CoCシナリオ ゲストシナリオ

運命の悪戯

投稿日:2017年2月21日 更新日:

はじめに

 ※にゃるさんのシナリオ「運命の悪戯」の細部を調整し、テキストしてまとめた物です。

シナリオの概要

 ほんの些細な出来事が、未来を大きく変えてしまう「バタフライエフェクト」。
 不幸の渦に巻き込まれてしまった探索者達は、その悪意に抗い、
 自身の運命の歪みを修復することが可能だろうか。
 この物語は序章に過ぎず、探索者達はこの先に続く苦難を未だ知らない――。

シナリオの背景

 想い人、「不知火みらい」を失った霧崎白夜は、悲しみに暮れていた。不慮の事故で失った彼女と、再び会いたいという彼の一途な願いは、彼を魔術・神秘の道へと傾倒させていった。そして、彼に忍び寄った神話的存在の後押しもあり、彼はついに不知火みらいを”作り出す”ことに成功する。

 霧崎白夜に作り出された不知火は、自身が二度目の人生を生きていることなど露とも知らなかった。霧崎と不知火は、お互いに好意を寄せあっていたが、まだ恋人になるという一歩を踏み出せないでいた。ある日、霧崎は不知火に、かつて伝えられなかった自身の恋慕を告白する。不知火はすぐに返事をすることは出来なかったが、既に彼女の胸の内は決まっていた。

 後日、不知火は霧崎にその想いを伝えようとし、彼を呼び出した。しかし、どれだけ待っても、彼は来なかった。不安になった彼女のもとに、一通の手紙が届く。その手紙には、「霧崎白夜が不慮の事故で亡くなった」と、不幸を知らせる文が書かれていた。

 絶望に打ちひしがれた彼女は、だがしかし、諦めてはいなかった。霧崎がそうしたように、彼女もまた、霧崎の蘇生を切望した。誰かを”生き返す”ためには、相応の犠牲が必要だった。その犠牲に、探索者達は選ばれてしまった。

 

シナリオを始めるにあたって

探索者について

  • 探索者同士が知り合い同士である必要はありません。
  • このシナリオにおいて、探索者は自身の保有する道具を所持していない状態から開始されます。
  • 継続探索者の参加も可能とします。
  • 推奨技能:目星、聞き耳、図書館、各種知識技能

登場人物(NPC)について

不知火 みらい(しらぬい みらい)

”霧崎の蘇生を願う心理学者”

年齢:27歳 職業:心理学者

死んでしまった想い人を蘇生させるために、非道の魔術に手を染めようとしている女性。

霧崎 白夜(きりさき びゃくや)

”不知火を蘇生した物理学者”

年齢:28歳 職業:物理者

死んでしまった想い人を蘇生させるために、非道の魔術に手を染めた男性。

ローブを着た女性

”時の支配人”

年齢:ー 職業:ー

この作中で、この人物の素性を知ることは出来ない。今後、連作となるシナリオで明らかとなっていく。

 

シナリオ 導入パート

導入:いつもと変わらない朝

 全ての探索者は、このシナリオの導入において、下記のような現象を体験します。

 ある日。いつもと変わらない朝を迎え、あなたは家を後にする。

 朝日が眩しい。

「今日も頑張るか」

 誰にも聞こえない心の声が漏れだす。

 不意に、どこからか風鈴の音が響いてきた。

 いつもなら気にも留めない日常の風景。

 ただ、その日は何故か目に留まった。

 蝶が朝日に向かって羽ばたいている。

 その光景は朝日に照らされ、何気ない日常を不思議と彩っていた。

 瞬間、眩暈があなたを襲う。

 その場に立っていることが難しい。

 あなたの意識は、糸が切れるように途切れてしまう。

 意識が途絶えた探索者は、聞き覚えのない誰かの声で目を覚まします。

「…起きてください。ねえ、起きてください…」

 声がする。あなたはいつの間にか眠っていたようだ。

 目を覚ますと、一人の女性があなたを心配そうに見つめていた。

 探索者が目を覚ました場所は”物置”です。物置の詳細は「探索パート:物置」をご参照ください。

 探索者に声を掛けた女性は「不知火みらい」という心理学者です。

<不知火みらい>

STR8 CON18 POW13 DEX10 APP17 SIZ9 INT18 EDU21 HP14 MP13

ダメージボーナス:無し

技能:心理学90 医学75 物理学99 オカルト70 信用80 ドイツ語90

※不知火は心理学者であり、また、その心が壊れてしまっているため、彼女に対する心理学は意味を成さない。

 探索者が、自身の身体や他の探索者をよく観察するならば、下記のロールを行ってください。

目星:探索者自身に怪我をしている様子はないのに、着ている衣類に小さな血痕が付いていることに気が付く。

 上記の血痕は、全ての探索者の衣類に少しずつ付着しています。なお、眼前の女性にはそのような血痕は見受けられません。

「部屋に来たら、あなたが倒れていたので心配したわ」

「私の名前は、”不知火みらい”よ」

「学者をしているわ」

 不知火は、探索者のことを気遣います。探索者達に自己紹介を求めるとよいでしょう。

「ここに閉じ込められてしまったのね」

「こんな所でお話しするのもなんだから、場所を変えましょう」

 不知火は、探索者達を物置から「客室」へと誘導します。

 

シナリオ 定期イベント①

吐き気

 このシナリオにおいて、探索パート①の項のみ、探索者には”制限時間”があります。

 今後の探索において、探索者が「研究室」に入り、その後に部屋を出ると、このイベントが開始されます。

 このイベントは段階1から始まり、キーパーの裁量によって時間経過ごとに発生します。探索者のロールの成否に関わらず、時間経過によって段階は4まで進行します。

 なお、探索者と同様にこの場所に滞在している不知火は、この症状に侵されません。しかし、探索者と同様に苦しんでいるような素振りを見せるでしょう。

<段階1>

 激しい頭痛と、それに伴った吐き気がします。得体の知れない不安を感じます。

 CON×4の値でロールを行ってください。成功した場合はSANチェックなし、失敗した場合はSANチェック(0/1)。

<段階2>

 段階1よりも激しい頭痛と吐き気、不安を感じます。

 CON×3の値でロールを行ってください。成功した場合はSAN値が1減少、失敗した場合はSANチェック(1/1d3)。

<段階3>

 段階2よりも激しい頭痛と吐き気に襲われます。身体の内側から骨が軋んでいるように感じます。この感覚は、医学の知識によって理解することは不可能です。

 CON×2の値でロールを行ってください。成功した場合はSAN値が1減少、失敗した場合はSANチェック(2/1d6)。

<段階4>

 バッドエンドとなります。「エンディングA:間に合わず」の項を参考に、シナリオを完了させてください。

 

シナリオ 探索パート①

研究所

 探索者が目を覚ました場所は、下図のような施設の中です。この施設には外部へ繋がる窓や扉がなく、閉鎖された空間となっています。

【キーパー用】

【プレイヤー用】

物置

 探索者がこの異空間で目を覚ました時に、寝かされていた場所です。

 この部屋には、床に絨毯が敷かれており、雑多な物が入った木箱や、段ボールが積まれています。木箱や段ボールを調べれば、中にはフラスコビン等の実験器具や、バール等の工具、何らかの薬品等が入っています。中身は新品のまま置かれているようで、特に気になる点はありません。

 ただし、今後の探索によって「人体を構成する物質」の資料を見た探索者がいる場合には、この場所にはそれに必要な薬品が全て取り揃えられていることが分かります。

客室

 物置で目覚めた探索者を、不知火が誘導する場所です。企業の待合室のような印象を受ける部屋で、ガラステーブルや椅子、資料棚、ラックが置かれています。

 探索者を誘導した不知火は、下記のような行動を取ります。

 不知火は、あなたをこの部屋に誘った後、

「少し待っていてね、今飲み物でも持ってくるから」

 と言い、部屋の外に出て行ってしまう。

 部屋の扉が閉められると、外の音が聞こえなくなった。

 防音仕様の客室に、探索者は違和感を覚えることでしょう。

アイディア:ガラステーブルや椅子が少し埃っぽく、掃除が行き届いていないような印象を受ける。

資料棚

 探索者がこの部屋の資料棚を調べるならば、様々な研究資料が作者順に並んでいることが分かります。探索者がこの資料棚で”不知火みらい”について調べるならば、下記の情報を開示してください。

<不知火みらいの資料>

 不知火みらいの研究をまとめた資料です。これは不知火が、霧崎白夜が死亡する直前まで、研究していた内容になります。

「過去や未来を書き換える代償について」

 過去や未来を書き換えた時、どのような弊害が起こり得るのか。

 例えば、過去や未来に移動する方法を確立できたとして、何千年も前に移動するなどという、途方もないことをしない限りは、”そこに行く”だけであれば問題はないだろう。

 ただ、もしその過去や未来で何かを”行う”ならば、問題が起こり得る。

 「バタフライ効果」がその最たる例だ。

 このようなことが起こるために、安易に過去や未来を書き換えてはならない。

 探索者が物理学の技能を持っているならば、追加で下記の情報を公開してください。

「バタフライ効果」

 バタフライ効果は、英語では『butterfly effect(バタフライエフェクト)』と表記する。

 この名称は、この概念を最初に発表した気象学者、エドワード・ローレンツの講演『ブラジルでの蝶の羽ばたきは、テキサスでトルネードを引き起こすか』に由来する。

 ほんの些細な出来事が引き金となり、徐々に途方もなく大きな現象に繋がるのではないかという提言だ。

 もしこれが正しければ、不確定要素が無限にある自然現象の正確な長期的予測は、不可能と言えるほど困難となる。

 ”始まりの誤差がどれほど小さくとも、連鎖的に起こる様々な可能性によって、どんな未来が訪れるかは誰にも分からない”

ラック

 探索者がこの部屋のラックを調べるならば、オカルト雑誌がいくつか収められていることが分かります。その本を読むならば、「臥煙夜斗(ガエンヤト)、タイムマシーンを開発中?」など、胡散臭い記事が書かれていることが分かります。雑誌の発刊日を見るならば、探索者が気を失った日と、同日であることが分かります。

 上記の臥煙夜斗について、探索者はその内容を知り得ません。これは、このシナリオと連作となるシナリオで明かされるものです。

 探索者が探索を終え、しばらくすると、不知火がこの部屋に戻って来ます。

「お待たせしました」

 不知火は頭を下げ、あなた達に飲み物を配る。

「私もここに閉じ込められてしまっているの。私は、あなた達よりも少し前にここに来たのよ。あるものを見つけて今その解読がもう少しで終わるのだけれど、どうやら私一人の力ではここから抜け出すことができないようだから、あなた達の力を借りたいんだけれど…」

「手を貸していただけるのであればついてきてくれますか?」

 探索者が彼女について行くならば、「廊下」を進み、「研究室」へと案内されます。

 もし、探索者が彼女の手伝いを拒絶したり、単独行動を取ろうとするならば、シナリオはエンディングへと移行します。「エンディングB:協力せず」の項を参考にして、シナリオを締めくくってください。

廊下

 施設内の各部屋を繋ぐように、廊下が通っています。探索者が研究室へと進むならば、右手奥にある「閉ざされた部屋」の扉に不審な点を覚えます。

 探索者達の視界に、不審な扉が入り込む。

 その扉は、探索者の右手の奥にあった。

 扉には板が打ち付けられており、何かを閉じ込める…もしくは入室を拒むようであった。

 探索者を研究室に案内しようとする不知火は、上記の扉を特に気にすることもなく、反対側にある研究室の扉を開けようとします。

 もし、探索者が不審な扉について聞くならば、不知火は下記のように応答をします。

「この部屋には死体があるの…多分、この場所で長い時間を過ごしてしまうと、あの様になってしまうのでしょう」

「見て気分のよいものじゃないので、塞いでしまったわ」

 探索者が不審な扉を開けて「閉ざされた部屋」の中に入ろうとするならば、不知火はそれを制止します。それでも、探索者が強引に入ろうとするならば、不知火は制止を諦めますが、探索者を手伝うことはないでしょう。

研究室

 研究室の室内は、下記のような様子です。

 扉の先は、化学の研究室のようだった。

 何かの実験の途中だろうか、様々な器具が置いてあり、機械音が響いている。

 中央には研究台があり、左右に資料棚、奥にはデスクが置いてある。

 探索者を研究室に案内した不知火は、室内にある資料棚へと向かいます。

 不知火は資料棚へと歩いて行き、そこで一つの資料を手に取る。

「ここを出るためには、この本を解読しなければならないの。

 あともう少しで解読が終わるから、あなた達はこの部屋を出て、向かい側の真ん中にある部屋の”荷物”を、あなた達が目を覚ました場所、あの物置に運んで欲しいの。

 私一人では、とてもじゃないけど持ち上がらなくて。お願いできるかしら?」

 不知火は、探索者に上記のお願いをした後、手に取った資料を読み始めます。

 もし探索者が、不知火に何を読んでいるのか聞くならば、「ここを出るための方法について書かれた本よ」と応えるでしょう。探索者がその資料を読もうとするならば、「これは、すごく不快な物で…普通の生活を続けたいならば、見ないことをお勧めするわ。それでも見たいなら、どうぞ」と、資料を見せてくれます。

<不知火の読み進めている資料>

 不知火が読んでいる資料の表紙には、「Dimension Zauberspruch」と記載されています。探索者がドイツ語に堪能ならば、ドイツ語の技能のロールを行うことで、それが「次元移動の呪文」という意味であると分かるでしょう。

 探索者がその内容を読もうとしても、ドイツ語の難解な専門用語が並んでおり、まるで読み解くことは出来ません。

 不知火はしばらくの間、資料を読み進めています。探索者が荷物の移動をし、その他に少し寄り道をするくらいならば、気にすることはないでしょう。

 なお、探索者が不知火の依頼を受けてこの部屋を出ると、「定期イベント①:吐き気」のイベントが進行を始めます。当該の項をご参照ください。

研究台

 もし、探索者が研究室の中央にある、研究台をよく見るならば、そこには薬品を混ぜるための攪拌機のような物があることが分かります。探索者には、それがどのような薬品か、理解することは出来ません。

資料棚

 もし、探索者が資料棚をよく見るならば、そこには実験のレポートが、段階ごとに綺麗に収められていることが分かります。探索者は下記の図書館のロールを行うことが可能です。

図書館:資料「人間を構成する物質」を見つける。

図書館:資料「クオリア」を見つける。

<資料「人間を構成する物質」>

 この資料を読むならば、下記のような情報を得ることが可能です。

 人間の身体は、29種類の元素によって構成されている。

 人体を構成する60~100兆個の細胞は、それ自体もまた、200種類以上の細胞組織によって構成されているという。

 目に見えないほど小さな物が集合して、私達の身体は作られているのだ。

【人体を構成する分子】

 水素分子:60%

 炭素分子:10%

 酸素分子:25%

 窒素分子: 2%

 その他 : 3%

 その他の内訳:リン、硫黄、ナトリウム、カルシウム、カリウム、塩素、マグネシウム、フッ素、ヨウ素、セレン、ケイ素、ホウ素、鉄、亜鉛、銅、ヒ素、マンガン、モリブデン、コバルト、クロム、バナジウム、ニッケル、カドミウム、スズ、鉛

 (※分子の内訳は文献によって異なる)

 人体を構成する物質を用意し、全ての元素を揃えれば、生命が作れるのだろうか。

 生命という神秘は、長い年月をかけて研究され、未だに解明されていない。

 この神秘を人知によって解き明かすことは、不可能なのかもしれない。

<資料「クオリア」>

 この資料を読むならば、下記のような情報を得ることが可能です。

 クオリアを和訳すると「感覚質」と表記される。

 端的に言えば、クオリアとは”感”のことを指す。

 例えば、あなたがリンゴを見た時、外部からの情報をあなたの目が捉え、神経細胞の活動電位によって、それが脳に伝えられる。

 そして、あなたはリンゴを赤いと感じる。

 空を見たならば青いと感じ、葉を見たならば緑だと感じる。

 このような”感”をクオリアという。

 それが電気信号の結果であり、脳の状態によってもたらされる物だとしても、そうした物理的現象とは別に、あなたが”感”じているという主観的な現象が「クオリア」だ。

 クオリアは、視覚体験に留まらず、聴覚や嗅覚、痛覚といった、様々な体験でもたらされる。

 クオリアは個体ごとに異なっているのか、全く同一の物であるのか、説明することは不可能だろう。

 誰も、あなたになることは出来ないし、あなたは他の誰になることも出来ないのだから。

デスク

 研究室の奥にあるデスクの上には、難解な文字で書かれた資料が散乱しています。探索者がこの机をよく調べるならば、下記のロールを行ってください。

目星:散乱した資料の中に埋もれるようにして、手記が置かれていることに気付く。

<デスクの上の手記>

 この手記を読むならば、下記のような情報を得ることが可能です。この手記について、探索者が不知火に尋ねても、不知火は何も知らないと答えます。この手記は、実際は不知火が書いた物ですが、「私が書いた物ではない」と白を切ることでしょう。

3ヶ月前

 人の思考実験。この研究の私的見解について、彼にも意見を聞いてみよう。

 学者としての分野は違うけど、似た志向を持つ彼は信頼が出来る。

 よく相談に乗ってくれるし、彼との会話は楽しいわ。

2ヶ月前

 私が彼に研究資料として渡した「過去や未来を書き換える代償について」。

 彼と、口論になってしまった。

 彼は、「大切な人が不幸によって死んでしまったら、過去を書き換えてでもその人を取り戻す」と言った。

 私は反対した。

 どんな理由があったとしても、過去を変えてはいけない。

 ほんの少しの改変が、その先に続く未来へと与える影響は計り知れない。

 彼は悲しい顔をした。その悲しみは、とても深い物のように見えた。

 …命は、儚いからこそ尊く、そして美しいものだと、私は思う。

1ヶ月半前

 彼から話があると呼び出された。

 そして、好きだと告白をされた。

 すぐに返事は出来なかったが、私の胸の内は決まっている。

 いつも、研究にしか興味がなかったけど。これが恋なんだ。

1ヶ月前

 この前の返事を言いたくて、彼を呼び出した。

 すぐに行くと言っていたのに、何時間待っても彼は来なかった。

 どうして…。

 彼に連絡を入れたけど、返事が返ってこない。

 何かあったのかしら…。

3週間前

 手紙が届いた。

 彼が死んだ。事故で死んでしまったと。

 どうして、どうしてなの…。

 ああ、私があの時、彼を呼び出さなかったなら。

 私が彼を殺してしまったようなものだ。

 私は、今なら、彼の言っていたことが理解できる。

中央の部屋

 地図上で下側の中央にある部屋。探索者が、不知火に荷物を運び出すように言われたその部屋は、下記のような様子です。

 扉を開けると、蝋燭の頼りない光が部屋を照らしていた。

 床には何かの模様が赤く刻まれており、その中央には沢山の”物”が入った箱が置かれていた。

 探索者が床に刻まれた模様を見るならば、それが記号や線によって構成された、大きな星形の模様だと分かります。刻印は、淡く、赤く光っています。

オカルト:床に刻まれた記号が、ルーン文字だと気付く。床に刻まれた模様が魔方陣だと確信するが、その効果は不明。

 探索者が中央の箱を調べるならば、中身は「液体や粉の入った瓶」であることが分かります。

化学:瓶の内の一つが、ナトリウムを詰めた物だと分かる。

 探索者には、上記の瓶以外の瓶の中身が何かを理解するほどの時間はありません。この箱は、STR抵抗ロール(18)によって、運ぶことが可能となります。

 不知火は、上記の箱を探索者に運び出して欲しいと考えています。不知火は、この部屋から荷物を動かすことによって、この部屋の魔方陣を利用した「魔法」を行いたいと考えています。

閉ざされた部屋

 この部屋の扉は、板によって打ち付けられています。この板を外し、扉を開けるためには、バール等の工具が必要となることでしょう。

 扉に打ち付けられた板を、一枚一枚外していく。

 周囲の不気味な静けさに、木の割れる音だけが響く。

 最後の一枚を外すと、得も言われぬ不気味さを感じさせる扉が露わになった。

 あなたは扉を開けた。

 キイと音を立てて、扉は開かれた。

 ドアの隙間から、鉄分を含んだ臭いが広がった。

 あなたは直感的に、その扉を閉めなくてはと思った。

 でも、何故だか導かれるように、あなたはその扉を開け放ってしまった。

 しばらく、あなたはその光景に釘付けになった。

 むせかえるような臭いの中、それはとても悲惨な光景だった。

 あたり一面に広がる、赤い血の海。

 そして、無残に部屋を転がる肉片。

 その塊は所々に、腕や目といった人の形を残していた。

SANチェック 0/1d3

 探索者がこの部屋をよく見れば、血の海に埋もれるようにして、床に何かが刻まれていることに気が付きます。床に刻まれた印は記号や線によって構成された、大きな円形の模様です。この模様は、中央の部屋に刻まれた刻印とは異なるもののようです。刻印は血に染まっていない部分が淡く、青く発光しています。

オカルト:床に刻まれた記号が、ルーン文字だと気付く。床に刻まれた模様が魔方陣だと確信するが、その効果は不明。

 探索者がこの部屋に散らばる肉片を調べるなら、下記のロールを行ってください。

目星:肉片に紛れるように、一枚の紙切れが落ちていることに気が付く。

<血に染まった紙切れ>

 探索者が見つけた紙切れは血に染まっています。母国語(日本語)の1/2のロールに成功すれば、書かれた内容を解読することが出来ます。

 ここに来てから、随分と時間が経ってしまった。

 先程から吐き気や頭痛が酷くなっている。

 早く、あの呪文を唱えてここから立ち去らなければ。

 どのくらい時間が残されているかは分からないが、もう少しだ。

 もう少しで読み解ける。

 不知火にこの死体のことを尋ねるならば、「私がこの場所に来た時には既に死体があったの」「怖くなって、扉を塞いでしまったの」などと答えます。不知火はこの死体について詳しいことを知らないと言います。

<探索者の衣類に付いた血痕>

 探索者が物置で目を覚ました時、その衣類には小さな血痕が付いていました。この血痕は、この部屋(閉ざされた部屋)で付着した物です。

 不知火は、この部屋に刻まれた「次元移動の魔方陣」によって、探索者達をこの部屋に”呼び出し”ました。その時、この部屋は、探索者達よりも前に不知火が実験体として呼び出した者達の死体で汚れていました。このままだと探索者達に不信感を持たれてしまうと考えた不知火は、探索者達を物置に移動しました。その際に、探索者達の衣類に、血痕が付着していたのです。

 

シナリオ 定期イベント②

不知火の読了

 探索者が中央の部屋から荷物を運び出し、一通りの探索を終えた頃、キーパーの裁量によってこのイベントを起こしてください。不知火が資料の解読を終え、”この空間から脱出するための魔術”を行使するために、探索者達を中央の部屋に集めます。

「この魔方陣を使えば、ここから脱出することが出来るみたい。私が、資料に書かれた呪文を唱えるから、あなた達はこの魔方陣に手をかざして? そうすれば、あなた達も元の世界に帰ることが出来るわ」

 不知火は、この魔方陣が時空間移動のための物だと言います。資料には、この魔方陣を用いた魔術の行使について記載されており、不知火はそれを解読することが出来たようです。探索者は、難解な資料を読み解くことが出来ず、また、不知火に対する心理学は意味を成さないため、その真偽を確かめることは不可能です。しかし、この空間には不知火に提示された脱出方法以外に、探索者がこの空間を脱出するための術はありません。長い時間が経つほど、探索者を襲う吐き気は強くなります。探索者は不知火に協力をせざるを得ないことでしょう。

 あなたは、魔方陣に手をかざした。

 その手をかざした先、魔方陣の中央で、不知火は呪文を唱え始める。

 それは、聞き慣れない歪な発音。

 あなたには何を意味するか分からなかった。ただ、嫌な予感がした。

 大きな疲労感があなたを襲った。身体から力が抜けていく感覚。

 これが呪文という物なのだろうか。何故だか、心胆がとても寒くなった。

SANチェック 5/1d6+4

 無風の中、蝋燭の炎が揺れる。

 今から何が起きるのか。

 立っていることすら困難となり、あなたが地に伏せそうになった時、ふと不知火が詠唱を止め、辺りを静寂が包み込む。

 そして直ぐに、

「くくく…」

 と、押し殺した声が聞こえた。

「やっと、彼を生き返らせることが出来た…」

 不知火はそう呟くと、堰を切ったように大きな笑い声をあげた。

 いつの間にか、不知火の足元で、何かが蠢いていた。

 それは、人の形をした何か。目は濁り、皮膚はただれている。

 不知火は、その何かに対して、嬉しそうに何事かを話しかけている。

 その様はとても狂気じみていて、あなたは恐怖に心を囚われる。

SANチェック 1/1d10

<不知火みらいの凶行>

 「シナリオの背景」の項に記載されているように、不知火は”霧崎白夜”を蘇生するために、探索者達をこの異空間に呼び出しました。不知火は、探索者達に「次元移動の呪文を用いることでこの異空間から脱出すること」を提案していましたが、実際には「探索者達のMPを利用した死者蘇生の魔術」を行使しようとしていました。不知火が読んでいた「脱出のための資料」は、「次元移動の呪文」と表紙を差し替えた「人体錬成」の魔導書です。また、中央の部屋、この時に探索者の眼前にある魔方陣は「次元移動の魔方陣」ではなく、「人体錬成の魔方陣」です。(閉ざされた部屋に刻まれた魔方陣が「次元移動の魔方陣」です)

 不知火の人体錬成の魔術は不完全ながらも、ついに霧崎白夜を蘇生することに成功しました。不知火の足元に蠢く人型は、霧崎の魂を定着させた生きる肉塊です。

 不知火は、ゆっくりとあなたを見た。

「もうあなたは用済みよ」

 微笑みを浮かべた不知火は、そうあなたに声をかけた。

 ここから、不知火と”人の形をした何か”を相手とした戦闘が開始されます。探索者は不知火の呪文によって短時間に大量のMPを消費したことにより、DEXと、身体を使用する技能の成功値が半減しています。MPの不足により、探索者による魔術の行使も出来ません。この部屋の扉にはいつの間にか鍵が掛かっており、脱出することは叶いません。この戦闘で、探索者は勝利することが出来ず、必ず敗北することになります。

<不知火みらいの行動>

 不知火はこの戦闘中、攻撃の行動を取りません。しかし、自身を保護する呪文を行使し続けることによって、探索者達の攻撃を一切受け付けません。

 もし、戦闘が長期化する場合には、呪文「暗闇への誘い」(詠唱に1ターンを消費することにより、選択した相手を気絶させる)によって、戦闘を強制終了させてもよいでしょう。

<蠢く人型>

 不知火の足元で蠢いていた人型です。戦闘が開始されると、この人型は起き上がり、探索者への攻撃を開始します。

 DEX7 HP∞

 攻撃による与ダメージ:2d6+2

 探索者が戦闘に敗れた後、下記のような描写を行ってください。

 無残にも転がるあなた達を余所に、彼女は呟く。

「白夜さん、私、頑張ったよね…? 少し姿形は変わってしまったけれど、これからもっと頑張って、元の白夜さんを取り戻すからね」

 彼女の表情は狂気に満ち溢れた、優しい笑顔をしていた。

 人の形をした何かは、ゆっくりとあなた達に歩み寄る。そして、身を伏せ、頭をあなたに近付けたかと思うと、ぐちゃりぐちゃりと音を立てて、あなたを食べ始めた。

 耐えることの出来ない激痛と、胸を引き裂く悲痛な感情がごちゃ混ぜとなり、あなたの意識はプツリと音を立て、切れた。

時の支配人との邂逅

 不知火と、彼女が呼び出した人型によって命を奪われたはずの探索者達は、不思議な空間で目を覚まします。目覚めた全ての探索者はお互いに近距離におり、視認することは可能ですが、何故か言葉を交わすことは出来ません。

 あなたが目を覚ますと、そこは不思議な空間だった。身体が綿雲のように空に浮かんでいるような、はたまた、重い液体の中に沈み込んでいっているような、何とも言えない不思議な感触。

「そうか、人が死ぬとこんな空間に行くのか」

 あなたがそんなことを思っていると、一人の女性が声を掛けてきた。

「大丈夫かい? すまないね、こんなことになってしまって」

 探索者に声をかけた女性はローブを着用し、フードを深く被っています。探索者からはその容姿や表情を伺い知ることは出来ません。探索者は、言葉を発することが出来ません。

目星:女性の着たローブの胸元に、下図のような模様を発見する。

「お前がこのまま死んでしまうのは惜しい。アイツの思い通りになるのも好ましくない。どうだい? もし、私を手伝ってくれるというならば、お前を生き返らせてやろう」

「ああ、お前が見てきたような不完全な肉塊の姿ではなく、ちゃんと元通りのお前達が生きていた姿にだ」

「私のお願いはね、お前をこんな目に合わせた、その元凶となる”物”を持ち帰って来て欲しいのさ。これから、お前が死ぬ、その切っ掛けとなった一番最初の時空までお前を戻してやる。お前は、元凶を見つけ出して、ここまで持ってきておくれ」

「もし失敗したら、収束していく未来の先でお前は結局、同じような死に至る。次はないよ。そのことを肝に銘じておきな」

「ヒントをやろう。不知火みらいは、彼女自身、一度死んで、蘇生された存在だ」

アイディア:4カ月程前、不知火という名前の有名な心理学者が、不慮の事故で亡くなってしまった事故の報道を見たことを思い出す。

「お前に、運命に抗う勇気はあるかい?」

 女性は、探索者達にその意思を尋ねてきます。探索者が肯定の意思を示しているなら、女性はその意思を読み取り、口元に笑みを浮かべます。

「そうかい。それなら、頑張ってくれよ?」

 その言葉を聞くと、探索者の意識は途切れた。

 上記の描写の後、「探索パート②」の項を参考にして、シナリオを進行させてください。

 もし、探索者が女性の問い掛けに対して、それを拒絶したならば、シナリオはエンディングへと移行します。「エンディングC:役に立てず」の項を参考にして、シナリオを締めくくってください。

<ローブを着た女性>

 このシナリオの中で、探索者がこの女性の正体を知ることはありません。この女性の正体は、連作となるシナリオの中で明らかになります。このシナリオにおいて、この女性は探索者達の手助けをします。

 なお、この女性が探索者に向かって言った「アイツ」という言葉は、不知火のことを指していません。アイツの正体もまた、この作中では明らかになりません。

 

シナリオ 探索パート②

物置

 ローブの女性と邂逅し、探索者が女性の申し出を受けたのであれば、探索者は再び、この場所で目を覚まします。この場所は「探索パート①」と同じ空間です。「探索パート①:研究所」の項にある地図をご参照ください。

 目を覚ました時、探索者のHP、MPは全快しており、このシナリオ中でペナルティを受けた技能は全て回復しています。また、今までにあった出来事は、全て記憶しています。探索パート②において、探索者を「吐き気」が襲うことはありません。

「おい、大丈夫か」

 誰かがあなたを揺すり起こす。

「こんな所でどうしたんだ? 君は一体、誰なんだ」

 目が覚めたあなたの前には、白衣を着た一人の男性が立っていた。その男性は、何所か疲れたような表情をしている。

 探索者に声を掛けた男性は、霧崎白夜という物理学者です。

<霧崎白夜>

STR11 CON18 POW13 DEX10 APP17 SIZ12 INT18 EDU21 HP15 MP13

ダメージボーナス:無し

技能:心理学50 医学75 物理学99 オカルト70 信用80 フランス語90

 探索者が周囲を確認するならば、探索者が以前に見た物と同様の絨毯が引かれており、木箱・段ボールなどが存在します。しかし、その数は少なく、閑散としています。木箱や段ボールの中をよく見るならば、実験器具や工具、薬品等が新品のまま収められていることが分かります。もし、「人体を構成する物質」がこの場所に取り揃えられていることを探索パート①で気が付いた探索者がいる場合には、現在、この場所にそれらの物質がないことが分かります。

「この部屋に来たら、君が倒れていたんだ」

「私の名前は、”霧崎白夜”だ」

「学者をしている」

「聞きたいことがあるが、こんな場所で話すのも何だろう。場所を移そう」

霧崎は、探索者達を客室へと誘導します。

客室

 霧崎は、探索者達を客室へと案内します。客室は、探索者が以前訪れた時と変わった様子はありません。企業の待合室のような印象を受ける部屋で、ガラステーブルや椅子、資料棚、ラックが置かれています。

 霧崎は、あなたを部屋に案内した後、

「今、飲み物を持ってくる」

 と言い、部屋の外に出て行ってしまう。

 部屋の扉が閉められると、外の音が聞こえなくなった。

アイディア:ガラステーブルや椅子の掃除が行き届いていることに気が付く。

資料棚

 探索者がこの部屋の資料棚を調べるならば、様々な研究資料が作者順に並んでいることが分かります。探索者がこの資料棚で”霧崎白夜”について調べるならば、下記の情報を開示してください。

<霧崎白夜の資料>

 霧崎白夜の研究をまとめた資料です。下記のような内容が記載されています。

「人を作り出すことは可能か」

 人を構成する物質は特定されている。ただ、人を構成する物は、物質だけではないようだ。

 あと一歩、どうしても足りない物がある。物質ではない、質量を持った何か。

 生きた人間を作り出すためには、人知を超えた、その先の力が必要になるようだ。

 その力さえ得ることが出来れば、人間の蘇生は完成される、私はそう考えている。

ラック

 探索者がこの部屋のラックを調べるならば、オカルト雑誌がいくつか収められていることが分かります。探索者が以前、このラックを調べた時よりも、冊数が少なくなっているように感じます。雑誌をよく調べるならば、どれも発刊日は4カ月以上前であることに気が付きます。

 探索者が探索を終え、しばらくすると、霧崎がこの部屋に戻って来ます。

「お待たせしたな」

 霧崎はあなた達に飲み物を配る。

「早速だが、君達はどうやってこの研究所に入ることが出来たんだ? ここは、そう簡単に中に入れる場所じゃないんだが」

 霧崎は怪訝な顔であなた達に問うた。

 霧崎との会話については、「霧崎との会話」の項を参考にして、演出を行ってください。

 この会話の後、霧崎は探索者を「研究室」へと誘導します。

霧崎との会話

 探索者が、霧崎の存在するこの場所に訪れた時、この時空は探索者がシナリオを開始した時から「4カ月前」の世界です。この時空は、不知火が亡くなってしまった不慮の事故の”直後の時空”です。霧崎が不知火を蘇生しようとする、その”直前の時空”であるとも言えます。霧崎は不知火の蘇生を望んでいますが、この時空では、未だその方法について研究の過程にあり、実行に移してはいません。

 霧崎は探索者達の「脱出」に協力的です。この時の霧崎は、生贄や肉塊と言った邪悪な儀式についての知見がなく、探索者達にも良心的に接してくれます。

霧崎白夜について

 霧崎は自らのことを物理学者であると語ります。物理に見識のある探索者であれば、その名前を聞いたことがあるかもしれません。霧崎は若くして成果を上げている、将来有望な学者です。

この場所について

 探索者がこの異空間について霧崎に尋ねるならば、霧崎は「ここは私が研究の為に作り出した空間だ。本来ならば私と、私の友人しか入れないはずなんだが…」と答えます。霧崎の言う友人とは、不知火みらいのことです。この空間は、不知火を蘇生しようと渇望する霧崎が、神話的存在(時の支配人が”アイツ”と呼称した存在)の後押しを得て、創造した異空間です。

霧崎の研究について

 霧崎が現在研究している内容について探索者が尋ねるならば、霧崎はそれに答えてくれません。「研究の内容は、誰にも知られたくない。だから、このような空間を作り出したんだ」と答えます。

この空間からの脱出方法について

 探索者が霧崎に、「この空間からの脱出方法」を尋ねるならば、霧崎は少し思案した後に、「君達がこの場所から出ていくためには、相応の魔術が必要となる。研究室に、そのような呪文の資料があったはずだ」と答えます。探索者が希望すれば、霧崎は探索者を研究室へと案内してくれるでしょう。霧崎は探索者に友好的で、探索者の探索を手伝います。

探索者が経験した事柄について

 探索者が、このシナリオでこれまでに体験してきた事柄(不知火によって行われた儀式や、時の支配人との邂逅について)を霧崎に話すならば、霧崎はそれについて興味を示します。その様子は、霧崎の内に秘められた狂気を思わせるほど異常な物で、探索者にその詳細を根掘り葉掘り質問し、止めようとはしません。霧崎を落ち着かせるためには、キーパーの裁量によって、適切な交渉技能や一定の時間が必要となることでしょう。

 この時の霧崎は、「不知火を蘇生するために人体錬成の儀式を行う直前」の状態であり、未だ「人体錬成」についての見識がありません。霧崎は、不知火を蘇生するための魔術や、それに類する神秘について研究している最中であり、魔術に関する話には大変な興味を示します。

不知火みらいについて

 霧崎に「不知火みらい」のことを尋ねた場合、霧崎は悲しい表情を浮かべます。不知火について霧崎に詳しく聞くのであれば、霧崎は「彼女を生き返らせることを考えている」と打ち明けてくれます。

 探索者が上記の事実を聞いた上で、(キーパーを納得させるような)ロールプレイにより、霧崎に「不知火の蘇生」を思いとどまらせるならば、シナリオクリア後の成功報酬が増加します。

 探索パート①の研究室で発見可能な「デスクの上の手記(不知火の手記)」には、正気の状態にある不知火が死者の蘇生に忌避感を表す一節、「命は、儚いからこそ尊く、そして美しいものだと、私は思う」という文があります。このような言葉を、探索者が白夜に話すのならば、下記のような描写の後、霧崎は不知火の蘇生を思い留まるでしょう。描写は、シーンに合わせて改変してご使用ください。

 霧崎の頬を、涙が伝った。

「あれ、おかしいな」

 霧崎は涙を拭う。

「君の言いたいことは分かったよ。きっと、みらいもそう言うだろうね」

「…分かった。例え、みらいを生き返らせる方法が見つかったとしても、死者を蘇生するなんてことはしないよ」

 霧崎はあなたに誓いを立てた。

廊下

 探索パート①と同様、施設内の各部屋を繋ぐように廊下が通っています。探索者が研究室へと進むならば、右手奥の扉が以前に見た物と違う様相であることに気が付くでしょう。探索パート①においては扉に板が打ち付けられていましたが、この時空の扉には板が打ち付けられておらず、そのような痕跡もありません。至って一般的な扉が付いています。

 探索者がこの「閉ざされていた部屋」の扉を開けようとしても、霧崎は気に留めません。

閉ざされていた部屋

 探索者が扉を開けるならば、殺風景な部屋の中央に、青い魔法陣が刻まれていることが分かります。探索者がかつて目にしたような惨状は跡形もありません。

 霧崎にこの魔方陣について問うならば、「それは、次元移動の魔術に用いる魔法陣だ。それ単体だと意味を成さないから、呪文を唱えなければならない。その呪文が記載された資料が研究室に置いてあったはずだ」と答えます。実際に、この魔方陣は次元移動のための魔法陣です。

研究室

 探索パート①と同様の研究室です。実験の途中であろう器具が散見され、部屋には機械音が響いています。中央には研究台、左右には資料棚、奥にはデスクが置かれています。以前来た時よりも、室内の掃除が行き届いてるように感じます。

研究台

 もし、探索者が研究室の中央にある、研究台をよく見るならば、そこには薬品を混ぜるための攪拌機のような物があることが分かります。探索者には、それがどのような薬品か、理解することは出来ません。

目星:撹拌機の傍にはレポートが置かれていることに気が付く。

<研究台に置かれたレポート>

 整ったフォーマットで書かれたレポートです。専門用語が多く、難解なレポートですが、知識のロールに成功すれば、ある程度の内容を読み解くことが可能です。

知識:このレポートが、人に感情を付与する方法についての研究資料だと分かる。レポートは未完成だが、完成間際であることが分かる。

資料棚

 もし、探索者が資料棚をよく見るならば、そこには実験のレポートが、段階ごとに綺麗に収められていることが分かります。探索者は下記の図書館のロールを行うことが可能です。もし、探索パート①において不知火が資料を手に取った場所を探す場合は、図書館のロールをせずとも「人体錬成の呪文」の資料を見つけることが出来ます。

図書館:棚の奥、人目につかない場所に「人体錬成の呪文」の資料を見つける。

<資料「人体錬成の呪文」>

 探索パート①において、不知火が読んでいた資料です。その資料は以前と外観が少し異なるように感じ、内容は誰かの手によってドイツ語から日本語に翻訳されています。

「人体錬成の呪文」(誰かの手によって翻訳されている/呪文を取得するために必要な期間1d6ヶ月)

 この魔術は大量の物質を必要とする。呪文は赤い魔法陣の上で唱えなければならない。

 用意した物質の量と、呪文に付与するMPの量によって、呪文の成功率が変わる。

 呪文を詠唱し終えた後、大量のMPが魔法陣に吸収される。

 呪文に成功した場合、肉体が錬成され、術者の望む魂が定着する。

 呪文が失敗した場合、■■■(消されている)。

 この資料の内容を読むと、嫌悪感や吐き気に襲われ、本能的に「これは読んではいけない物だ」と感じます。

 霧崎はこの資料の存在を未だ知りません。探索者はこの資料を持ち帰るために、ローブを着た女によってこの時空へと送られました。探索者はこの本を持ち出す必要があります。

ディスク

 研究室の奥にあるデスクの上には、難解な文字で書かれた資料が散乱しています。探索者がこの机をよく調べるならば、下記のロールを行ってください。

目星:散乱した資料の中に埋もれるようにして、「dimension sort」と書かれた資料が置かれていることに気付く。

<資料「dimension sort」>

 フランス語で記載された資料です。「dimension sort」とは日本語に訳すと「次元移動」という意味になります。フランス語のロールに成功すれば、下記のような内容を理解することが出来ます。

「次元移動の呪文」(呪文を取得するために必要な期間1d6ヶ月)

 この呪文は、他者を次元移動させるための魔術である。

 他者を別の次元へと移動させることや、逆に呼び出すことが可能。

 青い魔法陣の中央に術者が立ち、その周囲に移動させたい者を立たせる。

 呪文を詠唱すると、次元移動を望む者は「時の支配人」と邂逅する。

 時の支配人を介し、次元移動が成される。

 もし、この資料を霧崎に見せるならば、霧崎は内容を読み、その内容を探索者に明かします。そして、この呪文を用いれば探索者達を元の時空に戻すことが可能であろうことを教えてくれるでしょう。

 霧崎がこの資料を読み終えたならば、シナリオは「定期イベント③」へと移行します。キーパーの裁量とプレイヤーの意思によって、定期イベント③に至るタイミングを決定してください。

中央の部屋

 中央の部屋は探索パート①の時と異なり、赤い魔法陣が刻まれていません。この時点では霧崎が人体錬成の魔術を知らないためです。生活のために必要となる雑多な物(食料品や食器など)が多く置かれていますが、特に気になるような物はありません。この部屋を探索することで得られる情報はありません。

 

シナリオ 定期イベント③

霧崎による魔術の行使

 資料「次元移動の呪文」を読み終えた霧崎は、探索者達を「閉ざされていた部屋」に誘導します。霧崎は、この部屋の青い魔法陣を利用して、探索者達を元の時空に戻すと言います。

 霧崎は、青い魔法陣の中央へと歩いて行き、探索者に告げる。

「この呪文が成功すれば、君は”時の支配人”に会うことになる。君が時の支配人に願えば、君は元いた時空に戻れるはずだ」

「私が呪文を唱えるから、君は魔法陣の中で、私の傍に立ってくれ」

 あなたが配置につくと、霧崎は呪文を唱える。

 聞いたことのない、不思議な言葉の羅列。霧崎が詠唱を終えると、途端にあなた達を強い疲労感が襲う。

 不思議な光が、探索者の体を包み込んでいく。

 この時、探索者が資料「人体錬成の呪文」を所持している場合は「エンディングD:生還」を、そうでない場合は「エンディングC:役に立てず」を参考にして、エンディングを演出してください。

 

シナリオ エンディング

※探索の終盤、エンディングのシナリオ進行についてA〜Dの4パターンを下に記載します。

エンディングA:間に合わず

 探索パート①において、探索に時間がかかってしまい、「吐き気」のイベントが段階4に至ってしまった探索者は、このエンディングに到達してしまいます。

 危険信号を脳が発信している。体中が異変を感じ取る。

 間に合わなかった。この場所はとても不安定で、何も持たない人間には過酷な環境だった。

 ゴトッと音がした。音がした方を見れば、床に自分の腕が落ちていた。

 不思議と痛みはない。自分の事なのに、何が起きたのか理解出来ない。

 足が崩れ落ちる。低くなった視界に、不知火が近付いてくる。

「あぁ、後少しだったのに、残念だなぁ」

 不知火の無味乾燥とした言葉を最後に、あなたの意識は途切れてしまった。

 探索者は死亡し、バットエンドとなります。

エンディングB:協力せず

 探索者が不知火に非協力的で、シナリオの進行が難しい場合はこのエンディングとなります。

「そうですか、お手伝いしてくれない人がいるのであれば、仕方ありませんね」

 不知火は指をパチンと鳴らした。途端、あなたの視界は暗闇に染まり、急速に意識が遠のいていく。

「また違う人を呼び出さなきゃね」

 不知火の呟きが聞こえ、あなたの意識は途切れた。

 探索者は死亡し、バットエンドとなります。

エンディングC:役に立てず

 探索者が時の支配人の意向にそぐえない場合、このエンディングとなります。

 探索者が資料「人体錬成の呪文」を持参せずに、霧崎の魔術によって時の支配人と再会した場合は、時の支配人は残念そうな表情を浮かべます。

「せっかく生きて帰るチャンスをあげたのに、それを棒に振るだなんて本当に残念だよ」

「これじゃあ、アイツの思い通りだ」

「つまらない、つまらないなぁ」

「君のような頭の悪い人はもう要らないよ? ばいばい」

 探索者は、目覚めることのない闇に囚われ、バッドエンドとなります。

エンディングD:生還

 定期イベント③終了時に、探索者が資料「人体錬成の呪文」を所持している場合には、このエンディングとなります。

 光の先は、かつて見た光景だった。

 不思議な空間。目の前にはローブを着た女性が立っている。

「さっきぶりだね」

 ローブの女性は探索者に声をかけた。

 探索者の意識ははっきりとしていますが、発声することは出来ません。

 ローブの女性は、資料「dimension sort」に記載されている「時の支配者」です。

「おや、君が持ってるそれは…」

「そうそう、それだよ。それがあると、君はあんな悲惨なことに巻き込まれてしまうんだ」

「貸してくれるかな」

 ローブの女性は探索者の手元から、資料「人体錬成の呪文」を手に取ります。

「こんな悪い物は、ぽんと消してしまおうね」

 ローブの女性がそう言うと、本は小さく弾けるような音を立てて、跡形もなく消えてしまう。

「大丈夫。この本を消してしまえば、もうあんなモノが生み出されることはないよ」

「さぁ、おめでとう! 君は未来を変えたんだ」

 ローブの女性は無邪気な様子で、あなたに拍手を送る。

「だけどね。新しい未来にどんな結末が待っているのかは、誰にも分からない。

 アイツも、これから何をしてくるか分からない。

 不安はあるけれど、しばらくは平穏な日常を楽しんでね」

「そろそろ返してあげよう。君の日常に」

 ローブの女性はパチンと指を鳴らした。途端、あなたの意識は失われていく。

「物語は始まったばかり。君は、最後まで抗い続けられるかな」

 ローブの女性のそのような声が、おぼろげに聞こえた。

 

シナリオのその後/正気度報酬

※探索を終了したその後の世界についてと、クリア後の探索者への報酬について記載します。

シナリオのその後:生還

 探索者が目を覚ますと、そこは見慣れた自宅です。日時を確認すると、探索者がシナリオを開始した当時の朝に戻っています。探索者が探索によって得た物(資料など)は、全て跡形もなく無くなっています。探索者が経験した出来事は、全て夢だったのでしょうか。

 探索者は朝の仕度の最中、もしくはその後の生活の中で、自身の肩に刻まれた印を発見するでしょう。それは探索者が不思議な空間で目にした、捻れた輪を模した印。探索者がその印に気が付くと、その印は次第に薄れ、探索者の肌に消えていきます。

 このシナリオは「序章」です。物語は次回作へと続きます。

成功報酬

  • シナリオをクリアし、生還している場合:1d10の正気度報酬
  • 白夜の凶行の芽を摘んでいる場合:1d4の正気度報酬

-CoCシナリオ, ゲストシナリオ

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