はじめに
※とまよねーずさんのシナリオ「翁影島」の細部を調整し、テキストしてまとめた物です。
シナリオの概要
知人の海洋調査に同行し、船の番を任された探索者達。海上のバカンスを楽しんでいた彼らは、不意に大きな揺れに襲われ、船上から海へと落とされてしまう。それはほんの一瞬だったはずなのに、気が付けば辺りに船はなく。ふと見れば、いつの間にか近くに見知らぬ島があって――。
シナリオの背景
船から落とされた探索者が漂着することになる”見知らぬ島”。その正体は「ヲキナ」という、巨大なエイの姿をした妖怪の背中の上だった。
江戸時代後期の奇談集「絵本百物語」にもその姿を見ることが出来るこの妖怪は、その実、ルルイエ近海を泳いでいたアカエイが、旧支配者クトゥルフの影響を受けてアヤカシと化した姿だった。あらゆる時代の海を行き来するヲキナは、その背中に探索者達を乗せ、徐々にルルイエへと運んでいく。探索者は無事にこの”島”から脱出し、平穏な日常へと帰還することが出来るだろうか。
シナリオを始めるにあたって
探索者について
- シナリオの導入部において依頼人から依頼を受ける必要があるため、探索者は「陸奥真行の知人」としてください。
- 推奨技能:目星・聞き耳・サバイバル(海)・英語/日本語
- 準推奨技能:治療系技能・生物学・登攀・交渉系技能・多少の戦闘系技能
登場人物(NPC)について
<登場人物の簡易的な説明>
陸奥 真行(むつ まさゆき)
”知人の海洋学者”
年齢:35 職業:海洋学者
気さくで魚に詳しい、料理上手。探索者を海へ誘った。
ウラノ
”江戸時代の漁師”
年齢:? 職業:漁師
翁影島に漂着し、異形の者へと姿を変えた漁師。
<神話生物の簡易的な説明>
ヲキナ
”見知らぬ島”
島程の大きさがある、巨大なエイの妖怪。探索者はこの妖怪の背中に漂着する。
ディープ・ワン
”深きものども”
身体を鱗に覆われ、指と指の間には水掻きの付いた、異形の怪物。
全てのサメの父
”クトゥルフの化身”
幽霊のように透き通った白い肌を持つ、巨大な古代サメの姿をしている。
シナリオ 導入パート
導入:陸奥真行からの依頼
このシナリオは、知人の海洋学者・陸奥真行からクルージングに誘われることで導入されます。
とある日の朝、探索者がテレビでニュース番組を見るならば、次のような報道を目にします。
- 近海でエイが異常発生している。原因は分からず、現在調査中。エイは毒を持つので無闇に近づかないようにと、視聴者に注意を喚起している。
- 天気予報は今日を含め、この先一週間はすべて快晴とのこと。
探索者がいつものような朝の時間を過ごしていると、知人である陸奥から電話が掛かってきます。その内容は、下記のようなものです。
<陸奥真行 35歳>
APP10 SIZ14
大学で教鞭を執る海洋学者。探索者の知人。
肌の焼けた”海の男”。
「今度の休みにクルージングに行かないか」
陸奥は海洋調査を行いたいと考えている。自分が海に潜っている間、その船の番を探索者達に依頼しようと電話を掛けた。釣り道具も貸すし、僅かながら報酬も出すので、是非、船に乗って欲しいと彼は言う。
シナリオ進行上、探索者はこの依頼を受ける必要があります。
導入:海洋調査の手伝い
約束の日に、探索者は陸奥の海洋調査の手伝いで、彼の船に乗ることになります。陸奥の船は小型のクルーザーです。船の中に特に有益な情報はありません。
陸奥は、探索者達が調査に付き合ってくれたことにお礼を言います。
海洋調査について
探索者が陸奥に海洋調査の内容を聞くならば、陸奥は「アカエイを知っているか?」と逆に探索者に問いかけます。
生物学・博物学:探索者は下記の「アカエイについて」の情報を知っている。
探索者が上記のロールを失敗した場合にも、陸奥は呆れた顔をしながら、下記の情報を教えてくれます。
<アカエイについて>
アカエイは、トビエイ目アカエイ科に属するエイです。全長は2m程で、日本を含む東アジアの沿岸域に広く分布しています。食べることも出来ますが、尾に毒を持つ棘があるので、扱いには充分注意しなければなりません。
「最近、ここいらでアカエイが異常発生していてな。俺はその調査に来たのさ。
早速潜って調べてくるから、しばらく船番していてくれ! 釣り道具とかは自由に使ってくれよ」
陸奥は海洋調査の内容を探索者に話すと、調査のために、ウェットスーツ姿で海へ潜っていきます。
船番
探索者はこの船上で、釣りを楽しむことが出来ます。
サバイバル(海)(釣り竿がある場合は+25%):成功で魚を1d6匹、失敗で魚を1d2-1匹釣ることが出来る。
調査のために、陸奥がこの船からいなくなっている場合、下記のようなイベントが起きます。
探索者が海を見ると、いつの間にか、船を取り囲むようにして黒い影があった。それは平べったい形をしており、どうやらエイのようだ。
探索者が技能などを使用し、この黒い影を良く見ようとすると、船は突然に大きな揺れに襲われます。それは、体勢を維持することが出来ない程のもので、探索者達は海に投げ出されてしまいます。
導入:見知らぬ島
海に投げ出された探索者は、一瞬、視界が海に沈みますが、直ぐに浮上します。しかし、何故かその一瞬で、眼前から船が跡形もなく消えてしまっています。
SANチェック 1/1D3
目星:周囲は海ばかりだったはずが、泳げば辿り着けそうな距離に島があることに気が付く。
探索者達は全員が近くにいます。全ての探索者は、上記の島まで泳いで辿り着くことが求められます。
水泳・サバイバル(海)・幸運:島に辿り着くまでの時間を短縮出来る。
上記の水泳などの技能のロールに失敗をした場合、探索者は島に辿り着くまでに時間がかかってしまいます。その場合は、失敗した探索者の耐久力を1減らして、島に辿り着くこととしてください。
また、上記の水泳などの技能ロールに成功し、かつ船から落ちる直前まで釣りをしていた探索者は、「釣りの道具」を所持したまま島に辿り着けたこととします。その他、探索者が何らかの所持品を喪失した否かは、上記のロールを鑑みて、キーパーの裁量で判断してください。
シナリオ 定期イベント
身体の侵食
探索者が辿り着くことになる島は、妖怪「ヲキナ」の背中の上です。ここでは時間の経過によって、探索者の身体を侵食していく”深きものどもへの変貌”が起こります。
<身体の侵食について>
キーパーは、探索者達が探索ポイント(探索パートの項を参照)を移動するごとに下記のCON抵抗ロールを行わせてください。ただし、探索者のCONの値が低い場合などは、キーパーの裁量でCON抵抗ロールを行う機会を減らし、浸食の進行具合を調整しても構いません。
- 1回目:CON×5の値でCON抵抗ロール。
- 2回目:CON×4の値でCON抵抗ロール。
- 3回目:CON×3の値でCON抵抗ロール。
- 4回目以降:CON×3の値でCON抵抗ロール。
探索者が上記のCON抵抗ロールに失敗した場合、身体の侵食が進みます。身体の侵食はLv.1~Lv.4まであり、失敗するごとにレベルが上がっていきます。
侵食LV.1
蒸し暑く、上着を脱ぎたい衝動に駆られる。また、喉が渇く。上着を脱がない場合や、水を飲まない場合は、技能にペナルティ。
侵食LV.2
息苦しく、首に違和感を感じる。首元を触れば、そこにエラが出来ていることに気が付く。水泳の技能に25のボーナス。エラに気が付いた者はSANチェック(0/1)を行う。
侵食LV.3
身体が水を求めてしまう。水に触れていない限り、技能の成功値が半減する。水泳の技能へのボーナスは50に上がる。
身体が緑がかり、手には水掻きが出来る。APPに-1のペナルティ。その様を見てしまった者はSANチェック(1/1D2)を行う。
侵食LV.4
探索者の肌は鱗で覆われ、その顔は魚のように変貌してしまう。身体が強烈に水を求めてしまう。この段階に至った探索者は、水に浸かっていないと、人間としての思考が出来なくなってしまう。侵食がこの段階に至った者と、その姿を見てしまった他の探索者は、SANチェック(1/1d4)を行う。
APPに-3のペナルティ。ただし、APPの最低値は3とする。この段階に至った者の水泳技能は自動成功とする。
なお、上記の侵食は、探索者達が島の中とその近海にいる限り、起こり続ける現象です。探索者達が島を出て、島からある程度距離を取れば、この侵食は徐々にレベルを後退させ、元の人間に戻ることが可能です。
逆に言えば、侵食によって水泳技能が上がった探索者が、その技能を用いて島から脱出しようとした場合、島から離れた所で人間へと戻ってしまい、溺れてしまうということです。そのような探索者がこの島に戻ってくる場合、島を出た時と同じレベルの侵食に、再び侵されることでしょう。
地震
この島において、探索者が「ロールでファンブルを出した」場合や、「島を大きく傷つける行為を取った」場合、地震が起こります。
<地震の影響>
地震が起きる度に、その揺れは徐々に大きくなっていきます。キーパーは地震が起こった数をカウントし、下記のようなイベントを起こしてください。
1~3回目の地震
探索者はその揺れを感じるものの、大きな影響はありません。
4~7回目の地震
揺れによって探索者が怪我をするほどのものです。探索者は幸運の技能でロールを行い、失敗した場合には耐久力を1減らしましょう。これ以降、探索者が海を見れば、波が荒れていることに気が付くでしょう。
8回目の地震
探索者に死を感じさせる程の強烈なものです。探索者はSANチェック(1/1D6)を行い、また、耐久力を1D3減らしてください。
9回目の地震
島が沈み込むほど激烈なものです。この地震に直面した探索者は、もう助かることはありません。「エンディングB:沈みゆく島」の項を参考にして、エンディングを演出してください。
シナリオ 探索パート
南の浜
船から海に放り出された探索者が、この島に漂着する場所です。穏やかな砂浜で、泳ぎに疲れた探索者もほっと一息をつくことが出来るでしょう。
アイディア:浜の砂はどこも湿っているとわかる。
この場所で目星の技能のロールを振れば、探索者が望む”道具”が漂流物として見つかるかもしれません。探索者から希望があれば、キーパーの裁量で漂流物の内容を決定してください。
探索者が浜辺から島の中央部の方角を見れば、生い茂った森の向こうに小高い山が見えます。山は森に囲まれており、この場所から山へと移動するためには、必ず森を通過しなければならないことが分かります。
探索者が海の方角をみれば、空模様が怪しいことに気が付きます。先ほどまでは気持ちよい快晴であったのに、気が付けば空は厚い雲に覆われています。
南の森
島の中央にある山を取り囲むようにして存在する森です。木々は鬱蒼としていて、まるで熱帯雨林のようです。
目星:木々の枝に、厚くて湿った葉っぱが引っかかっていることに気が付く。手に取れば、それが海藻であると分かる。
生物学:海藻は近海のものばかりではなく、日本では見られないような海藻もあることに気が付く。
山
目星:山肌にはよく見ると細かな穴が空いており、軽石の表面のようです。ところどころに水たまりもあることに気が付きます。
登攀:成功すれば、山の頂上から島を一望できます。キーパーは右図「島の地図」をプレイヤーに開示してください。
<山の頂上から見た、島の全貌>
山に登った探索者は、下記の情報を得ることが出来ます。
南側
探索者が漂着した浜辺があります。足跡が集中している場所があり、そこが自分達の漂着した場所だと分かります。
西側
丘があります。丘の中央には窪んだ部分があり、湖となっています。
目星:遠目で良く見えなかったが、湖の中で何かが微かに動いたようだ。
上記の目星で気付くものは、後述するNPC・ウラノの動いた影です。
北側
南側と同様に、鬱蒼とした森が広がっています。岩山の崖が切り立っていて、この頂上から降りることは難しそうです。
アイディア:北側の森から、とても嫌な気配がすることに気が付く。
目星:森の向こうに見える岩場に、何かがくくり付けられていることに気が付く。遠目で、何がくくり付けられているかまでは分からない。
東側
遠くに岩場があります。そこには大きな円錐状の、鉄塔のような物が立っています。
目星:鉄塔のような物の先端に、何かがあるようだ。それが何かまでは遠目で分からない。
丘
島の西部には、なだらかな丘があります。丘には、その南と北に1つずつの小山があります。小山に挟まれるようにして、丘の中央には水の溜まった窪みがあり、小さな湖となっています。丘に上がると、湖の畔に人影が見えます。
小山
丘の南と北にある小山は、閉じられたヲキナの目です。近寄れば、それが岩で出来ていることに気が付きます。その山はそれぞれ、人の目線のあたりに大きな亀裂が入っています。その中には、人が手を突っ込むことが出来そうです。
もし、探索者がその亀裂に手や物を挿し込む場合、すぐさま島を地震が襲います。また、小山に手を触れた者は、その小山がドクンと脈動した事を感じます。小山を触った探索者は、下記のような技能のロールを行ってください。
SANチェック 0/1
アイディア:小山が湿っていることに気が付く。
湖畔の人影
探索者が湖の畔の人影に近付けば、その人影が”人間”の姿でないことに気が付きます。その者は、身体が緑色の鱗に覆われ、エラをヒクヒクと動かす、異形の怪物のようです。異形の怪物は、彼方此方が傷んでいる衣類を身に付けています。
SANチェック 1/1D4
探索者がこの怪物を視認すると、怪物も探索者を視認し、下記のように声を掛けてきます。
「なんじゃ! ウヌらは!」
<異形の怪物・ウラノについて>
STR12 CON10 POW15 DEX10 APP7 SIZ6 INT10 EDU8 HP8 MP15
ダメージボーナス:無し
技能:鉤爪25 ダメージ1D6+db
技能:水泳99 運転(船)95 目星50 聞き耳50
探索者が目撃した異形の怪物は、一人の人間が島に長く居すぎたことによって、怪物へと変貌してしまった姿です。彼は名前をウラノと名乗ります。彼は東北訛りが強い喋り方をしますが、探索者との会話に大きな支障はないでしょう。彼は「身体の侵食」がLv.4まで進行している状態で、水に浸かってさえいれば、人間として探索者と会話をすることが出来ます。
探索者には知る由もありませんが、ウラノは、江戸時代に生まれた人物です。彼は、漁の最中に遭難し、江戸時代を泳いでいたヲキナに漂着しました。ヲキナはウラノを背に乗せたまま、異なる時空の海へと転移し、現在、探索者の時代を漂っています。
もし、探索者がウラノに攻撃を仕掛けるなら、彼は湖の中へと逃げていきます。しばらくすれば、彼は再び水面へ顔を出すでしょうが、探索者が彼と会話をするためには、説得などの交渉技能が必要となることでしょう。
彼は、探索者との会話によって、下記のような情報を話してくれます。
- オラはアイヌモリ(蝦夷国)の漁師だ!
- 漁の最中に遭難して、一月ほど前に、この島に漂着しただ。
- 3人の仲間とこの島に辿り着いたのだが、この島にいる内に、皆おかしくなってしまっただ。
- 大きな地震が起きて、仲間達は散り散りに逃げただ。皆、何所に行ってしまっただ…。
- 自分は、この湖から出れないだ。出たら頭がおかしくなってしまうだ。
もし、探索者が好意的にウラノと接触し、キーパーがウラノから探索者達への好感度が高いと判断した場合には、下記の情報を開示してください。
- 島の北側に、オラ達の船があるだ。オラのことを迎えにくる(島の西側の海まで船を漕いでくる)なら、船を貸してやるど。
- オラの宝物を見せてやるだ!
探索者達に心を許したウラノは、宝物を見せてくれると言い出します。彼は、湖の深くへと泳いでいきます。
目星:湖の底に、何か黒い物が沈んでいることが分かる。
ウラノは、その湖の底に沈んだ黒い物を、潜水して取って来てくれます。それは黒ずんだ、四角いクーラーボックスです。
「これはオラの玉手箱だ。凄いんだど、あんなに深く沈めても、中に水が入ってこないんだど!」
探索者にとっては何の変哲もないただの箱ですが、ウラノはその密閉性に感動し、宝物として扱っています。探索者が希望するなら、その箱の中身を見せてくれます。箱の中には「サビ色の本」と「カビ色の本」、そして大工道具が入っています。
<サビ色の本について>
サビ色の本の表紙には、「船舶運用手引書」と書かれています。ウラノは文字を読めないため、この本に何が書かれているかは分からないと言います。日本語の技能のロールに成功すれば、この本を読むことが出来ます。本には、下記の内容が書かれています。
- 「海を安全に渡るためには、海に熟知した者の先導が必要だ」という記述がある。
- 「和船とは、日本において発達し、幕末以後の洋式船舶の導入の前まで、移動や漁業に用いられた構造船及び準構造船の総称である」という記述がある。
- ”漁船の舵取りや、故障の修理方法”に関する記述がある。
この本を読むならば、和船の修理や運転について技能の成功値に25のボーナスが付きます。この本を所持し、手元に置いて作業をするならば、和船の修理についてのみ、45のボーナスが付きます。
<カビ色の本について>
カビ色の本の表紙には、「CTHAAT AQUADINGEN(クタート・アクアディンゲン)」と書かれています。ウラノは文字を読めないため、この本に何が書かれているかは分からないと言います。英語の技能のロールに成功すれば、この本を読むことが出来ます。本には、下記の内容が書かれています。
深きものども
人間のような形をしているものの、身体を鱗に覆われ、指と指の間には水掻きの付いた、異形の怪物。魚のような顔をしている。主に水中で生活をし、海底において、大いなるクトゥルフを崇拝しているという。
また、この本には呪文「サメに命令する」についての記述があります。下記の呪文は、1D4ターンの時間をかけて読めば、覚えて使用することが出来ます。
サメに命令する
南海を起源とする、海神に生贄を捧げるための呪文です。この呪文を使用するためには、海水域に立ち、海に生き物の血を撒く必要があります。詠唱者は、基本となるMPを1ポイント消費します。その後、詠唱者が追加のMP1ポイントを支払うごとに、呪文の成功率が10%ずつ上昇します。呪文の詠唱に成功すれば、自分の命令に従うサメが現れます。
もし、詠唱者が呪文の詠唱に失敗し、かつ幸運のロールにも失敗した場合、詠唱者の近くに2匹のサメが現れます。このサメは、詠唱者の呪文の支配下には置かれておらず、詠唱者に敵対します。
この本を読んだ者は、下記のSANチェックを行い、クトゥルフ神話技能の値に4ポイントを加えてください。
SANチェック 1D4/2D4
<大工道具について>
ウラノの玉手箱の中には、ベンチや金槌、釘やナイフなどが入っています。それらは現代の日本で見受けられるような工具です。これらの道具を活用するならば、和船の修理についての技能の成功値に、25のボーナスが付きます。
ウラノは玉手箱や、その中身を探索者に自慢します。これらは、ウラノがこの島において拾った物だと言います。探索者が丁寧に頼めば、ウラノはこれらの物を探索者達に貸し出してくれるでしょう。そのために、場合によっては、交渉技能が必要になることもあるでしょう。
東の岩場
島の東部には、ゴツゴツとした岩場があります。岩場の奥(ヲキナの尾の中程)には、鉄塔のような円錐状の造形物があります。
目星:円錐状の塔の付近に、紙切れが落ちていることに気が付く。
<円錐状の塔について>
オベリスクのような、巨大な円錐状の塔です。近付けば、黒い液体が滴っていることに気が付くでしょう。探索者が塔の先端を見上げれば、塔によって胸を貫かれて絶命した、無残な人間の死体を見つけます。
SANチェック 1/1D3
医学:死体は胸を刺されただけではなく、毒によって死亡していることが分かる。死後、数日が経っている。
薬学:塔を滴る黒い液体が、毒物であると気が付く。
歴史:死体の着ている衣服は古い時代の物だと気づく。それは江戸時代における漁師の姿のようだ。
上記の死体は、ウラノと共にこの島に漂着した、漁師仲間の内の一人です。また、この塔は、ヲキナの尾に付いた巨大な毒針です。
この死体を塔から下ろすことは難しいでしょう。死体はヲキナ(アカエイ)の毒によって死亡しています。もし、探索者の傷口などからアカエイの毒が入り込んだ場合、その傷口は赤く腫れ、周囲は青白くなります。
<紙切れについて>
紙切れには、右図のような図が記載されています。
オカルト:紙切れに描かれた図を見て、「ヲキナ」とは江戸時代後期の奇談集『絵本百物語』に登場する、島ほどの大きさがある巨大なエイの妖怪であると思い出す。
円錐状の塔の向こう
探索者が、円錐状の塔を越えて、ヲキナの尾の先端付近まで行こうとする場合、下記のような物音が聞こえます。
聞き耳:背後からペタペタと、水に濡れた足音が聞こえる。
探索者が振り返るなら、背後に下記の3体の怪物がいることに気が付きます。怪物は探索者に向けて吼えたかと思うと、襲い掛かってきます。
SANチェック 1/1D6
戦闘を開始してください。ただし、探索者がこの怪物から逃げ、東の岩場から他のエリアへと移動するならば、この怪物は探索者を深追いしません。
<ディープ・ワンA>
STR14 CON10 POW10 DEX10 SIZ16 INT13 HP13 MP10
ダメージボーナス:1d4
装甲:鱗の皮膚 1ポイント 技能:鉤爪25 ダメージ1D6+db
<ディープ・ワンB>
STR16 CON12 POW11 DEX12 SIZ18 INT14 HP15 MP12
ダメージボーナス:1d6
装甲:鱗の皮膚 1ポイント 技能:鉤爪35 ダメージ1D6+db
<ディープ・ワンC(元漁師)>
STR9 CON9 POW9 DEX9 SIZ16 INT13 HP9 MP9
ダメージボーナス:1d4
装甲:鱗の皮膚 1ポイント 技能:鉤爪35 ダメージ1D6+db
このディープ・ワンは、ウラノと共にこの島に漂着し、身体の侵食が進んで異形の怪物と化してしまった者の姿です。ウラノよりも侵食が進んでおり、その意識は欠片しか残っていません。
もし、探索者の「身体の侵食」のレベルがLv.3以上であれば、戦闘中に聞き耳を行い、下記のような情報を得ることが出来ます。
聞き耳:このディープ・ワンの吼え声が、「オマエ イッショ ナカマ ナル」「カエロウ アノ バショ」などと言っているように感じる。
上記のディープ・ワン達は、耐久力がある程度減ると、海へと逃げていきます。
北の浜
探索者が漂着した南の浜と同様の浜辺です。浜辺には大きな岩があります。北の浜と、島中央の山の間には森があります。森は探索者を誘うかのように、潮風に吹かれて葉を揺らしています。
探索者が浜辺の大きな岩に近付くと、その岩に結び付けられた和船を見つけます。
和船について
探索者が和船の中を見れば、そこに死体があることに気が付きます。探索者が東の岩場にて、「塔に刺さった死体」を見ていれば、船の中の死体は塔に刺さった死体と同様の衣類を着ていることに気が付くでしょう。探索者が死体を動かせば、その引き裂かれた腹部が見え、恐らくはそれが致命傷であったと推測が出来ます。
SANチェック 1/1D3
医学:腹部は鋭利な太い物に引き裂かれており、動物の鉤爪による傷のようにも見える。
上記のSANチェックは、探索者が東の岩場にて塔に刺さった死体を見ている場合には、軽減しても良いでしょう。
船の中には漁に使われる網や釣り道具、銛などがあります。船の底はひどく傷ついているようで、船を海に浮かべるためには修理が必要です。
機械修理:成功すれば、船を修理することが可能。
この和船が、ウラノ達がこの島に漂着した際に乗っていた船です。海に流されてしまわないように、ウラノ達がこの岩に和船をくくり付けました。船の中にあった死体は、ウラノの漁師仲間の内の一人です。死体はディープ・ワンの鉤爪によって殺害されています。
この和船を修理し、海へと繰り出すならば、エンディングとなります。「エンディングA:船で島を出る」の項を参考にして、シナリオの最後を演出してください。
北の森
探索者が島の北部にある森に侵入を試みるならば、下記の技能のロールを行ってください。
アイディア:成功した探索者は、その森に不吉を感じ、足を踏み入れたくないと強く感じる。
探索者がこの森に侵入をしたならば、途端に目眩を起こしてしまいます。侵入した探索者はCON×2の抵抗ロールを行ってください。この抵抗ロールに成功した探索者はこの森にいられず、森の外へと走り出してしまいます。失敗した探索者は、下記のような”悪夢”を見ることになります。
探索者は意識を失い、倒れ込んでしまった。
視界が、青色に染まる。気が付くと、探索者は真っ青な海の中を泳いでいた。自分の手足を見れば、それは平たく伸ばしたピザ生地のようで、今、自分が人間の姿をしていないと気が付く。
SANチェック 1/1D3
目を先にやると、そこには海底都市があった。探索者は、そこに吸い寄せられるように泳いでいる。
海底都市に到達すると、異様な気配に飲み込まれる。海底都市には、不気味な歌声が響き渡っていた。探索者の脳内に、おぞましい情報が、汚泥のように詰め込まれていく。
「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」
SANチェック 1D6/1D10
幸運:失敗した場合、下記の影に気付いてしまう。成功で気付かずに済む。
海底都市の柱の影から、探索者を見つめる巨大な目があった。それは、信じられないほど巨大で、幽霊のように透き通った白い肌をしたサメだった。鋭く尖った牙を剥き出しにし、獰猛な眼差しで探索者を見つめるサメは、その姿を見せただけで探索者の心を凍てつかせる。サメは、小さな探索者に向かって口を開いた。探索者に成す術は何も無い。
SANチェック 1D6/2D10
上記の巨大なサメは、クトゥルフの化身「全てのサメの父」です。探索者は、夢の中でこの化身を目撃してしまう可能性があります。
上記の悪夢を見た探索者は、森の端、北の浜との境界で目を覚まします。どうやら這いつくばって森から脱出したようです。悪夢を見た探索者は、そのおぞましさから、二度と北の森に足を踏み入れたくないと感じます。
シナリオ エンディング
※探索の終盤、エンディングのシナリオ進行についてA~Bの2パターンを下に記載します。
エンディングA:船で島を出る
探索者が和船の修理を終え、それによって島からの脱出を計るならば、シナリオはエンディングへと移行します。
北側の海は波が荒れており、単純に船を漕ぎ出すだけだと、操縦もままならずに海流に流されてしまいます。探索者は、この島を無事に抜け出すためには、”海に熟知した者”の助けがいることを直感するでしょう。
自力で脱出を試みる
もし、探索者が”海に熟知した者”に頼らず、自力での脱出を試みる場合、サバイバル(海)の技能の半分の値を成功値としたロールを行うことになります。このロールに成功するならば、船に乗って無事に島から抜け出すことが出来るでしょう。
上記のロールに失敗した場合は、遠くから探索者達に向けて泳いでくる、複数の人影を見付けるでしょう。よく見ればそれは緑色の鱗に覆われた怪物達(ディープ・ワン)で、探索者達に向かってあげる吼え声から、害意を持って近付いて来ていることが分かります。この後、探索者達が再びサバイバル(海)×1/2の技能のロールに失敗したならば、探索者達の乗る船は怪物達に壊されてしまい、脱出の望みを絶たれることになります。
呪文「サメに命令する」を使用する
探索者達が”海に熟知した者”を頼ろうとする場合、その頼れる者は、”呪文によって呼び出したサメ”か”ウラノ”のどちらかとなります。
探索者に従うサメを呼び出せた場合、サメは探索者の意図を理解し、探索者達の脱出のために力を貸してくれます。探索者達の乗る船を鼻先で押しながら、安全な海域まで連れ出してくれるでしょう。その途中、探索者達は自分達を追いかけてくるディープ・ワンの群れに気付くかもしれません。しかし、海の生き物の助けを得ている探索者達に、ディープ・ワンが追い付くことはありません。
もし探索者達が呪文の詠唱に失敗し、自分達に敵意を持ったサメを呼び出してしまった場合、サメは探索者達に攻撃を仕掛けます。探索者達が船に乗っているならば、その船をひっくり返し、探索者達に噛み付こうとするでしょう。そうなれば、探索者達が無事でいられる可能性はとても低いものになってしまいます。
ウラノに助けを求める
探索者達がウラノに助けを求める場合、ウラノは水中にいなければ自我を失ってしまいますから、探索者達が西の海まで船を漕いで迎えに行く必要があるでしょう。
探索者が島の西側の海まで船を漕ごうとする場合には、特にロールを行う必要はありません。波に乗って、無事に辿り着くことが出来ます。島の西側まで辿り着いた探索者は、下記のような声を聞くことになります。
「おーい、待ってくれー!」
上記は、探索者達を見つけたウラノの声です。ウラノは玉手箱を大事そうに抱えながら、丘の湖を飛び出し、西側の海へと飛び込みます。そして、バシャバシャと音を立てながら探索者達の元まで泳いで辿り着き、船の縁に捕まります。
ウラノと合流した探索者は、遠くに下記のような光景を目にします。
遠くの海の波間に、複数の何かが浮かんでいた。海に浮かぶ海鳥のようにも見えたそれは、よく見れば、緑の鱗に覆われた異形の怪物達の顔であった。怪物達は、赤い目をギラつかせて、探索者達を見つめ、こちらに迫って来ている。
グオォと、怪物の吼え声が空に響いた。それに呼応するように、グオォ、グオォと彼らの声が木霊する。その声は、外敵に吠え立てる獰猛な獣のような声で、彼らは、明からに探索者達に害意を持っていた。
上記の後、探索者達はディープ・ワンの群れに追われます。ディープ・ワンは、探索者達を海に引き摺り込み、探索者達のディープ・ワン化を促進させ、仲間にする事を目的としています。探索者達は、このディープ・ワン達の追跡から逃れ、島から脱出することが求められます。
探索者達はサバイバル(海)もしくは操縦(船)のロールを行い、船を上手く操縦出来るかを判定してください。その際、ウラノが先導を手伝うことによって、このロールの成功値には25のボーナスが付きます。もし、探索者が「船舶運用手引書」を読んでいるならば、更に25のボーナスが付きます。
探索者が上記のロールに2回成功すれば、無事にディープ・ワンの追撃から逃れる事が出来ます。もし、上記のロールに2回成功するまでに、2回失敗をしてしまった場合、探索者達はディープ・ワンに追いつかれることになります。船に追いついたディープ・ワンは、船に対して横から下から攻撃を加え、それを破壊してしまいます。船を失った探索者は海に投げ出され、ディープ・ワンによって海底に引き摺り込まれ、人間としての死を迎えてしまいます。
エンディングB:沈みゆく島
探索者の探索が上手く行かず、地震のイベントが9回目に達してしまった時は、この項を参考にして、エンディングを演出してください。
地鳴りのような音が鳴り響いた。と同時に、島は途轍もない揺れに襲われた。探索者は立っていることが出来ず、地に投げ出されるようにして倒れ込んでしまう。岩と岩が衝突しあう音が轟き、島全体が歪んだ。
この地震が起きた時、探索者が丘の上にいるならば、地面がひび割れて”ヲキナの巨大な眼”が現れる瞬間を目撃してしまうでしょう。島は、隆起したり、沈降したりを繰り替えしながら、その地面を大きく波打たせます。
この地震は、ヲキナが海に潜り込もうとし、姿勢を変えることによって起きたものです。動揺する探索者をよそに、島は海の底へと徐々に潜り込んでいってしまいます。海に投げ出されることとなる小さな探索者達は、大海という大自然を前にして、最早、助かることはないでしょう。どれだけ生にしがみ付いたとしても、いずれは海の藻屑と化してしまいます。
なお、9回目の地震が起きた時に「身体の侵食」がLv.4の状態にある探索者は、その侵食が急速に進行します。身体をみるみる内に鱗が覆い尽くし、ついにはディープ・ワンへと成り果ててしまいます。人としての意識を完全に失った探索者は、1匹のディープ・ワンとして、海底で眠る神・クトゥルフの眷属となることでしょう。
シナリオのその後/正気度報酬
※探索を終了したその後の世界についてと、クリア後の探索者への報酬について記載します。
シナリオのその後:島から脱出した探索者達
島を脱出し、船を漕いでいた探索者達は、突如として濃い霧に覆われることになります。いつの間にか探索者の周囲に立ち込めた霧は、その視界を真っ白にします。視界を奪われた探索者達が動揺をしていると、不意に、探索者達の意識は遠くなっていきます。
この時、もし、探索者がウラノと共に島を脱出しているならば、探索者が眠るようにして気を失おうとする最中に、「ありがとさん」と、見覚えの無い男性に声を掛けられたような気がします。霧の中で男の姿はおぼろげですが、探索者がアイディアの技能のロールに成功するならば、その男の姿がウラノの本来の姿なのではないか、と思うことでしょう。
目を覚ました探索者達は、いつの間にか、見覚えのある船内にいます。そこは、陸奥のクルーザーの中で、陸奥は探索者達の様子を見て笑顔を浮かべています。
「はしゃぎすぎたのかい?」
陸奥が海中の調査を終えて、船に上がってきた時、探索者達は船の縁や甲板で倒れるようにして眠っていたそうです。陸奥が慌てて探索者達に近寄ると、探索者はイビキをかいていたり、全員が気持ち良さそうに寝ているようでした。そのままだと風邪を引いてしまうと思った陸奥は、探索者達を船室に移動させたと言います。
「船の番が寝てちゃ、世話が無いな」
陸奥は苦笑を浮かべつつ、探索者達を甲板へと案内します。
「さあ、お疲れの君達に、俺の漁師料理を振舞おうじゃないか」
甲板には、陸奥が船上で調理した手料理が並んでいました。探索者達が見ると、そこにはエイを使った料理もあります。探索者達は陸奥のエイ料理を食べてくれるでしょうか。
シナリオのその後:ウラノのその後
探索者達がウラノと共に島を脱出した場合、探索者と同様、ウラノも自分のいた時代へと帰還することが叶います。彼は、幼い頃からよく見知っている海辺に漂着し、そこで目を覚ますことになります。
生まれ故郷に辿り着いたことを知った彼は、それをとても喜びます。すぐさま、家族達に自分の無事を知らせようと、浜辺から走り出そうとします。しかし、その身体は重く、起き上がることさえ困難なものでした。不可解に思った彼は、自分の腕を見て、その変わり様に驚愕します。
彼の腕は今にも折れそうなほど細く、肌はシワだらけになっていました。焦った彼が身体の彼方此方を確認すると、どこもかしこもが同様に衰えており、まるで、老人の身体ようでした。時空の歪みに長いこと浸された彼の身体は、その負荷に耐えかねて、一気に年を取ってしまっていたのです。
彼は、通りかかった男に助けを求めます。男は、ウラノの友人でした。友人は、ウラノのよく知る、若々しい姿をしていました。ウラノが「わしじゃ! シマタロウじゃ!」と本名を名乗っても、友人はそれを信じようとしません。人間が、一晩でそんなに年を取る訳がないと笑っています。途方に暮れて泣き出すウラノの横には、彼が大切に持ち帰った玉手箱が落ちていました。
成功報酬
- 探索者が島から生還している場合:1d6の正気度報酬
- ウラノが島から生還している場合:1d4の正気度報酬
- 探索者が北の森に入った場合:1d3の正気度報酬・1d3のクトゥルフ神話技能成長
- 探索者がカビ色の本「CTHAAT AQUADINGEN(クタート・アクアディンゲン)」を持ち帰っており、この本についての研究を行うならば、クトゥルフ神話技能を2ポイント成長させてください。