クトゥルフ神話TRPG シナリオの作り方 コラム

TRPGシナリオの構成、基本的な考え方

投稿日:2016年1月21日 更新日:

シナリオの構成について

シナリオを構成する要素

 クトゥルフ神話TRPGのシナリオは、スタートからゴールまでを大別すると、多くのシナリオで下図のような構成になっています。私がシナリオを作成する際も、シナリオを下図のように分けて、それぞれを別個に考えていくようにしています。

序盤・導入パートについて

 導入パートとは、その名の通り、探索者をシナリオへ導入するためのパートです。この雑記では、シナリオ開始から一本道(分岐なし)で進む部分を導入パートと呼びます。「探索者達の集合(顔合わせ)」「探索者に対して、探索すべき謎の提示」などを行います。

中盤・探索パートについて

 探索パートとは、探索者が自由に探索を行うパートです。探索者は導入で知った情報を元に、様々な場所・人物に探りを入れます。探索パートの進行は、多種多様な性格を持つ探索者達の行動に強く依存しますので、シナリオ進行上、最も流動的になる箇所です。

中盤・定期イベントについて

 定期イベントと言う呼び方が正しいかは分かりませんが、私達はこう呼んでいます。「探索者が探索をする内に何らかの条件を達成して起こるイベント」や「時間経過と共に自動的に起こるイベント」のことを指します。これらのイベントによって、探索者達に「謎の解明のための鍵」や「身に迫る危険や恐怖」を与えて、エンディングへと誘導していきます。

終盤・エンディングについて

 エンディングです。シナリオ中のあるポイントから、シナリオ終了までおおよそ一本道で進む部分を指しています。エンディングは、探索者がシナリオ中盤に行った行動によって、幾つかのパターンに分岐することが考えられます。また、探索者の行動次第によっては、シナリオ作成者の全く想像していない、予想外の結末になることも考えられます。

 さて、上記のようにシナリオを分割して、それぞれについて内容を考えてシナリオを作成していく訳です。人それぞれの考え方や作成方法があるかとは思いますが、私が最もシナリオを考えやすいと思う順番は、シナリオ中の時系列とは異なりますが、下記の順です。理由はそれぞれのパートごとに後述します。

 

導入パートについて

導入パートに対する考え方

 私がシナリオを考える際は、まず「魅力的な導入(導入パート)」と「魅力的な結末(エンディング)」をしっかりと固めます。物語、特にクトゥルフ神話TRPGのシナリオ作成に当たっては、最初と最後を魅力的に演出することで、中盤がどうであれ、まずはピシッと筋の通った話になると感じています。

 特に導入は、必ず全ての探索者が最初に通過する地点です。ここを如何に魅力的にするかが、プレイヤーをそのシナリオに惹きこむ為の鍵になると考えています。もしシナリオの導入部分が淡々としていて、ワクワク感がない物であれば、中盤に物語の盛り上がりが来る頃まで、プレイヤーは退屈な作業をするだけになってしまいます。

導入の種類

 探索者はシナリオにおいて、日常の世界から神話的な世界観へと誘われます。大まかな誘われ方としては、下記の2パターンがあります。

  • 受動型 … 探索者が何をする訳でもないのに、強制的・暴力的にシナリオへ巻き込まれる。
  • 能動型 … 探索者の下に謎が舞い込んでくる。探索者は自身の興味や責任感から謎へと立ち向かう。

 受動型の導入とは、 「突然、何かウニョウニョとした大きな怪物に襲われて、呪いを受けてしまう」 であるとか、 「人知を超越した動きを見せる2人の戦士の戦いを目撃してしまい、何故か命を狙われる」 など、探索者の意思とは無関係に襲い来る事件によって、探索者は己や身内を助けるために、必然的にシナリオに導入させられるパターンです。

 このパターンで重要になるのは、「襲い来る事件の演出」です。日常と非日常のコントラストを強くすることで、探索者達にガツンと物語を叩き付けましょう。

 能動型の導入とは、 「幼少期に空想した事件が、実際の事件として起きている」 であるとか、 「不可解な事件の謎を解明して欲しいと依頼された」 など、探索者が自らの周囲で起きている不可解な事件について知り、探索者の意思で積極的にその謎を解明しようと活動を始める導入のパターンです。

 このパターンで重要になるのは、「漠然とした謎の演出」です。上記のように日常の枠組みの中での表現となることが多いので、如何に魅力的な謎を持ち込むかが鍵となります。

 もちろん、能動型においても非日常の演出をすることは可能です。 「親方!空から女の子が!」 などがその一例でしょう。主人公は、空から降ってきた女の子と関わっても関わらなくてもよい訳ですが、積極的に女の子の謎に介入していくことで、物語は進行していきます。(ただし、もし主人公が女の子に無関心だったとしたら物語はそこで終わってしまいます…)

 シナリオを作成する上で、上記の種類を強く意識する必要はありません。しかし、上記のような型を知っておくことで、導入部分は作りやすくなるかと思います。

魅力的な導入とは

①絵になる導入

 私が好きな導入方法は「受動型」です。何故なら、”絵になりやすいから”です。

 素敵な小説のほとんどは映像化した時に、格好良い絵や美しい絵になります。逆に詰まらない作品ほど、映像化しようとすると、淡々と変わり映えのしないシーンが続くばかりで絵になりません。クトゥルフ神話TRPGの作品も同様です。シナリオは文字の羅列で作成していく訳ですが、記述する内容は「想像した時に、絵になる話を目指す」のがベストかと思います。シナリオを聞いた人が頭の中で想像した絵が、格好良かったり美しかったり魅力的であれば、結果として導入自体も魅力を感じる物になります。

 例えば、ジブリ映画の「もののけ姫」では、映画の開始早々、不気味なウニョウニョした怪物との戦闘があります。美しい景色の中で繰り広げられる、名状しがたい何かと青年との戦い。視聴者は、突然のことで何が起きているのか詳細は分かりませんが、序盤に”格好いい絵”になる戦闘シーンがあることで、一気に物語に導入されます。

 絵になる導入を作る為には、「どんな場所で」「どんなことが」「どのようにして」起きるかということを明確にして、それを実際に絵としてイメージしながら、検討するとよいでしょう。

 序盤の謎や出来事は些細な物にして、エンディングに向けて徐々に演出を派手にして行くという考え方もありますが、私はそれよりも序盤からブッ飛ばした演出をする作品が好きです。出だしが退屈な作品は、途中で見るのを止めてしまいます。そういう人って結構いると思います。そんな人たちに、ガッツーンと魅力的なシーンを叩きつけて、バッチリ物語に導入しちゃいましょう。

②雰囲気(興味をそそられる謎)のある導入

 私は漫画家・浦澤直樹さんの作品が好きです。「20世紀少年」「MONSTER」「PLUTO」等の浦澤さんの作品は、物語が始まった瞬間から、先が知りたくなる魅力的な謎がこれでもかとバンバン出てきます。そしてその謎が、作品に独特な世界観を醸し出させています。

   

 先が知りたくなる謎は、物語に強く読者を惹きこむので、導入として最適と言えます。特に、クトゥルフ神話TRPGは基本が探索のゲームですから、魅力的な謎は探索者達に”遊び甲斐”を持って挑んでもらえるでしょう。「殺人現場に残された奇妙で気がかりな何か」であるとか「目が覚めたら異世界でした」と言ったような始まり方をする物語は、コレに類する導入と言えます。ただ、これらの導入は、割と使い古されたネタが多いので、魅力を出す為には自分なりの個性を出すなどの努力が必要になるかもしれません。

(ちょっとだけ)導入に至る理由も考えておく

 どんな導入でも、何かしらの”出来事”が起きて、探索者がそれに巻き込まれたり、挑んで行ったりする訳です。その出来事には必ず、「何故そのようなことが起きたのか」と言う理由があるはずです。

 探索者が化け物に襲われる導入なら、何故、その化け物が現われたのか。殺人事件の現場に奇妙な落し物があるなら、何故、その落し物があるのか。魅力的な導入部分を考えたら、そこに至るまでの大まかな過程を考えて見ると良いでしょう。難しそうですが、意外と簡単です。クトゥルフ神話TRPGは、神話生物の物語です。神話生物は豊富にいて、神様もいれば魔法だって存在しますので、大体のことは何とかなります。自分の導入に適した神話生物や魔法を、公式ルールブックなどを読みながら考えてみましょう。

 ですが、ここで「物語の背景は、これで決まり!」と結論を出すには早すぎる段階です。まだ物語の3分の1程度しか考えられていない状況ですから。

 シナリオ作成はデッサンを描くような物だと思っています。足したり引いたり、広げたり縮めたりしながら、内容を練っていくことによってシナリオのクオリティは高まって行くと思います。

 この段階では、様々な設定を「こういう可能性もあるなー」程度に考えてみて、次の段階「エンディング」の作成に取り掛かると良いでしょう。

 

エンディングについて

エンディングに対する考え方

 エンディングとはシナリオ終盤、探索者達が直面した試練を乗り越えるシーンを指します。本来、クトゥルフ神話TRPGのエンディングは、キーパーとプレイヤーによって即興で紡がれる物ですので、エンディングを指定しなくて済むのであれば、それが「然るべき形」だと思うのですが、実際は中々上手くは行きません。

 エンディングは、そのシナリオをプレイしてくれたキーパーとプレイヤーにとって、シナリオ中に流した血と汗と涙を結晶化するパートと言えます。シナリオを作成する側としても、是非とも魅力的なシーンとして、最後を演出してあげたいものです。ある程度、パキッとした立派な枠組みを用意してあげて、キーパーの演出をサポートすると良いでしょう。

 また、エンディングは導入パートよりも、壮大なシーンを考えやすい箇所です。導入パートよりも先に、エンディングの枠組みから考え始めるシナリオも、面白い物になると思います。

エンディングの種類

 エンディングの種類の分類は難しいですが、ザッと考えられるタイプは下記のような物でしょうか。

  • 戦闘 … ラスボスを撃破してクリア。
  • 逃走/脱出 … 絶対に敵わない強敵から逃走したり、崩壊する建物から脱出してクリア。
  • 阻止 … 成立直前の悪魔的儀式など、放っておけば起きてしまうだろう悲劇を事前に阻止してクリア。
  • 解決 … 呪いなどの何らかの問題を抱えていた探索者やNPCの、問題を解決してクリア。
  • ゲームオーバー … 探索が上手く行かずに、探索者をロストしてしまいゲームオーバー。

 上記はあくまで例です。エンディングはシナリオと、それをプレイする探索者の数だけ多様なバリエーションがあります。ハッピーなエンディングもバッドなエンディングも、色んなパターンを考えてみてください。

魅力的なエンディングとは

①絵になるエンディング

 「魅力的な導入とは」の項で、絵になる導入は魅力的と書きましたが、エンディングについても同様に、絵になるエンディングは魅力的な物になります。むしろ、良いシナリオを作るためには、絵になるエンディングは必須と言っても良いかもしれません。中盤まで散々盛り上げて来た映画が、最後あっさりスッと終わってしまったら…見ている人は拍子抜けてしまいます。シナリオをエンディングまでプレイしてくれた人に、これでもかってくらい格好いい/美しいラストをお見舞いしたいものです。

 例えば、「崩壊する”空に浮かぶ城”から脱出をしなくてはならない」とか、「暴走する物凄い巨大な化け物に、”首”をお返しして鎮める」とか。有名な作品であれば大体エンディングは素晴らしい表現がされています。色んな映画を鑑賞して、泣いたり笑ったり楽しみながら、シナリオ作りの参考にするとよいでしょう。

達成感のあるエンディング

 エンディングには達成感も必須と言ってもいいかもしれません。最後に大きな山場があって、それを乗り越えてこそのエンディングです。ゲームってのは”問題と解決”で成り立っていますから、問題があっさりしてると拍子抜けてしまいます。山場がないと、TRPGをしているはずなのにキーパーが物語を読んでいるだけの朗読会になってしまいます。

 例えば、ラスボスとの戦闘であるとか、崩壊する建物からの脱出であるとか、生死に関わる二者択一であるとか。エンディングでは探索者にインパクトの大きな困難を与えて、それを乗り越えてもらいましょう。簡単過ぎても詰まらないし、難し過ぎても詰まりません。難易度の設定は悩み所ですが、探索者がギリギリ越えられるか越えられないかの山場がベストかと思います。

導入とエンディングを組み合わせて考えてみる

 「導入パートに対する考え方」の項でも記載しましたが、「魅力的な導入(導入パート)」と「魅力的な結末(エンディング)」はシナリオにピシッと筋を通す肝になると思っています。始めと終わりさえシッカリとしていれば、釣られて中身もシッカリしてくる物です。

 「魅力的な導入」と「魅力的な結末」を決めたなら、これから、それを繋ぎ合わせる為に試行錯誤を始めます。導入からエンディングに至る過程を、後付でガンガン考えて行きましょう。自分は大体この段階で、「どんなNPCを出すか」を考え始めます。

 

NPCについて

NPCに対する考え方

 物語というのは、人(生物)がいなければ始まりません。シナリオに登場する誰かが「何かしたい」って思った所から物語は始まる訳です。ちょっと何言ってるか分からないかもしれないですけど。要は「誰がどんなことを考えているか」って言うのがとても重要になる訳です。

 シナリオの内容の複雑さは「人(生物)の意思がどれだけ錯綜するか」で決定します。シンプルなシナリオにしたければ「悪意を持った神話生物が1匹いて、その悪意に晒される人が1人いる」だけのシナリオにすれば非常にシンプルになります。複雑なシナリオにしたければ「あの人はこうしたい、この人はこうしたい、でもアイツはそれだと困って、コイツはアイツを応援している」と言うように、様々な思惑が入り乱れるようにすれば良いのです。

 ただ、TRPGと言うのは即興で紡がれる物語ですから、複雑にしすぎるとシナリオを作る側も、キーパーもプレイヤーも、混乱するばかりでシナリオを楽しめなくなりがちです。ですので私は「シナリオの軸はシンプルに」それでいて「シナリオを取り巻く人間達は色彩豊かに」と言うスタンスでシナリオを作りたいと考えています。シナリオの本筋とは別に、本筋に大きく影響を与えない程度の人間模様を色濃くすることで、物語に深みを出そうと努力しています。

NPCを作成しながら、シナリオの内容を詰める

 「魅力的な導入(導入パート)」と「魅力的な結末(エンディング)」を考えたら、そこに登場するキャラクターを、もうこの段階で考えてしまいましょう。前述しましたが、物語は登場人物がいなければ始まりません。「魅力的な導入」と「魅力的な結末」に登場するに相応しい、物語に欠かせない主要なNPCを想像します。

 この時、特に大切なのは「事件の黒幕・元凶」や「実行犯」などの、実際に事件を巻き起こすNPCの設定です。彼らがいなければ、探索者が直面する事件は起こりませんから、最も重要なキャラクターと言えるでしょう。自分が考えた導入と結末をよく思い浮かべながら、彼らがどのような性質や信念を持っていて、どうして事件を起こしたのかについて思いを馳せましょう。それがそのままシナリオの背景に繋がります。

 シナリオの背景が固まったら、「事件の被害者」や「周辺の人々」といったNPCを考えていきます。探索者は重要な情報源として、NPC達と交流を図りますから、NPC達はシナリオの雰囲気に大きく寄与します。自分の作りたいシナリオの雰囲気に合わせて、魅力的なNPCを作成してください。

 主要なNPCの数は、多すぎるよりは少ないほうが良いと思います。キーパーもプレイヤーも、登場人物が多すぎると誰が誰だか分からなくなってしまいます。多くても7~8人程度までにまとめると良いでしょう。

NPCに顔を付ける

 NPCは、その顔を思い浮かべながら作ると、人間味が出やすいです。NPCの詳細な設定を詰める時には、その前にNPCのイメージを固めるとよいでしょう。

 例えば、探索者の幼馴染として、”友野友子”と言うNPCを作るとします。

 漠然と”友野友子”と言うキャラ名だけを見ながら設定を考えて行くと、「女性」であるとか、「17歳」の「高校生」であるとか、記号的なキャラ設定は考えられたとしても、中々その人間性についてまで思考が及び辛く、どんなことを考えているキャラなのか、いまいち判然としません。

 しかし、上図のようにビジュアルを設定すると、途端に人間味が出たように感じませんか。「あー、こんなこと考えてそう」とか「趣味はきっとアレだな」とか、細かな所まで自然と思考が及びますね。このような状態にすると、NPCのキャラを立てやすくなります。

 頭の中でNPCのイメージが固まっていないと、シナリオ中のNPCの行動が一貫せず、不自然になってしまったりします。そのような事を防ぐ意味でも、NPCのイメージを早めに決める事は有意です。

 私がNPCを作る時は、そのシナリオと雰囲気の似た漫画やアニメから、NPCの境遇と似たキャラクターの画像を拝借して来ます。それをNPCのイメージとして仮置きして考えることで、「あー、このキャラならこういう時はこうするなー」とか「普段はこういうことしてそうだなー」等というキャラクターの行動理念が分かりやすくなり、シナリオが作りやすくなります。

 

中盤について

中盤に対する考え方

 これまでの作業でシナリオの世界観が出来上がっています。魅力的な導入と結末、そこに登場する人物達を作って来たので、結果として素敵な世界観になっていると思います。後はそれらをリンクさせて、ゲームとして成立させるだけです。

 中盤では、導入で謎(問題)と直面した探索者が、それを切欠としてシナリオの世界を自由に動き回って探索します。探索者は探索を通して様々な情報を入手し、それらを元に事態を解決すべく行動して、エンディングへと到達する訳です。

 ですので、シナリオの中盤を作成する時には、探索者に「どのような情報」を「どのように」与えるかが重要となります。中盤の探索は骨があるほど楽しくもなりますが、難しくし過ぎると探索者が真相に辿り着けなくなってしまいます。中盤には程よく”探索し甲斐”のある場所や、思わせぶりな無意味な物等を配置する事で、探索者の探索を演出し、シナリオにゲーム性を付与しましょう。

シナリオの骨組みを作る

 シナリオの中盤を作る際には、まず「クリアの鍵となる情報」から”シナリオの骨組み”を作りましょう。どういうことなのか、簡単な図でご説明します。

 例えば上図のように、導入で「事件が起きて」エンディングで「犯人を捕まえる」シナリオを考えるとします。上図のシナリオでは、エンディングで探索者が「犯人Aが隠れているBという場所に行き、Aに対して証拠Cを突きつける」とクリアとなるとします。

 この場合、このシナリオをクリアする為には、探索者は中盤で上図のように「①犯人がAであること」「②AがBに隠れていること」「③証拠Cがあること」という、少なくとも3つの情報を手に入れなくてはなりません。これらが「クリアの鍵となる情報」ですね。この鍵となる情報をシナリオ中盤に配置して、導入とエンディングを結ぶ訳です。導入で事件に首を突っ込んだ探索者は、探索をしながらこれらの情報を集め、エンディングで犯人を捕まえてクリアすることになります。

 ですが、このままだとゲームとして成立していませんね。上記の鍵となる情報をどのように探索者達に開示していくかを考えなくてはなりません。最初から、犯人も居場所も凶器も全部分かっている状態だったら、探索者は興醒めです。そこで、この情報を手に入れるまでに、探索者に手数を踏んでもらうようにします。それでは、「①犯人がAであること」に探索者が気が付くまでに、プロセスを作ってみます。

 上記のように、「クリアの鍵となる情報」に辿り着くまでに手順を踏ませることで、探索者は気になる場所に行ったり、人に話を聞く等の探索が必要となってきます。これが”シナリオの骨組み”になります。探索者はこの骨組みに則って(時にはブチ壊して)探索を行い、エンディングへと歩を進めて行く訳です。

 「クリアの鍵となる情報」全てについて、探索者に対してどのように情報を開示するか、1つ1つ検討してください。そうして出来た骨組み達が、探索者達が紡ぐストーリーの基軸となります。探索者達は個性豊かで、どんな動きをするのか予測も出来ませんが、その探索がより良い冒険となるように、骨太な物を考えてあげましょう。

 なお、探索者達への情報の開示の仕方を考える際、その基本的な形式となるのが「定期イベント」と「探索パート」の2種類のフェイズです。それぞれについて後ほど詳しく説明しますので、骨組みを組み立てる際の参考にしてください。

シナリオを装飾する

 上記でシナリオの骨組みを作成しました。これでシナリオは大筋完成したと言っても良いでしょう。しかし、骨しかないシナリオは一本道のゲームみたいな物です。このままだと探索者は物足りなさを感じてしまうかもしれません。

 そんな時は、シナリオの骨組みとは関係のない、言わば”肉”のような情報を中盤に配置して、探索者の探索を演出しましょう。それは、シナリオに登場するNPCの情報であったり、事態の解決には結びつかないまでもその背景を匂わせる情報であったり。時にはミスリードを狙った情報を置いてみたり、SAN値や体力を減らすトラップを仕掛けておく事もいいかもしれません。探索者がシナリオをクリアする為には必要のない情報を中盤に散りばめることで、探索者の探索をより豊かにすることが出来ます。シナリオ作成の自由度の高い部分ですから、好きなように自分の色を出すと良いでしょう。

 

定期イベントについて

定期イベントに対する考え方

 中盤には、「定期イベント」と「探索パート」の2種類の情報開示のフェイズがあります。特に形式を意識する必要はありませんが、型を覚えておくと便利ですので、是非参考にしてみてください。

 定期イベントとは、シナリオ中盤に探索者があれこれ探索する中で、タイミングや条件・キーパーの裁量によって発生させるイベントのことです。私達はこれらを一括して「定期イベント」と呼んでいます。

 定期イベントは探索者の行動や性質に因らずに一定の条件化で強制的に起こせる為、探索パートに比べると凝った演出がしやすいです。定期イベントとして大きなイベントをシナリオ中に配置する事で、シナリオの中盤をより骨太の物に出来るでしょう。

定期イベントの主な種類

 定期イベントの主な種類としては、下記の3つが挙げられます。

  • 定期発生型 … 探索中、時期が来たら必ず発生するイベント。
  • 裁量発生型 … 探索中、キーパーの裁量で自由に発生させるイベント。
  • 条件発生型 … 探索中、条件を達成したら発生するイベント。

 定期発生型のイベントとは「今日の夕方からお祭りがある」であるとか「その日の夜に殺人事件が起きる」等、発生するタイミングが予めしっかりと定められているイベントです。探索者がどのような探索を行おうとも、時期が来れば必ず発生させるイベントになります。

 このようなイベントは特に強制力があり、ほとんど全ての探索者に自動的にイベントを体験させることが出来るため、中盤を彩る大きなイベントとして配置されることが多いです。シナリオを演出する雰囲気の良い描写を入れたり、物語の鍵を握る情報を開示する機会とすると良いでしょう。

 裁量発生型のイベントとは「急に知人から電話が掛かってくる」であるとか、「突然、何者かに襲われる」など、発生するタイミングが固定されていない(いつでも良い)イベントです。キーパーが頃合いを見計らってイベントを発生させることが出来るので、様々な探索者の個性豊かな行動に対しても、臨機応変に対応出来ます。

 裁量発生型のイベントは、発生時期をキーパーに委ねることで、シナリオ進行上、最良のタイミングでイベントを実行出来るだろう事が魅力です。このようなイベントとしては、探索に行き詰った探索者の道標となるサポートであったり、間延びしてしまった探索を引き締めるバトル等を配置する事が多いです。

 条件発生型のイベントとは、探索者が探索中にある条件を満たすことによって発生するイベントのことです。例えば「部屋に入ると、扉が閉まって閉じ込められる」とか「その本を読んだ日は、必ず悪夢を見る」といったようなイベントの事を指します。

 条件発生型のイベントは探索者の行動に起因して発生するイベントになります。探索者が探索を上手く進め、条件を満たせれば発生しますし、逆に探索が上手く行かずに、条件を満たせなければいつまでも発生しません。そのような特性から、事態を次の段階に進行させるような節目となるイベントとして配置される事が多いです。

定期イベントの活用方法

 定期イベントは、シナリオのゲーム性を高める上でとても重要な物となります。シナリオを作成する時は、探索者がシナリオをクリアするまでの過程に、必ず定期イベントを1つは入れるべきだと考えています。

 もしも、物語の核心に迫る”鍵”を、探索者が序盤に探索可能な場所に、考えもなしにポンと配置してみたとしましょう。もしかしたら探索者は開始直後にそれを見つけてしまい、他のプロセスを全部スッ飛ばしていきなりエンディングに辿り着いてしまうことになるかもしれません。クトゥルフ神話TRPGは基本が探索のゲームだと言うのに、それでは探索もヘッタクレもなくなってしまいます。せっかく作った謎やギミックが一瞬で水の泡です。

 そういった”事故”を防ぐために定期イベントを活用しましょう。定期イベントは探索者に情報を開示するタイミングを遅らせたり、探索者が情報を入手するための条件設定をすることで、探索者が”鍵”に辿り付くことを困難にし、探索者に探索をさせること、つまりはゲーム性を高める事が出来るのです。

 

探索パートについて

探索パートに対する考え方

 ここまで来たら、後は探索パートを作るだけです。探索パートとは”「ここ」を探索すると「これ」がある”、”「これ」を調べると「それ」が分かる”と言う、一番簡単な情報開示のフェイズです。探索の最も基本的な形ですね。

 探索パートの作成は簡単です。もう「どんな秘密」を隠すかは、今までの工程で決まっていますからね。後はそれを好きなように配置するだけです。

探索パートに配置する情報の主な種類

 探索パートは、多数の”情報”によって構成されます。探索者が探索すべき情報は、下記の2つに大別されます。

  • 人が持っている情報 … 人(NPC)と会話して手に入れる情報。
  • 物が持っている情報 … 探索して見つけ、それによって気付く情報。

 「人が持っている情報」とは、NPCが知っている情報の事です。探索者はNPCを訪ねて、自分が挑んでいる謎や問題に関する情報を聞き出そうとします。それに対してシナリオ作成者は、予め各NPCが持っている情報を設定しておく必要があります。ただし、NPCは様々な心理から、情報を隠したり、嘘を吐くこともあるかもしれません。その際は探索者に対応する交渉技能でロールしてもらう事や、情報開示の条件設定(切欠)を検討しましょう。

 「物が持っている情報」とは、場所や物品、痕跡などが持つ情報の事です。探索者は様々な場所を訪れて、あちこちを捜索し、何か情報はないか見つけ出そうとします。それに対してシナリオ作成者は、何所に何があって、探索者がどんな情報を見つける事が出来るのか、予め規定しておく必要があります。

 探索者はそれぞれ、様々な技能を持っています。「地質学」や「生物学」といった、専門知識の技能も多くありますので、それらを活用出来る情報も、意識的に配置すると良いでしょう。探索者は自分の個性を生かした探索が出来ると、ちょっぴりハッピーな気持ちになれます。

探索パートの作り方

 探索パートは、”探索ポイント”を”場所ごと”に設定するのが一番分かりやすいかなと思っています。探索者が探索の為に訪れるだろう場所ごとに、誰がいて、何があるのかを記載し、それによって気付くことが出来る情報を列挙するのです。そうすると、探索者がその場所を訪れた際に、キーパーはその場所の項目を見るだけで、そこで開示すべき情報の全貌が把握出来るようになります。ほとんどのシナリオはそのような形式で記載されていますので、色んなシナリオを見て参考にするとよいでしょう。

 

シナリオの完成/テストプレイ

実際に遊んでみる

 上記の工程を全て終えたら、シナリオは完成です。自分の頭の中でしっかりと構成出来ていれば、そのままキーパーとして自作シナリオでセッション出来ますし、テキストに書き起こせば他人にキーパーしてもらうことも可能です。

 是非、実際に遊んでみてください。自分が苦労して作ったシナリオで、ハラハラドキドキの探索をしてくれる友人を見てると嬉しいものですよ。彼らが悩んでいる姿を見て、ほくそ笑むのも乙なものです。

 ただ恐らく、シナリオ作成に慣れるまでは、シナリオが自分の思った通りに出来ていないことに気付くことになるでしょう。探索者が自分の想像していない動きを見せて、とんでもない方向に話が進んでしまうこともあるかもしれません。そのような場合は、シナリオを修正してみても良いかもしれませんね。探索パートの部分は気軽に手を加えられるので、是非試行錯誤してみてください。セッションに数をこなす内に、シナリオのクオリティもどんどん向上して、素敵になっていくと思います。

 

シナリオ作成におすすめの書籍

おすすめ

 最後に、私が持っている本のうち、シナリオを作成する時によく参考にする物をご紹介します。数ある書籍の中で、「これは欲しい…!」という物です。

クトゥルフ神話 TRPG (ログインテーブルトークRPGシリーズ)
 言わずと知れた基本ルールブック。これがないと遊べないし、逆にこれさえあれば取りあえず遊べる、クトゥルフ神話TPRGの原点。
 各種技能や戦闘ルールなどの基本や、クリーチャー・神格・魔道書・アーティファクトなどの情報、シナリオまで付いてくる素敵な一冊。2016年1月現在、第6版。

クトゥルフ神話TRPG マレウス・モンストロルム
 数多出版されているクトゥルフ神話TRPGのソースブックの中で、シナリオを作成する際に、特に手元に置いておきたい1冊と言えばコレではないでしょうか。
 基本ルールブックには掲載されていないクリーチャーを含め、その数およそ380種。ゲーム用に能力などが記載されていて非常に参考になります。私はいつも、これを読みながらどんな神話生物を出すか検討しています。

ゲームシナリオのためのクトゥルー神話事典
知っておきたい邪神・禁書・お約束110

 クトゥルフ神話の世界観を解説した1冊。有名なクリーチャーや書物、設定などを分かりやすく説明してくれます。
 基本ルールブックもマレウス・モンストロルムも、情報量は膨大なんですけど、記載内容がおぼろげな所があるんですよね。神話としての元の文章が曖昧なのか、翻訳の段階で曖昧になってしまったのか。恐らく前者なんですけど。この本は日本人の方が書いているので非常に分かりやすいです。

あるといいな

 必須という訳ではありませんが、”現代日本”のシナリオを作成するために参考になる本をご紹介します。紹介する物以外にも沢山のクトゥルフ神話TRPGの書籍がありますので、色々覗いてみてください。 

クトゥルフ神話TRPG クトゥルフ2015
 現代日本に特化したクトゥルフ神話TRPGのソースブックです。シナリオ作成に役立つ情報としては、日本固有のアーティファクトや、祭りなどの無形遺産等の記載があります。また、ユニークな選択ルールやデータが記載されています。
 特に面白い点は、シナリオを作り出す”発想法”が記載されている所です。ランダムにワードを組み合わせて、シナリオ発想の起点にするという物ですが、その発想の元になるワード集が非常に参考になります。様々な形態の導入や動機、登場人物例が書いてあり、一見の価値ありです。
 また、昔懐かしい”アドベンチャーゲームブック”と同様に、読者一人で楽しむことが出来るソロシナリオが収録されています。

クトゥルフ神話TRPG クトゥルフ2010
 現代日本に特化したクトゥルフ神話TRPGのソースブックです。シナリオ作成に役立つ情報としては、現代における科学捜査や、日本の怪奇スポット・妖怪等についての記載があります。
 是非とも読んでいただきたい1冊なのですが、他に紹介する書籍に比べると情報量が薄い気がします…。ですので、あまり財力のない学生の方々等には大手を振ってお勧めし辛い本ではあります。余力があったら是非ご購入をご検討ください。

クトゥルフ神話TRPG クトゥルフカルト・ナウ
 クトゥルフ神話に登場するクリーチャー集団や新興宗教・血族などの様々なカルトについてまとめたソースブックです。どんな組織や個人が、どういう目的や歴史を持っているか等を書いており、シナリオの黒幕や背景を作成する上で参考になる1冊です。

-クトゥルフ神話TRPG シナリオの作り方, コラム

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