査する男”

年齢:39 職業:記者

妹・愛子の自殺をきっかけに、カルト教団について調査を始めたジャーナリスト。

郡司 愛子(ぐんじ あいこ)

”神と交わった女”

享年:34 職業:-

カルト教団に入信し、神の落とし子を産んだ女。その御姿に絶望し、自殺する。

白井 慎吾(しろい しんご)

”カルトの教祖”

享年:40 職業:-

白井養鶏場の経営者・カルト教団の教祖。死の淵を彷徨った際に、神と接触し、教団を設立した。

<神話生物の簡易的な説明>

ヨグ=ソトース

”超次元の恐怖”

時空を超越し、あらゆる時間と空間に接しているという神性。

仲保者(チホ君)

”ヨグ=ソトースの落とし子”

人と神との混血児。母親に見放され、親の愛に飢えている。

 

シナリオ 導入パート

導入:吉高歩美からの依頼

 このシナリオは、児童養護施設「虹色学園」の看護師・吉高歩美の依頼によって導入されます。季節は春、桜が咲き出す3月25日です。場所は虹色学園の応接室とするとよいでしょう。

<吉高歩美 29歳>

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 虹色学園に看護師として勤務している。

 子供が好きな独身女性。

<虹色学園について>

 虹色学園は、保護者のいない児童や虐待を受けた児童など、環境上、養護を必要とする児童を預かる児童養護施設です。虹色学園では、30人以上の児童が住んでいます。施設内には大きな食堂や、共同の設備の他、鶏の飼育小屋などがあります。

「ここ、虹色学園で飼育している鶏が殺されてしまったんです!」

「一ヶ月近く、この近隣で飼育されている家畜やペットが、同じように襲われているんです。この辺りでは鶏を襲うような野生動物はいないはずですし、鶏小屋の鍵が壊されていて…。これはきっと、変質者の仕業です。私、学園の子供達のことが心配で…」

「どうか、犯人を見つけていただけませんか?」

 上記の、「近隣で家畜やペットが襲われている」事件については、未だ報道が行われておらず、探索者に事前の情報はありません。警察などはこの事件を、野生動物の仕業であると考え、捜査を行っていません。

 探索者達が依頼を受けると、吉高は安堵した表情を浮かべます。また、吉高が何か参考になればと考え、発見直後に撮影しておいた現場写真を確認するかどうか、探索者達に問いかけます。

<現場写真について>

 ニワトリが写っている。その腹は大きく裂かれ臓物が飛び散り、鮮やかな赤色で染まっている。何者かに食い荒らされているようだ。写真からでもその血の臓物の醜悪なにおいが伝わってきそうだ

SANチェック 0/1

医学:腹の一部に歯型が残っているのがわかる。それは動物の者ではなく、小さい人間のもののようだ。

 もし、探索者が虹色学園の応接室でこの依頼を受けた場合、吉高との話が終わり、応接室を出た探索者は、部屋の前に集まった数人の子供達に囲まれます。

「おねえちゃん/おにいちゃんたちがコッコちゃんたちをいじめた犯人見つけてくれるの?」

「絶対に見つけてね!」

 中には目に涙を浮かべている少女もいる。

 

シナリオ 探索パート

虹色学園:鶏の飼育小屋前

 探索者が虹色学園の正門を通過しようとする、もしくは鶏の飼育小屋へ向かう場合、飼育小屋の前にうずくまっている少年を発見します。少年は、探索者達に背中を向けています。

聞き耳:辺りには誰もいないのに、少年は誰かに相槌を打つように、「うん…うん…」と、頷いている。

忍び歩き:探索者が忍び歩きに成功し、気配を消して少年に近付いたとしても、少年はハッと気が付き、探索者の方に顔を向けてしまう。それはまるで少年の背中にも目が付いているかのようだ。

 この少年に探索者が話しかけたとしても、少年はそれに答えず、俯いたまま虹色学園の建物の中へと走っていってしまいます。吉高に、この少年について尋ねれば、下記の情報を教えてくれます。

<柏木青空 6歳>

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 少年の名前は柏木青空といいます。彼は3月10日にこの虹色学園に入所しましたが、誰にも心を開かず、架空の友人(イマジナリー・フレンド)を作って、一人遊びをしていることが多いです。吉高は、青空がとても複雑な事情のある子供なので、会話をする際には細心の注意を払って欲しいと言います。青空の事情については、彼の個人的なことなので、教えることは出来ないと言います。

説得・信用:柏木青空は2月2日に町内で起こった「カルト教団集団自殺事件」の生き残りであると探索者に告げる。また、吉高はその事件の詳細については知らない為、詳細を知りたい場合は新聞や雑誌で調べると良いと言う。新聞や雑誌は図書館に置かれている。

 もし、これ以降、探索者が青空に接触を図る場合、「虹色学園:柏木青空」の項を参考にして、探索者と青空の交流を演出してください。

 

虹色学園:鶏の飼育小屋内部

 飼育小屋の中には、羽が所々落ちているだけで、鶏の姿はありません。「現場写真」に写っていたような血は残っておらず、子供達に配慮したのか、綺麗に掃除された後のようです。また、小屋には穴やフェンスの破れなどはありません。

鍵開け・アイディア:鍵が破壊されていることに気が付く。それは工具などで破壊されたのではなく、強引な力で破壊されたように見える。

 

虹色学園:柏木青空

 キーパーは、探索者が虹色学園の内部を探索する過程で、柏木青空がグラウンドの隅や廊下で一人で何かボソボソと喋っている様子を見つけさせるようにしてください。探索者が青空を見つけ、彼に話を聞こうと近付くと、彼は独り言を止めて口を噤んでしまいます。探索者がどれほど慎重に、青空に気付かれないように近付いたとしても、とある理由から、青空は探索者の接近に必ず気付いてしまいます。

 基本的に青空は探索者と会話をしてくれません。彼が探索者の問い掛けに答えたとしても、それは首を振るか頷くかといった程度のものです。しかし探索者が、彼が会話をしているという”架空の友人”について聞く場合には、青空は以下の情報を少しだけ喋ってくれます。

  • 青空が普段喋っている友人は、チホ君という。チホ君は姿が見えず、青空もその姿を見たことがない。
  • チホ君は肉が好きだそうだ。

 もし、探索者が青空に対して、「カルト教団の集団自殺」についてや、「青空の両親」について聞こうとするならば、青空は悲しそうな顔をして、泣き出してしまいます。その場合、青空は探索者に対して、心を開かなくなってしまいます。

<柏木青空とチホ君>

 柏木青空のイマジナリー・フレンド、「チホ君」。その正体は、不可視の状態にある「ヨグ=ソトースの落とし子」です。

 柏木青空は、十分な親の愛を受けずに育ってきました。彼の母親はカルト教団に入信し、集団自殺をした者の内の一人です。彼自身もこの集団自殺に巻き込まれて、危うく命を失う所でしたが、間一髪でチホ君に助けられ、生還することが出来ました。

 チホ君は、カルト教団の「宇宙の門」の儀式によって生み出された、人間とヨグ=ソトースの混血児です。彼は生まれ出でた時より人間とは程遠い容姿をしており、それが原因で人間である母親に見放されてしまいました。彼はそのような自分の容姿を憎み、常に不可視の状態を保つようになりました。

 柏木青空とチホ君は、共に親の愛に恵まれずに育ちました。彼らはカルト教団の中にいた頃から、お互いに友情を育み、現在では歪んだ共依存関係にあります。

 カルト教団はヨグ=ソトースの落とし子を「仲保者(ちゅうほしゃ)」と呼んでいました。幼い青空には発音が難しかったため、青空は彼を「チホ君」と呼んでいます。

 

街中:町人や、被害にあった畜産場・学校などを訪ねた場合

 探索者達が街中を探索し、町人に話を聞いたり、被害にあったという畜産場や学校などを訪ねた場合、下記のような情報を知ることが出来るでしょう。

  • かつて、この町で動物が襲われるような事件は発生しておらず、この近辺には危険な野生動物はいないこと。
  • 2月初旬~3月初旬にかけては山側の畜産場で鶏や子豚などが襲われていること。
  • 3月中旬以降は、街中において、室外飼いのペットや野良ネコが襲われるようになったこと。
  • 2月初旬に、山側にある白井養鶏場で集団自殺があったこと。

 上記は、白井養鶏場の集団自殺以降に動物が襲われる事件が発生しており、柏木青空の居場所に付随して、事件が起きる場所が変わっていることを表しています。(柏木青空が虹色学園に入所したのは3月10日です)

 被害にあった現場は共通して、扉が強い力によって破壊されており、事件の目撃者はいません。

 探索者がカルト教団について町人に聞く場合、それを聞いた相手が「カルト教団に勧誘を受けた者」であることにしても構いません。その場合、探索者は以下の情報を得ることが出来るでしょう。

  • 教団の代表である白井慎吾は事故で臨死体験をして、神の存在を知ったらしい。
  • 神は宇宙にいて、我々を見ていると語っていた。

 

街中:図書館

 白滝町中心部にある図書館では、「カルト教団の集団自殺」「現在起こっている動物惨殺事件についての資料」を見つける事が出来ます。探索者が図書館のロールに成功した場合は、下記の情報を開示してください。

<新聞:カルト教団の集団自殺>

 2月4日、白滝町郊外にある有限会社白井養鶏場で、一酸化炭素中毒で死亡した12名の遺体と、1名の生存者が発見された。白井養鶏場の代表取締役である白井慎吾(40歳)の遺体も見つかっており、残された遺書から、この養鶏場の従業員が集団自殺を図ったとの疑いがある。近隣住民の話によると、この養鶏場では社員が奇妙な共同生活を送っており、栽培した野菜や鶏卵を売り歩く姿を頻繁に目撃されていたとのこと。白井慎吾が率いるこの集団は、”宇宙の門”教団と自称し、カルト的な宗教儀式を行っていたとも言われている。

 集団自殺現場で発見された唯一の生存者は、6歳の幼い少年だった。この少年の母親は白井養鶏場の従業員・柏木友梨さん(29歳)で、現場で遺体が発見されている。少年は軽い脱水症状を示しているが命に別状はない。

<B級雑誌:動物惨殺事件>

 のどかな街・白滝町で、家畜やペットが惨殺される事件が多発している。殺された動物たちは、腹を裂かれ、内臓を中心に食い荒らされている。白滝町の近辺には猛獣の生息は確認されておらず、この事件は謎に包まれている。新種の未確認肉食獣の仕業か? カルト教団の悪魔的儀式か?!

 

有限会社白井養鶏場跡地

 白滝町の山の中に、白井養鶏場の跡地があります。主だった建物は解体されていますが、鶏舎は未だ残されており、その中に入ることが出来ます。また、鶏舎の傍には倉庫と思われる建物が残っています。白井養鶏場の奥には、山の頂上へ向かう山道が覗いていることが分かります。

 

白井養鶏場跡地:鶏舎

 鶏舎の扉は開け放たれています。鶏舎の中に入ると、鶏を飼育していた時の残り香を感じます。内部の飼育用具は取り払われており、探索者はガランとした印象を受けるでしょう。

目星:地面に一枚の紙片が落ちていることに気が付く。

<鶏舎に残された紙片>

 探索者が見つけた紙片は色褪せており、所々破れていますが、記載されている文字は読み取ることが可能です。それは手帳の一部のようです。

白滝町食肉センター 住所:白滝町2-9 電話番号:×××-××-××××

アンティークショップ・トコハ 住所:白滝町8-8 電話番号:×××-××-××××

 この紙片により、探索者は白滝町食肉センターの住所と電話番号を知ることが出来ます。

 

白井養鶏場跡地:倉庫

 倉庫には鍵が掛かっていません。探索者達が倉庫の扉を開けると、ホースやバケツ、掃除道具などが乱雑に置かれていることが分かります。

 もし、探索者が倉庫の周囲を調べる場合には、倉庫の裏側の下部に、鉄格子が取り付けられた小さな覗き窓を見つけることができるでしょう。探索者がこの鉄格子の中を覗いた場合は、倉庫地下室にあるバスタブを覗き見ることができるでしょう。

目星:床に一枚の絵が落ちていることに気が付く。

目星:床に切れ込みがあり、床下収納のフタが付いていることに気が付く。

<倉庫に落ちた絵>

 倉庫には、画用紙にクレヨンを用いて描かれた絵が落ちています。子供が描いた絵のようで、鶏と笑顔の少年が描かれています。

 床下収納のフタを開けると、そこには地下に続く階段があります。この階段を下りると、倉庫地下室に行くことが可能です。

 

白井養鶏場跡地:倉庫地下室

 探索者が倉庫で発見した地下へ続く階段を下りると、小さな地下室にたどり着きます。埃っぽいその部屋の壁際には本棚が置かれており、中央には蝋燭が置かれた簡素な祭壇のような物、奥にはバスタブが置かれています。バスタブの近くにある壁の上方には、鉄格子が付いた小さな窓があり、そこから零れる弱々しい光が室内を照らし出しています。

 ここは、”チホ君”がかつて住んでいた部屋です。探索者達はこの部屋で、その痕跡を見つけることができるでしょう。

本棚

 壁際に置かれた本棚を調べると、そこには児童書や絵本などが並べられていることが分かります。

アイディア・目星:他の本に比べ何度も読み返したような、汚れている本を見つける。

図書館:他の本とは異質な雰囲気の本を見つける。

<汚れた本>

 探索者が見つけた汚れた本は、「みにくいアヒルの子」という童話です。読むと、下記のような内容だと知ることが出来ます。

 5羽の雛たちのなかで1羽だけ、みにくく生まれたアヒルの子。みにくいアヒルの子は、他の兄弟達からいじめられて、母親からも見放されて、巣を追い出されてしまいます。1羽になったアヒルの子は、出会ったネコやニワトリにもいじめられてしまいます。辛く、寒い冬が過ぎました。ようやく暖かい春が訪れた時、みにくいアヒルの子は、自分でも気が付かないうちに、大空を飛ぶことが出来るようになっていました。みにくいアヒルの子は、うつくしい白鳥の子だったのです。青空に飛び立った白鳥の子は、本当のお父さんとお母さんに出会い、長く幸せに暮らしました。

アイディア:「うつくしい白鳥の子」と記載された部分が、何度もなぞったように文字が薄くなっていることに気が付く。

<異質な雰囲気の本>

 探索者が見つけた異質な雰囲気の本には、表紙に「宇宙の門の教え」と書かれています。この本を読むと、下記のような記述を見つけることが出来ます。

 神は宇宙にいて、我々を見守っている。我々は魂を清めることにより、死後、宇宙の門をくぐる資格を得ることが出来る。そして、更なる次元、神の眷属へと到達することが出来る。我々は地球という星で、神の次元宇宙の門を開く術を追及する学徒である。

「魂の浄化の規律」

一、学徒は学長と共に生活をしなければならない。

一、学徒は平等でなければならない。

一、学徒は誠実でなければならない。

一、学徒は死肉を口にしてはならない。

一、学徒は性交渉をしてはならない。

一、学徒は宇宙からの仲保者を称えなければならない。

アイディア:インクの違いから、「学徒は宇宙からの仲保者を称えなければならない」と記載された部分が、後から追記された物だと気付くことが出来る。

祭壇

 部屋の中央にある祭壇は、とても質素な物です。机に布が掛けられており、その上に蝋燭が対で置かれています。

目星:机に掛けられた布を捲ると、そこに机の引き出しがあることに気が付く。

 上記で発見した引き出しの中には、一枚のメモが入っています。

<引き出しの中のメモ>

 探索者が見つけたメモには、下記のような内容が書かれています。

  • 仲保者様を称えよ。
  • 仲保者様に生肉を捧げよ。
  • 仲保者様は食事中に御姿を現す。その御姿を、決して見てはならない。

バスタブ

 部屋の奥にあるバスタブは、元は白い物のようですが、今は大量の黒い液体がこびりついています。

 このバスタブは、チホ君の食事場です。チホ君はバスタブの中で、捧げられた鶏の肉を喰らっていました。付着している大量の黒い液体は、その際に鶏が流した血液です。

医学:バスタブにこびりついた黒い液体が、血液であると分かる。このことに気が付いた者はSANチェック(0/1)。

目星:バスタブの淵に、小さな文字を発見できる。字は汚く、幼い子供が書いたように見える。

<バスタブに書かれた文字>

 バスタブには、下記のような文が書かれています。これは血液で書かれた物です。

 おかあさん どおして みてくれないの

 どおして だきしめてくれないの どおして あいしてくれないの

 おかあさん ぼくをあいして

 あいして あいして あいして あいして あいして

 

白井養鶏場跡地:山頂

 白井養鶏場の奥には、山の頂上へ向かう山道があります。探索者がこの山道を登っていくならば、しばらくすると開けた広場のような場所に辿り着けます。視界を遮られず、晴れた青空を臨むことが出来るこの場所には、大きな岩が幾つか見受けられます。岩は半径5m程の円状に立てられており、その中央には一際大きな岩が天を指すように直立しています。

 この場所は、以前、カルト教団がヨグ=ソトースを招来しようとした際に作られた環状列石です。

歴史:石を環状に配置した古代の遺跡である、環状列石を模したものではないかと思い当たる。

オカルト:これは自然に配置されたものではなく、人の手によって作られたものであると感じる。また、その配列に何かの儀式めいたものを感じる。

 

アンティークショップ・トコハ

 探索者は、白井養鶏場の鶏舎の中で発見することが出来る紙片に記載された情報から、このアンティークショップに辿り着くことが出来ます。この店は、白滝町の繁華街にある、ビルの地下にあります。中は薄暗く、古めかしい家具や雑貨が所狭しと並んでいます。奥のカウンターには男が座り、本を読んでいます。探索者が入店すると、男はそれを一瞥し、「いらっしゃい」と声を掛けます。

 探索者がこの男に、「白井養鶏場」について聞くならば、かつて、白井養鶏場の経営者・白井慎吾がこの店を訪れた時の様子を話してくれるでしょう。

「ああ、彼のことは良く覚えているよ。もう5、6年は前のことだけど、ちょっと言動がおかしかったんでね…」

 男は当時のことを思い出したのか、少し顔をしかめる。

「ウチはただの骨董屋なのに、何を勘違いしたのか、神を呼び出す方法を教えてくれってまくし立てられてね。金は出すからって、すごい勢いでさ。何かされても嫌だから、アメリカに住んでいる友人に頼んで、それっぽい古書を送ってもらったんだ」

 男はそう言いながら、カウンターから手帳を取り出し、ペラペラとめくり始める。

「あ、あった。”断罪の書”って本だね。外なる神を呼び出す呪文が書いてあるとか何とか。ラテン語で書かれてたから、僕は詳しくは分からないけど」

 はぁ、と彼はため息を吐く。

 また、この店内では、下記のような物を見つけることが出来ます。

目星・オカルト:「見えない神秘を見る魔法の粉、イブン・ガジの粉」という、小瓶に詰められた粉が売られていることに気が付く。価格は安く、購入が可能だ。

 探索者が男にこの粉について問うならば、下記のように答えてくれます。

「不可視の存在に振りかけると、その姿を目に見える状態にする粉らしいよ。これも、アメリカに住んでいる友人に送ってもらったんだけどね。オマジナイみたいな物さ」

「届いた時、その粉を振り撒いてみたんだけどね。どうやら僕の周囲には不可視の存在はいなかったようだよ」

 探索者が望むなら、この粉を購入することが可能です。

 探索者がこのアンティークショップから外に出る時、下記のようなロールを行ってください。

目星:店の扉に付いたガラスに、一瞬、子供の様な人影が写ったことに気が付く。周囲を見ても、子供の姿はない。

 上記は、チホ君が探索者を監視している姿です。チホ君は、学園に訪れた探索者達を警戒し、「タールアン・アテプの鏡」という魔術を使って探索者を監視しています。探索者の動向は、チホ君には筒抜けの状態です。

 

白滝町食肉センター

 食肉センターは、白滝町の郊外にあります。ここでは、職員達が家畜の屠殺作業を行っています。探索者が食肉センターの事務所へ行き、事情を話せば、職員は探索者達の話を聞いてくれることでしょう。

 食肉センターの職員は、白井養鶏場について、下記の情報を教えてくれます。

  • 10年ほど前まで、白井養鶏場は、白井慎吾とその両親によって経営されていた。しかし、白井慎吾が車の運転中に事故を起こし、同乗していた両親は亡くなってしまう。
  • 事故を起こしてから、白井慎吾は人が変わったように、宗教にのめり込んでいった。
  • 養鶏場にいた教徒の中に、妊娠していた者がいた。いつの間にか、出産をしていたようだが、その子供を見たことはない。
  • 探索者と同じように、白井養鶏場について調べに来た者がいた。郡司英雄という、フリーのジャーナリストだ。

<白井慎吾 享年40歳>

 白井慎吾は、白井養鶏場の集団自殺現場で遺体が見つかっています。白井養鶏場の代表取締役であり、カルト教団「宇宙の門」の教祖です。

 白井は13年前まで、両親と共に白井養鶏場を経営していましたが、自らが起こした交通事故で、同乗していた両親を失ってしまいました。この時、白井慎吾自身も脳に損傷を負い、臨死の体験をしました。死の淵に立たされた彼は、夢中の世界で、宇宙に浮かぶ大きな門を見ます。

 脳の損傷による精神障害の発症と、父母の死に対する罪悪感から、彼の情緒は不安定なものとなっていました。彼は”神”の存在に固執し、退院後にはオカルト的な事物に心酔をするようになりました。そして、自らが垣間見た”宇宙の門”を第一の神秘とする、カルト教団「宇宙の門」を立ち上げるに至ります。

 カルト教団の教祖となった白井は、様々なオカルトに関する古書を収集する最中、「断罪の書」という魔道書の写本を入手します。そこには邪神・ヨグ=ソトースに関する記載があり、「門」と関連の深いその存在に、白井は強く惹かれていきました。そして、魔道書を用いて召喚を試みましたが、果たして、その目論見は失敗してしまいます。その”失敗作”が、カルト教団にて匿われていた子供、”チホ君”です。神の落とし子であり、人の子でもあるその子供を、白井は「仲保者」と呼んで祭り上げました。仲保者とは、神と人間の間を”仲裁・和解・媒介する者”という意味です。

 食肉センターの職員は、探索者に郡司英雄というジャーナリストの存在を教えてくれます。郡司英雄は名刺を残しており、探索者達はそれを見せてもらうことで、彼の事務所の住所を知ることが出来ます。

 探索者がこの食肉センターから外に出る時、下記のようなロールを行ってください。

目星:食肉センターの窓ガラスに、一瞬、子供の様な人影が写ったことに気が付く。周囲を見ても、子供の姿はない。

 上記は、チホ君が探索者を監視している姿です。

 

白滝総合病院

 白滝町で最も大きな病院です。白井慎吾は車の運転中に事故を起こした時、この病院に搬送されて入院をしたことがあります。脳神経外科の看護師や医者に対して、探索者が交渉技能が成功させた場合には、以下の情報を得ることが可能です。

  • 白井が起こした交通事故で両親は即死だったこと。
  • 本人は頭部を強く打っており生死の境をさまよったが、なんとか生還することができたと。
  • 意識が戻った直後から、神の存在について語るようになり、他の入院患者に迷惑をかけていたこと。

 探索者がこの病院から外に出る時、下記のようなロールを行ってください。

目星:病院のガラスのドアに、一瞬、子供の様な人影が写ったことに気が付く。周囲を見ても、子供の姿はない。

 上記は、チホ君が探索者を監視している姿です。

 

ジャーナリスト・郡司英雄の事務所

 探索者が食肉センターで得た情報やその他の手法で得た情報を元に、郡司英雄の事務所を訪ねると、そこには大きなマンションが建っています。郡司英雄はそのマンションの一室に事務所を構えており、探索者が入り口のインターフォンを鳴らすと、中にいる郡司が応対をします。探索者が彼に「カルト教団」についての情報を求めるなら、彼は探索者達を室内に招き入れてくれます。

 玄関のドアから疲れ顔の男が顔を覗かせる。彼は探索者達の顔を見回し、怪訝な表情を浮かべる。

「俺が郡司だ。教団について知りたいなんて、物好きだな…」

 彼はドアを開け放ち、探索者達に中に入るように促す。

「入ってくれ、散らかっているけれど…。資料を見るだけなら大丈夫だ」

 彼はリビングルームに探索者達を案内します。部屋の中央にある作業用デスクの上は、書類で溢れています。

 郡司英雄は、探索者達にカルト教団の話をする前に、自分の身の上話をします。

<郡司英雄 39歳>

APP11 SIZ15

 郡司英雄はフリーのジャーナリストです。彼は、白井養鶏場を拠点とし「宇宙の門」と名乗っていたカルト教団について、調査を行っています。それは、その教団が行った集団自殺についての書籍を執筆するためでもあり、彼の妹・愛子の「自殺」の原因を究明するためでもあります。

 郡司英雄の妹・愛子は、カルト教団に所属していました。そして、カルト教団が集団自殺する以前、現在から2年程前に、電車への飛び込み自殺をしました。愛子は、カルト教団に入信してから、様子がおかしかったと言います。白井養鶏場に閉じこもり、ほとんど外にも顔を出さず、兄である郡司英雄とも、1年に1度も顔を合わせないこともあったと言います。彼は、愛子がおかしくなった理由をカルト教団にあると考え、カルト教団の恐怖を世に知らしめようと、調査・執筆活動を行っています。

 彼は、この調査の過程で偶然にも、カルト教団の集団自殺の第一発見者となっています。彼は集団自殺を警察に通報し、その場に取り残されていた柏木青空を保護しました。その後、自身の執筆活動のため、現場から一部の資料やデータなどを盗み、この事務所に持ち帰ってきています。

<郡司愛子 享年34歳>

 郡司英雄の妹。カルト教団「宇宙の門」の信者であり、教祖である白井慎吾の妻。愛子は、白井慎吾を愛しており、教団において彼の右腕のような存在でした。

 探索者には知る由もありませんが、彼女は5年前、儀式によって「ヨグ=ソトースの落とし子」を授かりました。神の子を身ごもった彼女が産み落とした男の子は、見るに堪えない容姿をした異形の者でした。彼女は、我が子を愛することが出来ず、彼を見放しました。この子供が、仲保者・チホ君です。

 愛子は”恐ろしい何か”を産んでしまったこと、そんな我が子を愛せないことに深く悩み、2年前に自殺をしてしまいました。この愛子の自殺が、夫である白井慎吾の狂気に拍車を掛け、養鶏場の経営悪化も重なり、カルト教団の集団自殺の引き金となりました。

 郡司英雄は探索者達に、自分が白井養鶏場から持ち出した資料を開示してくれます。彼は段ボール箱を持ち出し、その中にある書類を自由に見てよいと言います。

経理:ファイルの中に決算書類を発見する。一般的に廃棄する鶏の死体は産業廃棄物として処理し金額計上をするが、5年前の2月より産業廃棄物処理費用の計上額が大幅に下がっている。売上が徐々に下がっており、近年は資産売却をしてなんとか経営を継続していたような様子だ。

 5年前に落とし子が誕生し、以前まで廃棄処分していた鶏を食料として捧げていた為、産業廃棄物処理費が下がっています。

 段ボールの底には、1枚のSDカードが落ちています。郡司に内容を問うと、中身は音声データが1つ入っているだけで、その詳細については調査中だと答えます。探索者が内容確認をしたいと求めれば、ノートPCを貸してくれるでしょう。

<SDカードの音声ファイル>

 SDカードには音声データが1つ入っています。データ名は「誕生」で、内容は下記のようなものです。

(くるしそうな若い女性の声が背後から聞こえる)

男性の声:いよいよだ、いよいよだ…。いよいよ、神の子が誕生するのだ! あの日から5ヶ月、我々を導く神の子だ!(声がうわずっており、興奮しているようだ)

(若い女性のくるしそうな声が大きくなっている)

年配女性の声:学長、産まれます!

男性の声:宇宙におわす神よ!彼女に力を!

(オギャーオギャーという赤ん坊の泣き声が聞こえる)

複数の女性の声:ギャー!!

男性の声:なんてことだ…。

<記録終了>

 探索者が探索を終えて事務所を後にしようとする、もしくは郡司に「白井慎吾がアンティークショップで購入した魔導書」について尋ねる場合、郡司は魔導書の存在を思い出します。

 郡司は城井養鶏場から、魔導書を持ち帰って来ています。ラテン語で書かれているため、郡司自身は内容を読み進めていませんが、探索者が読みたいという場合は、その魔導書を机の引き出しから持ち出します。郡司が探索者にその本を渡そうとすると、下記のようなイベントが起きます。

 郡司英雄が手渡そうとした古書。探索者がその古書を受け取ろうとすると、それに触れる直前、その本が薄っすらと姿を透かした。古書はみるみる間に、空間に溶けるように消えていき、探索者の手は空を切った。

「え…?」

 郡司は動揺し、空になった手を見つめる。

SANチェック 0/1

聞き耳:くすくすと笑う、少年の声が聞こえる。周囲には自分達しかいないはずだが、狂気を宿した笑い声は、ぐるぐると探索者の脳の奥に残る。

 上記は、魔術「タールアン・アテプの鏡」を使用して探索者を監視していたチホ君が、”魔導書”の所在を知り、それを手元に引き寄せたことによって起きた消失です。このことで、魔導書はチホ君の手元へと転移しました。

 探索者と郡司が呆気にとられていると、探索者の携帯に着信があります。画面を確認すると、それは吉高からの電話であると分かります。

「青空くんがいなくなっちゃったんです!!ちょっと目を離したすきに…」

探索者が電話で出ると、吉高が慌てた様子でまくし立てる。

「もしかしたら、変質者にさらわれてしまったのかも…!

 私も捜しますが、皆さんも手伝っていただけませんか?」

 上記のイベントによって、シナリオはエンディングへと移行します。キーパーは「エンディングA1:暗雲」の項を参考に、エンディングを演出してください。

 

シナリオ エンディング

 ※探索の終盤、エンディングのシナリオ進行についてA~Cの3パターンを下に記載します。

エンディングA1:暗雲

 探索者達が郡司英雄の事務所から外に出ると、晴れ渡っていた空が急激に雲に覆われて行きます。

アイディア:雲が濃く渦巻いている場所があり、そこは白井養鶏場の付近だと分かる。

ナビゲート:雲が濃く渦巻いている場所があり、そこは白井養鶏場がある山の山頂付近だと分かる。

 探索者が白井養鶏場跡地へと向かうと、そこから見える山頂の上空に、薄っすら雲の裂け目が出来ており、そこから虹色の不思議な空間が覗いていることが分かります。

SANチェック 1/1d6

 白井養鶏場を過ぎ、山頂への山道を登っていくと、徐々に空気が澄んでいき、異様な冷気に包まれていることに気が付きます。しばらくすると、山頂から声が聞こえてきます。

聞き耳:「ザイウェソ、うぇかと・けおそ、クスネウェ=ルロム・クセウェラトル。メンハトイ、ザイウェトロスト・ずい、ズルロゴス、ヨグ=ソトース」と、謎の単語を詠唱する声が聞こえてくる。その声はねっとりと脳に絡みつき、探索者は得も言われぬ恐怖を覚える。(SANチェック 0/1)

 これは魔導書を手に入れたチホ君が、”ヨグ=ソトースを招来する呪文”を詠唱する声です。

<チホ君の儀式>

 チホ君は、郡司愛子から産まれ、カルト教団「宇宙の門」によって監禁・保護されてきました。チホ君はヨグ=ソトースの息子として、驚異的な成長速度と、高度な知性を持ちながら、人間の子供としての幼さも持ち合わせています。彼は、教団から与えられた絵本の内、「みにくいアヒルの子」に自分を重ね合わせ、いつか自分が普通の人間として生まれ変わることを願っていました。

 チホ君は、”親の愛に恵まれない”自身と同じような境遇にある、柏木青空にシンパシーを感じています。チホ君は、柏木青空を自身の親友と認め、彼と共に幸せになりたいと考えています。彼は、神である父・ヨグ=ソトースを招来することによって、父と友と、幸せな楽しい暮らしを夢見ました。

 探索者が山頂へ到着すると、そこには柏木青空が立っています。青空の瞳は空を見つめ、心ここにあらずといった様子です。

 探索者が青空に話かけようとしたり、彼に近付こうとすると、広場に聞こえていた謎の詠唱の声は止まります。探索者が周囲を見回しても、声の主は見当たりません。そして、探索者達は広場の中央にある環状列石の内側に、装飾の施されたナイフと消えたはずの魔導書が、宙に浮いていることを発見します。それはとても奇妙な光景ですが、探索者はその場所に誰かがいて、こちらを直視していることを直感します。不可視の存在に自分が見つめられているという恐怖、そして、不可視の存在に対して自分が無防備であるという実感が、探索者達を襲います。

SANチェック 1/1d3

 環状列石の内側、魔導書が浮いている辺りから、聞き慣れない少年の声が聞こえます。不可視の状態にあるヨグ=ソトースの落とし子・チホ君が、父の招来を邪魔する探索者達に敵意を露わにします。

「何をしに来たの? 邪魔をしないで!」

「僕は青空と、お父さんと一緒に暮らすんだ!」

 その声はとても興奮している様子で、宙に浮いたナイフは小刻みに震えています。探索者がチホ君に声を掛けても、チホ君はますます興奮していき、落ち着かせることは出来ません。青空はぼうっと立ち尽くしており、恐らくは正常な意識を失っているのだと推測出来ます。探索者が不可視のチホ君に近付こうとすると、彼は探索者に襲い掛かります。

<ヨグ=ソトースの落とし子:仲保者(チホ君)>

STR21 CON10 SIZ8 POW23 DEX18 HP9 MP23

装甲:0 ダメージボーナス:1d4

技能:ナイフ60 ダメージ2d4

技能:回避40

※不可視の状態にある場合、探索者の攻撃の成功判定を1/2にする。

 探索者がチホ君に攻撃を行い、それを打ち倒した場合には「エンディングA2:不可視の結末」を参考にエンディングを演出してください。探索者がイブン・ガジの粉を使用し、チホ君の姿を露わにした場合には、「エンディングB:直視の結末」を参考にエンディングを演出してください。探索者がチホ君の儀式を止めずに、この場から逃げ出した場合は「エンディングC:逃亡」を参考にエンディングを演出してください。

 なお、探索者が魔道書のみを破壊し、チホ君を生かそうとする場合があるかと思います。その場合、魔道書を破壊したとしても、「空の裂け目」は消えず、チホ君の行う招来の儀式は続きます。探索者が山頂に辿り着いた時点で、魔道書を用いた呪文の詠唱は完成されており、後は時間の経過とチホ君のMP消費によって邪神・ヨグ=ソトースが招来されるのを待つばかりです。探索者は、儀式が完遂される前にチホ君の命を奪わない限り、「エンディングC」の項のような終焉を迎えてしまいます。

 

エンディングA2:不可視の結末

 探索者がチホ君を打ち倒した場合、この項を参考にシナリオを締めくくってください。

 探索者が、不可視の者に与えた最後の一撃は、その見えない身体を吹き飛ばして黄緑色の粘液を噴射させます。不可視の者は地鳴りのような、断末魔の叫び声を上げます。探索者には地面に広がっていくゼリー状の粘液しか見ることが叶いませんが、チホ君は空間に押し潰されるようにして、その身体を失っていきます。

「青空…ごめん…やくそく…」

 チホ君は、最後まで言葉を告げることが出来ず、この世界から消失します。浮かんでいた魔導書とナイフは、地面に落ちています。探索者が魔導書を手に取り、それを開くと、一番最後のページに、拙い子供の字で書かれている文章を目にします。

ずっと、ともだち

 そのページには、子供らしき2人が手を繋いだ絵が、クレヨンで描かれていました。

 

エンディングB:直視の結末

 探索者が魔導書に向けて粉を投げつけると、その足元から徐々に、謎の声の主が姿を現していきます。

 声の主は、その姿を一見すると少年の様です。しかし、その肌は浅黒く、右腕は退化した目らしきものが複数張り付き、身体は黄緑色の粘液で覆われています。頭部には緑がかった灰色の触手が無数にうごめいており、その先端には赤い吸盤のような物が付いています。

SANチェック 1/1d8

 声の主は自身の身体に視線を落とし、恥じるように自らの腕で身体を隠そうとしています。

「僕を…見ないで…!」

 悲痛な叫び声が丘に響く。青空はその声で我に返り、眼前の”化け物”の醜い姿を認めると、ヒッと体を強張らせて探索者達にしがみ付く。その視線には、恐怖の感情がありありと見て取れる。

「あ…ああ…」

 少年は、憂いとも怒りとも取れる表情を浮かべ、脱力したようにその場に膝を付く。少年の手から魔導書が滑り落ち、ナイフを持つ手は小刻みに震えている。

 探索者が異形の少年に近付こうとしたり、何らかの行動を取ろうとすると、少年は悲痛な叫び声を上げます。町全体に響くようなその大声の中、彼は自らの胸に、ナイフを突き立てます。

 少年は胸から黄緑色の粘液を吹き出し、その場に仰向けに倒れ込みます。少年の目からも黄緑色の粘液が溢れ出し、天を仰ぐその瞳は、絶望に打ちひしがれているように見えます。

「青空…青空…」

 異形の少年は、かすれた声で呻きながら、徐々に力尽きていきます。

 青空はその声を聞くと、「チホ君…チホ君なの?」と呟きながら、泣き始めまてしまいます。しばらくすると、異形の少年はぐすぐずと形を変え、ゼリー状の液体になっていくことでしょう。

 もし、探索者が落ちた魔導書を手に取るならば、一番最後のページに拙い子供の字で書かれている文章を確認できるでしょう。

ずっと、ともだち

 そのページには、子供らしき2人が手を繋いだ絵が、クレヨンで描かれていました。

 

エンディングC:逃亡

 探索者がチホ君の儀式に辿り着けない、もしくは辿り着いたとしてもそこから逃げ出してしまった場合、探索者はこの儀式を止めることが出来ず、シナリオは終了となります。これは、儀式の場から柏木青空を連れ出していたとしても同様です。

 しばらくチホ君の詠唱が続けば、彼は自らの父・ヨグ=ソトースを招来することに成功してしまいます。ヨグ=ソトースの招来は、すなわち、この町を襲う惨劇の幕開けです。ヨグ=ソトースは、チホ君と、彼が望む柏木青空を、天空へと連れ去ります。そしてその直後、空の裂け目から次々と銀色の液状の球体が現れ、白滝町へと広がって行きます。この球は、触れる物を破壊し、生命を奪い去る恐るべき魔術です。白滝町は瞬く間に破壊されつくし、探索者はこの悲劇に巻き込まれた哀れな1人となり果てます。

 

シナリオのその後/正気度報酬

 ※探索を終了したその後の世界についてと、クリア後の探索者への報酬について記載します。

シナリオのその後:柏木青空の生還

 探索者が柏木青空を無事に虹色学園に送り届けると、吉高はそれをとても喜び、探索者達に感謝をします。白滝町の動物達を襲った奇妙な殺害事件の元凶はこの世を去り、町人の知らない間に、白滝町には平穏な日々が戻ってきます。探索者達はそれぞれ、この事件で負った心の傷を抱えながら、自分たちの日常へと帰還を果たします。

 共依存の関係にあったチホ君を失った柏木青空は、虹色学園に入所した当時より、周囲との関係を拒絶するようになります。しかしそんな青空も、吉高の熱心なケアによって、いずれは心を開いていくことでしょう。

 みにくい、みにくい異形の子は、白鳥になることができず孤独に死んでいきました。

 もしも、もしも、誰かが彼を受け入れたなら、この結末は変わったでしょうか。

 それは誰にも分りません。

 

成功報酬

  • 探索者がチホ君の儀式から生還している場合:1d6の正気度報酬
  • チホ君の姿をイブン・ガジの粉によって直視した場合:1d3の正気度報酬
  • 魔導書の最後のページを見た場合:1d3の正気度報酬

-CoCシナリオ, ゲストシナリオ

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