CoCシナリオ 作者:ホリ 耶話鳴えオリジナルシナリオ

謎のオレサマン

投稿日:2016年12月29日 更新日:

はじめに

シナリオの概要

「俺に会ったが100年目! 悪党退散、大爆散!

 俺が正義だ! オレサマン、参・上!」

 夜闇を切り裂くような大声が響き渡った。20年程前にテレビで放映され、同時期に放送されていた他のスーパー戦隊シリーズにドップリと埋もれつつも、一部では熱狂的なお子様ファンを産んでいたのかもしれないと噂されるオレサマン。そんなマイノリティ・ヒーローが、真っ赤な装甲を身に纏って今宵も颯爽と登場した。彼はテレビで演出されるヒーローのように高く高く跳躍し、如何にも悪そうで絵に描いたような怪人へと、正義の拳を振り上げる。

 ここ、耶奈江市では、連日のようにオレサマンが現れ、謎の怪人と激しい戦闘を繰り広げる事件が発生している。テレビでの放映から20年が経ち、今更のように現れたヒーロー・オレサマンは、誰が何の目的で扮装しているのか、いったい何の為に戦っているのか、その全てが謎に包まれていた。警察は器物損壊罪や軽犯罪法違反など、様々な罪で彼を追っているが、未だにその正体について、雲を掴むような状態でいる。

 それはさて置き、探索者達の元に一件の依頼が舞い込む。依頼人・姫路正之の娘は一ヶ月程前から行方が分からなくなっており、その直後に家に空き巣に入られるなど、不幸なことが続いているという。警察には届けているものの、あのハタ迷惑なオレサマン事件で騒がしい昨今、警察の捜査だけでは何とも心許ない。

「男手一つで育て上げた大事な娘、何としても無事であって欲しい」

 依頼を受け、依頼人の愛娘について調査を始める探索者達。その過程で彼らは、奇想天外なオレサマン事件にやっぱりガッツリ関わっていくことになるのであった。

シナリオの背景

 姫路綾香は、世界的な製薬会社マーマレイド社に勤める「考古学者」だ。マーマレイド社は医薬品の開発・製造を主体とした企業だが、歴史的な遺産の保護やその研究の支援に積極的で、お抱えの考古学者を持つほどの酔狂な企業だった。彼女はマーマレイド社専属の考古学者として日夜、大好きな研究に明け暮れていた。

 そんなある日、綾香はマーマレイドのイギリス本社から海外出張の下知を受ける。どうも本社が行っているグリーンランドでの古代遺跡の調査に、人手が足りていないらしい。綾香に伝わってくる本社からの情報は曖昧で、どうにも要領を得ないというか、調査すべき遺跡の名前さえも分かっていないのだけど、彼女にとっては胸が膨らむ初めての海外出張だった。

「仕事に観光に、現地を精一杯満喫するぞっ!」

 そんな気合に満ち溢れて日本を発った彼女は、現地でその真っ直ぐな瞳を暗闇で濁らせることになる。

 グリーンランドに降り立った彼女は、すぐさま目的の遺跡に案内された。グリーンランドの奥地に開いた、ほんの小さな穴から落ちるようにして進んだそこは、太古の神殿が地中に埋もれるようにして存在していた。それは古代とは思えないほど高度な文明によって造られた物のようで、一目見ただけで精神まで病みそうな彫像など、様々なアーティファクトが収められていた。彼女はどこか悍ましい遺物の数々に恐怖を覚えながらも、この歴史的発見に携われることを誇りに思い、発掘作業に着手する。そこが、怠惰な邪神ツァトゥグァの旧礼拝堂であり、マーマレイド社の忌まわしい計画の一端に自身が加わっているとも知らずに。

 二ヶ月間、寝る間を惜しんで発掘作業を進めていた彼女は、地中から青銅の杯を掘り起こす。その中には太古の黒い液体が入ったままで、それに気付いた瞬間、その液体は杯からみるみる内に溢れ出してきた。零れた液体は地に落ち、そこで粘土のように形を作り始める。それは瞬く間に人ほどの大きさになり、水が煮え立つような声を上げたかと思うと、突然、綾香の近くにいた男の首を刎ねた。

 逃げるのに必死で、その直後のことはよく覚えていない。気が付くと、彼女は洞窟の外にいた。洞窟内にいたマーマレイド社の者は、そのほとんどが命を失ったらしい。彼女は声を失い、放心状態だった。そんな彼女の傍らに、どこからともなく現れた外国人の男が立った。マーマレイド社の社章を胸に付けたその男は、綾香に声をかける。

「死にたくなかったら、このことは秘密にしなさい」

 男は笑顔だった。その笑顔は、内に秘めた狂気が滲み出たものだと彼女には分かった。心が壊れそうだった彼女はその言葉に、頷くしかなかった。

 

シナリオを始めるにあたって

探索者について

戦闘の難度が高く、ロストが大いに有り得るシナリオです。場合によっては、プレイヤーにロストしても良い新規の探索者を作ってもらうなど、配慮をお願いいたします。

  • プレイヤーが職種・技能など自由に作成してください。シナリオの導入部において、依頼人から依頼を受ける必要があるため、「依頼人である姫路正之の友人」もしくは「調査対象の姫路綾香の友人」という設定の探索者か、職業が探偵や警察の探索者がいると、導入がしやすいでしょう。
  • 戦闘に重きを置いたシナリオです。探索者はそれぞれ戦闘技能を持つことを推奨します。また、戦闘に積極的に参加できるような、正義感の強い探索者であることを推奨します。

登場人物(NPC)について

※詳細は別途資料「 登場人物一覧(キーパー用) 」をご参照ください。

<登場人物の簡易的な説明>

姫路 綾香(ひめじ あやか)

”行方不明の考古学者”

年齢:25 職業:考古学者

マーマレイド社に勤めていた考古学者。グリーンランドから帰国した直後、現在より一ヶ月前から姿を消している。

小田原 達也(おだわら たつや)

”俺が正義だオレサマン”

年齢:26 職業:考古学者

特撮テレビドラマが好きな若者。綾香の同僚であり、恋人。3週間ほど前から行方をくらましている。

姫路 正之(ひめじ まさゆき)

”娘を探す父”

年齢:58 職業:会社員

探索者への依頼人であり、綾香の父親。男手一つで育てた娘の安否を心配している。

大越 小春(おおごえ こはる)

”メガフォン女子高生”

年齢:16 職業:女子高生

謎のオレサマンに恋している女子高生。持ち前の行動力で怪異へと突撃する。

モロニ=バレンティン

”三流探偵”

年齢:31 職業:探偵

アメリカ人の両親を持つ、日本生まれの日本育ち。探偵に憧れ、それを生業とするが、その腕前は三流。

ビター=マーマレイド

”マーマレイド社の社長”

年齢:50 職業:社長

マーマレイド社の現社長。考古学部門の部長を務めた、異色の経歴を持つ。

<神話生物の簡易的な説明>

ツァトゥグァ

”怠惰な邪神”

ハイパーボリアにおいて亜人間達に崇拝されていた邪神。人間との取引に応じ、血や生贄の代価として力を授ける。

かたどる落とし子

”怪人”

かつて、”無形の落とし子”としてツァトゥグァの神殿を守っていたクリーチャー。長く休眠状態にあったことで、その身体の軟性を損なっている。

別途資料一覧

 シナリオを進行させるための別途資料を下記に一覧化します。シナリオを進行させる際に適宜使用してください。

<キーパー用資料>

<探索者用資料>

 

シナリオ 導入パート

導入:姫路正之からの依頼

 このシナリオに季節の指定はありません。とある日の昼下がり、探索者の下に、姫路正之という初老の男性が、友人もしくは依頼人として現れます。正之は衰えを感じさせない雄々しい男ですが、探索者の前に現れたその表情は今にも泣き出しそうです。正之は、下記のような内容を探索者に依頼します。

<姫路正之の依頼>

 姫路正之には、綾香という一人娘がいます。正之は妻を早くに亡くしており、彼にとって綾香は男手一つで育ててきた掛け替えのない愛娘です。そんな綾香が、一ヶ月ほど前から自宅に帰って来ていません。電話を掛けても連絡はつかず、綾香の勤め先のマーマレイド社にも顔を出していないようで、行方不明となっています。

 またそれとは別に、綾香が姿を消した数日後、正之の自宅に空き巣が入りました。留守を狙った空き巣で、家の中を荒らされましたが、不思議なことに貴重品の類は無事でした。自宅から失われた物もなく、何かを盗まれた訳ではないようです。しかし、空き巣は綾香の部屋を特に酷く荒らしており、そのことが正之の不安に拍車を掛けました。

 警察にはとっくの昔に行方不明者届を提出していますが、未だに綾香が見つかる様子はありません。正之が居を構える耶奈江市では、最近、巷で話題の「オレサマン事件」が起きており、警察はその対応でテンヤワンヤです。そんな様子を見ていると、どうにも警察ばかりに任せてはおけません。正之は探索者達にも綾香を探してほしいとお願いします。

知識:オレサマン事件について詳細を知っている。(下記「オレサマン事件」の項の情報を開示)

アニメや特撮に関する技能:特撮テレビドラマ「俺が正義だ!オレサマン」について詳細を知っている。(別途資料「俺が正義だ!オレサマン」についての情報を開示)

<オレサマン事件>

 オレサマンは20年程前にテレビで放映されていたという、子供向けの特撮テレビドラマです。耶奈江市では2週間程前から、このオレサマンの姿に扮した何者かが、これまた正体不明の怪人を相手に大暴れするという事件が連日のように起きています。

 目撃者によれば、怪人は全身が黒ずくめで、まるで身体がゴムで出来ているかのように柔らかく動く軟体人間とのこと。その怪人の姿を見て、目撃者が腰を竦めてしまっていると、小恥ずかしい名乗り文句と共にオレサマンが現れ、怪人と大激闘を繰り広げるようです。その激闘の最中で、電信柱が折れたり、家の壁に穴が開いたり、耶奈江の市街はシッチャカメッチャカになっています。

 この事件は全国的に報道されており、その訳の分からなさから話題を呼んでいます。

「お願いだ、些細な情報だけでもいいんだ、綾香を探してくれ!」

 正之は探索者に対して綾香の写真を見せ、出来る限りの情報を提供します。

<姫路綾香について>

 正之が探索者に見せた写真には、「柔らかな笑みを浮かべる女性」が写っています。この女性が正之の娘、綾香です。

 姫路綾香は世界的な製薬会社、マーマレイド社に勤める「考古学者」です。この会社は医薬品の開発・製造を主体としていますが、歴史的な遺産の保護やその研究の支援に積極的で、お抱えの考古学者を持つほどの酔狂な企業です。

 綾香は学生の頃から歴史や考古学が好きで、念願の考古学者として研究が出来ることを喜んでいました。つい最近も考古学研究のために海外に出張しており、二ヶ月程をグリーンランドで過ごしていました。現地の調査はとても大変な作業だったようで、帰ってきた彼女はとても疲れた表情をしていたと言います。

 彼女は海外出張から帰って来て半月が経った頃、忽然と姿を消しました。彼女がマーマレイド社で働き始めてから、正之と綾香はお互いに忙しく、家での会話も少なくなってしまい、最近の彼女の動向・生活について正之は詳しく知りません。正之はそのことを大変に悔やんでいます。

 探索者が依頼を受けると、正之は大袈裟なほど喜びます。直ぐにでも調査を開始して欲しいようで、「自分で散々探したが、まだ何か手がかりがあるかもしれない」と言い、探索者達を”綾香の部屋”に案内すると申し出ます。探索者はそれを受けても受けなくてもよいですが、受けた方が進行はスムーズでしょう。

 

シナリオ 探索パート

耶奈江駅

 耶奈江駅は、依頼人・姫路正之の自宅から最寄りの駅です。探索者達が電車で姫路の家を目指す場合、この駅を通過することになります。

目星×2:駅の彼方此方に「探しています!姫路綾香」と題されたポスターが貼られており、綾香の写真やプロフィールが記載されていることに気が付く。

聞き耳:「悪い怪人をブチのめしてくれるオレサマン! 皆でオレサマンを応援しましょう! オレサマンの情報、募集中でーす!」という女性の声が聞こえる。まるで選挙活動のようだ。

 上記の目星で発見できる綾香のポスターは、正之が貼った物です。このポスターは駅以外にも、町中の至る所に貼られています。正之は綾香を探すため、連日、精力的に活動しているのです。しかし、未だに綾香に関する目撃情報はないようです。

 上記の聞き耳で聞こえる「オレサマンの情報募集中!」という声は、女子高生・大越春香によるものです。探索者が気になって彼女に話を聞きに行く場合、「メガフォン女子高生・大越小春」の項を参考にシナリオを進行させてください。

姫路正之の家(姫路綾香の部屋)

 姫路正之の家は二階建ての一軒家です。一般的な家屋で、特に変わった様子はありません。

 家の中に、姫路綾香の部屋があります。探索者はその部屋に案内されます。

 綾香の部屋は散らかり放題だった。机や棚の引き出しは全て引き出され、中身がそこかしこに散乱していた。

 探索者には知る由もありませんが、綾香の部屋は、マーマレイド社の手の者によって荒らされています。これは彼女が「グリーンランドでの遺跡調査」に関する情報を持っていないか調べ上げ、それを処分するために部屋中を探し回られた結果です。

 正之は、空き巣に荒らされた綾香の部屋をなるべくそのままにしています。

 部屋の中は荒れているものの、そこにある物は女性の部屋にある物として自然な物ばかりです。探索者は下記のロールを行うことが出来ます。

目星:綾香の鞄の中に、家の鍵が2本あることに気が付く。

図書館:本棚の英和辞典が、外箱と中身が異なっており、中に手帳が入っていることに気が付く。

アイディア:綾香の部屋に似つかわしくない、オレサマンのフィギュアが落ちていることに気が付く。

<2本の鍵>

 綾香の鞄の中には鍵が2本入っています。それぞれ、異なる家の鍵のようです。探索者が鍵について正之に聞くなら、片方は今いる正之宅の鍵であることが分かります。もう片方の鍵は、正之にも何所の鍵か分かりません。その使途が不明の鍵にはプラスチックの名札のようなキーホルダーが付いており、そこには「T・O」というイニシャルが記載されています。

 これは、綾香の恋人である小田原達也の家の合鍵です。正之は、綾香が達也と付き合っていることも、そもそも小田原達也という人物も知りません。

<綾香の手帳>

 本棚に収納された英和辞典の外箱。その中身は英和辞典でなく、綾香の手帳(日記帳)です。万が一にも父親である正之に読まれないよう、綾香はこの場所に手帳を隠していました。

 手帳を読むと、下記の内容が分かります。

  • 綾香には一年前から交際している恋人がいる。誰にも秘密の職場恋愛だ。恋人は変わった趣味を持っているが、とても優しく、頼れる人のようだ。名前は「タツヤ」。
  • 綾香はマーマレイド社のイギリス本社から、急遽、海外出張を言い渡された。どうも現地の遺跡調査で人手が足りていないらしい。行先はグリーンランド。遺跡の名前は分からない。

 また、綾香がグリーンランドの出張から帰国した日に、一行だけ記入があります。それを最後にして手帳には記入がありません。

 私、殺されるかもしれない。

 床に落ちているオレサマンのフィギュアは綾香が小田原達也から譲り受けた物です。探索者が調べても、特に深い情報はありません。探索者が正之にこのフィギュアについて見せても、「今も昔も、綾香がオレサマンに興味を持っていた様子はなかった」と言います。

マーマレイド社(姫路綾香の勤務先)

 姫路綾香の部屋で手帳を見つけた探索者は、綾香の「秘密の恋人」や「海外出張」の件について調査するために、勤務先であるマーマレイド社に赴く事でしょう。インターネットなどを活用すれば、耶奈江市に建つマーマレイド社の支社の場所は直ぐに分かります。

 耶奈江市の郊外、建物も疎らになったのどかな土地に、広大な敷地を持ったマーマレイド社の支社が見える。高さがあるというよりは横に広いビルで、世界的な企業としての威風が感じられる。

 探索者達がマーマレイド社の中に入ろうとすると、入り口の警備員に止められます。「姫路綾香さんの失踪についてお話をお伺いに来ました」などと言えば、中に入れてもらえます。しかし、綾香の職場には通してもらえず、社内の応接室に連れていかれます。

 少しすると、綾香の上司を名乗る初老の男性が現れます。彼はマーマレイド社の日本支社考古学部門の部長(名前はキーパーが決めてよいです)だと名乗ります。探索者は彼に、綾香についての質問が出来ます。彼から引き出せる情報は下記の通りです。

<マーマレイド社内での姫路綾香について>

 姫路綾香が行方不明になっていることは、部長も把握しています。実際に、ここ一カ月ほど、彼女はマーマレイド社に出社していません。彼女が行方をくらます前に特に変わった様子もなく、会社が原因で失踪したわけではないと部長は認識しています

 綾香は優秀な考古学者でした。研究熱心で、語学力にも長けていたため、グリーンランドへ部員を派遣しなくてはならなくなった時、彼女を推薦したのは他ならぬ部長です。

 彼女がグリーンランドでどんな研究・調査をしていたのか、部長は知らないと答えます。綾香の携わった遺跡調査は、社内でも極秘のプロジェクトであり、その内容を知っている者は日本支社にはいないと言います。ただ、”人類の常識を覆すような世紀の大発見に繋がるかもしれないもの”として社内で噂はされています。

心理学:部長が綾香のグリーンランドでの遺跡調査について、何かを隠していることが分かる。

 部長はマーマレイド社のグリーンランドでの遺跡調査について、自身が積極的に介入していた訳ではありませんが、マーマレイド社の実情を知って組する者として、その内容を知っています。しかし、探索者にそれを開示することはありません。

<姫路綾香の社内恋愛について>

 部長は、綾香が社内恋愛をしていたと聞かされると、非常に驚きます。その相手がタツヤという名前だということを聞くと、更に驚きます。

心理学:部長が本当に驚いていることが分かる

 部長は、確かにこの支社の中にタツヤという名前の社員がい”た”ことは教えてくれるが、その詳細については”個人情報保護”の観点から教えてくれません。探索者が交渉技能を用いて無理にでも聞き出そうとすると、「これから予定が入っている」などと言い、探索者との会話を打ち切ってしまいます。その様子は、とても怪しく思えるものです。

 探索者がどれだけ部長に食い下がって情報を得ようとしても、彼らは碌な情報も得れないまま、適当にあしらわれてしまいます。このことで探索者は、マーマレイド社に対する不信感を募らせることでしょう。

 探索者がマーマレイド社を出ると、下記の男に気が付きます。

目星×4(自動成功):電信柱の陰から、スーツ姿でサングラスをかけた、筋骨隆々の金髪外国人男性がこちらを見ていることに気が付く。

 この外国人は、ジーッと探索者達のことを見つめています。探索者達と目が合うと、ぷいと目を横に反らし、「全然見ていませんよ」という感じを出そうと努めますが、探索者を意識していることは丸分かりです。

 この男はモロニ=バレンティンという名前の探偵です。この男は、探索者と交流を図ってきます。「探偵・モロニ=バレンティン」の項を参考にシナリオを進行させてください。

<探索者がマーマレイド社に忍び込む場合>

 マーマレイド社を怪しんだ探索者が、探索のために社内に忍び込むことがあるかもしれません。マーマレイド社は表向きは製薬会社であり、探索者が表層を探索したとしても、目ぼしい情報を入手することは出来ません。経理の技能を持つ探索者がいた場合は、下記のロールを行ってもよいでしょう。

経理:マーマレイド社の考古学研究に対する肩入れは異常で、非常識なほど多額の資金を注ぎ込んでいることが分かる。

 もし、立入禁止の鍵がかかった部屋や、隠し部屋を調べるなら、後述する「小田原達也の調査記録」の項に記載されたような黒魔術的資料を見つけることがあるかもしれませんが、その設定までは明文化しませんので、キーパーが適宜設定してください。

 基本的には探索者が侵入を試みた場合、警報が鳴り響いて警備の者が駆けつけ、探索の続行が不可能であるとしてしまってよいでしょう。定期イベント「オレサマン現る」の項を参考にして、怪人に探索者を襲わせてもよいかもしれません。

探偵・モロニ=バレンティン

 モロニ=バレンティンは筋骨隆々の外国人です。彼は電信柱の陰などから探索者を見つめつつ、尾行してきます。本人はバレていないと思っているようですが、その様子は全て探索者達に筒抜けです。

 探索者が声をかけると、モロニは非常に驚きます。「どうして分かったんだ」と流暢な日本語で喋りながら、探索者に自分の身分を明かします。

 もし、探索者がモロニを怪しみ、彼との交流を避けようとする場合は、機会を見て、モロニの方から探索者に接触させてください。通りすがりを装い、「いやぁ、いい天気ですね。ところで小田原達也という人物をご存知ですか」などと強引に話を振るとよいでしょう。

<モロニ=バレンティンについて>

 モロニ=バレンティンはアメリカ人の両親を持ち、異国人のような風貌ですが、日本国籍を持つ日本人です。彼は耶奈江市で個人探偵事務所を営んでいます。尾行など、探偵らしい行動は悉く三流の彼ですが、彼なりに頑張ってお仕事をしています。

 彼は現在、「行方不明になっているマーマレイド社の男性社員・小田原達也」の行方を追っています。遠方に暮らす小田原達也の両親からの依頼です。達也は3週間程前から会社に出勤しておらず、一人暮らしの自宅にも帰っていないようなのです。

 モロニは自分が「小田原達也」という人物を探していることを探索者に明かします。探索者に情報を求めますが、探索者の方では「姫路綾香と恋人関係にあった男性がタツヤという名前である」という、曖昧な情報しか持っていないことでしょう。

 探索者が「姫路綾香を探している」という情報を伝えれば、同業の好で、モロニはそれに協力してくれるでしょう。モロニは探索者達に、小田原達也の情報や住所を教えてくれます。

 モロニは探偵としては三流ですが、戦闘員としては一流です。探索者の関わり方次第によっては、探索者に協力するサポート役として活躍するでしょう。

メガフォン女子高生・大越小春

 大越小春は、耶奈江駅を中心に、街中至る所で大声を上げています。キーパーは探索者の聞き耳の技能を活用しながら、彼女の存在に気付かせてください。

 そこでは、制服を着た女子高生が、メガフォンを片手に大声を上げていた。女子高生は小さな脚立に乗って背を高くし、襷を巻き、空いている手には手作りしたであろうノボリを持っていた。襷やノボリには”オレサマン最高”と、如何にも頭の悪そうな文字で書かれている。

「悪い怪人をブチのめしてくれるオレサマン! 皆でオレサマンを応援しましょう! オレサマンの情報、募集中でーす!」

 探索者が彼女に声をかけると、「オレサマンですか!?」と前のめりで聞いてきます。探索者が違うというと、彼女は露骨に残念そうな顔をしますが、すぐに気を取り直して自己紹介をしてくれます。

 探索者が姫路綾香の失踪と、オレサマン事件の関連性を疑った場合は、積極的に大越小春との交流を図ってくれるかと思います。

<大越小春について>

 大越小春は、耶奈江市に住むごく普通の女子高生です。彼女は数日前、下校中に夜道を歩いている時に怪人に襲われました。

 怪人は、四肢を鞭のように撓らせて、明らかに人間の動きをしていなかったと言います。小春はその姿を見て腰を抜かしてしまい、動けなくなってしまいました。怪人は小春のすぐ傍まで来て、彼女に覆いかぶさろうとしました。「もうだめだ」と全てを諦めたその時、目の前でトラックが建物に正面衝突したかのような轟音が鳴り響き、怪人は大きく弾き飛ばされました。

 気が付けば、小春の傍にはテレビで話題のオレサマンが立っていました。オレサマンは小春に目もくれず、吹き飛ばした怪人に向けて、信じられないほど大きく跳躍し、踏みつけるような蹴りを繰り出します。そこからはもう血で血を洗う大乱闘。小春はそんなヒーロー・オレサマンを見て、一瞬で恋に落ちました。

 オレサマンは、逃げ去る怪人を追いかけて小春の前から姿を消してしまいました。彼女もその後を追おうとしましたが、その時、小春はオレサマンが落とした「何か」を見つけました。

 小春がオレサマンと出会った場所は、何所でも構いません。決めかねる場合は病院の傍ということにしましょう。

「そう、オレサマンは私の命の恩人にして、白馬の王子様なんです」

 彼女は頬を赤らめながら言う。

「私は、この落とし物を彼に届けなきゃいけないんです。だからこうして、学校もサボってオレサマンを探しているんです」

<小春が拾った物>

 小春は”オレサマンの落とし物”を拾っています。それは、虹色に輝く奇妙な石です。小春はこの石を非常に大切にしており、自分の手でオレサマンに返したいと願っています。そのため、どのような交渉技能を用いようとも、基本的には探索者にこの石を渡そうとはしません。

地質学:その石が見たことのない石で、天然の石でないことが分かる。

 探索者がオレサマンに興味を示すのであれば、小春はそれを喜びます。大越小春は「オレサマンの情報を入手したら教えてください! 私も何か見つけたら連絡します!」と、探索者に連絡先を教えます。ここで探索者と小春がお互いに連絡できる状態を作っておくと、後々のエンディングへの移行が楽になります。

警察署

 警察署内の警察官は、オレサマン事件の対応で慌ただしいです。

 探索者が警察署に赴く場合、そこで「オレサマン事件」の情報を手に入れることが出来るでしょう。ここで入手できる情報は、新聞やニュースなどでも取得できます。

<オレサマン事件の詳細について>

 オレサマン事件の詳細を調べようとするならば、下記のような情報が手に入るでしょう。

 謎のオレサマン(と、謎の怪人)は今から2週間前の夜に初めて目撃されています。それからは毎日のように出現し、その出現場所はまちまちで規則性がなく、時間も昼夜を問いません。全ての事件で、怪人が出現した後にオレサマンが現れています。

 一見すると、怪人を倒しているオレサマンは善良なヒーローのように思えます。しかし、実際には怪人が悪さをする前にオレサマンがそれを叩きのめし、その戦闘で周囲に被害が出ているため、むしろオレサマンの方が悪いのではないか、というのが今の世間の論調です。

 警察はオレサマン事件について懸命の捜査を進めていますが、一向に成果が上がらず、行き詰っています。

病院(オレサマン事件の被害者たち)

 病院には、オレサマン事件で負傷した者たちが何名か入院しています。探索者の探索の仕方によっては、彼らに話を聞くことが出来るかもしれません。

<オレサマン事件の被害者の話>

 彼らは一様に、オレサマン事件の話を聞こうとすると顔をしかめます。彼らにとって、余り思い出したくない事件のようです。

 被害者は皆、まず目の前に怪人が現れたと言います。そして、その姿を見た途端に悪寒がし、怖くてたまらなくなったそうです。怪人は全身黒ずくめで、人型をしていましたが、人間のようには見えませんでした。被害者が恐怖で逃げ出そうとしたり、その場で動けなくなっていると、後からオレサマンが出現しました。オレサマンは名乗り文句を告げながら怪人に襲い掛かり、それを撃退しました。それはそれで良かったのですが、ここに入院している者たちは、運悪くその戦闘に巻き込まれて何所かを怪我してしまった者ばかりです。

 この病院には、メガフォン少女・大越小春の友人も入院しています。その人は「友人の女の子は、オレサマン事件に巻き込まれてから、オレサマンにご執心で。オレサマンの情報を求めて街宣しているよ」などという情報を探索者に教えてくれるでしょう。

図書館

 探索者は図書館で資料を探すことが出来ます。

 図書館で取得できる情報は下記の通りです。それぞれ、図書館の技能でロールを行い、情報を開示してください。

<「俺が正義だ!オレサマン」について>

 特撮テレビドラマ「俺が正義だ!オレサマン」についての詳細を調べることが出来ます。別途資料「俺が正義だ!オレサマン」についての情報を開示してください。

<マーマレイド社について>

 マーマレイド社は世界的な製薬会社です。この会社は医薬品の開発・製造を主体としていますが、歴史的な遺産の保護やその研究の支援に積極的です。世界各地の文化遺産や遺跡の保護に尽力をしており、それについての評価はとても高いです。

 イギリスに本社があり、創業は1717年。現社長はビター=マーマレイドという男で、マーマレイド社の考古学部部長を務めていた異色の経歴の持ち主です。

<グリーンランドについて> … 図書館とオカルトの組み合わせロールにて情報を開示するとよいでしょう。

 グリーンランドは氷河期以前に、ハイパーボリアと呼ばれる大陸でした。この大陸には高度な文明を持つ都市が存在した一方、邪悪な神や、数多の恐るべき生物が生息していたと言われています。ハイパーボリアは氷河期の訪れと共に、人の住まぬ地となり果ててしまいました。

 図書館には新聞も置かれていますので、それを読んで「オレサマン事件」についての記事を探すなら、「警察署」の項に書かれているような情報も得る事が出来るでしょう。

小田原達也の家

 探偵・モロニ=バレンティンからの情報によって、探索者達は小田原達也の住居に到達することが出来ます。

 達也の住むマンションは、駅の南側にあることとします。

 駅から少し離れたワンルームマンション。その一角に「小田原」と記された表札の掛かった部屋があった。

 達也の部屋の鍵は閉まっており、インターフォンを押しても応答がありません。探索者が「綾香の部屋で見つけた鍵」を使用するならば、問題なく玄関の扉を開けることが出来ます。

 部屋の中は、如何にも一人暮らしの男性らしい内装だった。部屋の片隅にパソコンが置かれており、背の高い本棚には沢山の本や人形が並んでいた。

目星:本棚に並んでいる人形は、どれもこれも「特撮ヒーロー物」のフィギュアであることが分かる。オレサマンのフィギュアも数体並んでいる。

目星:クローゼットの中に、普通の衣類の他、「特撮ヒーロー物」のコスプレグッズがいくつかあることに気が付く。その中に、オレサマンの物は見受けられない。

図書館・考古学・歴史:本棚の中には考古学・歴史学に関する書籍が並んでおり、その中に「ハイパーボリア」に関する本が幾つか並んでいることに気が付く。

コンピューター:パスワードを打ち込まず、パソコンのデータを探ることが出来る。

アイディア1/2:机の引き出しが二重底になっていることに気が付く。

<ハイパーボリアに関する本>

 達也の本棚に並ぶ「ハイパーボリア」に関する本を調べるなら、「図書館」の項に記載されている「グリーンランドについて」の情報を開示してください。また、この本を調べて更に図書館もしくはオカルトのロールに成功するならば、下記の情報を追加で開示してください。これらの本は、達也がグリーンランドの遺跡について調べるために、最近入手した物です。

 ツァトゥグァは、ハイパーボリアにおいて亜人間達に崇拝されていた神です。ツァトゥグァはエイグロフ山脈の最高峰・ヴーアミタドレス山の地下洞窟において、亜人間たちから礼拝を受けていました。この礼拝堂には液状の怪物が潜んでおり、そこに足を踏み入れた部外者に襲い掛かったと言われています。

 現代においてこの礼拝堂は発見されておらず、その存在の真偽は定かではありません。

<小田原達也のパソコン>

 小田原達也の部屋にあるパソコンは、パスワードでロックが掛かっています。ロックを解除するためのパスワードは「オレサマン」です。もし、探索者がこのパスワードを思いつかない場合は、キーパーの判断によって違うパスワードに変えてしまっても問題ありません。パスワードを解除すると、雑然としたデスクトップが表示されます。デスクトップの壁紙には、「俺が正義だ!オレサマン」の写真が設定されています。

 パソコンのデータを調べると、特撮ヒーロー物の恰好をした達也の写真が複数枚見つかります。その中に、オレサマンの恰好をしている達也の姿も見受けられます。(クローゼットの中にオレサマンの衣装がないことから、この部屋からオレサマンの衣装が失われていることが分かります)

 また、データを調べるためにコンピューターや図書館の技能に成功すると、下記の「小田原達也の調査記録」を見ることが出来ます。

調査記録


 綾香は怯えて身体を震わせながらも、グリーンランドで見てきた出来事を僕に話してくれた。普通ならばとても信じられる話ではないけれど、僕は彼女のことを信じる。僕達はとんでもない企業で働いていたようだ。

 彼女から、彼女が波乱の只中で意図せず現場から持ち帰って来てしまったという「石」を譲り受けた。不思議な色をした石で、見ていると心を吸い込まれそうになる。この石について、詳しく調べてみる必要がありそうだ。


 綾香の話を聞いてから、こっそりマーマレイド社の資料を嗅ぎ回っていた。立入禁止の場所に忍び込むと、そこにはあまりに悍ましい資料が収められていた。マーマレイド社が厳しい管理をしていることからも、こいつらが本気でこの「生贄」や「魔術」に傾倒していることが見てとれる。僕達は知らない間に、悪の手先になっていた。

 綾香が持ち帰った石と、似た石についての記述を発見した。どうやらこの石は、邪悪な神との取引に用いられる古代の魔術具のようだ。


 綾香が出勤してこない。連絡もつかない。そんな、まさか。

 綾香、無事でいてくれ。必ず僕が助け出す。


 綾香が見つからない。社内は隅々まで探した。彼女は外部か、もしかしたら外国にまで連れていかれてしまったのではないか。行方を探るが、気持ちばかりが急いて、事態が前に進まない。


 悪をもって悪を制す。覚悟を決めた。僕は彼女を救い出すために手段を厭わない。


 綾香へ。僕は君が無事であれば、他に何も望まない。君を救うために命を賭す必要があるならば、そうする以外に余地はないんだ。君の幸せを願っている。

<二重底の引き出しの中身:エイボンの書の残存断片>

 探索者は達也の机の引き出しが、二重底であることに気が付くことが出来ます。このことは、アイディアのロールを振らなくても、「俺が正義だ!オレサマン」についてをよく読めば、探索者自身で気付くことが出来るかもしれません。

 引き出しの中には、古書の1ページとメモが入っています。とても古い本から、抜け落ちてしまったページのようです。古書はラテン語で書かれており、メモは日本語で書かれています。

 古書に書かれている内容は下記の通りです。実際にはラテン語で書かれているため、読むためにはラテン語の技能のロールが必要となります。

 ツトガニウムは神との取引に用いられる。この石を飲み込んだ物は、その生命と引き換えに、大いなる力を得るだろう。安易に飲むことなかれ。心弱き者は神の御前に立つことも叶わぬ。また、人間にとって、大いなる力の代償はあまりに残酷だ。

 メモは日本語で書かれています。下記の内容は技能を振らずに知ることが出来ます。

 ツトガニウムは神との取引に用いる。神は石を使う者に大いなる力を与える。

<ツトガニウムについて>

 ツトガニウムは、かつてツァトゥグァを信仰していた亜人間が、ツァトゥグァと交信を行うために用いていたアーティファクトです。この石を飲み込んだ者は、ツァトゥグァと取引を行うことになります。この石を飲み込んだ者はその寿命のほとんどをツァトゥグァに捧げることにより、刹那的に”大いなる力”を得ることが出来ます。

 オレサマンの正体は、ツトガニウムを飲み込み、ツァトゥグァと取引をした小田原達也です。達也が綾香から譲り受けたツトガニウムは、飲み込むには大きすぎた為に、彼はそれを2つに砕きました。そしてその片方を飲み込み、片方を残していました。達也が残していた片方を、小春は「オレサマンの落とし物」として拾っています。つまるところ、小春の拾った「オレサマンの落とし物」は「ツトガニウム」そのものです。

 探索者がこの部屋をよく調べれば、「耶奈江の街に現れるオレサマン」が「小田原達也」の扮装した姿であると推測することが出来るかと思います。

 キーパーの裁量によって、エンディングへのシナリオ進行はいつでも可能ですが、基本的には「大越小春の連絡先を知った」後に、この「小田原達也の家」を調べ終わった時がよい機会でしょう。エンディングへの移行の仕方については、エンディング「A1:突撃!大越小春」を参考にしてください。

もし、探索者がツトガニウムを飲み込んだ場合

 このシナリオ上、探索の仕方によっては探索者が飲み込むことが可能なツトガニウムが、2か所にあります。1つは「大越小春の持つ、オレサマンの落とし物」、1つは「マーマレイド社が持っているかもしれない魔石」です。大越小春の持つツトガニウムは、シナリオ進行上、自然と見ることが出来ます。マーマレイド社が持っているかもしれない魔石は「探索者の探索によっては(キーパーの裁量で)見つかることもある」という程度の物です。

 ツトガニウムはツァトゥグァとの取引に用いられる悍ましい魔石で、本来ならば探索者が飲み込むべき物ではありませんが、探索者によっては”大いなる力”を求めて飲み込むこともあるかもしれません。ここでは、探索者がツトガニウムを飲み込んだときに起こることを記載します。

 探索者がツトガニウムを飲み込むと、強烈な吐き気に襲われます。そして、頭から爪先までを雷で打たれたかのような激痛が走ります。即座に、ツトガニウムを飲み込んだ探索者のみ、POWの値を永久的に2減らし、SAN値を1D6減少させてください

 ツトガニウムを飲み込んですぐに、激痛に苦しむ探索者の周囲が、塗りつぶされたような暗闇に覆われ始めます。これは、ツトガニウムを飲み込んだ探索者が視界に入る距離にいる、他の探索者達も同様の現象を目にし、暗闇に囚われます。視界を奪われた全ての探索者達は、その最中で「怠惰な邪神・ツァトゥグァ」を目撃します。

 不意に、暗闇の中で二筋の光が薄っすらと灯った。それは巨大な目だった。暗闇に浮かぶ目は、真っすぐに、[ツトガニウムを飲み込んだ探索者]を捉えている。

SANチェック 0/1D10

 しばらくすると、巨大な目は閉じられた。と同時に、この異質な世界に強烈な突風が巻き起こる。建物さえ倒壊させてしまいそうな突風は、[探索者]を中心に押し寄せるようにして錯綜し、[探索者]の身体を押し潰した。

 上記の後、探索者達は元いた場所で目を覚まします。そして、ツトガニウムを飲み込んだ探索者のみ、その身体に異変を感じます。心臓が燃えるように熱く、身体が内側から弾けそうなほどにエネルギーに満ち溢れています。ツトガニウムを飲み込んだ探索者は、下記の能力上昇を行ってください。 

項目 内容
STR・CON・DEX 能力値に18を加算してください。
耐久力・回避 上記のSTR・DEXで再計算を行ってください。
ダメージボーナス 今後、ダメージボーナスは+2D6で固定となります。
「跳躍」「水泳」「登攀」 左記の全ての技能値に60を加算してください。上限は95です。
戦闘技能 技能の成功値に30を加算し、その基本ダメージ(ダメージボーナスを除く)は2倍で計算してください。
クトゥルフ神話技能 技能値に10を加算してください。

 このようにして、探索者は大いなる力を得ますが、その代償はとても高く付きます。具体的には、ツァトゥグァから力を授かった探索者は、このシナリオを終えた直後には、その命を失っていることでしょう。

 

シナリオ 定期イベント

オレサマン現る

 このイベントは耶奈江市の市内であれば、どのような場所・時間で起こしても構いません。複数回起こしても問題ありませんし、機会を逸した時は発生させなくても問題ありません。キーパーは探索者の様子を伺いながら、適切だと思う機会にこのイベントを起こしてください。

 探索者が耶奈江市の町中を歩いていると、突然、目の前に怪人が現れます。下部に、その一例を記します。

 [探索者]は、何かが泡立つような音が聞こえた気がした。そして、その音を発する”影”を目撃する。

 それは人型の黒い物体だった。踊るような動きをするそれは、関節など存在しないように四肢をしならせ、振り回し、[探索者]に近づいて来ていた。それは凡そ、人間に可能な動きではなく、その黒色は[探索者]の視界に穴が開いたようだ。[探索者]はその姿の異様な悍ましさに、胸が苦しくなる。

SANチェック 1/1D6

<謎の怪人について>

 探索者の目の前に現れた謎の怪人は、ツァトゥグァに従う”落とし子”の一種です。詳細な能力に関しては、別途資料「登場人物一覧(キーパー用)」の「謎の怪人」の項をご参照ください。

 この落とし子は、マーマレイド社によって招かれた物です。マーマレイド社はツァトゥグァの礼拝堂で発見したアーティファクト達を用い、邪神と交信することに成功しました。そして、日本において、邪神から遣わされた落とし子達の”研究と実験”を行っています。

 キーパーは探索者達と怪人の戦闘を演出してください。探索者が怪人を倒したとしても、怪人は何所からか次から次へと湧き出して来ます。また、探索者が組み付きの技能を活用して怪人を取り押さえようとしても、怪人はその身体を自由にくねらせて抜け出してしまいます。耐久が0以下になった落とし子は、液状となり、そのままま地面に染み込んで跡形もなくなります。人型の生物が消えていく様を見た探索者には下記のSANチェックを行ってください。

SANチェック 0/1

 キーパーは戦闘の頃合いを見て、「オレサマン」を登場させてください。

「そこまでだっ!」

 突然、辺りに大喝が響いた。いつの間にか、近くの建物の屋上に、小さく赤い人影があった。

「俺に会ったが100年目! 悪党退散、大爆散!

 俺が正義だ! オレサマン、参・上!」

 誰かは、小恥ずかしい名乗り文句を唱え終わると、トウという掛け声と共に虚空へと跳躍した。自殺行為でしか有り得ない高さを跳ぶ彼は、空中で姿勢を整え、怪人へと急降下する。次の瞬間、巨大な鉄球がビルを打ち壊すような音が鳴り響き、オレサマンは怪人に跳び蹴りを食らわせていた。怪人は地面にめり込むようにしながら転がっていき、近くの民家へと衝突した。

 オレサマンが現れると、怪人はその場から逃げ去ります。オレサマンも、その怪人を追って姿を消します。それは人間とは思えない程の速さで、とても探索者達に追いつける物ではありません。

 

シナリオ エンディング

※探索の終盤、エンディングのシナリオ進行についてA~Dの4パターンを下に記載します。

エンディングA1:突撃!大越小春

 このシナリオは、大越小春がオレサマンを発見・追跡し、それに探索者が巻き込まれる形でエンディングへと進行します。下記に一例を示しますが、「オレサマンを追っている最中の小春と出くわす」など、エンディングの起こし方はキーパーの裁量で自由に決定してください。

 探索者が「大越小春の連絡先」を入手しており、「小田原達也の家を捜索し終えている」のであれば、探索者の元に小春から連絡が来ます。

「あ! [探索者]さんですか? 小春です! オレサマンを発見しました! 今、その後を追いかけてます。と言っても、速すぎてもう見失っちゃってるんですけど! 駅から北西です。駅から北西に向けてオレサマンが駆けて行きました!」

 小春は、一頻り話すと、探索者の言葉も聞かないまま電話を切ってしまいます。小春は、街中で空中を跳んで駆けていくオレサマンの姿を発見し、発作的にその後を追いかけている最中です。

 突然の連絡が入り、探索者は驚くでしょうが、兎にも角にも駅から北西に向かって移動してくれるものと思います。(もしこれ以降、探索者が積極的に行動を取らず、エンディングの進行が上手くいかない場合には、探索者はシナリオをクリアする機会を逸します。その際は「エンディングD:逃げ出す/機を逸する」を参考にしてシナリオを終了させてください)

 探索者が北西に移動した場合は、北西の地域に着いた時点で下記のような光景を目撃します。

 [探索者]の移動中、道端にぽっかりと穴が開いている所を発見する。人を一人飲み込めそうな程の穴は、フタを失っているものの、恐らくはマンホールのようだ。

「キャーッ!」

 不意に、女性の叫び声が響いた。耳をつんざくその声は、狭い場所で反響しており、そのマンホールの中から聞こえてきたようだ。

アイディア:女性の叫び声が大越小春のものであると分かる。

 女性の叫び声は、小春のものです。探索者が叫び声に誘われるようにしてマンホールの中に入ると、下記のような光景が広がっています。

 マンホールから繋がる地下道。真っ暗闇と思われたそこは、仄かに明るく、先が見通せた。[探索者]の行く手には道が伸びており、その先に、照明の光がこぼれる明るい空間が見える。

「た、助けてー!」

 地下道には、今にも泣き出しそうな女性の声が、絶え間なく響いている。

 [探索者]が地下道を進むと、そこには無残な光景が広がっていた。不可解なことに、地下道は大きな”部屋”に繋がっていた。天井に据え付けられた蛍光灯に照らし出される、真っ赤な一室。そこには、放り出されるようにして、沢山の死体が転がっていた。その様は、まるで部屋中をミキサーにかけたかのようで、血を吸った紙の資料が散乱し、重火器の類が床に転がっている。

SANチェック 0/1d6

 折り重なるようにして倒れた棚で、部屋の奥まで見通すことは出来ない。

<マンホールに潜入した大越小春>

 大越小春は、オレサマンの後を追って北西に移動中、探索者と同じようにして”フタのないマンホール”を発見しました。特に誰かが作業をしている様子もなく、フタも見当たらないこの縦穴は、小春の想像力を刺激しました。

「怪しい…怪しすぎる。きっとこの穴は”悪い組織のアジト”への入り口で、オレサマンはこの中に入っていったに違いない!」

 果たして、この小春の突飛な想像は、核心を突いていました。この地下室は、マーマレイド社が邪悪な研究のために秘密裏に建造した”アジト”であり、上記の光景はオレサマンとマーマレイド社の者達が戦闘した跡です。小春はこの地下室に足を踏み入れ、怪異に巻き込まれることとなりました。

<オレサマンの殺戮>

 小田原達也はツァトゥグァとの取引に成功した後、取引によって得た力を活用して、綾香を探し始めました。しかし、その探索は雲を掴むようで、なんの手掛かりも得られませんでした。そんな時、彼は街中で蠢く「怪人」を発見します。彼は、綾香が失踪した後に現れたその奇怪なクリーチャーが、綾香の失踪と関連性があるのではと疑念を抱きました。彼は街中に現れる怪人を退治しながら、その逃げ去る方向や活動範囲を見極め、怪人の発生場所を突き止めようとしました。その際、彼はオレサマンに扮し、演じきる事で己の正体を隠したのです。これが、耶奈江の街で起きていたオレサマン事件の真相になります。

 彼はついに怪人の発生源、マーマレイド社の秘密のアジトを見つけました。そして、自分に抵抗する者たちを薙ぎ倒し、この部屋の先へと進んでいます。このアジトを血に染めたのは、小田原達也です。

 この部屋で探索者達は、キーパーの許す限り自由に、どんな武器・装甲でも見つけることが出来ます。これ以降の戦闘に向けて、探索者に準備を促すと良いでしょう。

「[探索者]さーん!」

 奥から、大越小春が駆けて来た。ノボリを槍のように持ち、ぶんぶんと振り回している。

「助けてください! あいつらヤバいです!」

 小春に引き連れられるようにして、複数の小さい人影がこちらへと向かって来ていた。その者達は、全身が影のように黒く、人の形をしているものの明らかに人ではない、異形の怪人であった。小春の腰ほどの高さしかない、小さな怪人達は[探索者]に向けて、蒸気が噴出するような奇怪な鳴き声を上げる。

SANチェック 1/1D6 (”耶奈江市において謎の怪人を目撃している””探索者が事前に事態を予期して覚悟を決めていた”など、理由があればSANチェックを軽減もしくは無しとして良いです)

 ここで探索者達と、”黒い小人”の戦闘が開始されます。この項で後述する内容を元に、戦闘のシーンを演出してください。

<黒い小人について>

 探索者の前に現れた黒い小人は、ツァトゥグァに従う”落とし子”の一種で、探索者が耶奈江市で出会った”謎の怪人”と同質のクリーチャーです。ただし、黒い小人は謎の怪人に比べて劣等な個体で、その戦闘能力はとても低いものです。別途資料「登場人物一覧(キーパー用)」の「黒い小人」の項をご参照ください。

 キーパーは、この現場で探索者達が戦うべき”黒い小人”の数を、探索者の人数や能力に合わせて決定してください。戦闘技能を持っていない探索者ばかりの場合は”探索者の人数”と同数としたり、各探索者が武道など激烈な戦闘技能を持っている場合は”探索者の人数+6”としたりして、難易度を調整してください。もし、難易度をダイスの結果に委ねるのならば、”探索者の人数+1d3”程度が丁度良いかと思います。

 探索者がこのクリーチャーとの戦闘を終え、奥へと進む場合、「エンディングA2:門を越えて」を参考にエンディングを進行させてください。

 

エンディングA2:門を越えて

 探索者が”黒い小人”との戦闘を終えた後、探索者達はこの地下室を探索することが可能です。

目星:死体が身に着けていた衣類に、マーマレイド社の社章が付いていることに気が付く。

目星:辺りに飛び散った資料から、手記の破片を見つける。

<手記の破片>

 この場所には、下記の6つの破片が落ちています。下記は、グリーンランドの古代遺跡において綾香が眠りから起こしてしまった”黒い液状のクリーチャー”に関する記述です。

 落とし子達は、遺跡を調査していた学者達を食い散らかした後、大人しくなった。恐らくは、彼らへの贄が足りたということだろう。このような形で優秀な学者達を失ったのは不本意だが、仕方がない。彼らは代えの利く人材だ。それよりも、この尊き「子供」達に出会えたことを神に感謝しよう。

 エイボンの教えに則り、神との契約に成功した。我らが神への供物を絶やさない限り、この落とし子達は我らの”使い”となるだろう。神域に生きる彼らとの接触は、我らが悲願、世界征服への大きな前進だ。

 落とし子は、古書に記される”神殿を守る者”に比べ、とても貧弱だ。恐らくは、長く休眠状態にあったことによって、力が衰えているのだと思われる。

 落とし子は、姿を変える性質を持つようだ。人型を模っていた物が、コウモリのような形状に変貌する様を確認した。恐らくは、視界に入ったモノを模しているのだと思われる。彼らの研究と理解が急がれる。

 先の事件で唯一生存し、日本へ帰国させた学者の挙動が怪しいと連絡があった。とても残念だ。優秀な彼女を、いつかは我らが同胞として迎えられると思っていたのだが。仕方がない、彼女には「神への供物」となってもらう。

 落とし子の性質を把握するため、実験的に彼らを街へ放す。性能の高い良質な個体の選別を行う。実施場所はここから程遠い日本に決定した。本日中にも、日本側に「門」を設置する予定だ。

 また探索者は、部屋の角に不気味な門が存在していることに気が付きます。

 部屋の片隅には大きな”門”があった。石造りで大仰なその門は、その内側を玉虫色に輝かせ、その色味は絶えず変化を続けていた。その様はまるで、その門の向こうが何所か別の世界に繋がっているかのようだった。

SANチェック 0/1

目星:玉虫色が揺らめく門の向こう側から、地面に落ちたオレサマンの仮面がはみ出していることに気が付く。

<不気味な門>

 部屋に設置された「門」は、遥か遠くグリーンランドの洞窟に繋がる、空間を瞬く間に越えて移動するための門です。この門の中に一歩踏み出した探索者は、すぐさま門の向こうの世界に行くことが出来ます。探索者が門を通ると、高度な魔法に触れたことによって4ポイントのMPと、1ポイントのSAN値の減少が自動で起こります。もし、通過するためにMPが足りなかった場合は、通過することが出来ずにその場で気絶してしまうことになります。

 この門を、小春と共に見る場合、「この門からさっきの怪人達が現れました! きっと、怪人の基地に繋がる門に違いないです…」と探索者に教えてくれます。小春は、オレサマンがこの先に進んだと考えており、自分も行って、彼の手助けになりたいと思っていますが、その不気味さに躊躇しています。小春がこの先に進むか否かは、探索者とキーパーの判断に委ねられます。

 探索者達がこの門の中に歩みを進めるなら、(MPとSANの値を減らし)瞬く間にグリーンランドにある古代遺跡・ツァトゥグァの礼拝堂に到達します。そこでは、下記のような情景が広がっています。

 門を通り抜けた[探索者]は、一変した状況に身を置くことになる。そこは見渡す限り、天井まで岩肌で囲まれた洞窟の中だった。そこで、空気の震えを全身で感じる轟音が立て続けに鳴り響いている。四方に散在する照明器具が辺りを照らし、[探索者]にその内部をありありと見せつける。[探索者]の眼前には、洞窟に埋もれるようにして、巨大な遺跡があった。黄味がかった巨石が構成するその遺跡は、屋根のない石柱が立ち並び、まるで古代の神殿のようだ。

 その神殿の内部で、2人の男が、激しく拳を交えていた。お互いの拳がぶつかり合うたび、激しい音が轟き、その衝撃が辺りをビリビリと震わせている。1人は赤い装甲を身にまとった若い男、もう1人は西洋人の顔立ちをした、スーツ姿の初老の男だ。初老の男の背後には祭壇のような台座があり、そこに白いドレス姿の女性が寝かされている。女は四肢を伸ばされ、両手と両足を鎖で縛られている。

アイディア:遠め目でも、白いドレスの女が姫路綾香であることに気が付く。

<遺跡の中で戦う二人>

 探索者が古代遺跡に到達すると、その中ではオレサマンの装甲を身に纏った男と、スーツ姿の西洋人が、常軌を逸した威力の攻防を繰り広げています。

 オレサマンの装甲を身に纏った男は仮面が外れており、探索者はその顔を見ることが出来ます。探索者が小田原達也の顔を既に見ているなら、その男が小田原達也であることに気が付きます。

 西洋人の男は探索者の見知らぬ顔をしています。しかし、探索者がマーマレイド社について詳しく調べており、その社長の顔を知っているのなら、その男がマーマレイド社の社長・ビター=マーマレイドであることに気が付きます。

 なお、祭壇に囚われている姫路綾香は気を失っており、上記の2人の戦闘が終わるまで、目を覚ますことはありません。

 探索者達が神殿の内部へと進む場合、下記のような描写を行ってください。なお、この遺跡から外に出ようとした場合には、そこは一年中、氷床と万年雪に覆われたグリーンランドの山奥です。

 一際大きな衝撃音が響いた。赤い装甲の男が西洋人の男に殴られ、地面を抉るようにして[探索者]の元まで滑り、そこで地に膝をつく。西洋人の男は、その場に踏み込んだ[探索者]達を見やる。

「次から次へと…」

 血の混じった唾を吐き捨て、西洋人の男は笑みを浮かべる。

「まぁよい。供物は多いに越したことはない。神もきっと、お喜びくださるだろう…」

 水が煮立つような音がした。西洋人の男の足元から、黒い液体がみるみる内に湧き上がり、その身体を覆った。それは、瞬く間に武骨な鎧の形を作り、西洋人の男を武装した。

「ごらんよ。神のご加護も私にある」

<ビター=マーマレイドの武装>

 ビター=マーマレイドを覆い、武骨な鎧を形作ったものは、ツァトゥグァの落とし子です。これはツァトゥグァの意志によって、ビターを加護するために現れたものです。

 小田原達也とビターは、それぞれツァトゥグァとの取引によって、超人的な力を得ています。その両者の違いは、達也がツトガニウムを飲み込み、自分の命を代価としているのに対し、ビターは生贄を捧げることによってその力を得ているという点です。この二人の戦いは、ツァトゥグァの加護を受けた者同士の戦いです。

 ツァトゥグァは、この小さき者達の愚かしい戦闘を楽しんでいます。どちらが勝利するかは邪神にとって枝葉末節の話ですが、邪神はこの戦闘が長く、苦しいものになることを望んでいます。

 ここから探索者はオレサマンに扮した達也と共に、西洋人の男・ビター=マーマレイドとの戦闘を行うことになります。別途資料「登場人物一覧(キーパー用)」の「小田原達也:謎のオレサマンとしての能力」の項と、「ビター=マーマレイド:武装した際の能力」の項を参考に、戦闘を演出してください。ただし、この2人はこれまでの激闘によって、お互いに耐久力を減らしています。耐久力を減らす度合いは、”探索者がこの戦闘に至るまでにどれだけの時間を要したか”を鑑み、キーパーの判断で決定してください。判断し兼ねる場合は、オレサマンとビターはそれぞれその耐久力を2D6減らしていることにすると良いでしょう。

 探索者が、この戦闘の隙間を縫い、祭壇に寝かされた姫路綾香を助けに行くことがあるかと思います。綾香は、祭壇上で両手と両足を鎖に繋がれています。綾香をそこから動かし、助け出すためには、まず鎖を外すための鍵開けロールに2回成功する必要があります

 探索者がこの戦闘に勝利した場合、下記のようにビターは息絶えます。

 西洋人の男は、苦しそうに口から血を吐き出す。

「ふざけるな! こんな所で、こんな奴らに。

 私の人生の全てを捧げてきたのだ。それが、後少し、ほんの少しで、手が届くというのに…」

 突如、男の黒い鎧から、煙が上がり始める。

「ああ、待って下さい。神よ、今一度、私に…」

 男の祈りは直ぐに絶叫へと変わった。黒い鎧は、急速に小さくなり、男の身体を圧縮していた。男の血が、噴水のように吹き上がる。鎧は、形を失って丸い球状となり、そのまま点のように小さくなったかと思うと、虚空に姿を消していった。

SANチェック 1/1D6

 邪神ツァトゥグァは、この戦闘の決着を見ました。邪神は、敗者であるビター=マーマレイドをお召し上がりになり、その腹を満たしました。

 戦闘を終えた時点で、小田原達也が生きている場合、「エンディングA:戦闘を終え、小田原達也が生きている」を参考にしてエンディングを演出してください。戦闘の最中で、小田原達也が死亡している場合には「エンディングB:戦闘の最中に、小田原達也が死亡している」を参考にしてエンディングを演出してください。

エンディングA3:戦闘を終え、小田原達也が生きている

 小田原達也が生存している状態で、ビター=マーマレイドを打ち倒した場合、このエンディングとなります。未だ、祭壇にて姫路綾香が鎖に繋がれている場合は、下記の描写を参考にしてエンディングを演出してください。

 赤い装甲を身にまとった男は、満身創痍だった。彼は、今にも倒れそうな足取りだが、遺跡の奥へと歩を進める。

 祭壇まで辿り着いた彼は、囚われの女性を愛おしそうに見つめた後、その頭を優しく撫でる。白いドレスを着た女性は、意識を失っているようで、微動だにしなかった。赤い装甲の男は、[探索者]に声を掛けた。

「お願いがあるんだ」

 その声は、先ほどまでの戦闘と一変して、とても弱弱しかった。

「どうか、僕の代わりに、綾香をここから連れて帰って欲しい」

 小田原達也は、この場所から帰ろうとしません。探索者が共に帰ろうと言う場合は、下記のように答えてくれます。

「僕は、綾香を救い出す力を得るために、邪神と取引を行った。この取引は、僕の命を代償としている。もう、僕が助かることはない。最早、門を通り抜ける程の力も残っていない」

 上記のように、この段階の達也はその大いなる力を失い、その生命活動を停止してしまう直前です。この衰退は、探索者がどのような医学・魔術を行ったとしても、回復することはありません。

 綾香は鎖で繋がれていることと思います。綾香を縛る鎖は、十分な時間をかければ、”鍵開け”の技能なしでも解くことが出来ます。

 綾香を探索者に託した達也は、下記のように探索者に依頼をします。

「目を覚ました綾香は、きっと、僕のことを心配する。彼女が僕のことを探すなら、彼女は優秀だから、真相に辿り着いてしまうだろう。僕の、今生で最後のお願いだ。どうか、綾香の傍で彼女のことを見守ってあげてほしい」

 達也は、目を覚ました綾香が”危険を冒して達也を探す”ことを危惧しています。最早、風前の灯の彼にとって、綾香のことを探索者に託すしか、綾香のために出来ることはありません。

 探索者が何かを質問するならば、自分の知りうる範囲で、達也はそれに応えてくれるでしょう。探索者が、綾香を連れて門を通り日本へと帰ろうとするならば、門を通る直前に下記のように小田原達也の最後の言葉を聞くことが出来ます。

「綾香、ごめんね。君に出会えてよかった。これからの君の人生が、幸多きものとなりますように…」

 探索者達が日本に帰還すれば、エンディングは完了となります。

エンディングB:戦闘の最中に、小田原達也が死亡している

 小田原達也が戦闘によって死亡し、探索者達がビター=マーマレイドを打ち倒した場合、このエンディングとなります。下記の描写を参考にしてエンディングを演出してください。

 静まり返った洞窟内部。無音のこの空間に、突如、奇怪な声が鳴り響く。

 それは、今まで堪えていた笑い声を吹き出してしまったかのような、ゲコゲコという鳴き声。邪悪で醜悪。野太い、カエルのようなその声は、洞窟内で幾重にも反響する。

 上記の声は、邪神ツァトゥグァの声です。彼は、目の前で行われた決戦に、大変ご満悦です。ツァトゥグァの”飢え”は満たされ、思わず笑い声をあげています。この声は、しばらくの間鳴り響きますが、時間が経過すると、再び辺りは静寂に包まれます。

 探索者の目の前には、鎖に繋がれた状態の綾香がいることでしょう。鎖は、十分な時間をかければ、”鍵開け”の技能なしでも解くことが出来ます。

 探索者達が日本に帰還すれば、エンディングは完了となります。

エンディングC:オレサマンを倒す

 まず有り得ないとは思いますが、探索者がこのシナリオの背景を読み解くことに失敗し、オレサマンに扮する小田原達也を攻撃する場合、小田原達也はそれを受けて立つことでしょう。それは「探索者達がマーマレイド社の手の者である」と彼が認識するからです。

 また、探索者がビターに協力して小田原達也を倒した後、ビターに対して”綾香を連れ帰りたい”という旨の話をする場合は、ビターはそれを拒みます。探索者達が自分に組する者ではないと分かった時点で、ビターは探索者達を”厄介者”と認識し、探索者とビターの戦闘となることでしょう。

 全てを倒しきった探索者は、小田原達也が死亡している状態でエンディングを迎えることになります。その場合は「エンディングB:戦闘の最中に、小田原達也が死亡している」を参考にしてエンディングを演出してください。

エンディングD:逃げ出す/機を逸する

 探索者が”マンホールの中へ立ち入らない”場合や、”ビターとの戦闘に参加せず、逃げ出す”場合には、探索者はこのシナリオの「エンディングA・B」に立ち会えません。探索者がそのような行動に出た場合、そこでシナリオは終了となります。

 また、探索者の探索が上手くいかずに、探索者がエンディングに到達することが難しいとキーパーが判断した場合も、シナリオを強制的に終了させてしまいましょう。シナリオが長引いても、良いことはないです。

 探索に失敗をした探索者は、今後、懸命に探索を続けても、その成果は挙げられません。探索者が日本中を探し回ったとしても、行方不明の姫路綾香(と小田原達也)を見つけることは出来ません。マーマレイド社は不穏な謎を残したまま、世界的な企業として存在し続けます。

 

シナリオのその後/正気度報酬

※探索を終了したその後の世界についてと、クリア後の探索者への報酬について記載します。

シナリオのその後:探索者の帰還

 探索者が門を通り抜けてマーマレイド社のアジトに戻り、更にそこから地上に戻れば、耶奈江市の市街に帰還が出来ます。探索者が地上に戻ると直ぐに、気を付けていなければ聞こえないほどの小さな地鳴りの音が聞こえます。探索者が今通ってきたマンホールの中を覗くならば、その底は明かりを失っており、マーマレイド社のアジトへの入り口が塞がっていることに気が付くことでしょう。この後、探索者やその他の人物がこのマンホールの中に潜ったとしても、そこには変哲のない水道が通っているばかりで、マーマレイド社のアジトは跡形もなくなっています。

シナリオのその後:姫路綾香について

 探索者が遺跡から姫路綾香を連れ帰った場合、救い出された彼女は大変に衰弱しており、病院などで適切な治療を受ける必要があります。彼女の父親である姫路正之は、献身的に娘の世話をします。十分な看護を受けた彼女は、救出から1週間もすれば、会話が出来るようになります。

 十分な療養を受け、会話が出来るようになった綾香は、”小田原達也”の所在について周囲に尋ねることでしょう。彼女が行方不明だった間、達也はそのことをとても心配しているはずで、彼女もそのことを気にかけます。しかし、彼女が達也のことで知ることが出来るのは、”達也も行方不明になっている”という事実だけです。

 探索者は、そんな彼女に、どんな言葉をかけるでしょうか。もし、探索者が何も対処を取らなければ、彼女は退院後に、達也の行方について調べ始めまてしまうことでしょう。そして、彼女が彼の家の中を探してしまえば、達也が自分のために死んでしまったことを推測することが可能となってしまいます。そのことを知った彼女は、絶望に打ちひしがれることでしょう。

 探索者は、綾香に全てを打ち明けて「達也が綾香の幸せを願っていた」ことを伝えたり、もしくは、綾香が事態の真相に気が付かないように先回りして、「小田原達也の調査記録」や「二重底の引き出しの中身」を処分するなどの行動を取ることが望ましいのではないでしょうか。

 なお、綾香を遺跡から救出した上で、探索者達がビター=マーマレイドを打ち倒していない場合には、綾香はマーマレイド社によってその命を狙われることとなります。小田原達也は、マーマレイド社のアジトにおいて、ツァトゥグァへの崇拝に深く関わる者達を皆殺しにしました。探索者がビターを打ち倒すことが出来ていれば、今後、綾香に魔の手が迫ることはありませんが、そうでない場合には、綾香は身を潜めるようにして生活をしない限り、いつの日か命を落としてしまうことでしょう。

シナリオのその後:マーマレイド社について

 探索者がビター=マーマレイドを打ち倒している場合、マーマレイド社は突然に社長を失い、ビターによる独裁の状態にあった社内は大混乱に陥ります。このことはビターの「失踪」や「誘拐事件」などの根も葉もないニュースとして、世界中の報道機関に取り沙汰されます。その最中で、マーマレイド社による遺跡の保護を装った「盗掘」や「破壊」が次々と発覚し、マーマレイド社はその信用を損ない、失墜します。結果的に、彼らが秘密裏に進めていた悪魔的な企みは、霧散することになります。

 探索者がビター=マーマレイドを打ち倒していない場合、マーマレイド社は依然として世界的な企業として在り続けます。探索者達が如何にマーマレイド社の悪行を暴き立てようとしても、そのような奇天烈な話に耳を貸す者はいません。マーマレイド社は清廉な企業として立ち居振る舞い、その裏では密かに悪魔的儀式による世界征服に邁進します。その邪悪な野望の犠牲となる哀れな人々の数は、日に日に増えていくことでしょう。

シナリオのその後:綾香を連れ帰っていない場合

 探索者が綾香を連れ帰っていない場合、今後、探索者が世界中の何所を探しても綾香を見つけることは出来ません。小田原達也も行方を晦まし、二度と見つかることはありません。耶奈江市に出没していたオレサマンは、この日を境に、姿を見せなくなります。その代わりに、”謎の怪人”の目撃情報は日ごとに増えていき、その被害は甚大なものとなります。謎の怪人の凶行による死者・行方不明者の数は数え切れない程で、綾香や達也の失踪は、その大事件の小さな一部分として、暗闇の中へと埋もれていきます。

成功報酬

  • プレイヤー個人の探索者が生還している場合:1d6の正気度報酬
  • ビター=マーマレイドを撃破している場合:1d3の正気度報酬
  • 「エンディングA3:戦闘を終え、小田原達也が生きている」に辿り着いた場合:1d3ポイントの正気度報酬

 

あとがき

 私のテキスト化6作目の作品です。戦闘でドンパチするシナリオを作りたくて作りました。如何でしたでしょうか。

 作風のイメージとしては、「逆転裁判シリーズ」や「パワポケ7」を参考にしています。普通に考えたら”頭がおかしい”キャラクター達が動き回る、現代日本ファンタジーにしたいなと思っていました。キャラクターやイベントシーンも色々考えていたのですが、シナリオがあまりに長くなってしまったので、大分削っています。それでもまだ長いかもしれません。冗長にならないシナリオ作りは本当に大変です。

 何かシナリオに不足してる所や、問題点などありましたら、コッソリ教えていただければ幸いです。終わりまで読んでくださり、ありがとうございました。(2016/12/10)

-CoCシナリオ, 作者:ホリ, 耶話鳴えオリジナルシナリオ

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