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シナリオを「探索者だけの物語」にするために
シナリオを作成する上で厄介な存在、「部外者」
クトゥルフ神話TRPGのシナリオ、特に現代日本を舞台にしたシナリオを作る際には、常に付いて回る厄介な存在、それが警察等の「部外者」の存在です。
クトゥルフ神話TRPGとは基本的に、少数の探索者が「神話的存在」に立ち向かう、もしくはそれから逃れる事を楽しむ推理ゲームです。神話的な存在は、矮小な個人では太刀打ち出来ないほど強力なクリーチャーである事がほとんどですが、探索者は一個の虚弱な人間として、仲間達と共にこの強大な存在に挑んでいきます。その為に探索者は、巻き起こる事件やその周囲を”探索”する事で情報を集め、己の持つ能力と勇気・知恵を最大限に活用して、状況の打開策を考えて行きます。
しかし現代日本の警察は、私達が日常生活を送る分には有難い事に、組織として非常に統制の取れた行政機関です。シナリオ作成者が作中で迂闊に殺人事件などを起こしてしまったとすれば、作中に登場する彼等はただちに多数の警察官を動員して、その捜査に当たる(当たらないと不自然な状況に陥る)ことでしょう。(現代日本の警察は失踪事件の捜査には消極的ですが、殺人事件の捜査には積極的です)
これは、シナリオ作成者としては頭の痛い問題です。プレイヤー1人は、探索者1人を操作する事でゲームを楽しみます。そこに、探索者と同様に神話的存在に立ち向かう、多数の「部外者」NPCが登場してしまったら。探索者は群集に埋もれた一つの部品程度にまで存在感が落ちぶれてしまい、ゲームの本質である”探索”を楽しむ事が出来なくなってしまいます。そのように、探索者のする事がなくなってしまえば、ゲームとしての形を失い、そのシナリオは”崩壊”してしまったと表現されるでしょう。
以下の項では上記のような事態を防ぐ為に、シナリオの本筋から「部外者」を排除し、「探索者だけの物語」にする為の、主だった4つの例を挙げて紹介したいと思います。上記のような内容でシナリオ作成に行き詰った際に、ご参考にしていただけたなら幸いです。
部外者排除の例①:閉鎖性
閉鎖性とは、俗に「クローズド」と呼ばれる世界の事を指しています。現代社会から隔離され、外部との連絡手段のない空間に探索者を陥らせてしまえば、探索者と部外者は接触のしようがありません。そのようにフィールドを区切ってしまえば、簡単にシナリオから部外者を排除する事が可能です。
それは例えば 「目が覚めたら異世界にいた」 であるとか、 「雪山で遭難し、連絡手段のない館から出られなくなってしまった」 などの設定が考えられます。これらの設定は、簡単に探索者を窮地に立たせる事の出来る有効な手段です。
しかし、分かりやすく、作りやすい分、これらの設定を用いて作られた作品は、既にこの世に多数出回っています。上記のような設定は、悪く言えば強引な設定と言う事も出来るでしょう。その作品の良し悪しに関わらず、「クローズド」と言うだけで飽き飽きしてしまっている人も多くいるようです。シナリオ作成者の方は、その事に留意すると良いでしょう。
部外者排除の例②:緊急性
緊急性とはその名の通り、「警察や部外者に頼っている時間や余裕がない」と言う状況を指します。今すぐにでも探索者が行動を開始しなければ、事態は取り返しのつかない事になってしまう。そのような状態を作れば、探索者は部外者に頼る事も出来ないまま、神話的現象に巻き込まれていくでしょう。
それは例えば、 「目の前で仲間が攫われ、今すぐ追いかける必要がある」 であるとか、 「人気のない場所で、探索者自身が突然に襲われる」 等の状況が考えられます。これらの設定も、探索者を分かりやすく窮地に立たせる有効な手段です。
上記のような設定で憂慮される点があるとすれば、それは事件の速やかな解決が求められるという点でしょうか。緊急性のある事件は、言い換えれば早急に解決すべき事件でもあります。探索者がその解決にてこずり、対応が長引けば長引く程、そこに部外者が入り込む余地が大きくなってしまいます。シナリオ作成者はその事に留意すると良いでしょう。
部外者排除の例③:不明瞭性
ここで言う不明瞭性が指す状態とは、連絡を取れても意味がない状態の事を指します。①の閉鎖性と類似した状態です。探索者が、自分の置かれている状況や、自分のいる場所が分からなかったら。探索者が外部の者と連絡を取れたとしても、自身の現状を相手に説明出来ない為に、助けを求める事が出来ません。それによって、シナリオから部外者を排除する事が出来ます。
それは例えば、 「記憶を失っており、自分が何者か分からない」 であるとか、 「誘拐・監禁され、自分が何所にいるか分からない」 等の状況が挙げられます。このような設定であれば、探索者は誰かに助けを求めようとしても、どのように助けて欲しいのか言葉にする事が出来ないでしょう。
上記のような設定で問題となるのは、事態が複雑になりがちという点でしょう。TRPGは即興で紡がれていく物語ですから、あまり設定を複雑にしすぎると、状況を理解し辛くなってしまい、キーパーも探索者も楽しんでゲームをプレイする事が難しくなってしまいます。シナリオ作成者はその事に留意すると良いでしょう。
部外者排除の例④:秘匿性
秘匿性とはその名の通り、「警察や部外者には秘密にしたい謎/状況」の事を指します。迂闊に部外者に頼ってしまえば、目標を達成出来なくなってしまったり、より事態が深刻になってしまったりするような状況です。
それは例えば、 「依頼人から事件の口外しないように警告されている」 であるとか、 「警察の中にも怪しい人物がおり、頼る事が出来ない」 等の状態が挙げられます。このような設定であれば、探索者は部外者に頼る事を躊躇するようになるでしょう。
上記の設定で危惧すべきなのは、探索者に対する強制力が弱い点でしょうか。探索者の中には独自の考え方から、あえて秘密にすべき件を口外する者も出てくるかもしれません。その時に、シナリオ作成者がそのような状況を考慮していなかった場合、シナリオは崩壊へと向かって行ってしまいます。
最後に
シナリオを「探索者だけの物語」にする方法について、主だった例を4つ挙げました。それぞれについて、その例のメリット・デメリットも明記しました。
なお、上記の例は、それぞれが独立した別個の物ではありません。例えば2つの例を組み合わせたり、3つの例を組み合わせて使用する事も多々あります。シナリオ作成の過程で、どうしても部外者が介入しがちなシナリオになってしまった時に、是非、上記を参考にしてみてください。